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後に伝説となる英雄たち  作者: 航柊
第2章 学院生活編
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第五十四幕 中間試験part1

勢いで書きました。



「これより前期中間試験を始める!

試験期間は3日、初日が筆記、2日目、3日目が実技となる。3日目の最後に戦闘試験が用意されているので各自魔力の配分には気をつけるように。勿論それも込みの試験となります。」


始業の鐘が鳴り響くと同時に講堂にアドミラル先生の声が響き渡る。そう、今日は待ちに待った中間試験当日だ。つらつらと中間試験の説明がされていく中



俺の思考は別のものに埋め尽くされていた。


「...ギ君...レギ君?」


「ああ、すまない。なんだいエイル?」


「いえ...いつも真剣なレギ君が上の空だったから...体調悪いのかと思って...。」


「体調に問題は無いよ。ただ気になることがあってね。」


「ご、ごめんなさい...余計なお世話だったね...。」


「俺が集中してなかったのは事実だ。君が正しいよエイル、謝る必要は無い。」



そう、俺の心は囚われていた。1週間前の出来事に。

まあ俺は何も覚えていないのだが...。

ロザリィ、そしてルクスの放った言葉があの時からずっと頭の中を回っている。


「何を視た?」「どんな夢?」


全く身に覚えは無いのにその言葉が頭を巡るのだ。

俺が分かっていることといえば寝てる間に血の涙を流したって聞かされたぐらいだ。

ニアが泣きついてきたから本当のことなのだと思う。

おかげで結局3日どころか1週間も寝込んでしまった。


けれどそんな心情とは裏腹に身体は驚くほど軽い。エイルの目からはそうは見えなかったようだが。



「そう...なら安心だね...! 試験頑張ろ...!」


ホッとした表情のエイルにそう言われ俺は頷きを返し意識を切り替える。


心配されるほど表に出ていたとは俺もまだまだだな...。けどこうして心配してくれるというのは思いの外嬉しいものだった。

思えばこの1ヶ月で俺を取り巻く環境も多少の変化を見せていた。

この1ヶ月、可能な限り優等生を演じてきたつもりだ。まあ実技以外...という言葉が付きまとうことにはなるけども。

だがその甲斐あってか以前よりは話しかけてくれる生徒も増えたのだ。結果を出せば見る目は変わる、単純な話だ。


その中でもエイルとは特に話す機会が多い。かなりの人見知りらしいエイルは友達作りに失敗したらしく、はぐれ者同士仲良くやっていたという訳だ。けれどそんな彼女だがその頭の良さ、そして魔法への造詣の深さには心の底から驚かされた。

魔法知識に関して言えば俺たちの遥か上、それこそベティ先生と比べても遜色ないと思わせる程。何故入学試験で首席じゃなかったのか不思議なぐらいだ。


そんな彼女との魔法談義は非常に有意義で修行に明け暮れた日々の中において一息つける貴重な時間であったと言わざるを得なかった。



「君にしては珍しく集中力を欠いてるね。何を考えていたんだい?」


試験説明が終わり、教室移動のタイミングでシンが声を掛けてくる。


「些細な事さ...。もう切り替えてるよ。」


「君がそう言うならそういうことにしておくよ。何はともあれ筆記試験、僕は君に勝つ。」


シンは笑いその美しい青の瞳に真意の炎が宿す。

普段はクールだがその実とんでもない負けず嫌いなこの男は何かと勝負を仕掛けてくる。今のところの勝敗は5分といったところだ。


「受けて立つぞシン。俺はここで落とす訳にはいかないからな。」


俺もまた笑みを返す。雑念に囚われている場合ではない。筆記試験は落とす訳にはいかない。シンやエイル、そしてリオナやカレン、他の生徒たちにも負けるつもりは毛頭ない。


燃え上がる闘争心を、その熱さを保ったままそっと心の奥底に仕舞い込み俺は教室へと歩を進める。




そんなレギの姿を少し離れたところで見守る影が1つ。


『あはっ、お兄ちゃん気合入ってるねぇ。それに...当の本人も気がついてないけど今のお兄ちゃん多分人生で一番絶好調なんだよね。世界で一番お兄ちゃんを理解してる私しか分からないけどぉ...。」


