第八十六話 真髄
大変遅れてすみません
自分に才能が無いって言うヒトは大抵は本気になったことがないだけ。
けどそんなヒトほど死に瀕した時、身体は正直。
自分の身体が持つ最適解を導き出そうとする。
だから...死に際で掴んでみせなさい。
自己の真髄を。
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5つの戦場で、世界最巧の魔導士は次代の子たちに語りかける。
光と闇。相反するマナを束ね、その掌に白銀すら知り得なかった魔法の神秘を抱きながら。
されど特筆すべきはアナスタシアが放つ魔法。それら全てが初見では理解出来ずとも後に振り返り、紐解いていけばリオナたちでも理解出来る魔法や理論で構築されている点である。
だが理解出来るにも関わらず、アナスタシアから放たれる魔法はどれもこれもが全て"必殺"、"乾坤一擲"と言っていい程の威力と精度を誇っているのだからたまったものではない。
アナスタシア・リヴァイアが何故"戦姫"、そして"世界最功"と称されるのか。リオナたちはそれを身をもって体験することとなった。
そうして授けられた死と共に、魂へと強く刻み込まれる"言葉"を彼女たちは決して忘れることはないのだろう。
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だから躊躇うな
今際の際を
その刹那を掌握しなさい
例えか細い糸でも 淡い光でも
掴んだなら 捉えたのなら もう離すな
「才能」とは
己の手で自分だけの道を切り開く力のことよ
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意識が闇へと沈みゆく中で、その言葉だけはハッキリと心に、魂に沁み渡っていく。
【言霊】へと昇華された"戦姫"の言葉は雛たちを導き、諭し、更なる成長を促す。
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時は少々遡り.....
第一小隊、リオナたちがそれぞれの扉の向こうへ進んだ先で待っていたのは自らと瓜二つの姿かたちをしたヒトならざるモノ。
そしてその奥に座するアナスタシアだった。
「これは私が丹精込めた【写身】よ。今のあなたたちと同じ強さをした特別性ね。
これから毎日、日没まで【写身】と10回倒すか、10回死ぬまで戦ってもらうわ。」
さらっと告げられた事実。
だがそれは単純、故に明快。これ程分かりやすいものは無い。
「強くなりたければ今の己を越えろ」
アナスタシアの言葉に含まれた意はそれだけだった。
それを理解出来ぬ五人ではない。
即座に臨戦態勢に入る。
だがその中で、やはりと言うべきかただ一人。白銀の髪を靡かせる少女だけは既に先を見据えていた。
「時間内にこの人形を倒せば叔母上...いや
アナスタシア・リヴァイア、そなたが直接相手をしてくれるのじゃな。」
大いなる意志と共に、その碧き瞳は燦然と輝く。
そしてその宣言は他ならぬアナスタシアの手によりこっそりと他の四人の元へも届けられ、本人の知らぬところで友の心に火を灯していたのだった。
「ええ、勿論。」
アナスタシアは満足気に頷く。
「ただ________
「そう簡単じゃないわよ?」
だが次の瞬間。アナスタシアは笑い、そう言い放つ。そして時を同じくして【写身】が動き出し.....
戦いの火蓋が突如切って落とされた。
だが"地下楽園"を駆け上がってきた五人はそんな突然の開戦にも最早動じることない。逆に先制と言わんばかりにそれぞれが最も得意とする魔法を放ってみせる。
「「【アイシスブレイク】!」」
彼女、リオナもまた初めて覚えた氷魔法にして最も信頼を置く魔法を唱える。
だが同じ声音で声は重なる。やまびこと呼ぶには早すぎるその声によって魔法もまた重なる。
正に鏡写し。魔法はぶつかり合い相殺される.....はずだった。
寸分違わぬ同じマナ、魔法力が込められたはずの互いの魔法。だが【写身】が放つそれは一方的にリオナの魔法を喰らい破る。
「なっ!?」
すんでのところで回避に成功したリオナは驚きの声を上げる。
そしてその不条理とも呼べる現象は他の四つの戦場でも同時に起きていた。
「なるほどのう...これは確かに簡単ではようじゃな。」
転がりながらもリオナの感覚は本質を捉えてみせる。
「リオナは分かったようだけどピンと来てない子もいるから解説してあげるわ。私って優しいわね。」
皆の反応を見届け少し嬉しそうにアナスタシアは解説を始める。
「私は今のあなたたちと同じ強さの【写身】を作った。そう言ったわね。
それは本当の意味であなたたちが"今"発揮出来るポテンシャル、強さを再現したってこと。【写身】は正しくあなたたちの指標であり超えるべき壁。
身体の隅々まで、意識を浸透させなさい。持てる力、その全てを吐き出さないと勝てないわよ?」
つくづく不条理。理不尽。
だがそれでこそ。リオナは言うまでもなく、他の四人も笑顔を見せていた。
「ちなみに【写身】は倒す度に強くなるから頑張ってね〜。」
なお最後に投下された特大の爆弾のせいでほんの少しだけ戦場の時が止まったのは言うまでもない。
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「いや〜アーニャ様特性の【写身】とか中々えげつないっすね〜トラウマが蘇るっすよ...。」
手を筒のようにしてその様子を盗み見るのはデルフィ。身震いしながら頷いていると...
