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後に伝説となる英雄たち  作者: 航柊
第2章 学院生活編
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第五十幕 中間試験

お久しぶりです。えーモンハンにハマっておりました。



______ ギルド ディアボロス 魔法演習場


「____以上がエヴァたちの元で課せられた修行です。」


「なるほどな。ふむ...。状況は理解した。まあいい。」


俺は師匠(アシュレイ)の精霊、蝶に化身化したノートの背に乗せられてギルドへと帰還した。まだ日も登らぬその道中で魔導騎士団であったことを説明させられていたのだ。


「奴等の言っていることは正しいものだ。まあそれでも私なら貴様の剣を曲げさせる気は無かったがな。」


アシュレイは笑いながらそう言う。


初めて見た師の笑顔...(とは言っても朗らかとは程遠いものではあった)に驚きながらも俺は神妙な顔で告げる。


「.....俺は今でも師匠の教えが一番です。師匠が望むなら騎士団での修行は辞めますが?」


「まあいいと言ったはずだ。今の貴様では私との修行でいずれ器が限界を迎えるだろう。

今のお前を見れば明白だ。

地に足を付けろ。マクスウェルの娘を倒し、部隊長共を踏破して来い。その時は私の全てをお前に授けよう。」


チクリと俺の心を射抜く。

た...確かに?師匠(アシュレイ)達との修行は正直レベルが違っていたけども...。


いや、実際そうだ。俺は弱い。どんな強者にも立ち向かう覚悟はあるつもりだ。

けどそれだけでは意味は無い。

力無き者が持つ覚悟と勇気、それこそが無謀と呼ばれるものなのだ。


覚悟と力は両方揃って初めて真価を発揮する。


「技や駆け引きは戦ううちに勝手に磨かれていくだろう。困ったらデュナミスに聞くといい。あいつと貴様の剣技は起源を同じくするものだろう。」


「デュナミス様と?」


「頭の隅に止めておくぐらいでいい。どうせ貴様如きに時間を取れる程あいつは暇ではないからな。」


「分かりました。それで...ギルドにいる4日は何をするのですか?俺としては師匠に教えを乞いたいですが...。」


エヴァを師と認めても、騎士団の皆からどれだけ稽古を付けてもらおうとも、俺はアシュレイ・ブラックを誰より尊敬している。まだ短い付き合いであるがこの剣士は誰より気高くその剣に宿る意思はなにより誇り高い。

例え剣を交えずともその背から学ぶことはいくらでもあるのだ。


「貴様の手綱を手放すつもりは無い。貴様は正しく我らの後継者だ、マスターの見初めたな。2日は座学、そして残りの2日で器を鍛える。覚悟しろ、怠惰には鞭を、弱音には懲罰を与える。」


ブルりと寒気が全身を走る。

騎士団が喧騒が響く灼熱の地獄と言うならばこちらは予断を許さない極寒の地獄になるかもしれない。


だがやる。俺にはそれが必要だから。

シンに、カレンに、.....リオナに。

そして頂点たる妹に追いつくために。


「覚悟だけは出来てます。全てを焚べて俺は俺を作り上げる。」


身体に力が入る。覚悟を言葉にしたからには必ず成し遂げなければならない。


『口だけは立派だけどボクには内心震えているように見えるけどね(笑)』


『ダメよルクス!そこは言ってあげないのが優しさってものじゃない!』


だが俺の心を見透かす二人の相棒達が心内(こころうち)で騒ぐのが聞こえてくる。


表に出さないようにしていたのにわざわざ口に出さないで欲しいホントに...。

そりゃ怖いよ。痛みには慣れた。けど慣れただけで痛いもんは痛い。辛いものは辛い。

怖いもんは怖い。だって俺は凡人だから。

けどしょうがない。(ばけもの)の横に立つには我慢して虚勢を張るしかない。


けどまあいい。この二人には虚勢を張る必要は無いのだから。ルクスとニアぐらいにはありのままの俺を見ていて欲しい。


身に余る願望だとも、手を伸ばせばこの身を焦がすかもしれない想いだとしても俺は憧れてしまった。英雄に、かの剣の女神に。この憧憬(おもい)は止められない。止まらない。まだ届かぬこの身なれど、贋作の英雄、理想の自分。それを装うのだ。才能に贖う凡人を演じ、無き才能を隠すために剣を振るう。無力を知慧で補い、臆病は無謀によって勇気へと偽る。