思いを秘めるテレジアだがその顔には笑みが隠せていなかった。


「何をニヤニヤしておるのじゃ...。ほれ、移動するぞ。」


呆れた顔で隣に立つリオナに指摘される。


「おっと、隠せてなかった?なんでかってね!えへへ、お兄ちゃんが今日もかっこよくて〜!」


「理由など聞いておらん、呆れておるだけじゃ...。試験前だと言うのに貴様は全く。」


やれやれとリオナは頭を振る。今に始まったことではないが見慣れるにはまだリオナにとって違和感のある光景であった。

だが入学前のリオナなら感情のままに唾棄するような光景も今のリオナの目には違って見えるのだ。だからこそ...



「のうテレジア、何故貴様はそれ程の才能を持ちながら...無才な兄に固執するのじゃ。」



不意に出てしまった問いだった。言うべきでは無かったものではある。けれどいつかは問わなければならないものだった、それが今だっただけの話だ。


そんなリオナの問いかけに当の本人、テレジアは神妙な面持ちをする。


「う〜ん...多分今のリオナちゃんには言っても分かんないかな。」


「なんじゃと?」


それは予期していなかった答えだった。思わず聞き返してしまうリオナ。


「だって、リオナちゃんって"恋"した事ないでしょ?ん〜違うな...恋がなんなのか分かってないでしょ?そんなお子ちゃまなリオナちゃんには私の気持ちは分からないかなぁ〜。」


「なっ!?」


自分でも驚く程の声が出たのだろう、思わず口を塞ぐリオナ。

だがそんな王女の珍しい大きな声に周りの生徒達がざわめく。


「あはっ、そんな大きな声出しちゃって〜さては図星だったでしょ?」


テレジアはここぞとばかりにニヤニヤとヒトの悪い笑みを浮かべながらリオナに詰め寄る。




顔が熱くなるのを感じる。全く憎たらしい顔をしおって...いっそ氷漬けにしてやろうか?


はぁ...ダメじゃ。それでは今までと何も変わらぬ。熱を帯びた頭を理性の冷気で冷やし再び思考を巡らすが答えは出ない、何も浮かばぬ...。


だからだろうか、すんなりと妾は口を開き愚痴とも、嘆願とも言える問いかけを零した。

周りに耳を傾ける他の生徒達の姿すらも目に入らずに。


「確かに妾は恋を知らぬ...。そもそも恋とはなんなのじゃ、妾には愛と恋の違いが分からぬ。姉上やカレンには親愛を、業腹ではあるが貴様やシンには友愛を捧げているつもりじゃ。だがそれとは違うのであろう?

誰かが別の誰かに恋慕を寄せる、文面では簡単な事じゃ。傍から見るのもな、先程の貴様の様に...。意味は分かる、けれど理解が出来ぬ。簡単な事だと言われても、妾には何よりも難しいのじゃ...。」


溢れ出る言葉を止めることが出来なかった。

リオナの零す弱音ともいえる言葉にテレジアも、リオナを呼びに来たカレンもそして周りで聞き耳をたてていた生徒達も目を丸くする。




誰もが言葉に詰まる。まあみんなもどう答えれば良いか分からないだけなのだが...。ここにいる者たちは皆15歳の少年少女なのだ、愛とか恋とか言われてもまだピンと来ない者が大半だろう。


だがその中にあって1人、テレジアは口を開く。先程までの笑みを消した、真剣な表情で。


「そんな事ないよ。リオナちゃんはもう恋に出会ってる。それに気がついてないだけ。カレンちゃんなら見当着くでしょ?」


宥めるように優しくテレジアは告げる。

そしてその問いにカレンは頷きをもって返す。


「そうだな...テレジアの言わんとしてることは分かる。これは誰かが指摘しても意味は無いだろう、お前が自分自身と向き合って答えを出せ。」



その言葉に思わぬ衝撃を受けてしまった。動揺を表に出さないように必死に取り繕ってみせる。


妾が既に恋と出会っておるじゃと...?


2人とも何を言っておるのじゃ?


