第六十一幕 実技試験 part3
今週もギリギリ
会場が兄妹の魔法に驚きどよめく中
自分の心は波一つ立たない平穏に満ちていることを感じる。
あいつらならあれぐらいはやるだろう。
それが正直な心情だった。
出会ってから今日まで、学院の誰よりも兄妹を身近で見てきた。
そんな自分だからこそ2人が巻き起こす偉業にあまり驚かなかった。
代わりと言ってはなんだが
負けたくない。いや、負けられない炎が宿った。
手に入れたいものの為に。あいつの隣に立つ為に。
兄を手にする為に妹を超えなければならない。
なんでそう思うのかって?
なんでだろうな...まあウチもそこはちゃんと女だったってことさ。
テレジアを超えなきゃレギは手に入らない。
あいつと暮らしててそう感じたんだ。
女の勘ってやつだぜ。
だからまずは証明しなきゃならない。
怪物と同じ土俵に上がれるってことを。
そして正直からぶつかってやるってことをな。
身体が軽い。隅々まで魔力が行き渡り力が漲る。
魔法を見せられてさして驚きはしなかった。
だが気持ちは昂っていた。
あんなものを見せられて、滾らないわけが無いだろ。
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「ふふ、若いわね。好きな人の為に強くなる、昔の貴方にそっくりよギル。」
「.....。」
「沈黙は肯定と同じよ? きっとあの子も貴方みたいに強くなるわ。」
「わざわざ扉を開いてやったのだ、雑魚のままならば俺自ら摘み取るだけだ。」
「気紛れでも貴方が後輩の面倒を見るなんて私はそれが嬉しいのよ。」
ニーアは車椅子の上で自在に水晶を操作し試験を眺めながら呟く。
「金の雛鳥達、世界があなたたちを見てるわ。」
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「さて、No.100 ヨルハ・シチジョウ、ご覧の通り会場は大盛り上がりだ。誰も君を見ていない。けど君からは逆に並々ならぬ想いを感じる、覚悟を決めている、そんな顔だ。」
会場を取り巻く熱気とは裏腹に異質な雰囲気を纏う少女をエドワルドは注視する。
自信に満ち溢れながらもどこか危うさを感じさせるヨルハから目を離せなかった。
「へっ。エド先生、でいいのか?いいヒトだなあんた。あんたの読みは大体合ってる。その期待に応えてやろうとは思ってるぜ?」
祖国で他者から批判の目で見られ続けたウチは視線に敏感になってる。だからこそ、レギやエド先生の分け隔てない視線が嬉しく感じるのだ。
「楽しみだよ、君は試験2から先に行う希望だったね。見せてくれ、君の最高の魔法を。」
「おう。」
その瞬間そよ風が頬を撫でる。ふと観覧席に視線をやると1人と目が合う。
そのヒトはウチを見ていた。声を発するわけでもなく、手を振る訳でもない。
ただ優しく、そっと微笑んでウチを見ていた。それだけだ。
「はっ。最高だぜ。それだけでウチには十分だ。」
ふぅ.....。 深く深呼吸を挟む。
人生で最も濃くハードだった1ヶ月半が走馬灯のように駆け巡る。
『一度しか言わん。流れを意識しろ。お前の魔力は荒ぶる風と同じ。乱気流を制御する事など俺ぐらいにしか出来ん。だからまずは乗りこなせ、風の流れに身を任せ自らの身体を動かしてみせろ。』
1ヶ月半、稽古を付けてもらう中でたった1回。その1回だけ告げられた助言。
幾度身体を風の刃に切り裂かれながらもその言葉を反芻し続けた。まあ最初は全く理解出来なかったんだけどさ.....。
『ふふっ。ヨルハは頭が固いわね。落ち着いて?一旦あの馬鹿の言葉は忘れてもいいわ。
思い出してみなさい、貴女の愛しいヒトはなんて言ってた? 』
「自分を信じて、マナを信じて、思い描く。」
『そう、貴女のお師匠様は貴女をよく理解しているわ。信じなさい、彼を。ほら、私の魔法を貴女にあげる、使ってみなさい。』
バカなウチに優しく、厳しく教えてくれたニーア様。
独りだったはずのウチがいつの間にか色んなものを背負ってる。勝手にだけどな。
目を閉じて魔力の、マナの流れを感じる。
風を解き放て、ウチという頑固な器に閉じ込められて燻ってた子たちに自由な空を見せてやる。
"空を望み 空を舞いたいと 地より願う
反逆せし其は世界を拒み 自らを抱き とこしえの殻で眠る
されどその身に流るる風 自由を希う
愛しき黒の囁き 其は生誕の祝福
風鈴 鳴り響き 春芽吹く時