ツギハギだらけで無理やり繋ぎ止められている俺。


けれどそれも本当の俺、弱い...僕も本当の自分。


二人にはそんな俺を優しく見守ってもらうとしよう。

二人は触れない。俺が隠している"僕"には。

知った上で、理解した上で俺を選んでくれた。確認したことは無い、するつもりもない。けれど確信はある。二人は俺(僕)を知っている事を。




そう宣言した途端演習場のドアがばっかーんと開け放たれる。ていうか壊れた。

当然と言わんばかりに入ってきたのはピンクの髪に緋色の瞳を輝かせる少女と優男だった。


「はっ!よく言ったぞレギ!さっすが我の後輩だな!器は我が鍛えてやろう!だが痛いぞ〜?お前に耐えられるか〜?それとお前シズクと()ったらしいな!あいつは強かっただろ〜、なんせ私の喧嘩相手だからな。」


「またドアを壊しやがってこいつは...いや、いつも通りだな。まあなんだ、アシュレイの言う通りだ。次からはお前が壊れない程度に優しく教えてやるよ。辛くなったらノーチェの元に駆け込むといい。1、2時間ぐらいなら匿ってくれるはずだ。」


わっはっはと笑うメルヴィ、そしてその後ろから面倒くさそうではあるが唯一優しさの光を宿すシェイド、二人の偉大な先達たちが部屋に入ってくる。

それにシズク隊長メルヴィ先輩の喧嘩相手ってなんだよばけもんじゃねえか...。


「ま、何にせよもうすぐ中間試験だ。まあ正直お前にはきついものが待っているだろうけど頑張れよ。」


シェイドがどこか懐かしむようにそう告げる。


「懐かしいな!我もあの頃はポンコツでな〜いっぱい苦労したぞ!」


「お前がポンコツなのは今も変わらんだろうに。レギ、我らは出来る限り貴様を鍛えてやる。だがそれでもお前は正しく末席だ、この学院では魔法こそが全てだからな。中間試験ではその事を心に留めておけ。お前が折れることは無いだろうが念の為だ。」


ハッとさせられて思考を切り替える。

そうだ。この学院の規則を読んだ時からそれは分かっていた。



年に2回、前期と後期の中間試験における魔法科目は何でもありの期末試験とは異なり正しく己を試されるものである。

精霊、魔導具、仲間の魔導士との連携などそれら全てが禁止される。


試験は魔法試験を主として筆記試験が必修

そして魔導戦闘試験と魔導技工試験の二つがどちらかを選択する方式である。

多くの者は前者を選択し、治癒魔導士や魔導具製作者を志す者達は後者を選択する事となる。





ニア、そしてルクスの手を借りなければ俺など入学したての末席のまま。まあ成長していないかと言われれば嘘にはなるがそれは他の生徒だって同じことだ。生徒たちは皆魔法を極め、魔導を修めるべくこの学院に入学して来ている。努力を怠る生徒など初めから存在しないのだ。


