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後に伝説となる英雄たち  作者: 航柊
第2章 学院生活編
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第四十五幕 師と弟子 part2

今週は一日余裕を持って。



戦いの火蓋は突如切られた。


空間が軋む、多大な魔力の波動によってもがき苦しむように。



やれやれ...やはり戦うことになりますか。

まあそのつもりで来たのですが...


久々ですね。本気を出すのは。


いつ以来だろうか。

それこそシリウスを本気で怒らせた時以来ですかね...w


まあそれは置いといて...

師匠(せんせい)への恩返しと行きましょうか。


そっと虚空に手を伸ばし詠唱する。


傍観者(アルフェニス)宝物匣(パンドラル)


レギたちも使用出来る玩具箱では無い、アルフェニス・ジェラキールが集めた武具の中でも選りすぐりの物が収められたパンドラの匣。


そしてその中から取り出されたのは一冊の本。その名は


黙示録(アポカリプス)


古の魔法が記され、封じられた魔導書。

主と認めた者の魔力を高め、書き記した自らの魔法に詠唱破棄、或いは詠唱強化を付与する事が出来る。

現代の技術、知識、魔法では再現出来ない超常兵器(オーパーツ)の一つ。



黙示録を取り出したか、アルフェニスは本気だ。だが勝てるのか?


一抹の疑問が頭をよぎる。

けどこの男ならば或いは...。


シリウスは目の前に立つ男の背を見つめる。

胡散臭いペテン師、飄々とした普段の雰囲気などは消え去っている。


こいつはいつだってそうだ、自分の為ではない誰かの為にその力を振るう。


だから私は....。


そこで思考を遮る声が響く。


「姫様、儂たちもやりますかな?」


アルフレッドが腰の剣に手を掛け問いかけてくる。


「そこに私情があろうとなかろうと私は師弟の戦いに手を出す程愚かでは無いつもりだ。だが貴殿が剣を抜くというのならば私も応えねばならないだろう。」


「儂に戦う意思はありませぬ。ではこの老骨と共に観戦といこうではありませんか。」


そう言うとアルフレッドは結界を作り出す。

そして光と共にシリウスもその中へと入るのだった。




溢れ出るアルフェニスの魔力を受けエレノアは笑う。その姿だけを見れば弟子の成長を喜ぶ師匠そのものである。

だがその口を開けば...


「濃く、純度の高い良い魔力だ。魔法の腕だけは私好みに育ったというのに...。どうしてあれ程歪んでしまったというのか。まあよい、これも躾だ。」


ため息と共にそう告げる。


そしてエレノアも手に持つ杖に魔力を集中させる始める。

その魔力を受けて杖の先に取り付けられた宝石が眩いばかりに輝き始めた。


溢れ出る魔力と共鳴するように輝きは増す。

その輝きは力無き者が中毒に陥る程の魔力を秘めていた。頂点に立つ者たちしか目にすることすら叶わない大いなる光だ。



「何度見ても美しいというもの。姫様、よく見ておくとよいですぞ。あれこそこの世界最高の杖です。」


シリウスは目を見開く。世界最高の杖、その通称が意味するものはただ一つしか無いからだ。そして同時にもはや持病になりつつ頭痛が再発する。その杖は歴史上いつだって、争いの中心にあったから。


「!? ではあれが...大星杖イシュロンか。私も初めて見る。」



【大星杖イシュロン】


六属性の魔石(マナタイト)が奇跡の配率で混ざり合い産まれた星鋼(アース)。それを核として加工し世界の中心に生える木、創星樹ユグドラシルの枝を組み合わせて作られたこの世界で最高の杖。神器や先の超常兵器を模して現代の技術を持って作られた人造神器(アルカトラム)

けれどその製造方法、製造者、全てが謎に包まれている。それ故に杖を巡って戦争が起こるほどの価値を秘めた神杖。


だが力無き者は触れるどころかその光を目にするだけで囚われる呪いの杖。


それを完全に支配下に起き、手足のように振るう。それが神域の魔導士

アルバレスト・エレノアール・ジュラキールなのだ。



イシュロンが輝き圧倒的な魔力波がおそいくる。

それを受けても私は身動ぎ一つしなかった。


支配領域の奪い合いでは勝てない。

ならどうするか、私は自分の身体に触れる領域、そこに支配力を集中させる事で狭い範囲ではあるが強固な支配領域を作り出していた。


そうして掌握した空間をコントロールする事で来るはずだった衝撃を全て受け流すことに成功していたのだ。


吹き荒ぶ魔力嵐の中でアルフェニスの周りだけは波一つ立たない水面の如く静寂に包まれていた。その心と同様に。


その心内に抱える思いは一つ。

師を打倒すること。自らの目的を阻む、敵を打倒することだけである。



アルフェニス・ジェラキールは単純に強い。

高い魔法力にシリウスも認める精密な魔力コントロールを持つ。

それに加えて頭もキレる。普段からシリウスを始めとした者達を息をするように騙し、悪戯を仕掛けるのを趣味としている。その頭脳をこと戦いに回せばその強さと相まって恐るべき戦闘力を発揮するのだ。

