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魔導想生記 〜いつか英雄になるその日まで〜  作者: 航柊
第3章 魔導士編

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第七十九話 地下楽園(アンダーリゾート)

仕事が始まったので合間合間の更新になると思います。慣れてくれば頻度を上げていきたいです。



「実はヒトが強くなるのに一つだけ簡単な手段があるのよねぇ。分かるかしらぁ?」


「...」


「仕方ないわぁ、教えてあげる。


火事場の馬鹿力ってあるじゃない?あれって別に想像以上の力が出てるだけで限界以上の力が出てる訳じゃないの。その力は元々そのヒトが出そうとしないだけで出せる力なのよねぇ...。


だからこそ、追い込む。火事場の馬鹿力が日常的に出せないといけなくなるくらいには、追い込む。要はまあ、常日頃から死ぬ気でやれるようにするってことかしらぁ。」


____________


49期生がアトランティアに着いて10日後。


彼らはその美しい海を眺めることも、宝石のような砂浜に足を踏み入れることも、夕暮れに映える街並みを楽しむこともなく


.....地下にいた。

それも地の光が決して届くことのない王宮の遥か地下深く。


そこで彼ら彼女らは必死に駆けずり回っていた。


「ユウリちゃん、焦んないで!そこで詠唱!

ルゥくんは防護展開、ザストくんは二人の補助!前は私とヨルハちゃんが切り開くから片付け次第じゃんじゃん進むよ〜!」


「はいっ!」「うん。」「りょーかいっ」


「気合い入れていくぜお前ら!!!」


壁や床、或いは天井から這い出て、滲み出て、産み落とされる魔法生物(モンスター)を魔法、そして連携をもって次々と倒していくのは魔導小隊(パーティ)を組んだ五人の生徒たち。


彼女ら五人を含めた都合20の小隊は必死に迷宮を駆け回り、泥を被りながらも道を自らの力で切り拓いていく。未だ遥か彼方であろう地上を目指しながら...



そんな五人だけでなくレギとシンを除いた49期生が試練、もとい冒険するその場所は魔法生物達が巣食い、何やらよく分からない回復の泉やらこれ見よがしな宝箱やらがあちこちに点在している...らしい。


それは誰が言ったかアトランティア名物(非公認)、全10階層からなる自律型魔導迷宮、その名を


"地下楽園(アンダーリゾート)"


"戦姫"アーニャによって発案され妻の命令に逆らえないイルドラード、そして十二宮、海騎兵団の尽力により創り出された世界最高の修練場。


無限に近い魔力をもって産み出され続け年々その力を増す魔法生物が跋扈し、アーニャがあれよこれよと修行者を虐める為に罠を追加しまくるせいでいつからか魔境と呼ばれるようになった楽園とは名ばかりの"迷宮"である。



当然この迷宮のことは一般的には知られていない。その為まんまと入口に誘い込まれた49期生はハイドラに眠らされ無事迷宮の底へと落とされたという訳だ。


____________


時は少々遡り



眠りから目覚めた49期生達に告げられた説明は短く簡潔なものだった。


ここが地下であること。修練の為に作られた迷宮であること。


その他の短い説明。されど生徒達を絶望に落とし、死地に追い込むには十分な効果を発揮する内容が込められていた。



「示された小隊でただひたすらに登りなさい。期限は2ヶ月。それまでに地上に出てこれない小隊は全員クラス降格とするわぁ。異論は認めないからよろしく。」


その言葉を告げるアイリスがパチンと指を鳴らすと一枚の魔導巻(スクロール)が小隊長を命じられた生徒元へ出現する。


「アナタたちが隊長よ。メンバーは書いてあるから各自集まること。ここから私たちが指示することはもうないわぁ。

知恵を、覚悟を、経験を、力を、そして魔法を。全てを駆使して登り詰めてみせなさい。じゃ、頑張りなさいな。」


それ以上何も告げることなく、アイリスの幻影魔法は解除される。


残ったのは静寂。


そしてその後の混乱のみである。


混乱は暴動を生む、この薄暗い中で恐怖が増すのならば尚更.....


