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後に伝説となる英雄たち  作者: 航柊
第3章 魔導士編
83/123

閑話 愛してるゲーム

エイプリルフールの企画で描き始めたんですが悪ノリが過ぎたのと少しだけリアルが忙しくてここまで長く+ここまで遅くなりました。

ほんの暇潰しだと思ってお目汚しではございますがお読み頂けると幸いです。



「あらあらぁ、この世界線だと面白いことになってるじゃない。ちょっと観てみようかしらぁ。」


時の理を識る魔導王は世界を軸、線、点で捉える。


だからこそ視えた、これは有り得たかもしれない世界の話。


アイリス・ディア・ペルシウスはそんな世界を夢の中で視る。


それは天地開闢を識る魔導王の数少ない密かな楽しみの一つであった。


____________


「はぁ〜い、のんびり平和がモットーのニーナ先生で〜す。今日は〜皆さんに親睦を深めてもらいたいと思いま〜す!」


のほほんと壇上に肘を置きながら話すのは"歩く平和"ニーナだった。


だが49期生の面々はイマイチピンと来ていなかった。

それもそのはずで今日の授業は魔法学α、β混合で行うとエリザベート、アドミラルから通達があったからである。ちなみにその両名の姿は見えないのだから尚更だ。


「え〜まあ皆混乱してると思います〜。

そこで先輩たちから伝言がありま〜す!


『アンタ達普通に仲悪すぎ。』


『競い合い、高め合うのは良いことです。けれど背中を預けるぐらいには仲良くなってもらいたいですね。』


とのことなので〜 今回は〜!

"熱烈告白!? 49期生ドキドキっ!愛してるゲーム!"


を開催したいと思いま〜〜〜〜〜す!」


そんなニーナの堂々たる宣言に


ぽか〜〜〜〜〜んっと空いた口が塞がらないのは生徒達だった。

それもそのはずで仲が悪いと言われても思いつく点が無かったからだ。


だが次に叫んだある生徒の声により、そんなことは全て吹き飛び宴へと変貌するのだ。


「そ、そそそそそ!しょれはつまり!!!!!りりり、リオナ様の告白が聴けると言うこと!?!?!?!?ですか?????」


顔を真っ赤にし噛みまくりながらもビシッと手を挙げ質問するのはいつものライリだった。ふんすと鼻を鳴らし鼻血を堪えながらライリは叫ぶ。


「はぁ〜い、ライリちゃん良い質問で〜す!

どれだけ嫌がっても〜クジで決まったら拒否権はありませ〜ん!相手を褒めて褒めて褒めまくって最後に愛してるなりなんなり告白してくださ〜い!だからもしかしたら?リオナちゃんが〜ライリちゃんに告白しちゃうかも!?」


ばちこーんとニーナはウインクをキメて言い放つ。


その宣言を合図に大多数の生徒が歓喜する宴が開演されたのだ。


「あは〜お兄ちゃんからの告白...じゅるり...。」


「やれやれ...指名されないことを願うしかないねこれは。」


「けっ!くだらねぇ、俺は降りるぜ。」


椅子を蹴って立ち上がるのはリンドール。

スタスタと歩き教室を出ようとしたその時...

雷がリンドールの身体を貫いたのだ。


スパークが収まるとそこにあるのは黒焦げになったリンドールの姿だった。


「あんっのクソババァ!」


なお黒焦げになっても元気なリンドールだったがその発言を受け追加で撃ち落とされた雷によって次は沈黙し席に戻ることになったとさ。



「リンドールくんが実演したように〜勝手に逃げようとしたり指名を拒否した場合はこうなりま〜す!あ、ちなみに愛してるって言われて恥ずかしがったりしたら負けなので負けてもこうなりま〜す!

ではでは〜!時間も惜しいのでサクッと行っちゃいましょ〜!!!


まずは〜1人目!No.3 !カレンちゃんで〜す!!!」


名を呼ばれた瞬間やってしまったと額を抑えるカレン。


だが周りは大盛り上がりである。


「カレン様から告白なんてされたらもう.....」


「俺に来い俺に来い俺に来い」



「はいは〜い!そんなカレンちゃんと戦うのは〜!おっと、これはこれは...選ばれたのは〜No.4!シンくんで〜〜〜す!」


ガタッと冷静を保っていた装いが崩れ額に汗を一滴垂らすのはシンだった。


これまた49期生内のビッグネーム同士が指名され生徒達は更なる盛り上がりを見せる。


だが当の本人は気が気では無い...のだがトントン拍子でゲームの開始が告げられてしまう。


「はい〜ではカレンちゃんの告白まで3.2.1ど〜ぞ〜〜〜〜〜〜!」


拡声魔法を用いてノリノリのニーナが高らかに宣下すると講堂は一瞬にして静まり返る。

あのアストリウス家のご令嬢がどんな告白をするのか、興味が無い生徒などいる訳もなかった。


ほんの数秒の沈黙の後、カレンは諦めて深く息を吸う。なおその耳は限界まで赤くなっていたとか。



「シン。お前とは長い付き合いになるな。お前は素晴らしい魔導士だ。

だがそこに至るまでお前がどれだけ苦悩し、努力を重ね、どんな思いでそこに立っているのか、私は他の皆よりもほんの少しだけ知っていると思っている。だからこそ、一人の魔導士として、友として、お前を尊敬している。


...だからその...愛しているぞ、シン。願わくば私と共にリオナを支えてくれ。」


コホンっと顔をほんの少しだけ赤らめて告げるそれは凄まじい破壊力を秘めていた。

それはもう聴いている周りが恥ずかしくなるほどの...


