第四十九幕 王国魔導騎士団 part2
遅くなりました。
今週2本投稿はキツそうですすみません。
「どう育ったらああなるのだ。剣の才能はある、それは間違いない。強くもなるだろう。それだけの心をあいつは持っている。」
「だけどシズク、アレはダメよ。あの子の剣は自らの身体を軽んじる。さっきも死線へと踏み込むからハラハラしたわぁ。」
「だが一概に否定することも出来んだろうマリア。あの一歩が成す一撃は己より遥か高みにすら届きうるものだ。」
「それが日常になってるからダメだって言ってんだろ、バカかてめえは。」
「私は忌憚なき事実を述べた迄だ。君こそ短絡的な口は閉じるといいよイオリ。」
「んだとてめえ、やる気かテーゼ?」
「君は私をイラつかせるのが得意だ。受けて立とう。」
「やめな!二人とも。どっちの言い分も正しいのさ。でなければレーヴァとテインが傷つくはずがない。そうだろエヴァ。」
「シズク姉の言う通り。あれは私の負けだった。
"疾風刃雷"まで使ってレーヴァとテインに傷をつけられたし...。私はあの集中力と勇気に魅せられた。危ない...のも分かってる。けど私は活かしてあげたい。」
第一部隊長グレイスを除く騎士団が誇る部隊長たちが様々な意見を交わし合う。その討論は短くない時を刻む。
そしてその中で場違いが二人。
『ね、ねえルクス、私たちなんでここに居るの?』
『キミも試しただろうニア。彼女らは意図してボクらをここに留めてるんだよ。』
二人の精霊は当然と言わんばかりにレギについて行こうとしたのだが結界から出ることが出来なかったのだ。マナの化身である精霊を閉じ込めておける結界は数少ない。なにかの意図があるのは明らかだと、ルクスは分析する。
「おい、いるんだろ死精、それに剣霊も。」
そんな二人の心中を見透かすようにシズクが声を掛けてくる。
「閉じ込めたのはキミたちだろう、白々しい。」
やれやれと言った感じにルクスは姿を現す。
そしてその背に小動物のように小さく隠れているのはニアである。
「.....ニア?」
「し、仕方ないでしょ!私人見知りなんだから...!」
「はぁ...まあいいや。それでボクたちに何の用だい?」
「いくつか質問が...」
「おおお!これが剣霊か!初めて見たぞ、可愛いじゃねえか!なぁなぁ抱きしめてもいいか?」
シズクを吹き飛ばし承諾を得る前に既にニアを抱きしめるのは先程イオリと呼ばれた褐色の美少女。面積の少ない衣服に身を包むその様子はかの有名なアマゾネスだろうと、ルクスの知識が告げてくる。
「ねえルクス!そんな遠い目で見てないで助けなさいよ!」
「生憎その子はボクの一番苦手なタイプのようだ。暫く遊んでて欲しいな、センパイ?」
「あんた都合のいい時だけセンパイって言ってる気がするわ!」
ニアの悲痛な叫びも虚しくイオリに後ろから抱かれ頭を撫で回されている。
「懸命な判断だ死精。私があいつを斬るところだったぞ。」
「キミも苦労してるようだね。それで?聞きたい事とはなんだい。」
青筋を浮かべ太刀を抜刀していたシズクはそっと納刀する。
「簡単な事だ。死へと踏み込む彼奴のそれは貴様の力に必要なものか?」
「はっ。聞くまでもないだろうに。そうだよ、レギは壊れているからこそボクの力を振るうに相応しい。そう信じて力を、あの魔眼を与えたからね。そして魔法の才に乏しいレギが強くなるのにボクの力は必要だよ、これは彼も同じ気持ちさ。」
「まあそうであろうな。互いの信頼が無ければあの一撃は生み出せるものではなかった。
質問を変える。彼奴は間違いなく早死にする。貴様はそれを許容するか?」
