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後に伝説となる英雄たち  作者: 航柊
第3章 魔導士編
76/123

第七十二幕 魔導士の休息part1 突発デート

読んでくださる方に感謝しながら3月もこのペースで更新していきたいです。



「んーーーーーーー!ーーーーーーーっ

終わったぁぁぁぁぁあああああああ!」


「うるさいぞ馬鹿者。静かにせい。」


全力で叫ぶ赤髪の少女に向けて振り下ろされるのは最早49期生にとって恒例となりつつある通称


"王女の愛"


密かにそう名付けられたリオナの鉄拳である。


「へっへーん!そうは問屋が卸しませーん!」


だが今日はいつもの光景とは異なる模様を見せていた。

普段は ふべしっ や ぐへっ っという効果音と共に潰れた蛙になっていた赤髪の少女、テレジアがリオナの鉄拳制裁を避けて見せたのだ。


「「「お〜〜〜〜〜〜」」」


っと拍手と共に周りの生徒から声が上がる。


「ぶいっ!」


ドヤ顔で拍手をする生徒たちに向けてピースを決めるテレジア。


「油断しおってからに。」


だが冷たい声と共にテレジアの頭上から豪雪が降り注ぐ。

それはそれは見事にテレジアの周りのみを綺麗に雪景色染めてみせる。素晴らしい魔法コントロールだった。


「流石リオナ様!更なる魔法制御にこのライリ、感服するばかりです!!!」


中間試験の出来事を経てリオナ様ファンクラブ(仮)の迷誉会長に就任したライリを筆頭にキャーキャーと黄色い声援を飛ばす。これもお馴染みの光景の一つ。


そして雪に埋もれてたテレジアがぷはっと顔を出す。


「うーーーーーっ夏休みだぁぁぁぁぁぁ!」


本人の置かれた状況と口に出す言葉は真逆ではあるがその言葉は正しい。


中間試験から数ヶ月、季節は移り変わり照り付ける日差しが眩く感じる夏。


中間試験とは異なり学力試験が中心ではあるがその難易度は比較にならないとされる激動の期末試験。49期生はたった今それを終えたところであった。


学生にとって前期期末試験が終わる、その意味は大きい。


何故ならその後に来るのは学生の夏


つまりは夏休み!


海!水着!夏祭り!浴衣(YUKATA)!


キャンプ!自然! そして恋っ!!!!!


「なんて馬鹿げた想像してるやつなんて居ないわよねぇ?アンタ達に夏休みなんて無し!!! ...と言いたいところだけどやるわよ!」


バァンっと机を叩き付けエリザベートが告げる。


「"対魔特別講義 ドキドキっ!夏合宿"をね!


ちなみに教鞭をとるのは我らがアイリス様よ。良かったわね、アナタ達。」


何故か妙に高いテンションで高らかにエリザベートが宣言する。



その言葉にここ数ヶ月で一番の大歓声が上がる。

アイリス様に教わることが出来る。その意味を49期生この数ヶ月で知った。


アイリス・ディア・ペルシウスはまさしく魔導王。

披露されるその知識、その魔法は尽く生徒達の胸を射抜いていったという訳だ。放課後に急な補講が入ることも多いアイリスの講義。だがそれは生徒は安らぎの時間である放課後を削ってでもほぼ出席率100%という偉業を成し遂げているのだから凄まじい。


そんなアイリスの講義を短い期間とはいえ集中して連続で受けられる。それが魔導士にとってどれだけ大きいことか、それを理解しない生徒などいない。だからこその盛り上がりであった。


「出発は2日後!しばらく帰さないから忘れ物するんじゃないわよ。」


だが"帰れない"じゃなくて"帰さない"と告げたベティ先生の言葉。その意味に気付き震えを隠せない者も少なくはなかったという。



そんな輪から少し離れて...