「うん、ありがとう、カレン。」


だがきゃーきゃーと黄色い声援が飛び交う中、その告白を真正面から受け止めた当の本人はなんと笑ってみせた。それが当然であると言わんばかりに。まあゲーム的には正しいのだが...


「お〜!わ、私でもちょっといいな〜!青春だな〜!なんて思った告白を平然と...ではでは〜ここで攻守交替!次はシンくんの告白まで3.2.1!ど〜〜〜ぞ〜〜〜〜!」


ニーナの宣言と共にシンはスっと腰に差していた剣を鞘ごと抜き放つ。


そして剣を掲げ高らかに口上を謳う。


「カレン。奔放な主を時に諌め、時に黙って三歩後ろを歩く。そんな君の姿が、僕の目には誰よりも美しく、尊いものに映る。


だからこそ、ここに誓おう。

僕は君にならこの剣を、そしてこの身を捧げても構わない。


愛しているよ、カレン。」


その告白はあまりにも絵になり過ぎていた。

だからこそほんの数瞬、静寂が場を支配する。


だがその静寂も、カレンがボッと顔を真っ赤にしたところで終わりを迎えることとなる。


その瞬間バッシャーンっとカレンの頭上から大量の水が降り注ぐ。


「は〜い!カレンちゃんの負けで〜〜〜す。け、けどこれは仕方ないっていうか?ちょっとレベルが高過ぎるっていうか...?」


ニーナがシンの告白に心からの畏敬を示していると


「はははっまだまだだね、カレン。心の制御が甘いよ。たかがゲームと言ってもライバルの君に負ける訳にはいかないさ。」


シンがケロッとした様子でパチリとウインクをキメるとその瞬間から黄色い声援が飛び交う。


俺はその様子を隅っこで大人しく眺めていた。


『シンのやつ妙にこういうの張り切るんだよなぁ...あの腹黒め。

それに待ってくれ、あの水魔法空間そのものから発動されてたよな...ってことはこれ教室を丸々空間魔法で包まれてるっぽいな...定められたルールはニーナ先生の言う通りっぽいし。どう考えても遊びに用いていい魔法じゃない気が...』


色々と考察を巡らさてはどれも出口が無いことに気が付き考えるのをやめる。


こういう時は友が羨ましくなる。もしかしなくてもシンはこの混沌とする状況を楽しんでいるのだろうなと...


その証拠に生徒達は阿鼻叫喚といった様子を見せていた。


「クソっ シンが言うと華があるな...」


「いやえっぐ!あれはやばいわ!堕ちる...普通に堕ちる!」


「ちょ!ゲームだから!ゲームだから一旦落ち着けオリア!」


シンを慕う少女、オリアはもう眼が血走ったいる。


ほんとに怖い...俺は何も視てない...願わくばこのまま隅で大人しくさせて欲しいほんとに。


「はいは〜い!皆さん落ち着いて〜次行きますよ〜次は勝ち抜き戦で〜す!」


ニーナがパッと腕を振るい次のクジを引く。


「はいまず一人目の挑戦者は〜!No.100!

ヨルハちゃんで〜〜〜す!


そしてそれに挑むのは〜〜〜〜!No.2!

まさかまさかのライバル!テレジアちゃんで〜〜〜〜〜す!」


「「「「おお〜〜〜〜〜〜」」」」


中間試験以降、二人は自他ともに認めるライバルとなっていた。日頃から何かあれば競い合うのか常となっていた。

奇妙な形ではあれどそんな二人の対決となれば盛り上がりを見せるのは当然の事だろう。



そして二人は示し合わせたわけでもなく同時に口を開いた。


「ヨルハちゃん!」 「テレジア!」


「勝った方がお兄ちゃんと!」

「勝った方がお師匠サマと!」


こと勝負事以外では息がピッタリの二人である、ここでも互いの思惑がガッシリ噛み合いまさかの方向から俺に飛び火することになった.....。


だがまあ明らかにルール違反だと思われるので俺も当然抗議する。


「ニーナ先生、二人は勝手にああ言ってますけどちゃんとクジで決めますよね...?」


ため息をつきながら俺はニーナ先生に提言する。


だがニーナ先生の様子が何かおかしい。

耳元に手を当てふむふむとしきりに頷いている。

そしてぐるんとこちらを見詰めると...


「ええ〜っと!上から認められましたので買った方の相手はレギ君になりま〜〜〜す!」


嫌な予感が的中した。どうせあの念話の相手はベティ先生なのだろう。俺はまんまと盛り上がるための餌へ仕立てあげられたというわけだ。



「いよぉぉっし!さっすが分かってるじゃ〜んニーナ先生!いっつも負けるつもりは全く無いけど今回は本気も本気で行かせてもらうよヨルハちゃん!!!」


「あったりめぇだろ!それにこれならウチでも勝てるかもしれねーしな!」



バチバチと火花どころか業火まで二人の背後に幻視する。

よし、思考放棄しよう。なるようになるだろ、知らんけど。



「レギのやつやっぱ殺ったほうが良くないか?あんだけの好意をため息で返すやつなんてよお。」


「モテるやつの悩みとかいう俺らが一生理解出来ないやつだろうよ。けどまあ...レギはモテるだろあれは。」


「.....まあな。甘やかされて育った俺らとは生活力が違い過ぎる。なんたってあいつの作る飯が美味いんだわ。」


「「「「「わかる」」」」」



「ね!ヨルハとテレジアならどっちが勝つと思う?」


「ん〜まあ五分五分じゃない?二人とも恋愛下手だし....」


「けどいいな〜私もレギ君の告白ちょっと気になるかも〜!」



ごく一部の生徒を除いて周りもどんどんヒートアップしていく。


そんな中でついに二人は向かい合う。


「はいは〜い!先行はヨルハちゃんね〜!では始めっっっ!」


先程よりもテンションを上げたニーナにより戦い(笑)の火蓋は切って落とされた。


動きは俊敏だった。テレジアの顔にすっと手を伸ばし...