「戦いの最中に余所見とは感心しないですねっ!!!」
それを阻むべく疾駆するのは49期生が誇る蒼雷。
だが49期生随一の速度を誇るレドガーが奇襲を仕掛けたにも関わらずデルフィはふいっと一歩の移動のみでそれを躱してみせる。
「あはっ!そう怒んないで欲しいっす!別に視てないだけで観測えてはいるっすよ?」
デルフィは珍しい"大地"系統に属する変身魔法の使い手である。
その中でもさらに希少な生物への変身を可能にした魔導士。
レドガーを捉えたのはイルカが持つ超音波による索敵、避けたのは昆虫類の反射神経。そして生まれ持った天性の野生。
リラと並び、若くして十二宮に名を連ねる自然豊かなアトランティアの申し子。
それがデルフィ・マーレである。
「レドガー君ですらかすりもしないなんて...。」
レドガーを除く四人は既に精魂枯れ果て地に伏し、二人の戦いを見守っていた。
レドガーが率いる小隊に与えられた最後の課題。それはデルフィが今も首に吊り下げるイルカを象ったペンダントを奪うこと。
だが彼らはペンダントはおろかデルフィの服の端にすら触れることが叶わないでいた。
それは今現在も変わらない。
のらりくらりと木の葉のように、時には風のように素早く、デルフィは避け続ける。
そして彼女は言い続ける。
曰く「身体の使い方がなっていない 」と。
その言葉の本意は分からない。けれど妙な説得力を持っていた。他ならぬそれを告げる彼女の洗練された動き、それこそが証明だった。
例え魔法を使わずとも、素人目に見てデルフィの動きには無駄がない。そう言い切れるほど美しい。
レドガーたちは生まれて初めて知ったのだ。
ヒトの身体とはここまで綺麗に動くのだと。
"ヒトはその身体に秘められた潜在能力を発揮出来ていない"とはよく叫ばれる説の一つだ。
そしてその説は正しい。
ヒトは魔法という恒常の奇跡を手にしたことでようやく潜在能力の一端に触れることが出来た。そして長い歴史の中、それを掴んだ者のみがようやくヒトが持つ本来の性能へと足を踏み入れることが出来る。
「自分の魔法力を身体の隅々まで張り巡らせてみるっすよ。指の先、髪の毛の一本に至るまで。
"天上天下唯我独尊"
掴んでみせるっす、自分という真髄を。」
言葉を綴りながらデルフィは舞う。
一人の先達として、正に羽ばたかんとする雛鳥へと己の身をもって示すのだ。
他ならぬ彼女自身が、かつてアナスタシアにそうされたように。託されたものを次の子たちへと繋いでいく。
その"繋がり"こそがヒトの強さ、本質だと彼女は信じているから。
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「しぃぃぃぃねぇぇぇぇぇ!」
誰もが羨む白絹も霞むほどの清らかな肌。
その一部が紫に爛れ、凄まじい激痛に苛まれながらも彼女はその瞳に瞋恚の炎を宿す。
「ヒヒッ!それが貴女の本性?いいじゃなぁい!」
その凄まじい激情の濁流を真正面から受け止めるのはアトランティアが誇る十二宮。
その筆頭、ハイドラ・ペイン。
既に他の四人はその意識すら保つことが叶わないでいた。
先の二つの階層が生温く見える。
それ程までに、テレジアとハイドラが織り成す戦いは熾烈を極めていた。
次回は久々にバトルです