今の現状で魔法試験で俺が得られる点は限りなく少ない。だから他で補うしかない。

まあ魔法の点数がデカすぎるから補うってよりは食らいつくって言った方が正しいだろうか。


けれどどうやら今年は少し状況が異なるようだった。


「だが朗報だ。明日にでも通知されるだろうがこれが今年の中間試験の配点だ。これならば貴様にも可能性があるだろう。」


そう言うアシュレイから手渡された魔導巻(スクロール)に目を通す。


そう、今年は元々ある魔導戦闘試験に新しく対魔の試験が追加されるのだ。即ち魔物との戦い、実戦である。

その結果例年より戦闘試験の配点が増える事となったのだ。チャンスである。俺を始めとした純粋な魔導士ではなくより実戦向きな魔導剣士を志す者達にとっては特に。


「磨き抜け。お前に出来ることを。」


ただ淡々と、冷淡にアシュレイはそう告げる。それが俺の為すべき事であり当たり前の事実であるということを。


「分かりました。ご指導、よろしくお願いします。師匠。」


俺は姿勢を正し頭を下げる。


「根を上げることは許さん、それだけだ。」


「では早速今から!」


「貴様は久々の学院だろう。授業にも、寮にも顔を出しておけ。修行は明日からでいい。」


そう言われて俺も気が付く。

そういえば久々の学院なのだ。というかベティ先生からの課題がやばい事を思い出した。


「そうですね...気遣い感謝します。」


「うむ!友との時間は大事にしておけ後輩!頼る仲間はどれだけいても足りん!我たちの経験談だ。」


いつも思ったことしか言わない...であろうキティ先輩が含みを持たせて告げる。

そこにある真意までは計れないがその言葉を俺は大事に受け止めることにした。


その後俺はノーチェ、そしてアルフェニスにも挨拶しに向かった。まだ早朝だし居るかは分からないが。


コンコンと執務室のドアをノックする。


何も反応が無い。そう思い引き返そうとした時、執務室のドアがひとりでに開き始めた。


俺はそっと執務室へ足を踏み入れる。

だが誰もいない。魔眼を使いマナの流れを視てみるが特に何も見つからなかった。静寂とどことなくアルフェニスを思わせる神秘的な空気が漂うだけだ。


だがその時、ふいに腕に熱が走る。ギルドの紋章が淡く光を放ったのだ。


その光は執務室の机のちょいど真裏にある一冊の本を照らしていた。

誘われるように、導かれるように、俺はそっとその本を手に取る。


心地好い闇が俺を包む。これは何度か身に覚えがある。転移魔法だ。



そして


「やあ、おはよう。レギ君。」


「おかえなさい。レギ君。お姉さん心配だったわよ?」


アルフェニスとノーチェがそこにはいた。


「おはようございますマスター。ノーチェ先輩も...心配をお掛けしてすみません。」


転移した先は少し広めの部屋だった。

そして何より目に付くのは部屋の中心にある薄紫の大きな結晶だった。俺の二倍ほどの大きさがあるだろうか。


俺は探究心に唆されるままに魔眼を起動する。そして映し出された光景は俺を虜にした。


穢れなき黒、そしてそれを覆うように舞い散る紫。


「綺麗だ。」


ただ一言、俺の口から零れたのは賞賛だった。


「凄いね。これ程のものは長く生きたボクでも片手で数えれるぐらいしかないよ。」


ルクスが顕現し魔力が失われるが何故かすぐに満たされた。その不思議な感覚を疑問に思っていると答えはすぐに帰ってきた。


「ああ、この空間はとても豊潤なマナで満たされてるんだ。それはもう僅かな規模ではあるけれど魔法と言ってもいい程に。マナから拒絶されるキミもここでは息をするだけで魔法を喰らい魔法力を満たすことが出来るのさ。」


そう告げながらルクスは目の前の結晶に目をやる。

それは超高純度の闇のマナで構成された魔水晶。魔水晶は拳大程の大きさですら相当な価値があったはずだ。その知識が無くとも溢れ出る魔力を見ればこの魔水晶の価値を推し量れるというもの。それ程の物が今目の前にある。


「この魔水晶こそ私の結界魔法の根幹であり君やメルヴィたちが守るべき物だよ。一度見て欲しくてね。後はそうだね、さっきルクスも言っていたけれど魔法力が尽きた時はここに来るといいよ。その為に演習場を移転させているところさ。」