「テレジア...愛してるぜ?」


そう、それはまさかの顎クイである。


「きゃぁぁぁぁぁぁあ!!!」

「うぉぉぉぉぉぉぉお!!!」


49期生男装が似合うと思うランキング堂々の第一位(非公認)に君臨するヨルハのそれは一枚絵のような美しさがあった...と後に某ランキング管理者を兼任するライリは告げたと言う。


当然その威力はテレジアの心すらも揺るがす。綻びかけるテレシアだったがあろう事か唇を噛むという旧式な方法で耐えてみせたのだ。


「ふ、ふ〜ん、やるじゃんヨルハちゃん。」


まるで殴られたかのように唇から血を流しよろめくテレジア。


「いや〜眼福〜〜〜!これはテレジアちゃん厳しいかな〜?けどいってみよ〜〜〜!」


待ちきれないといった様子でニーナが次々とジェスチャーをする。


テレジアは頷き目を閉じ、一つ深呼吸を入れる。


俺はその動作を知っていた。テレジアがここ一番で行うものである。


『いやなに本気になってんだよ...』


とは兄の心境である。


だがそんな兄を今は蚊帳の外にテレジアは口を開く。


「ねえ知ってるヨルハちゃん?最近私の中でどんどんヨルハちゃんの存在が大きくなってるんだよ?。出会った時は何このヒトとか思ってたけどすっかりもうリオナちゃんと並ぶライバル。

私はさ、何がヨルハちゃんをそこまで強くするのか、よく知ってる。そんな笑えるような争いをさ...それこそ二人のこんな時間がずっと続けばいいなって思ってるの。


だから...大好きだよ、ヨルハちゃん。これからもずっと一緒に居て欲しいな。」


本気だった。俺はその声音で理解させられる。ここに来てこの妹は勝負とかを度外視してただありのまま、本気の本音を告げたのだ。


あまりにも純朴、そして清らかな笑顔。可愛らしさを残しつつももはや神々しさすら感じさせる告白(?)であった。


予想外の告白にヨルハは当然眼を丸くし反応することが出来ないでいた。


実は驚き過ぎて固まっているだけでその内心は飛び上がるほどの嬉しさに満ちていた。

ゲームの趣旨的には実は大成功の告白ではあったのだがヨルハが驚きの余り表情を変えることが無かったので勝敗が流れるというまさかの勝負に勝って試合に負けるを体現することとなった。


込み上げる嬉しさを震えに変えてヨルハはテレジアに微笑みを返す。


「ちっルールに救われちまったけどよ、今のは中々くるものがあったぜ。ありがとな、テレジア。」


互いの一手目で勝敗は決せず、勝負は2周目へと入っていく。



「いな〜流石に予想外。しっかしよく二人とも耐えてるよね〜私だったら嬉しくて卒倒するかも...。男子的にはどうなの?」


「ヨルハのはたまんねえけどテレジアのあれは少し恥ずかしさが勝ったかな〜。ま、感じ方はヒトそれぞれだろうけどよ。」


「ふ〜ん、男の子はあんまり本音語りたがらないしね、そういうもんか。」


____________



「予想外の盛り上がりを見せていますね。」


「こんなものよ、15歳の少年少女なんてね、息抜きが必要ってだけ。ぶっちゃけ仲悪くなんてないしねぇ。」


エリザベートは満足気に頷く。


年頃の子達に青春的な話題をぶつければ盛り上がるのは必然であった。

それこそテレジアの影響で普段は語らないような本音を語り出す者もちらほらと見えた。


教師たちが求めるのは心の余裕。


頑張るのはいいことではあるのだが頑張り過ぎるのが49期生の悪癖であった。


「厳しくはするけど潰れて欲しい訳じゃないしねぇ、授業以外は青春してるぐらいで丁度いいのよ。」


だからこそ、今の生徒達を観てエリザベートはおよそ皆の前では見せない優しい顔で笑ってみせるのだった。


____________


「はいでは〜!2周目〜ヨルハちゃんのターンいってみましょ〜!」


この手のゲームは2周目以降が辛いという類のものであることは皆理解している。

だからこそ、ヨルハが口を開くのを固唾を飲んで見守るのだ。



「いつだって予想を遥かに越えてくるよなお前はさ。けどお前がそうするならウチも相応を返さないとな。じゃなきゃお前のライバルなんて名乗れねえぜ。」


そう告げ、ヨルハはテレジアと眼を合わせる。ただ、真摯に。


「お前は凄い奴だよ。ずっとな。そしてこれからもそうだろうぜ。

お前には初めて言うけどよ、お前のその有り様に...