「まあ僕らは半分ぐらいしか参加出来ないから少し残念だけどね。」


「そんなこと無いだろ、試験とはいえギルドの遠征に同行出来るのは大きな経験になる。お前にとってもな。」


並んで試験を終えた俺とシンは盛り上がる同期を見ながらそんな話をしていた。


「はぁ...君はいつだって魔法しか見てないね。ま、それがレギの良い所でもあるけど。

ただ僕らはまだ学生だからね。この場合は皆と過ごす時間が減るのが残念ってことさ。」


ふっと笑いながらやれやれと言った感じのシン。


「シンの言う通りだぜ?レギ。おめーは肩に力はいりすぎなんだよ。青春しようぜ青春!ってことで今日ウチの買い物に付き合ってくれてもいいぜ?」


ガっと肩を組みながら勢い良く話し掛けてくるのはヨルハ。この光景も中間試験以降よく見られたものだった。


「いや...俺は今日も特訓


当然修行があるのでいつも通りそれを丁重に断ろうとしたら横槍が入る。


「そうですよ...レギ君。また最近休む時間が減ってるとノーチェさんから聴いてます。

...ということで上司命令で今日はお休みにしてくださいね。マスター達には伝えておきますから。」


眼鏡をクイッとあげてスケジュール帳に目を通しながら割り込んでくるのはエイル。


その身に纏う黒の装い、そして肩に取り付けられているのは俺と同じ剣と六の羽根が象られた紋章。


そう、エイル・クラーレは中間試験の直後に対魔物を見据えて行われた49期生を中心とした異例の大量スカウト合戦。


その中で3つのギルドによる争奪戦の末に俺と同じギルド、ディアボロスに筆頭魔導研究員兼見習い秘書として入団していた。

加えてギルドに入って以降様々なヒトと話す機会が増えたことでエイルのコミュニケーション能力はかなり向上を見せていた。まあ知り合い以外と話す時やふとした時にキョドってしまうのはご愛嬌だ。


ちなみにギルドでの地位は俺の遥か上、なんならノーチェ先輩とほぼ同列らしい。

だからこそ...


「...はぁ。分かったよエイル。上司命令に背いたらアシュレイ先輩にボコられるからな...。」


このように命令には逆らえないのだ。


「お?つまりウチの買い物に付き合ってくれるってことでいいか?いいよな?」


何故かテンションが上がってるヨルハ。だがまあ断れる理由も無くなったし


「分かった、付き合うよ。ただ俺は本当に持ち合わせが無いから奢りとかは期待するなよ?」


「金なら心配いらねえぜ?なんかウチが次期当主になった時にめちゃくちゃ送られてきたからよ。師匠の為なら何でも奢るぜ。」


軽口のつもりだったのにとんでもないことになりそうで少し背筋が寒くなる。忘れがちなのだがそういえばヨルハはいいとこのお嬢様だった...。



「うっし!じゃあ16時に門の前で待ち合わせな!遅れるなよ!」


花のような笑みを浮かべて颯爽と帰路に付くヨルハの足取りはどこか軽かった。



まあたまにはこういう日があってもいいかと思いながら俺も身体を伸ばしながら立ち上がる。


シンの言葉も一理ある。思えば学生らしい?ことなんて何もしてこなかったしな。

友と出掛ける、こういう日があってもいいだろう。


「そういうことらしいからな。俺も一足先に帰るよ、テストお疲れ様。」


それだけ告げ俺も帰路に付く。




皆の注目を浴びてるなどとは微塵も知らない二人が教室を去ると.....


「ね!ね!やっぱりヨルハちゃんとレギ君って付き合ってるのかな?」


「ん〜どうだろう。レギ君ってさ、良くも悪くも目標に真っ直ぐじゃん?ああいうヒトって恋愛に興味が無い...とはちょっと違うけど二の次って感じだと思うのよね〜。私のセンサーがそう反応してるわ。」


「あんたのセンサーはいつもあてにならないでしょうに...。

けどまあぶっちゃけさ、数ヶ月一緒に過ごして分かったけどレギ君ってしょーじきめちゃくちゃ良い奴じゃん?もし私たちが魔導士の家に生まれてなかったら絶対争奪戦になってると思うのよね。

私たちはどうしてもレギ君を見る前にその魔法力に目を向けちゃう...。だからこそしがらみも無しに楽しそうなヨルハが少し羨ましいわ。」


「ま、そうよね〜。仮にの話しね?もし仮にレギ君を彼氏ですって親に紹介したら絶対認めて貰えないもん。今までなんとも思わなかったけど家のしがらみって結構面倒。」


「お兄ちゃん大好きっ子の最恐の妹も付いてくるしね(笑)」


「あははっ!それもそうね。どんなしがらみよりもテレジアが一番高い壁だわ。」



ヨルハとレギのやり取りは当然ながら同級生の中で話題に上がる。



そしてそれは当然良く席を共にしているメンバーでも同じであった。


「なぁ...俺が間違ってるのか?あれってデートだよな?」


ケイが信じられないといった感じでいつの間にか集まっていた普段の面子に問いかける。


その問いに答える者はいない。

皆額を抑えたりため息を付いたりとリアクションは様々だがその沈黙は肯定と捉えていいだろう。


「変わった...と言えば一番変わったのがこれだろうな。」


グランがふむふむと頷きながら沈黙を破る。


中間試験以降49期生を取り巻く環境は大きく変わった。

それは生徒同士の関係も然り。だがやはり学生、男女の機微には盛んな年頃である。そういった動きは何かと目立つものであった。


ヨルハがレギに向ける熱烈なアプローチは49期生の中でもホットな話題であると言えるだろう。他にもヨルハに触発されたりやはり夏休みというイベントを目前にしてそういった動きを見せる生徒も少なくはなかった。