シズクの本命は二つ目の質問である。
その質問に対してルクスはすぐ答える事が出来なかった。答えないのではなく答えれなかったのだ。
ボクはレギが躊躇無く死に踏み込むのを愛しく思っている。それは間違いない。だけどレギには死んで欲しくないのだ。かつてエレンが死んだ時でさえボクの心は凪のように穏やかだったというのに。
嗚呼、ボクも変わってしまったのだ。レギに出会って。はははっ、認めようじゃないか。
「いい質問だ。...確かにレギが死ぬのはボクの意には反する。レギには己の力で死地を乗り越えて欲しいところだけど彼はおヒト好しだからね。誰かの為に自分を犠牲にしてしまうだろう。レギの誇る美しい善性であり尊ばれる精神ではあるけれど.....それは許せないなぁ。」
シズクにこう告げながらつくづく思う。
さっきもエヴァに言ったけれどボクはレギのことが大好きらしい。今まで何人とも契約してきたけどこうなったのは初めてだ。
永きを生きるボクたちにとって新しいというのは心地よいものである。
死に触れるレギを狂おしい程に愛するボクと彼に死んで欲しくない、一生愛でていたいと思ってしまうボク、どちらもボクの真意なのだ。随分ヒトのような考えをするじゃないかと、かつてのボクが見たら嘲笑うだろう。
「貴様の意は承知した。そして答えも出た。
テーゼ、レギを呼べ。」
「私の魔法はそういう風に使うものでは無いのだが。」
「いいからやりな。しばくぞ?」
「我が騎士団の女性は品位に欠ける。お嬢にはこうはなって欲しくないものだ。
"我が意よ伝え 千里を越えて"
【統声】
ヴァン、新入りを連れて戻って来るんだ。なるべく早く。」
第三部隊長 テーゼは戦場の指揮者。その声は騎士団の名を刻む者に千里を越えて伝わるのだ。
そして本来部隊単位で使われる指令魔法が個人宛に使われる。その事の意味を深く知る団員は迅速な行動を見せるのだ。
包帯を血に染めたままのレギを抱えたヴァンが息も絶え絶えに道場に帰ってくる
「苦労をかける、ヴァン。」
「どうせうちの隊長の命令でしょ?テーゼ様隊長。振り回されてるのは慣れてるもんで...。」
俺はよく分からないまま血相を変えたヴァンさんに医務室からここまで抱えられてきた。
そして流されるがままに道場に正座させられていた。
「やあレギ、おかえり。傷は大丈夫かい?」
「ああ。血は止まってるよ、まだ痛むけど。それでルクス達は何をしていたんだ?呼んでも来なかったけど。」
状況が飲み込めていない俺にルクスが声を掛けてくる。ニアを探すと褐色の少女に抱きしめられたままぐったりしていた。
「ああ、それはこれから分かるよ。心して聞くといい。」
三人の騎士が俺の前に立つ。
そして真ん中に立つシズクが静かに告げる。
俺は不思議と喉元に刃を突きつけられているような感覚に陥った。
「お前の剣は自分を軽んじる者の剣だ。
今のお前を見ろ。私に一撃入れるためだけに自らの身体に刃を受けた自分を。その上で負けた自分を。
勘違いするなよ何かを犠牲にして勝利なんて考えるな。
お前の両の手足を、命を掛けてもぎ取ったたった一度の勝利なんてクソ喰らえだ。
負けてもいい。五体満足で生きて帰ってこい。 いや、違うな。全てを救った上で完全に勝利する覚悟を背負え。
己を決して倒れない、折れない剣となせ。
お前が死ねば救えない者がいる。
お前が手足を失えば後に救えたはずの命がある。
死地へ踏み込むお前の覚悟、意思は見事だ。それは時に勇気と呼ばれるもの、尊ばれるものではある。だが勇気と無謀は紙一重だ。それを理解しろ。
勝つためでは無い、生きて帰るためにその意志をコントロールしろ。