だが暴動が形となる寸前で、たった一人の声によって鎮圧される。


「静まるのじゃ。」


混乱が満ちる空間にあって冷静で、けれど熱さを秘めた声が響く。


「いい加減見飽きたであろう。あやつらが無茶ではない要求をしてきたことが今まであったか?その胸に問うてみよ。」


氷の女王の声に反論は上がらない。散々と突きつけられてきた事実のみを述べているからだ。


「どうじゃ...無いじゃろう?あやつらに慈悲などないからのう。


なれば!此度も為すべきことは一つ!地上の輝きを拝むことのみじゃ!誰一人として脱落することは許さぬ。たとえ倒れようものなら妾自ら氷像にして青海の果てへ沈めてくれようぞ。」


白銀の髪を靡かせいつもの通り冷徹でキツい声が飛ぶ。

その声は49期生にとってあまり大きな声では言えないが恐怖の象徴である。

誰かが情けない姿を見せればその声と共に氷が舞い散るからだ。


だけどそれ以上に、その声は49期生に勇気を与える。特にその白銀を昔から識る者は心が奮い立って仕方がなかった。


己の道を突き進むことで畏怖と尊敬を集めていたリオナが最近は周りに目を向けるようになった。

あの"鋼鉄の氷姫"が一度は切り捨てた自分達と同じ目線で視てくれている。それだけで同期の生徒達は胸が高鳴る、もう二度とその瞳に失望を宿させてはいけないと、決意の炎が灯るのだ。


そして高まりつつある士気は次にリオナから放たれる言葉で爆発することになる。


「それにのう...外では今頃あの愚鈍な剣が(おの)が価値を示さんと奮っておるじゃろう。妾も、そして貴様らも知る通りあの剣は例えどれだけ挫けよとも折れることを知らぬ。どれだけ苦難の道と分かっていてもその歩は止まることを知らぬ。


たとえこの場にあやつが、レギが居たのならば誰よりも早く、目の前に待つ暗闇へと足を踏み入れてみせるじゃろう。」


リオナが告げるその勇気も、クソ根性も、皆はよく知っている。


「レギが立つその"末席"という地位に対し負い目を感じる者よ。貴様らはここで己の価値を示し、あやつが正しく末席であることを証明せねばならぬ!

敗北の汚泥も、心に落ちた劣等の染みも

勝利と優越でしか雪ぐことは出来ぬからのう。


まあ長々と述べたがつまりはこういうことじゃ。


レギに出来て貴様らに出来ぬ道理はあるまい!

勇気の真似事ぐらいしてみせよ。

あやつに笑われたくなければな。」


士気の爆発は意図して起こすのは難しい。けれどリオナはそれを起こしてみせる。なぜならレギという極めて異端な存在が皆を焚きつける薪になるからだ。


そんな燃えやすい薪があるのだから使わない手はないとはリオナやカレンの言葉である。


負けていられるかと、あちらこちらで声が上がる。

ある者は侮りから受けた斬り傷の痛みに歯ぎしりしながら、そしてある者はかの剣が見せた抗いの輝きを思い出して。


「流石だなリオナ。私も動くとしようか。

お前達!血気盛んになるのはいいが冷静さを忘れるなよ?それだけは胸に刻んで欲しい。


よしっ、ライリ、シュウ、ソーン、セクタ!

お前たちは私の部隊だ。集え!他の者も各自隊長の元へ集合!」


カレンが提言を一つ加えて49期生は動き出す。都合20の部隊に分かれ、目指すべき場所はただ一つ。


集まったそれぞれの部隊が指定されたルートの入口に立ち...


「準備はよいか?ではゆくぞ!


"全員"で地上に戻るのじゃ!」



「はいっ!」「ああ!」「応っ!」

「うんっ!」「りょーかい」etc...



「あはっ!私たちが一番先に地上に帰っちゃうよ〜!


