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後に伝説となる英雄たち  作者: 航柊
第2章 学院生活編
56/123

第五十三幕 夢

久々投稿です

誤字等あったらすみません。

魔法を放ち 敵を討つ

敵を討ち 魔法を放つ


見慣れた光景 慣れた日常


ヒトも魔物も無差別に殺し続ける


敵を討つ為だけに最適化された魔法を放つ


何度も 何度も 何度も


胃の中を全て吐き出し 魔力不足で手が痺れる


そんなこともあったなと考えながら敵を殺す


この身を汚す血がヒトのものか、魔物のものか、或いは己のものか


もうそれすらも分からない


この眼に映る全てが色褪せて見える


けどそれがどうした


俺はここを守る もう誰も死なせない


その為なら全てを殺し尽くしてみせよう


どれだけ屍を重ねようとも

あらゆる死が 視界を染めあげようとも


ああ 今日も世界は残酷で美しい


______________


目が覚める。ああ、見慣れた天井だ。


「あら、起きたのね。いつもの時間に来ないから見に来たわ。うなされてけど大丈夫なの?」


美しい羽根をぱたぱたと羽ばたかせるのは新しい師匠の一人ロザリィだった。


もうそんな時間か...。やはり身体が疲れていたのだろうかすっかりいつもの起床時間を大幅に寝過ごしてしまったようだった。

身体を起こすがそれ以上動かせない、そして何故か声も出せなかった。


「ん〜まだぼーっとしてるわね。まあいいわ、ノーチェを呼んでくるから待ってなさいな。」


そう言い残し部屋を出ようとするロザリィ。

それを見送ろうとした時、視界がブレた。


夢の景色が世界と重なる。世界が混ざり合う。


いや....あれが.....夢?いや、夢だ。だって俺は今起きて...え?いやでも...


今もこの手には魔法を放ち、敵を殺す感触がハッキリとこびりついている。そして触れる血の冷たさも、匂いも、全てが俺にまとわりついて.....あれが現実であったと訴えかけてくる。


刹那の思考、そして次の瞬間何かが割れたような気がした。


ズキリと


右眼をハンマーで殴られたような鈍痛が襲う。余りの痛みに動かないはずの身体が痙攣しベッドが軋む。


「ちょっとあんた大丈夫!?」


その音に部屋から出ていく寸前だったロザリィが駆けつけ、痛む右眼からはルクスが飛び出す。


そして視界が赤く滲む。


歪んだ視界の中で覗き込むルクスの瞳と目が合った気がした。

痛みで思考がまとまらない。




少しばかりの沈黙の後に悟るように問いかけるようにルクスは口を開く。


「レギ...キミは何を視たんだい。」


ツーっと雫が頬を伝いシーツに染みを作る。

真っ赤な染みを。俺は血の涙を流していた。


瞬間パッと視界が遮られた。ひんやりとしたような、仄かな温かみを持つようなヒトの手ではないもの。ロザリィが掌で俺の右眼を覆っていた。


その掌から淡い光が発せられ痛みが和らいでいく。残された左眼の視界に映るロザリィの姿はとても神秘的に見えた。



「...ねぇレギ。どんな"夢"か覚えてる?」




パキンと再び何かが割れる。




その瞬間次は激しい頭痛に襲われる。けれど今回は思考を止めることが出来なかった。ぐるぐるとロザリィ、そしてルクスが言った一言が頭を巡るのだ。


何を見たかってそれは...あれ、何だ...?俺は.....夢で何を見た?何をした? 待て、あれは夢じゃ...


いや、違う。あれは俺じゃない。いや...?え? 俺の夢で...けどあれは俺じゃなくて...

けどこの手に残る感触は現実で.....


