第九幕 伝説の始まり
テンプレのような展開ですみません。
夢を見た。
もう見飽きたあの夢。
けれど今日の夢は少しだけ違った。
命が零れ続け、死を実感した所でいつもなら目が覚める。だが目覚めないのだ。致死量を超えた血溜まりの中でレギは自分の意識が遠のいていく気がした。これは夢の中なのに。その感覚はとても現実だった。
「嫌だ、死にたくない。」
レギは自然と口に出していた。もう夢なのか現実なのかの区別もついていない。生への渇望が身体を突き動かす。知らないはずなのに身体は勝手に動く。身体の内側に魔力を集中し血を止め、失った血を己が魔力で補完し始めた。確実に死へ向かっていた身体が息を吹き返す。
そして再び彼は立ち上がる。代償と言わんばかりの激痛に苛まれながら。だがその足が止まることはない。自らの血で染まった手で再び剣を握り
「◼◼◼、いつか必ずお前を殺してやる。」
夢はそこで終わった。目を覚ましたレギは自分の手が目の前の虚空を掴んでいることに気がつく。
その手を広げても血はついていなかった。
「随分うなされていたよ、ようやく起きたね。凄い汗だ。」
「すまない、夢を見ていたんだ。少し...良くない夢をね...。」
「また疲れているんだろ。お茶を淹れた、飲むといい。」
「ありがとうシン。 落ち着く香りだな。」
「僕のお気に入りでね。この寮にも持ち込ませてもらったよ。」
シンから受け取ったお茶を飲みながらレギはそこで部屋にかすかな違和感を感じる。
「シン 誰かこの部屋に来たか?」
「いや?君が寝ている間僕はずっと本を読んでいたけれど来客は無かったよ。扉にある連絡版には君が疲れて寝てると書いておいたし。」
「気のせいか。すまない、忘れてくれ。」
シンは内心驚きを隠せないでいた。
レギは姉がいた気配?残存魔力?、分からないが何かを感じとったのだ。姉弟である自分ですら姉がいた痕跡を感じるのは不可能なのに。思慮に耽りながらお茶を飲むレギを見ながらシンは分析を始める。
恐らく今のレギは先の鋼鉄の氷姫との戦いで自分の限界以上の力を引き出した結果、一種の覚醒状態にあるのだと結論づけた。以前姉から聞いたことがある。
魔導士は自らの壁を超えた時に感覚が研ぎ澄まされるのだと。それを繰り返すことで魔法をより自由に、自在に操れるようになるのだとか。
つまりレギは先の戦いで壁を超えたのだ。シンはレギをより深く観察する。シンは自らのことを鏡に例える。何色にも染まりうる澄み切った水鏡。今回鏡に写す対象はレギ。レギの雰囲気、感情を読み取り自らに浸透させてゆく。そうしてシンは確かに姉の魔力痕を感じることが出来た。
「なるほど。この感覚か、感謝するよ レギ。」
心の中でそう呟いた。
シンはレギの感覚をコピーしたのだ。これこそがシンの魔法。
水魔法 【名鏡雫水】純粋な心と才能を持つシンだけの魔法。
「そいえば俺が起きたら聴きたいことがあるんだって?」
思い出したように言ったレギの一言でシンも現実に戻された。
「そうだね。聴きたいことは山程あるよ。けどその前にそろそろ夕食の時間だ。思ってたより君が寝ていたからね。」
「すまないな。俺もこんなに寝るつもりは無かった。じゃあ食堂に向かおうか。」
「そうだね。行こうか。」
そう言葉を交わし二人は部屋を出た。
--食堂
魔導学院では朝食と夕食は食堂で用意される。昼は生徒それぞれによって時間がズレることが多いため自由となっている。
食堂では既に多くの生徒がいた。
シンと共に空いてる席を探していると
「おーいお兄ちゃん〜 起きたんだね〜こっちこっち〜」
そう手招きするテレジアが見えた。
どうやらヨルハやグランと同じ机を囲っていたらしい。
「見ての通り妹に呼ばれてるんだがお前も来るか?」
とレギがシンに提案する。
「そうさせて貰おうかな。No.2とは仲良くなっておいて損はしなそうだ。」
「あいつと仲良くするのは苦労するよ。」
軽口を言い合いそちらへ合流する。
「俺のルームメイトのシンだ。お前と仲良くなりたいってよテレジア。」
「へ〜この人がお兄ちゃんのルームメイトか。なら私のライバルだね!私の今の目標はお兄ちゃんと同じ部屋になることだから!」
とドヤ顔でテレジアが宣言する。
「お兄ちゃん掃除、料理、洗濯と家事完璧だから一緒にいると幸せになれるんだよね〜」
といきなりのヒモ宣言に
「てめーも女なんだから少しはやれるようにしなきゃダメなんだぜ?お前と同室なのが心配になってきやがった。」
とヨルハから流石にツッコミが入った。
「苦労をかけると思うけどよろしく頼むよヨルハ。」
レギも少し可哀想に思いながらヨルハに声をかけた。