"在るがままが最強"のテレジアにウチは憧れてんだよ。」


告白するヨルハの方が顔を赤らめるというまさかの事態が起きる。

だがそれだけでヨルハは終わらなかった。胸に抱く全てを吐露していく。


「その癖によぉ!私生活がダメダメでウチが居なきゃ寮の生活すらままならねえのが腹ただしくて...そのギャップがまた可愛いんだよなぁ...。」


ヨルハが悔しそうにそう告げると周りの生徒も激しく同意と言わんばかりに首を縦に振る。それを見届けて笑いを浮かべながらヨルハは最後を綴る。


「だからさ...ずっと変わらない、天真爛漫で唯我独尊なお前が大好きだぜ、テレジア。」


本音には本音で返す。なんともヨルハらしい告白だった。


超えたいと願う相手への憧れを口にする。それがどういう意味を持つか、俺はよく知っている。


だからこそ、俺は敬意を持って同い歳の弟子に向けて拍手を送る。


相手への憧れを宣言する...それはつまり現時点では自分が下だと認める事と同義だからだ。


プライドの高いヨルハだ、分かっていても割り切れるようなことでは決してないはずだ。だがそれでも認めた。テレジアが語った本音を信じ、ヨルハは認めたくない心に折り合いを付けてまで本音を語ったのだ。


己よりも友と対等でありたいというヨルハの心意気は尊ばれるものだろう。

それ気が付いた者たちから順にヨルハへと拍手が送られていく。


そして当の本人は


「あはっ...困るなぁ...そういうのはさぁ〜。

いや、違うねここはちゃんと言わないとね!

ありがと、ヨルハちゃん。さあて、なら私も本気で行こうかな!」


にっこりと朗らかな笑顔を見せるテレジア。

そして振り向いたテレジアと俺は目が合う。


あの顔する時は何かを企んでいる時だと俺は気が付き頭痛がし始める。

...まあでも何かはやるだろうがやらかしはしないだろうと信じて見守ることにした。


「うんうん、ちょっと趣旨は違うけど...めちゃくちゃエモい告白も聴けたことですし〜!じゃあ次、テレジアちゃんよろしく〜!」


当然そんなことなどお構い無しにニーナはテレジアに促す。


くるりとテレジアもヨルハを真っ直ぐに見据え、ゆっくりと語り出す。


「正直に言うとね、私もヨルハちゃんとの未来を想像しなかった訳じゃない。」


するとぴょんっと一歩テレジアはヨルハに近付く。そしてほんの少しだけ前屈みになりヨルハを見上げる。


「実現なんてしないから一度しか言わないよ? よく聴いといた方がいいよ?」


小悪魔と呼ぶに相応しい笑みを浮かべて告げるのは一言。それはとある騎士団長曰く万病に効く魔法の呪文。



「ふふっ...大好きだよ!お義姉(ねー)ちゃん!!!」



俺はちょうど口にしたお茶を吹き出し聴いていた周りの生徒達は阿鼻叫喚の様子を見せる。

そしてそれを耳元で聴かされたヨルハは顔を真っ赤にして口をパクパクさせることしか出来なかった。


「この勝負〜テレジアちゃんの勝ち〜〜!」


ニーナの宣言と共に最早忘れ去られていた罰ゲームの水がヨルハを濡らす。


だがもう勝敗など関係は無かった。それ程までに、テレジアが放った一言は凄まじい威力を秘めていた。


「舐めてたわ...いや...これはエモすぎる...私の生涯に一遍の悔いなし...バタンキュー」


謎の言葉を残し倒れる女生徒。


「やばい...何かに目覚めそうだわ。お金払ったら言ってくれないかしら...。」


「そんなものでは誠意が足りないだろう。ここは東洋に伝わる"DO✩GE✩ZA"をするべきだ。」


などと意味の分からないやり取りを行う生徒すら出てきていた。


正にカオス。


そしてその中心ではしてやったりとドヤ顔をキメるテレジアがいた。


「いえーい!いや〜流石のとっておきは効いちゃったか〜!さぁ!お兄ちゃんの番だよ!」


ハァハァと荒い息をたてながら俺の手を引っ張る妹に若干の恐怖を感じながら壇上へと引っ張り出される。


そんな俺へと皆から注がれる視線は期待、諦観、好奇と様々だった。

だが皆一様に思っていたのは"なんとかしろ"という思いだったとか。




「さてさて〜キャットファイト(笑)の末にレギ君を勝ち取ったのはテレジアちゃん!