「大変なのよ?私も朝から駆り出されるし...。けどいつもの事だから慣れちゃったけどね。」


ノーチェは疲れた様子ながらもどこか楽しげに結界を弄っていた。


「俺のせいですみません...。」


俺は条件反射の様に謝っていた。


「謝らないの。言ったでしょ?この人の無茶ぶりには慣れてるって。後"俺のせい"って思うのはやめなさい。マスターは君の為に動いて私もそれに賛同した。君にはその価値と期待があるの。君はいい子だけど自己肯定感が不安定なのがダメなところね。胸を張りなさい。"君のせい"ではなく"君のために"周りが動いてくれることに自信を持ちなさいな。」


「ははっ。手厳しいねノーチェは。流石ディアボロスのママだ。」


「誰がママですか!と言いたいところだけど手のかかる子が多いのよね。そういう子ばかりマスターが選ぶから...。」


「いつも感謝しているよノーチェ。君とアシュレイには特に面倒事を押し付けてる自信があるからね。」


「そういう自覚があるならもう少し仕事量を減らしてもらってもいいですか?あとふらっとどこかに消えるのも止めていただけると。」


「おっと手元が狂いそうだ、集中しないとね。」


「全く都合のいいヒト...。ね?分かったでしょ?このヒトは子のためならなんでもするしさせるの。だから施しには謝罪じゃなくて感謝を、後ろめたさがあるなら己の振る舞いでそれを正しなさい。お姉さんからのアドバイス。」


ノーチェは優しく微笑みウインクと共にそう告げる。


俺は目の前で繰り広げられたノーチェとアルフェニスにやり取りに得難いものを感じていた。互いに信頼し合う関係が酷く眩しく、羨ましく思えた。俺もそうなりたいと。強く思ったのだ。


「そうですね...その通りです。

感謝を、マスター、ノーチェ先輩。この虚勢がいつか本物になれるよう努力します。どうか、力を貸してください。」


「そこまで言われたら私も張り切ろうじゃないか。君が授業を終える頃には完成させるとしよう。」


「正気ですかマスター?そろそろ出るとこでますよ?」


慈母のような雰囲気を纏っていたノーチェは

一瞬にして無表情になった。見てはいけないものを見た気がするのでそっと退散することに決めた。


その日はギルドで発生源の分からない悲鳴が木霊すると少しだけ騒ぎになるのだがレギは何食わぬ顔でしらを切るのであったそうな。





ノーチェ達から逃げ出した足のままレギは寮に向かった。


そしていつもの中庭に見知った顔を見つけたのだ。


気配を察したのかちょうど瞑想を終え目を開ける相手と目が合う。


「久々だなお師匠サマ。いや、おかえりレギ。」


「ああ、ただいまヨルハ。お前も騎士団に入ったんだろ?」


「ああ、元々うちらの家はそっちが本業だしな。遅かれ早かれ入ってただろうぜ。姉サマもいるし、それにレギも入ったしな。」



男子三日会わざれば刮目して見よ。

いつか読んだその言葉が俺の頭を支配した。

まあヨルハは女だけども...。それ程までに今のヨルハは以前と比べ物にならない雰囲気を纏っている。心境の変化があったかはたまた騎士団に入って何か掴んだか...分からないがヨルハもまた変わったのだ。リオナ、カレンと同じように。



____________


大丈夫か!?うち汗臭くないか!?

涼しい顔をしているがヨルハは内心焦りに焦りまくっていた。心配だったのだ。レギのことが何よりも。



あの日レギが襲撃にあった時、うちは考えるより先に身体が動いていた。何故かは分からないけど直感でレギが襲われていると、そう思ったのだ。

そして己の勘と感覚が示すままに魔導樹の森に向かう途中で止められた。他ならぬ姉の手によって。

姉からレギの手に入れた力のこと、そしてレギの処分のことを全て聞かされた。けど細かい説明などは全く覚えていない。

ただレギを処刑するという言葉だけがうちの耳に残った。それだけが木霊した。


そこからの記憶は覚えていない。立ち塞がる敵を打ち破らんと全てを掛けた気がする。

レギへの想いを風に変えて、私は駆けた。




次に意識を取り戻した時は天を仰いでいた。


「全く話を聞かん奴だ。だが面白かったぞ、まるで別人ではないかヨルハ。お前をそうまで変えたそのレギとやらに興味が湧いてきたわ。」


「レギを...返せ...!」



「だから話を聞けと言っただろうに。私らはあいつを本当に殺すつもりはない。表向きは処刑するという建前で捕らえに来たのさ。まさかお前がそこまで激昂するとは予想外だったが。なんだヨルハ、お前あいつに惚れてるのか?」