「疲れて寝込んでいたと見たが元気そうではないかレギよ。約束通りこの後貴様の部屋で反省会といこうではないか。シンと言ったか、お前もレギに聴きたいことがあるという顔をしているな。よいか?」
「ああ 話し合いというものはより多い人数の方がより良いものになりやすい。是非僕も参加させてもらうよ。」
「はっはっは 話のわかるやつだ。ではさっさと食事を済ませるとしようではないか。」
勝手にグランとシンの間で話が決まってしまったレギは
「俺の意思は関係無いみたいだな。」
と呟くのがせいぜいの抵抗だった。
--レギとシンの部屋
反省会と言う俺の話を聴く会が始まろうとしてる。メンバーは俺、シン、グラン、ヨルハ、グランのルームメイトだという男ケイ、そしてテレジアが座るはずだった所にはカレンがいた。
カレンから聴くとこによるとテレジアはどうやらリオナとカレンをこの会に誘ったのだという。まったくとんでもない妹だと思った。だが逆にリオナに
「貴様には常識と言うものを教えねばならん。」
と言われてテレジアが捕まったらしい。そして普通に話を聴きたかったらしいカレンが代わりに来たとのこと。まああいつらの事は置いといて
「んで、何から聴きたいんだ?」
単刀直入に切り出した。
「俺から行かせてもらおう。シンプルな質問だ、貴様 どうやって複合魔法を編み出したのだ。」
「そうだな... 知っての通り俺は魔法力に乏しい。だからそもそも戦闘において魔法中心に戦うのをやめ、剣を活かすために魔法を使い始めたのが12歳の時。剣は5歳の時から振ってきたからな、俺にとっては魔法より大事なものだ。」
「たしかにな。仮に俺がイベイションを習得したとしても剣の道には疎いからな、攻撃に転ずるには更に魔法を重ねなければならない。そうなるとさらに魔法の難度が跳ね上がる。貴様の剣の腕があって初めて攻防一体の魔法となるわけだ。」
「そうだな。もう一つは俺に闇魔法の適性があったこと。俺の複合魔法は闇魔法がベースになっている。闇魔法は使用難度こそ高いが空間に存在するマナを主に行使するため自らの魔力消費は比較的少ない。俺でもある程度連続使用することが可能だった。闇魔法は俺にとって唯一と言ってもいい道だった。」
「闇魔法か。使い手の少ない系統だが我々の学年ではレギ殿のおかげで人気が出るかもしれないな。」
「あまりおすすめはしないけどな。地味だしムズいんだよ。そこからは研究と実戦、鍛錬の日々さ。闇魔法の空間に風魔法を組み込み高速移動を実現させる、魔法の構想自体は12歳の時には組み上げていたが実用に至るまで三年かかった。最初のうちは魔法の負荷に身体が耐えきれなくてな、随分無茶もしたものだ。
実は複合魔法自体を組み上げるのはそこまで難しくない。魔法はイメージだ。自らの望む魔法をイメージすればいい。大変なのは実際に魔法を行使する際のエラーを無くしていくこと。想像力は無限だ、けれどどうしても想像は現実を超えやすい。想像と現実との差を無くしていくことがとても長い行程だった。三年間テレジアと実戦形式で戦い続けようやく完成したのが瞬天舜回だ。
確かに複合魔法は凄いかもしれないがオススメはしないぞ。習得に時間が掛かりすぎる。リオナやテレジアのような規格外か俺みたいな異端者じゃなければ普通に自分の得意魔法を磨いた方が強くなれると俺は思うよ。」
やれやれといった感じに俺は告げる。こればっかりは本音。複合魔法はオススメできないものだ。
「なるほどな。魔法の才能は無いが貴様も十分化け物だな。けど面白い。より貴様に負けたくなくなったわ。」
「そうだね。君のおかげで僕はもっと成長できる気がしてくるよ。」
グランとシンがそれぞれ口に出す。
「おいおい 俺がお前らに追いつくために必死で頑張ってるんだがらお前らはもうちょいゆっくりしててくれよ。」
「ゆっくりしていたらレギ殿は我々を追い抜いていくでしょう。それは皆も、リオナも思っていますよきっと。」
カレンがそう宣言する。
「そういう意味じゃレギはギルドから指名されてるからうちらの先を行ってるけどな。立場的に一番まずいのはうちなんだぜ、No.100だし...。」
「まだ学院生活は始まったばかりだよ。最後にどうなるかは誰も分からない。這い上がるぞ、ヨルハ。」
「へへっ。やっぱりお前は良い奴だな。そいえばよレギ、お前の好みの女はどんなやつだ?」
いきなりの発言にヨルハ以外が少し固まる。
「いきなりど、どうしたのだヨルハ。」
カレンは同じ女性として少し思うところがあるらしい。
「どうも何もないぜ?うちはレギの事気に入ってるからよ、そういうの気になるだろ?」
「確かにそういうのが気になる年頃ではあるが...