自分でも何を言っているのか分からなくなってきた。見えない闇に向かって問いかけ続ける。


.....無限の問い問答の末に意識は溶けゆく。混濁する。

だがそんな闇の中を一筋の閃光が駆け抜ける。そしてプツリと再び俺の意識は闇へと落ちた。


光を放ちレギに触れていた手を離すのはロザリィ。




「レギは大丈夫なのかい?まあボクが現界出来てる時点で実はあまり心配はしてないけれど。」


「意識を無理やり失わせたわ.....まあ大丈夫よ。」


少しばかりの間をおいて寝息をたて始めたレギの頭を撫でながらロザリィは思考を巡らせる。


『やっぱりこの子もそうなのね。』


心の奥底で呟かれるロザリィの一言は誰にも聞こえることは無い。


そして思考を巡らせるのはルクスもまた同じだった。


『もし仮説があってるなら...。いや、希望的観測はやめよう。今回ばかりは失敗する訳にはいかないからね、確実にいこうじゃないか。』


「ロザリィ。キミは"夢"と言ったね。何を知っているか聞いてもいいかな?」


ルクスがそう告げた瞬間ロザリィは明後日の方向を向く。だが沈黙とルクスの視線に耐えれなくなり渋々口を開く。


「あちゃ〜、やっぱり聞かれてたし覚えてたわね。まあ当然と言えば当然だしあたしが悪いか.....。」


ほんの少しの躊躇いの後ロザリィは再び口を開く。


「んー、これはオフレコよ?他言無用ね。」




だがいざ語り始めるというところで話は遮られることになった、予期したかのように扉が開かれたからだ。


「その話、私達も交ぜてもらえるかい?」


「げっ!?」


涼しい顔で現れたのはノーチェを付き従えたギルドマスター、アルフェニス・ジェラキールだった。その手にお茶と茶菓子を携えて。


「げ!?じゃないわよ。レギ君のバイタルに異常があれば見に来るに決まってるじゃない。まあマスターに関してはどうせ覗き見か盗み聞きしていたんでしょうけど...。」


「まさか。むしのしらせが働いただけさ。」


飄々と告げるアルフェニスだがお茶と茶菓子を持っている時点で説得力の欠片も無い。


「短い話ではないだろう?幸いレギ君はもうすやすやだしね。ゆっくり聞かせてもらうとしようじゃないか。」


パチンとアルフェニスが指を鳴らせばどこからともなくソファーと机が現れる。


「はぁ.....ほんとにもう。これだからあんたは好きになれないのよね。これじゃシリウスも苦労する訳だわ。」


文句を言いながらもちゃっかりソファーに座り茶菓子に手を付けるロザリィ。


「キミ、こちら側で食べれるのか...。つくづく規格外だね。」


平然と食べるロザリィに目を丸くするルクス。レギが目を覚ましていたらその様子に笑いが止まらなかっただろう。

長い年月を生きるルクスは驚きという感情に久しい。だからこそ驚きを見せるルクスというのは珍しいのだ。そしてルクスもまたその驚いという感情を噛み締める。


「ホントに学院(ここ)にいると退屈しないよ。」


そう告げ新たな驚きを得るためにロザリィの横に腰掛ける。腰掛けると言うよりは乗ると言った方が正しいだろうか。


そしてその横でロザリィがグイッと注がれたお茶を飲み干す。


「すっごく話したくないけどまあもう言い逃れ出来ないし...ホントに黙ってなさいよ?うっかり喋ったらティナけしかけるからね!」


「遠くでティナが首を傾げているのが目に浮かぶわね...。」


ノーチェの呆れ声を皮切りにロザリィは語り始める。





「まずは前提知識から話すわ。死精(バン・シー)、いやルクス。あたしと同じ永き時を生きる貴方なら知っているでしょ。ヒトは誰しも根幹となるマナを宿す。時と共に回復する魔法力の元となるマナなどとは違う、命と結びついたマナを。

その根幹となるマナ達は巡る。そして昔からずっと、ずっとその根幹たるマナ達の総量は変わらない。宿主が死ねばマナは輪廻へと還り再び巡って新しい命となる。」


「.....そうだね。それはヒトたちが眉唾と笑う類の噂や伝承に過ぎない。だがヒトの生と死を眺め続けることの出来るボクたち特別な精霊はそれが真実であると、悠久の時の末に理解する。」


「そう、私たちだけが知り得る世界の秘密の一つ。けれどそれは事実であって真実では無い。誰しもがそれを知ることの出来る権利を持っているの。

ねえノーチェ、アルフェニス、こんな覚えはない?見たことないはずの景色に見覚えや懐かしさを感じたり、初めて使うはずの魔法が妙に手に馴染んだりしたことは。」


「無い...とは言えないわね。あまりハッキリと覚えてはいないけれど。」


「私は身に覚えがあるよ。初めて目にした隣国の景色をまるで生まれ故郷のように感じたのを今でも鮮明に覚えている。いや、今ロザリィの話を聞いて思い出したと言うべきかな。けど不思議なことに忘れていた割には随分と鮮明だね。」