己の中で何度問い問答を繰り返しても答えは出てこない。


だがきっかけは予期せぬ所から歩いてきた。

リオナ達の話に聞き耳をたてていた生徒の1人、少女が一歩リオナに歩み寄る。




顔をトマトの様に真っ赤にした少女は意を決してその秘めた想いを告げた。


「わ、私は!リ、リオナ様に恋をしております!!!その麗しいお姿を目にした時から、美しい魔法を放つ貴女様を見てから、私の心はリオナ様に囚われています。

理屈では無いのです!考えても無駄です!この心の声の赴くまま、愛するものを、憧れるものを思い浮かべた時、私はリオナ様が真っ先に思い浮かぶのです。こ、これが私の思う恋なのだと私は思います。」



少女の堂々とした公然告白に世界の時は静止する。...がそれも一瞬、たった1人を除いて次の瞬間には騒然が訪れる。


「ちょっと!何どさくさに紛れて告白してんのよ!」


「そうよ!抜け駆けは許さないわよ?私だってリオナ様の事をお慕いしているんだから!」


「お?なんだなんだ?好きなヒトの暴露大会か!?俺の敬愛する方はそりゃラグナ様に決まってるぜ!」


「おっと、姉上はあまりオススメしないよ...厳しいヒトだからね...。」



いつの間にかシンもその輪に加わっていた。

意外にもこういう悪ノリに乗る男なのだ。


「全くあいつらは...何やってんだ...。」


騒ぎを耳にして振り返ってみればリオナ、テレジアを中心にヒトだかりが出来ていた。


「そうよねぇ...ホントにあの子たちは試験前っていうのに何してるのかしら...。けど私、こういう青春っぽいの大好きなのよねぇ。」


気がつけば俺の肩に肘を持たれかける俺たちの教師兼師匠、エリザベート先生の姿があった。


「いやいや、先生は止める側でしょうに...。」


「ダメよレギ。こんな面白いこと止める訳ないでしょ?まあ試験は多少遅れても問題無いわ、それにレギも興味無いわけじゃないでしょうに。」


無茶苦茶な教師だと思いながら視線を上げると遠くでアドミラル先生と目が合う。にっこりとしてはいるが目が笑っていなかった...あれはマズイと俺のありもしない第六感が囁いている.....。だが俺は現実から目を背けることにした。目の前にいるベティ先生が悪いと、己に言い聞かせて。


一方輪の中心では_____


「あは!あははははっ笑 あ〜お腹痛い...w

あーいや、ダメだね笑っちゃ。真剣な告白だもんね!愛されてるね〜リオナちゃん!」


「ヒトの告白 というものを初めて目にするがこれは...凄いな、なんというか私まで顔が赤くなりそうだ。これを告げるのは相当な勇気が必要だろうに。」


「ほーら!リオナちゃん!フリーズしてないで何か言ってあげないと!」


その言葉に唯一静止した世界に取り残されていたリオナの時は動き出す。



思いもよらぬ少女の告白だった。かつての妾ならば不快なものと一蹴していたか歯牙にもかけないものだっただろう。

だが不思議なことに妾自身も驚くほどすんなりとその告白を受け入れることが出来た。

まあ驚き過ぎて先程まで固まっていたのじゃが...。


「失礼だとも非常識だとも理解しておる。

そ、そなたの名を教えてくれぬか?」


本当に珍しく緊張した様子のリオナの言葉にカレンは吹き出しそうになってしまう。

そして問われた生徒もまた堪えきれないといった様子で笑い出す。


「ふふふっ、リオナ様らしいですね...! 失礼なんてとんでもない、そんなリオナ様に私たちは憧れたのですから。私の名前はライリです。記憶の片隅にでも置いといてもらえれば幸いですわ。」


