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後に伝説となる英雄たち  作者: 航柊
第2章 学院生活編
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第四十三幕 死精騒動 part5

シンとラグナのフルネームを修正しました。

勢いで書くと後から読み返して大変。




私は私の勝ちを疑っていない。

この剣が命を刈り取る感触も、肉を断つ感触も、私にとっては当たり前。

そしてその剣を振るう刹那にこそ、私は生を実感する。


だからこの才ある少年の命を刈り取る事も私にとっては生きるということ。


決して油断、慢心ではない。

少年に対する憐憫から生まれた一瞬の覚悟の再確認。



だがそれが決死の少年に活路を作り出す。


普段なら見逃してしまう程の極小の隙。

だが血涙を流すほどに集中したレギの眼はそれを見逃さない。


足よ!動け!!!


俺はこの眼に映る自らの死線を容易く踏み越える。活路は死地を越えた先にある。


だから踏み出せその一歩を!


エヴァよりさらに深く沈み込み交差するレーヴァとテインを避ける。

そしてすれ違いざまに今の己の全てをぶつける。


『いけ!レギ!やっちゃえ!』


『レギ、ニア、心を一つに。』


「これが今の俺の全て。いくぞ!」


三人の声が重なる。


「「「【日蝕(ソル・エクリプス】!」」」



レーヴァとテイン、その二つが重なる瞬間に俺はアルカディアを叩きつける。


双剣が纏う魔力をアルカディアが喰らう。

雷と風だけに留まらない、レーヴァとテインに付与されている不朽(デュランダル)絶切(スパイラル)をも喰らい剥がす。


キィィィンと甲高い音を立て剥き出しとなった刀身がぶつかり合い俺は視た。

確かにアルカディアがレーヴァとテインに傷を付ける瞬間を。



だがそれを見届けたと同時。強い衝撃と共に俺の意識は闇へと落ちる。消えゆく意識の中でニアの叫び声、そしてルクスが放った


『後はボクに任せて。』


その言葉だけが耳に残った。



私は剣と剣が触れ合った瞬間にその斬撃の恐ろしさを体感した。ズズっと魔力、そして体力をも吸われる感覚。

だから手放した。愛剣を。


そして全てを出し切った彼を素手による一撃で意識を刈り取る。




「はぁ...はぁ...なんて子。まさかレーヴァとテインに傷を付けられるなんて。」


隙を出したのは自分。だがそれでもまさかこうなるなんて思いもしなかった。

最後に立っているのは私。

けれど私の技は避けられ、魔法は喰われ、得物は壊された。

それに私の体力まで...。


そっと手放したレーヴァとテインを拾い上げる。その刃はほんの少しだけ刃こぼれしていた。不朽が剥がされたのだ。それに絶切も...。あらゆる魔力が剥がされ神剣とまで称されたのが見る影もない。

