第七幕 決着
筆が乗りました
--妾は魔法と踊る。妾は魔法に愛されている。妾もまた魔法を愛しておる。魔法の美しさを知ったあの日から妾は魔法に"呪われている"。
彼女と出会うまで妾の生活はとても平和だった。
彼女はとても美しい魔導士だった。燃えるような赤髪と対をなす綺麗な氷の魔法を使っていた。
幼き妾は
「どうしたらお姉さんみたいな魔導士になれますか?」
侍女たちの静止も聴かず魔法を行使する彼女の前に立っていた。
「ほほう、可愛い姫じゃな。妾のような魔導士にか...
そうじゃのう、魔法を愛し、愛されることかの。さすれば妾のような美しく強い魔導士になれるであろう。」
そう答えながら幼き妾に氷の華を渡して彼女は去っていった。変な喋り方だとも思ったけど何故かかっこいいと思ってしまった。父と母に彼女の事を聴いたけれど規則で言えないのだそう。
「魔導士になればいつか教えてあげれる日が来るかもしれないわ。」
そう母は最後にそう言った。
その日から妾は魔法に取り憑かれしまった。魔法も口調も気づけば彼女真似をしていた。ありとあらゆる努力をした。無茶をして怪我をすることもあった。それでも彼女のようになりたくて妾は努力し続けた。
そんな妾をいつしか周りは天才だという。妾はその言葉が嫌いだ。特に同級生が妾を天才と呼ぶのがとても気に食わなかった。天才と言う言葉で片付けられるのが嫌いだった。妾は天才などではない。ただ貴様らより魔法を愛しているだけだと。
妾を理解してくれるのは姉上とカレンだけ。けれどある時姉上達から噂を耳にした。妾が入学する学院の同級生に妾と並ぶ魔法力の持ち主と妾と同じく15歳にして複合魔法を操る双子がいると。
妾はどこかで期待していたのだろう。もしかしたら妾と同じぐらい魔法が愛しているのではないか...と。
妹の方は良かった。もしかしたら妾を超える魔法力を持ってるかもしれないと感じた。明らかに馬鹿だが魔法の話をする時の瞳が美しかった。やつは素晴らしい魔導士になるだろう。
だが兄の方はダメだった。自分には才能が無いと達観していたからだ。やつのその達観した眼が気に食わなかった。
だがそれがどうだ。今のやつの眼は眩い光を放っておる。甘く見ておったわ、こやつにとって魔法は戦いの手段であり過程に過ぎないのだ。この魔法が全てとされる世界でこの男は先を見据えていた。
その事に気づいて妾は自然と "笑っていた"
「ふはははっ 貴様 良い眼になったではないか。貴様を侮ったこと、訂正してやろう。じゃがその上で妾が貴様を叩き潰してくれよう。」
たった今 限界を超えろ "あの"感覚を思い出せ
レギの雰囲気が少し変わる。リオナもまた笑みを消し身構える。
「こい。」そうリオナが呟いた瞬間にレギは一歩踏み出す。
「【風域】瞬天舜回【バースト】」
先程より比べ物にならないスピードでレギが空間を駆け回る。レギはイメージしたのださらに加速すべく、【ガスト】のリミットを解除するイメージを。そして作り出した風魔法【バースト】初速と終速の差を限りなく減らし一瞬の減速もなく連続移動を可能にした。そして隙を見てはリオナに攻撃を加えていく。
だがリオナもまたその超スピードに対し中等水感知魔法
【ミラージュベール】を発動する。
感知術式を施した霧を纏うことでレギの超スピードに反応し氷の盾を無詠唱でぶつけていく。
明らかに新入生のレベルを超えた攻防を観覧席のさらに上から見守る影が6人。
「お前の妹さっそくやらかしてるじゃねえか。入学早々私闘なんてお前以来だろ、なあシリウス。」
「やめろ、私も先程から頭痛が止まらないのだ。私以上にあいつは頭が固いからな何かやらかすとは思っていたが...。」
「だが強い。あれは魔法に愛されているな。」
「そしてもう一方、あれはなんだ?どうしたらあのように魔法が行使出来るのだ。どこか精神に異常をきたしているとしか思えないぞ。」
「たしかにな。人は本来限界以上の力を発揮できないように作られている。特にそれが命に直結するものならその数歩手前で身体が悲鳴をあげるはずだ。所謂死線というやつだな。」
「けれど彼は死の一歩手前で魔法を行使している。