「アルフェニスは結構変人だしやっぱそうね。分かりやすくて助かるわ...笑

あんた達のそれはマナに宿った記憶の断片を拾い上げてるの。」


ロザリィは疲れたわと小声で言いパタパタと飛び始める。


「興味深い話だね。マナがヒトの記憶を宿すと言うのかい?」


そのアルフェニスの問いに ロザリィは羽根を止める。そして少しだけ雰囲気を変える。妖精女王たるその本性が顔を覗かせた。


「違うわアルフェニス。マナ達はそんなこと想定していなかった、強い想いや願いを持ったヒトの記憶がマナに刻まれたの。全てを漂白され巡るはずのマナに残り続ける程に強く刻まれた記憶は新たな宿主に引き継がれる。ヒトはマナすら予期してない奇跡を起こしたのよ。」


「なるほどね。私達は無意識のうちにマナの輪廻を体験しているというわけだ。私の中にも先人たちの記憶が刻まれてると思うと是非とも拝見したいところだね。」


アルフェニスは久々に気分が高揚するのを感じていた。人並外れた好奇心が刺激されているのを。追求したい、もっと知りたい。


けれどその好奇心を理性で無理やり抑える。何より大切な宝、レギが最優先だからだ。

だが続くロザリィの言葉で押さえつけられていた好奇心は霧散するとことなる。


「残念だけどそれは無理ね。マナが宿す記憶は決してこちらから覗くことは出来ないわ。そしてここまでが前提知識ね、本題はここからよ。」


心無しかしょんぼりするアルフェニスをスルーしてロザリィは続ける。ノーチェとルクスはただ黙って話を聴いている。その胸中に何を抱いているかを明かすことなく。


「理屈は分からないけどね、マナ達はその刻まれた記憶を宿主に夢で見せることがある。マナが宿す記憶の追体験、あたし達はそれを【刻夢(レム)】と呼んでいるわ。レギの症状はまさに【刻夢】による副作用と一致してる、まず間違いないわね。」


ロザリィの話を聴いてノーチェが久々に口を開く。


「待ちなさいロザリィ、ただの夢を見ただけ?そんな訳無いでしょ。レギ君のバイタルの異常は軽いものでは無かったわ。その話にわかには信じられないのだけれど。」


「それがただの夢ならね。言ったでしょ、記憶の追体験って。ヒトの記憶は喜びや快楽より恐怖の方が残りやすい。それに知ってる?ヒトが見る夢の殆どは悪夢なの。マナに刻み込まれるほどの悪夢の如き記憶がどんなものなのか、何も知らないあたし達じゃ計り知れないわ。」


「ありがとうロザリィ。キミのおかげでボクが抱いていた疑問の一つが解決したよ。あと質問をしてもいいかな?」


ここまで沈黙を保っていたルクスが口を開く。


「ひねくれた質問じゃなければいいわよ。」


「レギと契約して1ヶ月、ボクは今日ほど酷くは無いけれど何度かうなされて目覚めに混濁するレギを見てきた。けど次に目覚めた時は夢の内容を全く覚えていなかった、レギの中で深く探ったけど一切覚えていなかったんだ。何か理由があるのかい?」


「詳しい事はまだあたし達も分かっていない...けど今のところ夢の内容を覚えてる子は確認できていないわ。うちのレビィですら知ることは不可能だった。寧ろ覚えている子がいるなら話を聞きたいくらい。

ここからはレビィと導き出した仮説よ。【刻夢】は記憶には残らない、けれど身体はそれを経験といつ形で覚えているの。肉体という器に傷として刻み込まれる事でね。本人が気が付かない内に少しずつそのヒトの器が変わっていく。これが【刻夢】の副作用。これがあたし達の結論。」


「ふむ、"眠り姫"で無理なら恐らく世界の誰でも不可能だろうね。今以上の答えは期待できないよルクス。」


「.....分かったよアルフェニス。答えてくれて感謝するよロザリィ。」


「最後に私から質問をするよ。ロザリィ、君の口ぶりだと【刻夢】を見ているのは他にもいるのだろう?あとそれを見ることで悪影響はあるのかい?」


アルフェニスは片目を閉じながら核心を突く。


「.....いる、とだけ答えておくわ。あなたなら既に目星は付いてるでしょ?