シズクの言葉が右の耳から入って左の耳から抜けていった気がした。だけど意味は理解した。だが押し寄せてきたのは安堵の気持ちと溢れんばかりの羞恥心だった。ボフンと音が出るほど自分の顔が赤くなるのが分かる。

寄りにもよって姉にバレてしまった.....。


「はっ。分かりやすいやつだな。まさかお前が恋をするとはな。しかもそれがお前を遥かに強くした。おい、レギの事を聞かせな。」


刀の腹で顎を持ち上げられる。いつだってこの姉はそうだ、うちをボコボコにしてはこうして命令してくる。いつか絶対ボコす。

まあ敗者に反論する権利は無いので大人しく従うしか無いのだが。


「レギはうちのお師匠サマだ。」


その一言を皮切りにうちは洗いざらい全て姉に話してしまった。腹立たしいことにうちの姉は妙に聞き上手なせいで言わなくていい事まで全部話してしまった。うちはバカだ。


「なるほどな。いい師匠をもったじゃねえか。大事にしな、友としても男としてもな。

お前にそいつは必要だ。だからお前はそいつに必要な存在になりな。」


頭をわしゃわしゃと掻き回しながら姉は言う。


「うちは...もっと強くなりたい。いつかレギの隣で共に刀を振るいたい。」


「もうすぐこの学院に騎士団の支部が出来るだろう。入団しな。そいつもいるはずだ。

なあに、私らがしごいてボロボロになったあいつをその胸で抱きしめてやんな。大概の男ならそれで堕ちるだろ。

まあいい私は忙しい、さらばだ妹よ。そのまま強くなれ、そうすれば父様もお前を無視出来なくなるだろう。」


それだけ言い残して姉は謎の光に吸い込まれていった。


私は泣いた。悔しくて、好きになったヒト一人守れなくて。未だ未熟なこの身なれど悔しさはある、その想いだけはいっちょ前だった。


打ちひしがれたまま部屋に戻り、テレジアに謝ってそのまま寝た。

テレジアの顔を、その時は見ることが出来なかった。



翌朝になり姉の言った通り本当に学院に騎士団支部が出来た。迷いなくうちはそこへ入団した。レギと共に戦うために。だがまあ入団試験が大変だった。そして入団した後の基礎訓練がほんとにキツかった。