さ!そんなレギ君のご褒美(笑)告白まで〜

3.2.1!どうぞ〜〜〜〜〜〜〜〜!」


俺の気持ちなど無視しまくりでニーナ先生がゴリ押してくる。


まあ大変不本意だが逃げる訳にもいかない。

カレンも、シンも、ヨルハもテレジアも皆それぞれ胸の内を吐露してみせた。なら俺も頑張るしかないだろう。


「はぁ...まぁお前も頑張ったしな。兄としてこれくらい...ってなんかおかしい気もするけど仕方なし今回だけだからな。」


こくこくと頷くテレジア。静かにしてればまあ可愛いんだけどな...世話のかかる妹だ。

そんなことを考えながら俺はゆっくりと口を開く。


「お前は自慢の妹だ。最強で最高のな。

お前はどこまでも登っていくと誰よりも俺が信じてる。


けどそれでもな...どこまでいっても俺にとっては世話のかかる可愛い妹なんだ。」


俺はそっとテレジアの頭に手を伸ばす。こういうのはシンプルでいい。俺はそう教わった...物語の英雄に。


「愛してるぞ、テレジア。たった一人の俺の家族。だからあまり無茶をしないでくれ。まあ俺が言えたことじゃないけどな。」


そう優しく告げながら、その綺麗な赤髪にぽんぽんと触れ、そして撫でる。


「ひゃふんっ」


すると奇声を上げテレジアがそのまま真後ろに倒れた。

どうやらめちゃくちゃ恥ずかしい思いをして言ったかいは一応あったらしい。


「あ、尊死した。」


誰かがそう言った瞬間にわっと歓声と共に大いに盛り上がる生徒達。


「いや〜王道中の王道だけどだからこそ良い!100点!!!」


「頭ポンポンよ頭ポンポン!まさかホントにするヒトがいるなんて...けど...羨ましい〜!」


「やばい痒くなってきた。よくもまあみんなの前であんなセリフが吐けるよなレギのやつ...。」


「あんたの小さい心臓じゃ言えないでしょうね〜少しはレギ君の勇気を見習ったら?」


そんな言葉が飛び交う中で気絶していたテレジアに気付けと言わんばかりに水ではなく熱湯が注がれる。


「あっつ〜〜〜〜い!え!?もしかして今の夢?違うよね!?」


ばっと飛び起きて俺と目が合うテレジア。


「良かったな、現実だぞ。まあ勝負は俺の勝ちだけどな。」


これもまあ照れ隠しだが俺が勝ったのは事実だし?一応言っておく。


だがテレジアは万遍の笑みを浮かべて抱きついてくる。


「や〜お兄ちゃんが私のことそんな風に思ってるなんて〜!あ〜もう何でそうならそうと言ってくれないの〜!分かった!もう少し休み増やしま〜す!だからその分構ってね!」


矢継ぎ早に次々と言葉が飛び出してくる。


『はぁ...やっぱりこうなったか。敵わないな。』


「はいは〜い!仲睦まじいことはいいですけどそんなテレジアちゃんに決めてもらいたいことがありま〜す!次にレギ君に挑むチャレンジャー、レギ君に勝てそうなのは誰ですか〜?」


その問いを聴きすぐに周りを見渡すのはテレジア。そしてぱっと目が合ったそのヒトを指名する。


「んじゃ!目が合ったライリちゃんで〜!」


「にゃっ!?」


猫のような声を上げるライリをニーナがちょちょいと魔法で壇上へと上げる。ルールはどこへやらと言った感じなのだが...そんなのお構い無しにニーナは宣言する。


「あまり時間も無いので巻いていきま〜す!レギ君から〜ライリちゃんへの告白まで3.2.1どうぞ〜〜〜〜!」


あれだけ恥ずかしい台詞を吐いてみせたのだ。だからもうレギの眼に恐怖など映っていなかった。

全身全霊をもって告白してやろう!っと謎の気合いが入るくらいには。



「ライリ。君のその明るさに俺たちはいつも力を貰っているよ。...当然リオナもね。


けど君の美徳はそれだけじゃない。

ほんの些細な気配り、俺は君のそんなところを尊敬しているよ。


愛しているよ、ライリ。」


俺がこの眼で視て、感じてきたものを正直に告げる。


「あ゛っ」


奇声を上げて膝から崩れ落ちるライリ。それはそれは幸せそうな顔だったとか。


「90点」 「95点!!!」


「討伐完了!!!」



「ん〜これは手強い予感!ではでは!ここで男の子をぶつけたいと思いま〜す!ゼドく〜ん!」


ニーナに呼ばれたゼドは颯爽と壇上へと登る。


「任せとけ!この筋肉バカが何言ってこようが耐えてやるよ。」


筋肉バカと煽ってくるこいつこそ真の筋肉バカなのだがそれはこの際置いておく。

ゼド相手ならやりようは幾らでもあるからだ。


「ニーナ先生、魔法の使用は認められますか?」


俺もテレジアと同様に悪い笑みを浮かべて問いかける。


「いいわよ〜やり過ぎない範囲ならね〜!」


なら問題は無い。俺は仕掛けの為に僅かな魔法力を練り上げる。


「悪いなゼド、勝たせてもらうぞ。まあお前には良い思いをさせてやるから許せ。」


「何を言って...!?」


ゼドの抱く疑問はレギがその姿をとあるヒトに変えたことで解消される。それどころか滝のような汗が噴き出してくるのを感じていた。


闇を纏いレギは姿を変える。レギが姿を模したそのヒトとは...


「ふふっ、まさかこれが好みなんてねぇ。ゼドってば仕方ない子だわぁ。」


そこに居たのはアイリス(レギ)だった。


「いやクオリティ高っ!!!」


そしてそうニーナがキャラを忘れてツッコミを入れるぐらいにはレギのそれは仕上がっていた。



声も立ち振る舞いも、俺が視てきたものを反映させる。演じるのではなく自分がアイリスだと思い込んでみせるのだ。


「いつか言ってたわよねぇゼド。

"私に踏まれたい"らしいじゃない?

特別サービスよ、その願い叶えてあげるわぁ。」


「え...あ!ちょ...あれは言葉の綾っていうかってかおい!レギ!てめぇ!」


「跪きなさい。」


下すのは一言。それだけで十分だった。

ゼドはビクッと身体を跳ねさせ即座に跪く。


「素直でよろしい。忠実な子にはご褒美を上げないとあげないとねぇ...」


杖でゼドの顎を持ち上げ、そっと耳元で囁く。


「愛してるわぁ、ゼド。これからも頑張りなさいな。」


過去一気合い入れて声出したと思う。そのぐらいには興が乗っていた。

だがその甲斐あってかゼドは湯気を出す程顔が真っ赤になっていた。完全な性癖暴露となってしまったがこれは勝負だから仕方がないだろう(笑)