この世界でアルフェニスが勝てない相手は殆どいないと言ってもいいだろう。


だがそんなアルフェニスの魔力をさらに上回り、謀略、策略、戦略を理不尽に打ち破ってくる。それがアイリスであり今相対するエレノアなのだ。


自分より魔力が高く、自分より性格が悪い(自己評価)。そんな自分の天敵と言うべき相手を前にしてアルフェニスは思考を放棄する。

余談ではある同じ神域でもティアは性格が前述した二人より遥かに正常な為戦いやすいとの事。



師匠の前に謀など無意味。

簡単な事、私が培ってきた技、そして魔法をもって打ち破るのみ。


【黙示録】のあるページを開き魔法を選ぶ。

そして付与する効果は詠唱破棄。


重孔(メスメラス)


小さく、けれど魔力の凝縮された無数の重力球が作り出される。

まるで演舞室の天井を彩る星のように。


「ほう。」


だがその星は眺める間もなくエレノア目掛けて凄まじい勢いで落下する。


大概の魔導士が戦意を喪失するであろう重力球の流星群を前にしてエレノアは回避を選択しなかった。否、避けるという選択肢など始めからありはしないのだ。


降り注ぐ重力球に向けてそっと杖を薙ぐ。


全てを押し潰す重力球...のはずだったのだが杖に触れた瞬間にバターのように斬り裂かれてしまう。


付与(エンチャント) 光剣(シュバルト・ブライト)



蹂躙、その言葉が目の前で広がる光景に相応しいだろう。

そう思考するのはシリウスだった。


エレノアは杖の先に光剣を作り重力球の流星群を舞うが如く全て斬り裂いていく。

魔導士に有るまじき剣術、もとい杖術だった。その凄まじい技量にシリウスは感嘆する。

回避ではなく正面から打ち破るその光景に弟子の成長を受け止める師を幻視した。




「面白いことになってるな。」


突如聞こえた第三者の声にシリウスは振り向く。

そしてその声の主を見てため息を吐いた。


「デュナミス。邪魔でもしに来たか。」


「違うぜ姉貴、隣の観測室に用があってな。そのついでだ、邪魔するつもりはない。大人しくしてるさ。」


「ふん。どうだか。」


そう言いしれっと結界内に侵入してくるのはデュナミス。




「これ程の魔法を詠唱破棄で使うとはな。相手が私で無ければ決着とは行かずとも手傷ぐらいは負わせたろうに。」


舞を終えたエレノアが息一つ乱さずそう告げる。


「最初から通じるとは思っていませんよ。けれどほんの少し、意識を逸らせれば仕込みは可能ですので。」


アルフェニスが微笑み指を鳴らす。


「なるほど、やるではないか。私が意識を逸らしたとはいえそれは一瞬。よくぞここまで。」


途端エレノアを中心に曼荼羅のような魔法陣が展開される。



なるほど、あやつめ私が魔法を斬るのを読んでいたな。あの重力球一つ一つがやつの支配領域を纏わせたものだったのだ。

重力球を斬る度に私は自分の周りにやつの支配領域を拡げさせていたという訳だ。

超越の魔法を囮に使うとは贅沢なやつだな。



「さあ、捕まって貰いますよ。」


【レギオン】解放 多重魔法陣 展開


付与 詠唱強化


"開け 黙示の扉

贄はそこに 代償はそこに

罪人(つみびと)を誘え 深淵の牢獄へ"


【アポクリズモス】


【黙示録】が紫紺の輝きを放つ。

それはアルフェニスの魔力を伝い魔法陣まで伝播する。


揺らめく闇が魔法陣を覆う。


その紫の輝きは超越たる魔法にひと時の間神と同じ力を宿らせる。


さあ、神を堕とす時だ。


幻ではない。魔法陣が輝き文字通り演舞室の床が割れる。

この世在らざるもの。黙示の扉、その向こう側に住まうなにかの手が深淵からこちらへと伸ばされる。


パキパキ メシメシ ギリ ギリリ


この世のものとは思えない音が辺りに響く。


"汝を縛るは 獄の怨鎖"


アルフェニスの起呪(トリガー)に合わせてその手から漆黒の鎖が放たれエレノアを襲う。


「小賢しい。」


エレノアはまたしても光剣を纏わせた杖を振るう。

だが断ち斬れるはずだった鎖は斬れることは無かった。代わりに光剣に鎖が巻き付きその刀身をドス黒く染め上げたのだ。


そしてその黒の侵食は彼女の魔力を辿り杖を握るその掌に無数の切り傷を付ける。


「私の魔力を侵食するか...どうやら侮っていたようだな。」


黒の鎖はそのままエレノアに巻き付き縛りあげる。

そしてその身を侵食しようとすべく彼女の身を蝕み始める...はずだったが

黒の魔力が彼女の身体に入り込むことはもう不可能だった。


エレノアもまたアルフェニスと同じようにその身を隔てて薄皮一枚の支配領域を作り上げたのだ。


「お前に出来て、私に出来ない道理は無い。そうだろう?ジェラキール。」


「当然でしょう。ですが私の目的は達せましたのでそれで構いません。」


「なに?」


「逃げられなければ良いのですよ。次の魔法は威力は凄まじいけれど師匠達には普通当たらないですからね。大事なのは魔法ではなく魔法の使い手と使い方だと教えてくれたのは他でもない師匠でしょう。」