...そしてディナーは蛇焼きかな。」


リオナの号令と共に生徒達は駆け出す。

その胸に希望と、一抹の不安を抱えながら。


____________


そして時は今に至る。


「あらあらぁ見事に苦戦してるじゃない。」


「1.2層で挑戦者を観察、学習して最も攻略が難しくなるように自ら形を変化させる。

ん〜流石"地下楽園"。天水宮の数倍掛かってるだけあるね。」


「なにか棘のある言い方ね。ムカついたから1発殴っとくわ。」


「痛っ!!! 理不尽!ほんとに理不尽!

ほらもうデルフィたちが凄い目で見てるじゃないか...。」


"地下楽園"から遥か地上、王宮にある一室にて今回の首謀者たちは水鏡に映る49期生の様子をまるで娯楽のように眺めていた。


なおその場に集められたのはこのアトランティアが誇る英傑たち。今国内にいる十二宮(ゾディアック)、そして海騎兵団の各兵長である。



「情けない皇帝陛下は置いとくとして...

いや〜やっぱ"地下楽園"は観てる分には最高っすね〜! あ、アタイはこの雷の坊やもら貰うっす!どうせいつものやつっすよね?」


デルフィが持つ水鏡に映されていたのは蒼の雷を纏う少年。だがそれを見詰めるデルフィの目は獲物を狙う猛禽類のそれである。


デルフィの言葉に補足するならば、この場は各小隊に相対する門番(フロアキーパー)を決める場である。

かれこれ49期生を眺めて10日、それだけ観ていれば情も湧くというもの。まあ情といっても単純に戦いたい、育てたいという一方的な感情ではあるのだが.....


だがそんなデルフィを窘める声が一つ。


「おや、ダメですよデル。いつも争いになるのだから年功序列と決まったでしょう。」


眼鏡をクイッと上げそう告げるのはハイドラ。


「何を今更〜アタイからみたら全員爺婆みたいなもんじゃないっすか(笑)

どうせハイドラ姉が欲しい子がいるだけっすよね?」


「なるほど...? よろしい。アーニャ様、ガキを一人始末するので十二宮が欠けてしまいますがご容赦ください。」


ケラケラと笑い告げるデルフィの言葉にハイドラの掛ける眼鏡に罅が入る。


そしてハイドラの毛が逆巻き、その一房が蛇へと姿を変えていく。普段のお淑やかなハイドラはどこへやらと息を潜め、その胸に隠す一面をさらけ出す為に。


「やめなさいハイドラ。デルフィも煽らないの。二人とも拳骨落とすわよ?」


だがそれも鶴の一声で静まり返るのだからアーニャがいかに(おそ)れられているかが分かるというものだ。


「ヒヒ...!それはご勘弁を。」


「ま!それでもアタイは譲らないっすけどね〜!んじゃおっ先〜!」


だがそんな圧もなんのその、それだけ言い残してすたこらさっさとデルフィは我先に部屋の隅に置かれた転移門へと消えていく。


「もうデルフィったら。はぁ...まあいいわ。他に希望のある子はいるかしら?」


「それでしたら(ワタクシ)はテレジアをご所望致しますわアーニャ様。」


ハイドラはその嗜虐心を隠しもしない笑みを浮かべて宣言する。


「あら、あなたが執着を見せるなんて珍しいじゃない。デルフィの言い分もあながち間違いじゃなかったって訳ね。」


珍しく執着を隠さない従者に対して驚きをみせるアーニャ。


「ま、いいわ。じゃ、テレジアはハイドラに任せようかしら。アイリスもそれでいい?」


「構わないわぁ。アーニャの采配で自由にしてもらって大丈夫よ。」


アイリスがその眼に何を映すのか、どれだけ先を視ているのか。誰にも分からない、けどアイリスは笑った。ならば大丈夫なのだろう。


その場に居合わせた魔導士はそれをよく知っていた。



「おーけーおーけー なら私はリオナに叩き込もうかしら。

他はえ〜っと、リラとケトゥスが遠征の方に行ってるから...ピクシス、スクタム、ヴェラ、ノーマは各自目立つ小隊につくこと。兵長たちは残った生徒に。

ま、各自好きにやりなさい。今回はユニットの制限もないからあなたたちの指揮の練習と思ってね。


何かあるとすれば一つ。殺してもいいけど死なせちゃダメよ?