「は〜い!イキってたゼドくんあっさり負けちゃいましたね〜!」


ニーナ先生の宣言と共に俺はそっと魔法を解く。


「悪いなゼド。この続きは幾らでも剣で語ってやるよ。」


悔しさと嬉しさが混ざった表情でゼドは俺を睨みつけるが諦めたのかガックリと顔を伏せる。そしてその後頭部に水が落ちたのは言うまでもないだろう。


そして魔法を解いたレギの元には大量の女生徒、そして一部の男子生徒達が押し寄せていた。


「ちょ!レギ君その声!その声どうやってんの!?」


「ど、どんな声でも出せるの!?り、リクエストしてもいい!?」


「頼むレギ!金なら払う!だからどうしても録音して欲しいものが...!」


「いや〜にしてもレギ君ってさっきのライリのもそうだし今のアイリスの物真似もそう。よく視てるよね。視野が広いのもそうなんだけど細かいとこも気が付いてくれるっていうか?そういうのなんか良くない?」


「分かる分かる。勉強教えて貰う時とかもさ、得意科目とか知っててくれてたりするし尊敬。」


囲まれるレギを遠巻きに見つめるのはいつものメンバー。


「録音!!!その手があった!?え〜私も毎日お兄ちゃんのおはようボイスで起きたい〜!」


「ウチとしてはどうやってレギがあの声を出しているのか気になるところだけどな。騎士団でもやらされてたけどまじで凄いぜあれ。」


「魔法力が少ないからああいうことばっか昔してたらしいよ。逆に言えばレギの魔力操作はそういうところから来てるのかもしれない。まだまだ他にも色々とかくし芸を持ってそうだね。」



「あなた達〜そういうのは放課後にやりなさ〜い!それにしてもちょっとレギ君強すぎるかも〜。

本当に時間無いし...う〜ん混ぜるな危険な気がするけどここはもう一人しかいないよね〜!」


ニーナがぐでーっと教台にもたれ掛かりある生徒を見つめる。


皆ももしや...と嫌な予感を感じつつもその視線を追う。

そしてその視線の先は当然予想通りの生徒だった。


「は〜い!ついについに!我らが王女!リオナちゃんの出番で〜〜〜す!」


最早クジとか関係無く強制指名になっているが誰もそこを問題にしてはいなかった。


レギとリオナ。末席と首席。水と油。


互いに互いを認め合いつつも事ある毎に衝突し合う二人を同期達は幾度となく目にしてきた。


だからこそ、レギとリオナが愛してるゲームをするという特級の核爆弾が急に投げ込まれ皆は混乱の局地に立たされるのも無理はない。


そしてなにより当のリオナがどんな反応を見せるのか予想も付かないのもその一因となっている。


皆はその視線の先、周りが盛り上がる中静かに読書を続けていたリオナの一挙手一投足に注目する。


だがそこでリオナおよそ予想外の動きを見せた。


すっと立ち上がり静かに本を置くと


「ふん。妾が引導を渡してやろうではないか、末席め。」


怒る訳でもなく悪態をつくわけでもないまさかのノリノリである。


これには当然見つめていた生徒達がこの日一番の盛り上がりを見せるのも必然だったかもしれない。


そんな歓声をものともせず優雅にリオナは壇上へ降り立つ。


「随分と楽しんでおったのう末席。じゃが次は貴様が妾に跪く番じゃ。ほれ、低脳な言葉で妾を口説いてみるがよい。」


リオナは身振り手振りで皆を席まで下がらせると何故かは分からんが偉く上機嫌にそう告げる。なーんか裏がある気がするけどまあこれも勝負だと言うのならやはり負ける訳にはいかない。


俺とリオナが壇上で向かい合い、辺りは静寂に包まれる。

ゴクリと誰かが生唾を飲み込む音が響く。


皆その空気に飲まれて何も言えないでいるが抱える思いは皆一つだったという。


「「「ゲームやる雰囲気じゃなくね?」」」


そんな張り詰めた雰囲気の中、レギはついに口を開く。




「鋼鉄の氷姫、白銀の魔導姫、剣の女神の現身。誰より魔導に真摯であり誰より魔法が似合う。成長し皆を導くようになり、いつだって皆先頭を歩く。そんなお前の背に、俺は王を視た。そんなお前を尊敬し、そしていつしかその在り様が俺の憧憬になっていた。」


つらつらと言葉が並び自分でも不思議なぐらいに口が回る。非常に腹立たしいが俺にとってそれだけリオナの存在が大きいのだろう。そして俺もリオナへの憧れを正直に言葉にする。


自分で言ってて顔が熱くなってくる。

だからここらで一つ言い訳を入れておこう。


「...まあ全部こいつが口を開かなければっていう前提の元なんだけどな。」


ふっと鼻で笑いそう告げると周りからもどっと笑いが巻き起こる。

なおリオナが睨んだことですぐに静かになったが....