決死の一撃では無く決着の一撃の為にその一歩を踏み出せ。
死へと踏み込む勇気を衝動に身を任せるな。
鋼の理性で御してみせろ。それが成った時、お前の剣は完成を見るだろう。」
シズクの言葉は俺の心、その奥底まで響き渡る。カチリと歯車がハマった気がした。
テレジアと修行している時も、学院に入ってリオナと戦った時も、エヴァと剣をぶつけ合った時も。俺は地に伏していた。それでは駄目なのだ。負けても両の足で地に立っているべきなのだ、相手の力を喰らい、何度も立ち向かえばいいから。俺の唯一の強みは弱点でもあった訳だ。
ルクスは頷き、笑う。
完成されたレギの剣。その先に望む景色があるはずだと。そう思えたから。確かにレギは死精の力に強い適性がある。けれど見落としていたのだ。今までの契約者とは違いレギは弱いのだ。今はまだ。
「少しだけボクもアプローチを変えよう。キミの無茶を見たいという欲望を抑え込んでみせるよ。他ならぬキミの為に、そしてボクの願いの為に。」
ルクスは描いていた未来を修正する。
大いなる矛盾を抱えた英雄、その姿を思い浮かべ高揚に包まれる。
嗚呼、楽しみだ。
「話は分かりました。寧ろ心当たりがあり過ぎて思いっきり殴られたような気分です。」
ズキリと痛む心を抱きそう返す。
「理解が早いのは良い。マリア、治してやれ。」
「はいはい。けど暫くは私の出番はなさそうね。"創健の歌 すさべ 健やかに" 【癒】」
傷が癒え、そして体力まで全回復する。
「向こう一年、ここでお前に施される最後の治癒魔法だ。特例以外ではな。」
「レギ君。無謀は捨てなさい。君が自分を軽んじる限り私は君を治療しないわ。」
「なるほど...そういう事ですか。」
理解する。身体に染み付いたものを落とすのでは無く、上から上書きする。いや、書き加えて描きあげるのだ。新たな自分を。
「お前が受けた傷は基本的には治さない。身体で覚えろ。だが逃げることは許さん、見極めろ。死線を踏み越えてもなお傷つかないその一瞬を。痛みを恐れないからこそお前は前に進める、それはいい。だが痛みを嫌悪しろ。痛みを受けたらそれを弱さだと呪え。
それでいいな?エヴァ。お前が師として責任をもって初弟子を見届けろ。足りない部分は勝手に"黒剣"が補うはずだ。」
「うん、ありがとシズク姉。」
エヴァはそれだけ言うとレーヴァとテインを抜く。
「レギ、覚悟はいい?ここにいる間ひたすら私と戦ってもらう。寝る間と最低限の休息以外。」
「流石の俺も少しだけ自分の身が不安になってきたな。けどそれを乗り越えたら俺は強くなってるはずだろう。」
そう言い俺もミストルテインを抜く。
「初めは慎重でもいい、ひたすら数をこなして徐々に身体に刻みつけな。手が空く時は私らも叩き込んでやるよ。」
「強くなれ、レギ。この騎士団に弱者は不要だ。」
「剣霊に選ばれるぐらいだ、簡単にくたばるたまじゃねぇだろ。ワタシが食うまで死ぬんじゃねえぞ?」
「手足斬られても治せるけど死んだらさすがに無理だからね。そうならないよう頑張りなさい。」
部隊長たちに見守られながら俺とエヴァは剣をぶつけ合う。道場に響く新たな音。その音は甲高く、気高く、観る者を何故か惹き付けた。呼応するように道場の熱気が上がった気がした。
そしてその音は夜が耽けるまで消えなかったという。
そして翌朝戻らないレギを迎えに来たアシュレイが見たのはボロ雑巾のように転がるレギの姿だったという。
「師匠?ああもう朝ですか...生きてますよ...なんとか。」
先行きはまだまだ不安である。
そろそろストーリーを動かしたいところではあります