っていやいやまだ我々は出会って初日だぞ!?」
「仕方ねえだろビビっと来たんだからよ。それに女は度胸って母サマに言われてるからな。てことでよどんな女が好きなんだぜ?レギ。」
あまりの勢いに言葉が出ない。シンたちの方をチラッと見てみたが完全に我関せずの空気を出してる。こいつらめ と心の中で舌打ちをする。
どう答えようか悩んでいたら部屋の外から悪魔が飛び込んできた。
「なになに!お兄ちゃんの好きな女の子の話!?そんなの決まってまーす。」
嫌な予感がして咄嗟にテレジアの口を塞ごうとするがここまで沈黙を保っていたグランのルームメイトのケイに邪魔される。
「ナイスだケイ。」「この手の話は大好きでね。」
と俺の後ろで声が聞こえる。ゆるせねえと思った。
俺の手を逃れたテレジアは
「お兄ちゃんの好きな女の子のタイプはもちろん私!って言いたいところだけど優しくなったリオナちゃんだと妹の勘が言ってます!!」
と宣言した。まあ間違ってはいない、間違ってはいないのが不味い。特にカレンには聞かれたくなかったところではある。
「やっぱりか〜〜うちもそんな雰囲気は感じてたんだよな〜こいつ入学式で姫サマに釘付けだったしな。」
「な!?」
俺は本気で驚いた。バレていないつもりだったのに...ヨルハを少しガサツな性格だと思っていたことを訂正しよう。
「でしょ?バレバレなんだよね〜お兄ちゃん。」
「鋼鉄の氷姫がタイプとはやりやがるなお前。が、悪かねえ応援するぜ?」
いきなり喋りだしたケイがそんなことを言い始める。
だがレギも少し冷静になったのか
「勝手に決めるな。確かにリオナに見蕩れてたのは事実だ、けど俺はそこの妹やリオナとは違うお淑やかで落ち着いた女性が好みだ、勘違いするな。」
「見蕩れてたのは否定しないんだね。なるほどレギはああいう見た目の子が好きなんだね。」
シンがからかったように言う。
「なるほど...。レギ殿とリオナか..... かなりあり いやまてまて勝手に決めるなカレン....確かにレギ殿は素晴らしいが...ってなにを言っている!?」
と一人自分の世界に入るカレン。
「はっはっは いいではないか!これも学生生活の醍醐味というやつよ。ちなみに俺は俺に張り合える女が好みだ!」
「俺は可愛ければいいな。ただ性格キツすぎるのは勘弁。」
「僕はそうだね...本の感想を言い合える大人しい子かな?」
何故かグラン、ケイ、さらにはシンまで流れに乗って好みを暴露し始めた。
「きゃーこれみんな言う流れ!?はいはい!私のタイプはお兄ちゃんでーす。はい次ヨルハ!」
「うちか?んーうちは気になったやつがタイプになるやつだなつまり今はレギだ。」
「はい次カレン!」
「私か!?私は...私より強い者と...いや自分を抱きかかえてくれる男...って何を言ってるんだ私は!?」
「おやおや?カレンちゃんって思ってたより乙女?
可愛いね〜〜」
「なんだよおめー堅物かと思ったら可愛いとこあんじゃねーか。」
カレンが顔を真っ赤にしながらテレジアとヨルハにいじられている。
他にも様々な話で盛り上がった。自らの出身の話、得意な魔法の系統...etc
話は夜遅くまで盛り上がり過ぎて寮長に怒られた。リオナがやってきて
「いつまで騒いでおるのじゃ!」
とカレンが回収された所でこの会はお開きとなった。
怒涛の初日だったがレギはこの光景に幸せを覚えていた。何より大切な仲間を手に入れたから。
魔導学院49期生。後の歴史には問題児だらけの学年と称されるが歴史に名を刻む魔導士が多く誕生する伝説の学年。それはまだ先のお話...。
文法やらを気にせずに好きなことをかけるのがこんなに素晴らしいこととはと実感してます。