「けどまあ俺がお前を尊敬してるってとこだけは嘘じゃない。

嫌がるかもしれないがもしお前が王になった時、騎士としてこの剣を捧げたい、俺はそう思ってるよ。」


そっとリオナの前に跪き、腰に差したアルカディアを鞘ごと外しリオナの前に置く。


そしてゆっくりと、空になった右手をリオナへと伸ばし最後の言葉を紡ぐ。


「身分違いなこの身なれど、真っ直ぐに貴女を愛しています。どうかこの手をとって頂けませんか?リオナ王女殿下。」


レギが選んだのは神話の再現。子供ながらに憧れた物語の告白を、彼なりに実演してみたのだ。



当の本人もぶっちゃけ途中までこんな形になるなんて考えてもいなかった。

けど何故かこうしたい、こうするべきだと自然と身体が動いていた。


顔に熱が貯まる、酷く喉が渇く。遊びなはずなのに自分でも何故こんなに緊張しているのかもう何が何だか分からなくなっていた。


そんな俺が伸ばした手はリオナによってなんにせよ跳ね除けられる...そう誰もが、俺自身ですらそう思っていた。


だがそこからは誰しもが予想しえない事態に発展していく。


レギが伸ばした手は払われる訳でもなく代わりに言葉が飛んでくるわけでもなく握られた。真顔のままただ握られたのだ。


「えっ?」


思わず変な声が出る。

ひんやりしてて気持ち良いとか意外と小さいんだなとかあらゆる情報が急に流れ込んできて脳がエラーを起こす。


「きゃぁぁぁぁぁぁあ!!! り、リオナ様!?」


気絶から醒めたライリがその光景を見て悲鳴を上げ再び卒倒しそうになる。


そんなライリの悲鳴に合わせてリオナがすっと俺の手を引く。強い力が加わっている訳ではないはずなのにそれに逆らうことが出来ない。"合気"というやつだろうか。


そのまま抱きとめられる...というところでリオナは確かな技をもって自分と俺の位置を入れ替える。


そして俺はされるがままに、壁へと叩き付けられた。その右手を未だ握られたまま。



「ふむ、中々良い告白であったぞ末席。相手が貴様でなければ妾もときめいたかもしれぬのう。せいぜい下僕ぐらいなら考えてならんこともないぞ?」


空いた手を伸ばせばその頬に触れる事すら可能な距離でリオナは告げる。


初めてこんな近くでリオナと会話する気がする。顔は良いしなんかめっちゃいい匂いもするから困る。めちゃくちゃ顔が熱いがそれを何とか表に出さないように耐え続ける。掴まれている右手も手汗をかいてないか気が気でない。


けれどまあ...その口から飛び出す言葉で全てが台無しなのが今だけは唯一の救いか...。清々しい程の笑顔からげんなりする程の暴言が飛び出してくるのだから笑えない。


そしてそんな状況をまるで楽しむかのようにけらけらと笑いながらリオナは続ける。


「じゃがまあ下僕といえど成果を見せたのであれば褒美をやるのが情けというやつじゃ。


どれ.....。」


次の瞬間、リオナはダァンっと音を立てレギの顔の横に左手を叩きつけたのだ。

覆い被さるように、そう、それは俗に言う...


「り、リオナ様の壁ドン...! あひっ」


ライリ二度目の失神であった。


だがリオナ劇場はそれだけで終わらない。


そしてそこから先の観客はレギただ一人。

正真正銘、リオナがこれから行う全てがレギのみに注がれる。


「え!?ちょっと!ここからだと視えないんだけど!」


「え...リオナ様!?...もしかして...!?」


二人の身長は現段階ではほぼ変わらない。つまり周りの生徒達からはリオナの背しか映らなかった。何が行われているのか、リオナがレギに何を告げるのか、周りからは何も分からないのだ。



俺の手を掴んでいた右手がそのまま俺の頬に触れる。柔らかく、小さく冷たい手の感触がはっきりと伝わる。

その手がひんやりとしているのか俺の顔が熱くなっているのかそれを分析する余裕すら無い。


けど確かなことが一つだけあるとすればこの眼に映るリオナは...


ただ綺麗だった。


「ふむ。相も変わらず揺らぐことの無い光を宿す良き瞳じゃ。貴様のその眼だけは気に入っておる。貴様が望むなら愛でてやってもよいぞ?ふふふ。」


悪戯な光をその眼に宿しながらリオナは無邪気に笑う。そんな姿はおよそ初めて視る、この姿こそ本来のリオナなのかもしれない。


正直に言おう、見蕩れていると。

そんなされるがままの俺に対しリオナは言葉を続ける。



「末席と言えど貴様を侮る者はもうここには居らぬ。貴様が誇り高き剣である限りな。


...一度しか言わぬぞ、心に留めておけ。


これは命令じゃ。

皆の為に、あの(バカ)の為に、そして他ならぬ妾の為に...これからも進み続けるがよい。そして憎しみを断ち斬るエルフィニアの剣となれ。」


二人の間にほんの少しだけ漂っていた甘い雰囲気が一瞬にして霧散する。それ程までに、言葉を綴るリオナの眼には真剣な光が宿っていた。


「言われるまでも...


当然そう答えようとする俺の眼に、それははっきりと視えてしまう。

何故そうするのか、そんなことを考える間もなくその瞬間は訪れる。


言われるまでもない。そう告げようとする俺の口がリオナの二本の指によって塞がれる。


だが問題はそこじゃない。いや、そこも十分問題なのだが...俺が視たのはその前だ。



リオナは先に自分の唇に触れた指で俺の唇を抑えたのだ。


そして一言。


「愛しておるぞ、レギ。」


何が起きたのか、何をされたのか。分かっている、分かっているのに情報がいつまで経っても完結しない。思考が乱される。

そして...パンクした。


『アハハハッ!これはこれは可愛らしいキッスがあったものだ。実にいじらしいじゃないか。』


内なるルクスの声がトドメだった。

次の瞬間ボンっと音がなるくらいには俺の顔は真っ赤に茹で上がり、床に座り込む。


そんな俺に出来ることと言えばはただリオナを見詰めるのみだった...。


リオナはそんな俺を視て満足気に頷くと...


「くはははっ!貴様の負けじゃな末席!