とこしえの蛹は 産声をあげる"
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凛としたその力強い声は演舞場に響き、空間を支配していた熱気をいつしか静寂へと変える。
続く詠唱、昂る魔力にある者は見蕩れ、ある者は声を失い、ある者は歓声をあげる。
No.100 その名が示す暗がりから放つ輝きはより明るく、より熱く、何よりも届く。
ある者はその姿に在りし日の頂点を重ねた。
「ニーア様...?」
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万感なる魔力をもって魔法を告げる。
天を射抜け 大いなる風
【風凛 胡蝶嵐】
深緑の輝きをもって空に放たれた魔法は美しく、確かな意志を宿していた。
一瞬の静寂の後 俺は誰よりも早く立ち上がり手を叩く。
誰より見てきた。それだけで無意識に拍手が出てきた。拍手は伝播する、会場からは歓声と賞賛の声があがる。
「やられたねレギ。まさかヨルハがこんなものを用意しているなんて思わなかったよ。」
「才能はあった。そして正しく導ける師に出会った。あいつは今羽化したんだよ。」
ヨルハの才能を見出した身としては嬉しさと悔しさが同居する。
.....いや、それは俺の傲慢だ。ヨルハに教え、俺も教えられていた。
そして俺はある結論に行き着く。
そうか、お前も選ばれたんだな。
おめでとう、ヨルハ。次は俺が追う番だ。
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「魔法の制御は荒い、拙い部分も多い。けどそれを置いといても素晴らしい。満点でいいだろう、かの"風華姫"の魔法を再び見える日が来ただけで十分だよ。」
「おい女、もっかい撃てるか?」
ギラついた目でヨルハを見据えるアラン。
どうやら高評価のようだね(笑)
「ダメだよアラン、続きをやりたければ君の手元に置いてからだ。」
「これを見た後に普通の魔法を見るのは面白味に欠けるけど頼むよヨルハ。」
「おっと、そいえばそうだったぜ。ウチも今ので満足しちまってたな、ありがとよエド先生。あ、ちなみにさっきのに集中しすぎてまだ火、水、風しか使えねーからそこんとこ頼むぜ。」
その言葉に目を見張ると同時に笑いが込み上げてくる。
試験2に全力を注ぐより試験1の残り3つを仕上げた方が配点は高くなる。そんな簡単な事実を無視しても彼女は己の限界に挑んだのだ。実に馬鹿だ。だけど面白い。
「49期生、面白いよ君達、最高だ。」
ヨルハは残り3属性の魔法を完璧に披露して見せた。
その瞬間興奮醒めやらぬ会場に颶風が飛来する。
大気を切り裂き、迫真のドヤ顔を決める男が1人。
ヨルハの肩に手を置きカノープスのマスター
ジークヴァルト・クローディアは高々と宣言する。
「見ものだったぜ!てめーらの顔はよぉ!
どうだ、驚いたろ?影から主役を奪っていく最高の劇場だ。まあお前らも分かってると思うがここにいるヨルハ・シチジョウはカノープスが頂いた。」
歓声、戸惑い、妬み、僻み
あらゆるものが混じった声が会場のあちこちであがる。
「はっ。そうだよなぁ、悔しいだろ?
許せないか?お前達が底辺と嘲笑った者たちの逆襲が。醜い感情を抱く者共よ、それでいい。反逆心こそ最もヒトを育てるものだ。
その地位に胡座をかくな、常に上を見続けろ。下を見るな、そこにある安らぎはお前を殺すぞ。這い上がれ、その先で俺たちは待つ。」
ドンっと聴こえるはずの無い音が聴こえた気がした。
それ程の熱が、その言葉には込められていた。
「言葉は悪いけどジークの言う通りよ。」
そんなジークヴァルトの前に学院長が現れた。
「これにて実技試験初日を終了します。
あなたたちには伝えておく事があります。
あなたたち49期生は歴代学院生徒達の中でも屈指の才能を持っている。それが私たちの評価。けれどその分、私たちからあなたたちへの期待度は高い。厳しい意見は期待の裏返し、賞賛はあなたたちの長所。全てを受け入れて、先に進むことを私は望むわ。
夜には初日の点数が発表されるわ。各自その点数、そして総評をよく読み込むこと。
後は明日、2日目に選択する試験を決めておくこと。
以上解散。」
学院長ティアの言葉に会場は今日一の盛り上がりを見せる。
だが試験を正しく理解している者達はティアの最後の言葉を噛み締め明日の試験に向けて深く集中するのだった。
次回バトル編