以上、行きなさい。」


「「「「「はっ!」」」」」


アーニャの号令の元各自はそれぞれの持ち場へ散っていく。


生徒達の超えるべき壁として立ち塞がるために。



「あ、ちょっと待ってハイドラ。"子獅子"はどこでなにをしてるの?」


アーニャは転移門に乗る直前でこの場にいない一人の所在をハイドラに尋ねる。


「........遠征に着いていくと今朝飛び出して行きました。」


「止めなかったの?」


「........駄々をこねたので。」


「はぁ.....相変わらず甘いわねハイドラは...。

分かったわ、私からリラにそれとなく伝えておく。」



____________


一方その頃



「あ〜頭クラクラしてきた〜!やっぱ私向いてなぁぁぁぁ一い!」


三人に野営の準備をさせ、少し離れたところで頭を唸らせ魔法生物達の咆哮にも負けず劣らずの大声で文句を叫びながらもばっさばっさと光剣で敵を斬り裂いていくのはテレジア。


ハイドラに狙われているなどそんなことを考えてる余裕など微塵も無かった。



「はっ!情けねえぜテレジア!ウチが代わってやりたいところだがこれも試験だからな!さっさと指揮するんだぜ小隊長サマよぉ!


.....まあとはいっても実際キツイぜ。ユウリたちもアイツらなりに良く頑張ってる。それでもまだ、打破するには足りねえ。」


そんな逆立ちしても勝てていない天才少女が珍しく頭を悩ませる様子にヨルハは高笑いが止まらなかった。なお当の本人は前衛を任されて絶好調である...のだが置かれた現状には頭を抱えるしか無かった。


ちなみに裏話として隊長にヨルハの名は上がったには上がったがあまりにも適正が見当たらな過ぎて流れたとかなんとか...そしてその場にニーア様が現れては一悶着あったとされている。



そんなことは置いといて...テレジアが頭を悩ませるのも無理はない。テレジア達の小隊はスタートしてから当初の予定の半分しか進行出来ていないからだ。


始めはテレジアとヨルハの持つ圧倒的な突破力によってどの小隊より先行していた。


1層、2層はまるで迅雷の如く駆け抜けて行ったテレジア小隊だったが3層が問題だった。


今まで通りの単調な魔法生物の群れやトラップでは無くテレジアとヨルハの前衛、そしてユウリ、ルゥ、ザストの後衛を明らかに狙って分断してくるようになったのだ。


前を倒しても後ろが襲われ、逆に後ろにどちらかが入れば前に処理できない程の敵が押し寄せる。

強過ぎる前衛と貧弱な後衛という欠点を容赦なく突いてくる。不慣れな連携を強要させられることでテレジアとヨルハをもってしても取り返しのない歪みが生まれてしまっていた。



あとはまあ、テレジアもヨルハも指揮があまりに下手だった。言い方を変えるならば守る戦いが、統率が必要な戦いが苦手すぎた。

自由にやらせれば比類無き力を発揮する二人だが敢えてこう言うべきかもしれない。


足手まといがいればその力は半減してしまういうことだ。



そこでようやくテレジアは口を開く。


「けど...それでも!弱音なんて言ってらんないよね!それにリオナちゃんは全員でって言ったもん。約束は守らないとね!」


見捨てるのは別に難しいことじゃない。けどそんなのは許されない。大好きな親友が全員で戻れと叫んだのならば、私は皆を連れて帰らなきゃいけない。



「だから私も勇気を問わなきゃ。やらない後悔より、やって後悔した方がいいって。」


魔法生物の屍に座し思慮に耽っていたテレジアはひとつの答えを得て、立ち上がる。



「戻ろう。ヨルハちゃん。」


それだけ告げて歩き出す。

答えの鍵を握る、三人の元へと。

みんな大好きダンジョンの登場です。

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