「なるほどな。私の教えをよく覚えているではないか。」


「不本意ですが師匠の教えは私の根幹です。そしてそれはあの子に今引き継がれていますよ。だから師匠、彼を縛るべきではありません。私は彼だからこそ死精と契約させました。この眼に間違いは無いと、誓えます。」


アルフェニスは尊敬、そして哀愁を込めた視線をぶつける。


「...お前の言うことは正しいのだろう。ヒトを見る眼だけは確かだからな。」


「師匠...。では。」


瞬間、アルフェニスの言葉を遮るように魔力が爆発する。

対魔力の建材を多数導入して造られているはずの演舞室が悲鳴を上げる。


その立ちのぼる魔力は此方へ歩く二人の男女の元へも届いていた。


「なん...だ、この魔力は...。」


「大気が震えてる。これはグランドマスターの魔法...? レギ、急ぐよ。」



「例えそうだとしても、あの力は周りを、自分自身を不幸にする。私はもう過ちを繰り返さないと、己の罪に誓った。その為に私は強くなったのだから。」


何よりも強い意志、そして遺志を宿したその瞳はエレノアの放つ魔力よりも輝きに満ちていた。


「変わらない。師匠、貴女はあの頃から何も。けれどそれでは貴女が救われない。あまりに悲しいじゃないですか。だから彼は返してもらいますよ。」


【黙示録】をそっと手放す。本はあるページを開いたまま宙を漂う。

アルフェニスが両手でなければ発動出来ない魔法を使うために。それは闇魔法の極致。


「デュナミス、結界を張れ。一番硬いやつだ。」


デュナミスは何も言わずに頷く。

これから大魔法が繰り出されるのだと、雰囲気で感じ取っているからだ。



「殺す気でいって同等、まあ死んでも死なないでしょうが。」


祈るように、だが確かな意志をもってアルフェニスは詠唱を始める。


"闇より黒く全てを奪いし無の烈光


目覚めの時は今 我はその鍵を開く者

空を覆いし漆黒よ 祈りにて生ずる黒雷よ

我が前に渦を巻き 我が敵を討ち滅ぼせ


其れは星々の光を呑む 救済たる死

終焉(おわり)へと我を導きたまえ


この身は闇へと捧げしもの 我が名の元に希う"


詠唱はさらに繋がる。詠唱連結。


"我は黙示を刻む者 我が望むは救済なり


其の慟哭(こえ)は奈落へ響き

其の渇望(こえ)は蒼空へ登る

その総てを重ね 全てを喰らい

凡てを壊す 極獬の星よ


救済たる終わりを齎したまえ


さあ開け そして世界を壊せ "


超星焉(ブラックホールネガシス)


森で使った【星焉】とは比べ物にならない質量と重力を持った崩壊の星がアルフェニスの掌の中に産み出される。

とてつもない魔力嵐に加えて磁気嵐が演舞室に吹き荒れる。


対魔鋼の壁に一部ヒビが入る。


「あの馬鹿共め、貴様ら用にこの部屋は造られていないというのに。デュナミス、儂の剣を使え、部屋全体に結界を張るのだ。」


「とっとと寄越しな爺。」


デュナミスはアルフレッドから渡された剣を床に刺し魔力を流し込む。守護の魔力が部屋を覆う。


「そのまま魔力を絶やすなよ。貴様が倒れれば騎士団本部が吹っ飛びかねん。」


「無茶言うぜ...。」




魔力嵐、磁気嵐に飲まれてなお輝きを失わないエレノアの魔力は臨界を迎える。


その全ての魔力を杖先に集め彼女もまた詠唱を始める。己の罪と向き合いながら。



"星を抱く杖 宙の方舟


時を紡ぐ風に乗り世界を往く時の旅人


眠れぬ獅子を語り神玲の姫を謳い

祈りを育む者


嗚呼 我が身に贖罪を 我が身に断罪を

戻らぬ過去に手を伸ばし 虚空を掴みて

我は命の上に立つ

祝福の声は怨嗟となりてこの身を蝕む

生きる我が身こそ 私の罪


糧を焚べ 悔恨を焚べ 眷恋を捧げ

祈りは詩になる


我が名の元に 始まりの時は今

終わりは既に過ぎ去りしもの


神は私の光 我が真名はエレノア


響け 星鐘楼"


【ノヴァ・アルカナン】


色も無い。


目には映らない。


けれどもそこにある、無の絶音。


鳴り響く鐘の音は全てを無に帰す。


崩壊の星、星鐘の音


互いの想いを乗せた魔法がぶつかる瞬間



飛び出す影が二つ。


戦闘シーンがどれも似たようになってしまって難しい。

エレノアの魔法はアルフィアを憧憬にしました。

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