あまりに大変すぎて他の皆がレギのお見舞いに行っている時も行けなかった。


だからこそ心配が募った。テレジアが兄の無事を喜ぶ姿も心無しに見ていた。


だからさっきまでとレギのことを考えて瞑想していた。煩悩まみれである。


だがその想いが実を結んだのかは分からないが今、こうして目の前にレギがいるのだ。

変わらない姿で、無事なのは分かってたはず、言葉では聞いていたはずなのに実際に目にしたらそれはもう嬉しいのだ。


泣きそうだったがぐっと涙を堪えた。

曰く女の涙に男は弱いという話があるらしいがうちはそんなこと全く思わない。

惚れた男の前でこそ強くありたい。それがヨルハの思い描く理想だった。




「姉サマと戦ったんだろ?散々聞かされたぜ。」


「ああ...遊ばれた上に弱点を指摘してもらったよ。強かったよシズクさんは。」


「姉サマはシチジョウ家の最高傑作って言われてるからな。あれはバケモンだぜ。」


「魔法力ならヨルハも負けてないさ。それを統べて研鑽を積み重ねればシズクさんにだって負けないと思うよ。」


すーぐそういうことを言う。これがお世辞ではなく心の底から言ってるのが丸分かりだからレギはタチが悪いと思う。


「なんにせよ今のままじゃダメだ。そうだ、レギに聴きたいことが山ほど貯まってるんだぜ。教えてくれよお師匠サマ?」


「ああ、なんでも聞いてくれ。4日も空けてしまったからな、すまん。」


何故か不機嫌そうなニアと愉快そうなルクスたちの気配が伝わってくるが気の所為ということにしておこう。


ヨルハに教え、俺もまたそこから新たに学ぶ。この時間は俺にとって大切なものになりつつある。こうして慕ってくれる友を大事にしなくてはならないのだろう。俺はメルヴィの言葉を思い出していた。


朝日が登りきり朝食の時間が近づくまで二人は研鑽を積んだ。


「レギ、騎士団と学院はどうするんだ?ずっとこっちにいる訳じゃないだろ?」


「ああ、週に4日こっちで3日が騎士団だ。だからヨルハとの修行も前より減ってしまうな、すまない。」


「レギは人気者だから大変だな。けどそれでもうちはレギに教わりたい。大丈夫か?」


「構わないよ。俺もヨルハに教えることで新しく見えるものがある。それにせっかく使えないのに身につけた知識だ。誰かのためになるならそれが良いだろ?」


レギはふっと笑う。


ああ、凄い。うちとレギは紛いなりにも競走相手だ。ましてやレギにとってうちは一番近い障害なのだ。そんな相手に己の積み重ねてきた技術、知識を惜しむことなく披露する。


ヨルハはそれが容易でないことを知っている。他ならぬ自分にはそれが出来ないからだ。


この男は強くなるためなら手段を選ばない。

だが差し伸べられた手をレギは離さない。

その結果周りが強くなろうとも。

テレジアがああなる訳だぜほんとに。

こんな兄貴がいたら幸せだろうな。


うちはレギが好きだ。我ながら単純な女だとは思う。うちは馬鹿だから恋の駆け引きなんてものは分からない。けど小さい頃から一つだけ決めてる事があった。


欲しいものは自分の手で勝って手に入れる


「ありがとな、お師匠サマ。いや、レギ。」


「改まって礼を言うようなお前じゃあるまい。気にするな。」


最後に軽く剣をぶつけ合いその日の修行を終えた。



そしてレギと別れヨルハは自室へと戻る。


「むにゃむにゃ〜。ん〜ヨルハちゃん、何かいい事あった〜?うーん。」


寝ぼけながらも何故か確信を付いてくるテレジア。ヨルハは笑いながら答える。


「ああ、レギが帰ってきたぜ。久々に魔法の事を教えて貰ってたのさ。」


レギという単語はテレジアの目を覚ますのに十分な威力を持っていたらしい。


「え!?お兄ちゃん帰ってきたの!?今行くね!お兄ちゃん!!!!」


寝巻きのまま飛び起きて部屋を飛び出していくテレジア。

やらかしたな、とヨルハは内心思うがまあレギがなんとかするだろうと割り切って見てないふりをすることにした。


備え付けのシャワーで軽く汗を流す。


そして髪を濡らしたまま机の上に無造作に置かれた手紙を手に取る。




その手紙の封が示すのは自由な風を示す印


差出人の名はジークヴァルト・クローディア


風を司るギルド、カノープスのギルドマスターである。


「レギ、うちは強くなる。いつか横で共に刀を振るうために。その為にうちは...レギの前に立ちはだかる。レギならきっとなんでも使うだろ?うちも師匠を見習うぜ。」


強い決意と共にその封を解く。


「力を望むなら俺の元へ来い。貴様の貧弱な風を俺が何者にも負けない颶風へと変えてやる。」


その一文を読み、ヨルハは何を思うのか。

濡れた髪を揺らすそよ風だけがそれを知るのみである。


話を動かしていこうと思います。

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