人によって見る夢が違うだろうからなんとも言えない...としか言えないわ。良い影響にも悪影響にもどっちにも転びうるのよ。」


「ふふ、どうだろうね。ありがとうロザリィ。」


両目を閉じ答えをはぐらかすアルフェニス


「やっぱりあたしあんたのこと嫌いだわ。

けどまあいいわ、レギが起きるまではここに居るから。聞きたいこともあるしね。」


ロザリィはそれだけ言うと黙って寝息を立てるレギの横に腰掛ける。子を見守る親のように。


「私も残ります。マスターは最近サボった分のお仕事が溜まっていますのでどうぞ執務室へお帰りください。」


「こうして話を聴けただけでも上々だ。ああ、安心していいよロザリィ。今日の事は誰にも話さない、我がギルドの名に誓うよ。」


アルフェニスは颯爽と消え去る。


「この話を聞いても心に波風一つ立たないなんてどこまで想定内なのか怖いわほんと。」


「マスターの思考なんで誰にも読めないわ、考えるだけ無駄よ。」


「それもそうね。あんたも苦労してるわね...。」





『ねぇ!なんか起きたらレギが倒れてるんですけど!』


今更目覚めたニアが騒ぎ立てる。


『へぇ、倒れたっていうのを認識できているんだねニアは。まあ大丈夫だよ。キミに出来ることは無いさ。』


『む!何よその言い方!まるで私が使えない子みたいじゃないのよ!』


『キミは使えない子ぐらいでちょうどいいのさ。キミのその明るさにレギは救われているからね。』


『何よそれ!もう...レギが倒れてるせいよ、早く起きなさいよ...。』






『ねぇレギ、あんたならティナを救える?

もしかしたらってあたし、思っているのよ?』


ロザリィはレギの目元に溜まった血の涙を拭い、その手を汚す血を落とすことなくただ寝顔を眺める。


『.....何事も無く目が覚めるのでしょうね。【刻夢】はずっとそう。周りに不安だけを残して本人は何も知らないままに少しずつ器を侵食されていく。』


妖精女王が胸に抱く思い。それをヒトが理解する日が来るのか、誰もその答えを知らない。




始業のチャイムが鳴り響く。



「またレギは欠席? なになに修行しすぎてぶっ倒れたねぇ、ホント仕方ないわね。

まあいいわ、中間試験は1週間後その間は自習にするわ!他人の心配して暇なんてないわよ?己の限界と向き合いなさいひよっこ共。迷いや悩みが見つかったら質問に来なさい。容赦なく指摘してあげるわぁ。」


「試験は1週間後。君たちが1ヶ月間学んできた事を発揮してください。たかが1ヶ月、されど1ヶ月です。入学してから自らがどれほど成長できたのか、あるいは伸び悩んでいるのか、この先進む指標を考える上で良い判断材料になることでしょう。試験までの1週間は自習です。質問があれば私の部屋へ来てください。期待していますよ。」


魔導学それぞれの教室でエリザベート、アドミラル両名が発破をかける。


その言葉に生徒たちは顔付きを変える。


『へへーん!入学試験じゃ負けちゃったけど今回は負けないよ!リオナちゃん!』


『ぬかせ、貴様今のままでは筆記の時点で勝負にならんじゃろうが。対等で戦うためにもそうじゃのう...妾が勉学を叩き込んでやろう。元より貴様がけしかけてきた勝負じゃ、拒否は許さぬぞ。』


『へ!?リ、リオナちゃん、なんか怖いんだけど...普通に嫌なんだけど...。」


『はぁ...諦めろテレジア、そうなったらもう聞かん。大人しく捕まるしかないぞ。』


『ええ!?酷いよ〜助けてよカレンちゃん〜!』


生徒共通の念話で繰り広げられる49期生が誇る才女達の会話に他の生徒たちは悔しさを感じる者、羨望の眼を向ける者など様々だった。


生徒それぞれの思いを孕んだ中間試験がいよいよ始まろうとしていた。

毎週更新頑張ります

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