「ここまで露骨なのによ、何も動じないレギはほんとに付いてるのか不安になるね俺は。」


ケイは鋼の心を持つ同級生に向けてまぁ...ちゃんと恨みのこもった言葉を送る。普段からモテたいとブー垂れているケイにとっては理解のできないものなのだろう。


「なっ!?お前涼しい顔してなんてこと!」


そしてお約束の反応を見せるのはカレン、そしてちゃっかりその言葉の意味を理解し顔を赤らめるエイル。


「ちなみに付いてマ〜ス。双子ちゃん特権で教えちゃう〜。」


『ぐぬぬ...ヨルハちゃんめちゃくちゃ積極的になってるんですけど!告白しないって言った割には周りから固めようとしてない!?気の所為!?...お兄ちゃんとデートなんて私だって300回(テレジア調べ)ぐらいしかしたことないのに!!! けどまぁ...ヨルハちゃんもお兄ちゃんが無理しないように色々考えてそうだし?あんま強くは言わないけど?』


涼しい顔して言っているが内心は煮えたぎっているのはテレジア。


「そうだね、ちゃんと付いてるよ。ルームメイトとしても保証しよう。」


けらけらとからかい気味に告げるのはシン。


「テレジア!シン!少しは声を抑えろ!ほら見ろ、耐性無いリオナがショートしてるじゃないか!」


リオナは目を白黒させ天井を見上げるのみ。

カレンはそんなリオナを揺さぶりながらも自身の顔は真っ赤であった。


「ははっ!そう言う君も顔が真っ赤だよ、カレン(笑)」


今度ばかりは耐えられないと言ったばかりにシンは吹き出す。



「てめえらの頭ん中は花畑でも広がってんのかよ。やってられっか。 おいデカブツ、てめえも身体動かさねえと消化不良だろ、付き合え。」


「ふははは!こう言ったものも学生生活の醍醐味というものよリンドール。青春!いいでは無いか! だがお前の誘い、断る意味もなかろう!演舞場へ急ぐとしようではないか。」