ライリは優雅にお辞儀をしてみせる。その顔は相変わらず赤かった事はこの際置いておこうと思う。


「そうか、礼を言うぞライリ。そなたのおかげで妾は壁を1つ超えることが出来た。

こ、告白の返答は良い返事は出来ぬかもしれぬが...。」


そう告げ妾は自然とライリをそっと抱き締めていた。抱きしめるは過言かもしれぬ、軽いハグじゃな。


軽い礼のつもりの行為だったのじゃがまさかあんな事になるとはのう...。



抱き締められたライリは本当の意味でフリーズ、意識を失ってしまった...だがその表情は何よりも幸せそうであったとされている。

しかも周りで見ていた生徒たちからは黄色い声援元い悲鳴が飛び交い収拾がつかなくなっていた。


「うわぁリオナちゃんあざと〜い。

これはお兄ちゃんに負けず劣らずの鈍感系主人公な予感が.....。」


「リ、リオナからのハグなど私ですらしてもらったこと無いのに.......羨ましい(小声)」


テレジアはニヤつく顔を止めることが出来ず一方のカレンは何故かショックを受けている。




「あーやだやだ甘酸っぱいったらありゃしないわぁ。甘過ぎて胃がムカついてきたわよ...。けどまあそれでいいのよ、15歳のガキ共なんてね。」


「それには概ね同意しますが流石にこの状況は見過ごせませんよエリザベート先生。試験前というのに羽目を外しすぎです。」


「あら、そう言うアドミラル先生も見て見ぬふりをしていたじゃない、貴方も同罪だと思うけど?」


いつの間にかアドミラル先生もベティ先生と並んでいた。互いに憎まれ口を叩き合いながらも巻き起こる騒動を何処か満足気に見ている。


「まあそう言わずにエリザベート先生、ですが負傷者が出るのはいただけませんね。

"静まりなさい"【カーム】」



騒動の中心にあってその者の心は穏やかであった。


それを見抜くのはマナを視る者、永久なる忠誠を誓った者、そしてその者に遥かなる憧憬を抱く者。



簡単な事だったのだ。答えさえ知ってしまえば馬鹿にされていたのも納得がいくというもの。そんなことも分からなかった妾などさぞ道化に映ったであろうな。



妾は魔法に恋しておるのじゃ。認めるしかあるまい。



今まで散々魔法を愛しておるとか言ってた癖に?そうじゃ、言っておったわ!だがそれが恋であるなどと微塵も思っていなかったのじゃ!笑いたければ笑うがよい、腹立たしい事ではあるが妾が馬鹿であったわ。


魔法を愛し、全てを投げうち、振り回されてテレジアを愛する魔法に嫉妬し、それでも想い続けた、その想いを捨てることは出来なかった。 なるほどのう、これが恋か。


ライリには感謝せねばならぬな。

恋とは無縁だと思っておった妾が何よりも身近におったと思うと笑えてくるのう...。


だがしっくりくる、自分でも驚く程な。

思考がクリアになり見落としていたものが見えるようになる。


他から見ればほんの些細な事かもしれない。

けれどリオナにとっては絶大だった。欠けていた歯車が戻るように、少女の心と身体のズレが修復された。



不思議な感覚じゃ。力が溢れてくるような。

魔力が身体を走り抜ける、今なら少しだけ感じるのじゃ、マナ達の歓喜を。


瞬間高まる魔力は弾ける、白銀の閃光となって。





「そうだ、その身に宿す衝動の意味を知れ。

まあその対象がヒトでは無いことが姉としてはいただけないところだが...恋人のいない私が言ったところで意味は無いか...。その辺はテレジアにでも任せるとしよう。中間試験、結果が楽しみだ。」


「それにしても君は少々過保護気味だとおもうのだがね、シリウス。」


「盗み聞き、覗き、そろそろ殺すぞアルフェニス。.......昔の私は自らを高めるために妹を蔑ろにし過ぎた、その償いをしているだけだ。だがそれももう必要無いだろう。それにその問いをそのまま貴様に返そう。貴様こそ執着が過ぎるぞアルフェニス。」


「ああそうだとも、否定はしないさ。けど私は見守るだけだ。あの子は全てを巻き込んで勝手に成長していくよ、無論君の妹すらね。3日目は共に審査側だ、楽しみに待とうじゃないか。」


2人はそれ以上の言葉を交わすことなく迸る閃光に目を向けるのだった。


愛とか恋とか めっちゃ聴いてます。


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