まるで死ぬことを恐れていないように。死線を簡単に踏み越えて。」
上からアルザ、シリウス、ラグナ、ジーク、ラキウス、そしてアルフェニス。学院の誇る超越者たちである。
「だから私は彼を欲しがったのですよ。危ういが素晴らしい。是非私の元で育てたいとね。」
「異端者らしくお前は異端な才能が大好きだからなアルフェニス。魔法の才は無いが魔法を扱うセンスは桁外れだ。お前向きだろうよ。」
「異端者とは失礼ですね、ジーク。私は零れ落ちる才能を見過ごせないだけですよ。ふふふ。」
そうしてアルフェニスは再び戦いに目を向ける。
およそ初等魔導士に有るまじき速度で駆け巡るのはレギ。
このスピードを持ってしてもリオナの防御を破るに至らなかった。そこでレギは盾を壊す方向に思考をシフトする。
そしてレギは剣の鋒のみに風魔法を纏わせる。鋒を高速振動させることで威力を上げたのだ。そしてリオナの盾、その中心一点のみを攻撃し続ける。
「くっ 貴様ァ!」リオナの盾にヒビが入る。
それを見て観覧席からは大きな声が上がる。
「リオナ様の盾にヒビが!」
「そんなまさか末席が勝つなんてありえねえだろ?」
「おいおいほんとに勝っちまうんじゃねえか?なあテレジア?」
「...。」
「テレジア?」
少し様子がおかしいテレジアはヨルハとカレンから声をかけられる。
「ああごめんね。お兄ちゃんの戦いに見入っちゃって。」
「んでよ、お前はレギと姫サマどっちが勝つと思う?」
そう聞かれるとテレジアはどこか儚げな笑みを浮かべながら
「うーんお兄ちゃんじゃ勝てないよ。もうそろそろだから。」
「「何?」」ヨルハとカレンの声が重なる。
だがそれ以上の問答は別の生徒があげる声で遮られることになった。
「おい!リオナ様の盾が割れるぞ!」
誰かがそう言った次の瞬間にパリィィィンと気持ちのいい音と共にリオナの盾が砕け散る。
「どうなった!?」「霧が風で舞い上がってよく見えないわ!」
霧が晴れていきそこに立っていたのは。
平然とした表情のリオナだった。
そして地面に伏せるのはレギだった。
そう魔力切れだ。魔導士としては致命的なまでの魔法力よ少なさ、それこそがレギが末席たる所以。
「そこまで!勝者 リオナ・ノア・エルフィニア。」
ティアの宣言とともに観覧席から歓声が巻き起こる。
「流石リオナ様。傷一つない 完全勝利ですわ。」
「お前にはあれが完全勝利に見えるのか。能天気だな。」
生徒達の様々な感想が流れる中
「ね?言ったでしょ?そろそろだって。」
特に驚いた様子もないテレジアにカレンが声を掛ける。
「君にはこの展開が読めていたのか?」
「うん。お兄ちゃん魔力使いすぎてたし、それに攻撃も何回か外してたからね、身体も限界みたい。」
「外してた?お前にはあの速度の攻撃が見えてたってのか!?」
「そうだよ〜どちらかと言うとお兄ちゃんの太刀筋?が見えるんだよね。私、何度もお兄ちゃんと戦ってるから。」
「戦績を聞いても...?」少し躊躇しながらカレンが質問する。
「んーっとね 3年間負けてないよ。一度も。」
それを聞いてカレンとヨルハは絶句する。恐らく自分たちが戦っても負け越すであろうレギの実力をたった今目にしたはずだった。だがこの少女はそんなレギに3年間負けていないのだという。言葉の出ない二人をよそにテレジアは喋り始めた。
「お兄ちゃんは強いけど勝てないの。だから私が最も偉大な魔導士になってお兄ちゃんを英雄にしてあげるんだ。そうしたらお兄ちゃんの夢も私の夢も叶うからね。ふふふ。」
そう言い放ち妖しく笑うテレジアにカレンとヨルハは戦慄を覚えてしまう。
「これは秘密だからね。お兄ちゃんに話したらダメだよ?」
テレジアにそう言われ頷くしかない2人。
「ほら、お兄ちゃんたちの所に行かなきゃ!2人とも手伝って〜。」
さっきまでの妖しげなテレジアが嘘のようにいつものほんわか明るいテレジアがそこにいた。まるで幻を見たかのようなヨルハとカレンはただついて行くしかなかった。
意識を取り戻したレギは空を見ながら
「また 負けたな。」とぽつりと呟いた。
けれどレギの心はどこか晴れやかだった。
バトルパートは楽しいですね。ただ表現が難しいです。