くっ!くくくっ、あはははっ顔を真っ赤にしおって無様じゃのう!」


その笑顔と講堂中に響く笑い声で俺は一気に現実に戻される。そういえばゲームの最中だったと...もうすっかり俺の心はそれどころではなくなっていた。



「え!?なに!?どうなった?どうなったの!?」


誰かの叫ぶ声が酷く遠くに感じる。



『してやられた...! あーもう死にたい、あーやってられないこんなん。』


俺は一人ガックシと首を落とす。恥ずかしすぎて顔を上げられない。


『けどじゃあ最後のは一体なんなんだよ!』


俺の心を支配するのはそれだけだった。


そんなリオナの劇場は最後にもう一つ爆弾を落として終幕を迎えることとなる。


「お前...!さっきのはどういう...。」


ポツリと、いてもたってもいられなくなった俺はリオナに問いただす。


「言ったであろう、褒美をやるとな。」


だがふっと笑い至極当たり前のように告げるリオナに俺は思わず面を食らってしまう。


「ふん!勘違いするでないぞ。今の貴様なぞ結局は虫けら同然じゃ。さっきのは情けとも言ったじゃろうに。」


『そこまで言わなくていいだろ...泣くぞ普通に。』

もう俺の情緒はおかしくなっていた。だが最後に告げられた言葉でその混乱は極致へと到ることになる。


リオナはそっとしゃがみ俺の耳元で囁く。


「じゃがまあ.....有り得ぬとは思うがもし貴様が妾に並ぶ時が来たのなら.....その時はこの続きをしてやってもよいぞ?」


「え?」 その言葉が俺の頭の中を何度も駆け巡る。


だがフリーズする俺を他所に悪戯っぽくべーっと舌を出しそれだけ告げてリオナは身を翻す。


そんなリオナがとても新鮮で、ただ可愛くて


俺の中で何かが落ちる音がした。




リオナが身を翻したことで俺の姿が再び皆の前へと晒される。

当然ながらリオナの笑い声と顔を残された真っ赤にする俺を視て皆もゲームの勝敗を察する。


だが問題はそこではない。どういう過程でそうなったのか、皆が気になるのはそこだけであった。


「れ、れ、れ、レギ君!!!、えちょっと待ってリオナ様に何されたの!? 何フリーズしてるんですか!? 答えなさ〜〜〜〜〜い!」


二度目の失神から復帰したライリが目を血走らせて俺の身体を揺さぶる。


「すまんライリ...それは言えない。」


俺はそう答えるのが限界だった。だって言えるわけない。恥ずか死する。


だがその答えが更なる波紋を呼ぶとは予想だにしなかった。


「えっ!?言えないようなことをされたってこと!?」


「ま、まさかあのリオナ様に限って...」


「嘘だよな?レギ?場合によってはお前を○さないといけないかもしれん...」


「けどよ...あの鉄仮面で恋愛朴念仁レギがああなるんだぜ...?そりゃもう...」


「やめろ...!それ以上は何も言うな。俺達は何も視なかった。視えなかったのだから何も起きていない...そういうことだ。」


正に阿鼻叫喚。黄色い声援も悲鳴をも、ところどころ意味のわからない言葉すら飛び交う程の大混乱に陥っていた。


「はいは〜い!勝者はリオナちゃん!はいっ!甘々過ぎて胃もたれしたのでもう勝手に解散しといてくださ〜い!もう私は知りませ〜ん!」


その狂乱を前にニーナは手綱を離すことにした。


けれどその顔はどこか満足気な笑顔だったという。


____________


「リ〜オ〜ナ〜ちゃ〜ん!待ってよ〜!お兄ちゃんになんて言ったの〜!?それに〜なんだか体温が低いんじゃなぁい?」


颯爽と教室を去っていくリオナを見逃さなかったテレジアはいつも通り後ろから抱き着く。


「ふん、貴様に教える義理なぞ無いわ。

貴様が舞い上がって体温が上がっておるだけじゃろうに。さっさと離れよ!」


「ん〜でもでも〜私の眼によると〜魔法を使って体温を下げてる気がするんだよね〜?まるで火照った身体を冷ましてるみたいに〜?」


「ぐっ...抜かせ馬鹿め。貴様らの茶番のせいで部屋が暑かったまでのことじゃ。」


「へぇ〜ほんとかなぁ〜 そうな風には感じなかったけどなぁ。...けど実際どうだった?お兄ちゃんの告白は。」


「.....ふんっ、まあ100人ぐらいおる妾の婿候補に加えてやらんでもない。」


「あはっ!全く素直じゃないんだから〜リオナちゃんは!ま、いいや!それがリオナちゃんのいいとこだし! それで!?今からどうするの〜?」



「そんなもの決まっておる。


魔法の鍛錬じゃ!いくぞテレジア。」


「そうこなくっちゃ!」


____________



眼を開けるとすっかり朝日が顔を覗かせていた。


「ん〜〜!久々に面白いものを視たせいで寝坊しちゃったわぁ。」


ふわぁっとアイリスが欠伸を一つ入れると部屋のドアが開かれる。


「おはようございます。

随分と長く寝ていましたねぇ女主人(ミストレス)?」


「何で起こしてくれなかったのかしらぁエリザ?」


「それはもう、いい笑顔でご就寝でしたもの。良き夢でも視られましたか?」


「あらあらぁ。そうねぇ、夢の中で貴女、面白いことをしていたわぁ。」


「...というと?」


「ふふふ、これ以上は企業秘密よ。ま、こんなことは置いといて地下で頑張ってる子達を応援してあげないとねぇ。」


そうして有り得たかもしれない世界の話はアイリスの記憶の中でのみ紡がれていく。


星の数ほど存在した可能性の輝きに心を綻ばせながら、魔導王は確かな今を生きる子達に向けて呟く。


「正しい道も間違った道もどちらもありはしない。あるのは選んだアナタ達の今だけ。大いに悩み、大いに笑い、泣いて、進んでいきなさい。魔導の子らよ。」

本編でははたしてどうなるのか、ちなみにほんとに白紙です。

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