床を蹴って立ち上がりグランを挑発するのはリンドール。グランもそれに応じ腕を鳴らす。


早々に会話から抜け出す二人を見送ると同時にテレジアは告げる。内に秘めていた思いを。兄妹としてずっと見続けてきた兄のことを。


「お兄ちゃんはさ、実は誰よりも一途なんだよね。だって物語の英雄にずっっっっと恋してるもん。イバラの道だって知ってても突き進んじゃうぐらいにはね。

ヨルハちゃんもヨルハちゃんでそんなお兄ちゃんの邪魔だけは絶対にしない。」


誰よりも二人を知るテレジアがそう綴れば


「互いに揺るぎない意志があるからこそ成立している関係、難儀なものだね。

まあ後は当人たちの問題さ、僕らが野暮な真似をする必要は無いだろう。」


そんな二人を近くで見てきたシンがそれを纏める。



____________


まぁそんな事を話されてるなんて当の本人たちは露知らず。


ヨルハは多少の下心はあれどまさかまさかのレギと出掛けれるという事実に心が浮き足立っていた。


「これってデートだよな?そうだよな?あの修行馬鹿に正直心折れ掛けてたけど良かったぜ...。」


ウチは棚から服を引っ張り出しては放り投げを繰り返しながらそんなことを呟いていた。


その様子は誰がどう見ても舞い上がってると言えるだろう。

そしてそれを見てしまった目撃者が若干1名。


「嬉しそうだねヨルハちゃん。」


「!?」


心臓が止まるかと思った。


開けっ放しだった部屋の入口、そこから目から上だけを出しじーっとジト目でテレジアがウチを見ていた。


...死ぬほど恥ずかしい。顔が熱を持ちすぎて今なら苦手な火の魔法も使えるかもしれない。


「はいはい、ほら固まってないで!お兄ちゃんとデートするんでしょ?オシャレしなきゃね!」


だがぱたんと扉を閉めて勢い良く滑り込んでくるテレジアにウチは目を丸くするしか無かった。




「今更言うのもあれだけどよ、良いのか?ウチがレギとデートしても。」


少しの沈黙の後、あれでもないこれでもないとウチの服を投げては頭を唸らせるテレジアに問い掛ける。

偽らざる本音、それこそテレジア本人にしか話せない事だった。


「ん〜私もよく分かんないんだよね。お兄ちゃんとヨルハちゃんがデートするってなった時モヤッとはしたんだけど...なんか思っていたより嫌悪感無いんだよね〜。

これも信頼?ってやつかな?私とヨルハちゃんの。」


テレジアは早口にそう告げてウチを椅子に座らせると自然とウチの髪を梳かし始めた。

あまりにも鮮やかな手つきにウチはされるがままだった。


「綺麗だよねヨルハちゃんの髪の毛。これで手入れしてないって言うんだからほんとにズルい。」


丁寧に、綺麗にウチの髪を束ねていく。髪を触られるのはあまり好きではなかったはずなのに(主に姉のせい)、テレジアに触られるのは嫌な感じはしなかった。

いい匂いがする!っとか言って匂いを嗅ぐのは止めて欲しいけどな...(笑)

その心地良さから油断していた。本当に何気なく、その言葉はウチの口からこぼれていった。


「妹が居たら、こんな感じなんだろうな。」


気が付いてばっと口を抑えた時にはもう遅かった。鏡の向こうに写るテレジアは再びジト目になりながら...その口には隠しきれない笑みが浮かべられていた。


「な〜〜〜にかな!?私を義妹(いもうと)にしたいってこと!?もうお兄ちゃんと結婚する気でいるんだ?へぇ〜〜〜〜〜!」


ニヤニヤしながらウチの頬を引っ張ったりぷにぷにするテレジアの顔にようやく引いていったはずの熱が再び帰ってくる。


けどそんなテレジアの顔を見てふと想像した、案外簡単に想像出来てしまった。


「ははっ。そうだな...将来ウチの隣にレギがいて、こうしてお前が髪を梳いてくれるのが一番の幸せかもな。」


自然と口からその言葉は告げられた。


そんな様子に...テレジアは独りその時間を止めていた。



朗らかに笑うヨルハちゃんの顔は凄く綺麗だった。それはもう、私が見惚れるくらいには。


中間試験で互いの気持ちをぶつけ合って以降

何度も何度も私とヨルハちゃんは戦ってきた。些細な勝負だったり時にはティア様立ち会いの元殺し合ったこともあった。まあ全部私が勝ってるんだけど...。

けど負ける度ヨルハちゃんは強くなっていった。全然諦めないの、まるでお兄ちゃんみたいに。


私自身驚いてる。


お兄ちゃんしかいなかった私の世界に

いつしかヨルハちゃんの場所ができつつあることに。


『うーん、ヨルハちゃんもお兄ちゃんも手放したくなくなってるな。ふふっ、私って強欲。』


思考の海からあがり時は動き出す。


「ふんっ!弱いお義姉ちゃんなんて認めませ〜ん! ほら、出来たよヨルハちゃん。」


普段身に付けてるシンプルなものではなく

自分の髪にも負けない赤い花を模した髪飾りをテレジアは丁寧に編み込んでいく。


「ありがとな、テレジア。」


その仕上がりっぷりにご満悦そうな表情を見せるのはヨルハ。

悩んだ末に入学式の時に来ていた和装を身に纏い鏡の前でくるりと回る。

ふと時計を見るともうすぐ待ち合わせの時間であった。


「いけね、じゃあ行ってくるぜ!」


慌ててその背に太刀を背負い出ていこうとすると最後に呼び止められる。


「こーら!これ忘れちゃダメでしょヨルハちゃん!」


振り返ったヨルハは優しく投げられたそれを受け取った。


「そうだったぜ...すっかり舞い上がっちまってたな。サンキュー!」


それを和装の中に仕舞いヨルハは出ていく。


「あっ!」


私は咄嗟に思い出し廊下に飛び出て声を張り上げる。


「お土産よろしくーーーーー!!!」


廊下を曲がる寸前だったヨルハはその大声に驚き肩を揺らしながらも手を上げ了解の意を伝える。


それを見届けて少女は笑う。


「よしっ!この隙に私は修行しちゃうもんね!

...ちょっと悔しいから私も今度デートしてもらうけど!」

2月のPVがまだまだ数は少ないけれど過去最高でした。これも偏に読んでくださる皆様のおかげです。ありがとうございます。

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