.....これはデュナミスに怒られる。


これが正しく使われた死精の力。

いや、これがこの少年、レギの力と言った方が正しいだろう。

恐らくこの子以外には正しく使えない力、そしてあの剣技...。


力尽き、気絶するレギを見下ろす。


この少年は死地へ足を踏み入れてきた。私では、私たちでは越えられない場所に容易く踏み入ったのだ。



行く末を見てみたい。この子が...欲しい。


生まれて初めて剣以外に興味を持った。


ヒトは欲望に忠実な生き物だ。

私は私の思うままに生きてきた。だから今回も同じことだった。


そうだ、連れ帰っちゃおう。


連れ帰って騎士団に入れちゃう。そして私の元で鍛えてあげる。うん、それがいい。


私が...勝ったし?戦利品は私の自由だもんね。

それに裏切ったり悪になるんだったらその時は私が斬ればいいしね。

デュナミスもきっと許してくれるはず。


だってこの子、デュナミスと同じ剣技を使ったんだもの。


気絶するレギに近づき触れようとするとその手は再び阻まれた。



「レギをどうするつもりだい?殺すつもりならボクと交渉しようじゃないか。」


エヴァの腕を掴みながらルクスは殺気を放つ。


だがその殺気を受けながらもエヴァは揺らがない。


「殺さないわ。この子は連れ帰って私の弟子にする。勝者は私。だからこの子命は私のもの。」


ベージュの瞳に強い意志が宿る。


「...へぇ、嘘は言ってないみたいだし...いいよ。レギが生きているならボクは何もしないよ。」


それだけ言うとルクスはエヴァの手を離す。


『ちょっとルクス!いいわけないでしょ何言ってるの!』


『王国騎士団が命令を無視するのは異例だ。ここは大人しくするべきだよ。それにヒトはボクらとは違う、生きてこそだからね。』


『むぅ...そうね、分かったわ。』


エヴァはそそくさと自分とレギの周りに魔法陣を書き上げていた。

そして二つの魔法陣を最後に繋げる。


「これでリンクは出来た。」


繋がった魔法陣は眩い輝きを放つ。


「これは...召喚魔法か。」


「分かるんだ。凄いね。」


「ボクは特別だからね。だけどこの魔法の使用者とは戦いたくないな。」


意味深な言葉と共に結界内に光が満ちる。

気がつくとそこは見知らぬ建物の中だった。




〜王国魔導騎士団本部


王城と隣接しており宝物庫、訓練所、国のあらゆる場所への転移魔法陣など国防の為に魔導院と並び最新の設備が揃う場所である。



(じい)〜。帰ったよー。ちょっと来て〜。」


「おや、お嬢様お早いお帰りで...。っと、そちらの方は?」


現れたのは白い髭と腰には剣を携えた老齢の執事だった。

執事服に身を包みその身のこなしからは気品が感じられる。


「爺、この子治療してあげて。ターゲットだった死精と契約してる子。騎士団に入れて私が育てるから。」


突然のエヴァの提案に執事は固まる。

少しばかりの思考の後口を開く。


「ふむ.....。まあよいでしょう。珍しいお嬢様の我儘、爺は嬉しく思いますぞ。」


「はいはい。じゃあ、後はよろしく。私はシャワー浴びるから。目を覚ましたら呼んで。」


それだけ言い残しエヴァはさっさと部屋を出ていく。


「では...。ふむ、外傷はあるもののさしあたって危険なものはなし、寝かせておけば直に目覚めるでしょう。」


流れるようにレギの身体を診て判断する執事。

そして手を二回叩くとどこからともなく二人の騎士が現れる。


「そちらの少年は...?」


騎士たちは見知らぬレギに警戒を顕にし剣に手をかける。


「心配は無用。お嬢様の客人です、丁重に扱いなさい。医務室のベッドに寝かせておくように。」


「「はっ!かしこまりました!」」


慌てて騎士たちは剣から手を離し、美しい敬礼の後レギを慎重に運んで部屋を出ていった。

そして執事はおもむろに騎士たちが出ていった扉をパタンと閉める。



「さて...。居るのだろう。死精(バン・シー)。」


執事の雰囲気が変わる。そこにいるのは気品を纏った執事では無く覇者の雰囲気を纏った老齢の騎士だった。


「居るも何もボクを閉じ込めたのはキミだろう。」


「フッ。儂を出し抜いて一人逃がしおったくせによく言うわい。まあよい、舌戦は要らぬ。対話をしようではないか。」


ドカッとソファーに腰掛ける老騎士。

ルクスもまたふわりと対面のソファーに座る。


「キミたちは元々レギを手に入れる気でいたとボクは読んでいるのだけれど当たっているかい?」


開口一番ルクスは疑問をぶつける。


「儂らは見極める気であったぞ。その為にエヴァには主らを殺す様に命じたのだがな。だが結果的に我らが参謀の思惑通りにエヴァは主らを連れ帰った、それが事実だ。」


「それで?キミたちはボクらをどうするつもりだい?ボクは今、死精では無くレギの精霊として質問をしているよ。」


「国防を預かる儂らは死精たる主の存在を無視することは出来ぬ。例えどちらに転ぼうともな。少年には悪いが監視の意味も込めて騎士団に入ることになるだろう。まあどのみち主らに拒否権は無いが。」


「監視といいつつ彼女、エヴァはレギを育てるつもりみたいだけどそれは良いのかい?」


「言っただろう。どちらに転ぼうとも関係ないのだ。敵となるなら殺し、味方であるうちは利用するだけだ。」


「なるほどね。ボクらに選択権は無いわけだ。まあ負けたし生きてるだけで納得するよ。」


対話という互いの腹の読み合いが終わろうとしていた。だが


「けどどこか含みがあるよね...何を隠してる?」


ルクスが唐突に立ち上がり殺気をぶつけながら問いかける。

ピシッと机に置かれた器にヒビが入る。



緊迫した空気が空間を支配する。



そして老騎士がそっと剣に手をかけた所で第三者の声によって空気が霧散する。




「やめておけアルフレッド。そいつの前で企ては出来ないと教えたはずだ。」


扉が開き現れたのは地面に着きそうなほどの黒髪に赤い瞳を持つ女魔導士。


「儂は自分の目で確かめんと気がすまん。だからこの歳まで生きておる。だが貴様の言う通りであったな、これは敵に回すべきではない。」


「キミは.....。」


ルクスは遠い記憶の中にその姿を垣間見た。

懐かしくも、輝かしいあの日々に。


「久しいな。私を覚えているか、ルクス・ゼクスディア。」


その一言で現実に引き戻される。


「今のボクはただのルクスさ。あの時の小さな魔導士が大きくなったものだ。なるほど、キミがいるなら話は変わってくる。キミがレギを殺す訳が無いからね。」


女魔導士もまた疲れたように椅子に腰掛ける。


「騎士団は今人手不足でな。元々人材を欲していた所に今回の騒動が重なったという訳だ。だがまあそれがあの子だとは思いもしなかったがな。逆にお前は何を企んでいる、ルクス。」


赤い瞳は真っ直ぐにルクスを捉える。


「ボクは何も変わってないよ。ボクはずっと

この力を、死精の力を使いこなせるヒトを探し続けているだけ。その可能性をレギに視ただけだ。

ねえエレノア、どうしてレギは彼らの息子なのに魔法の才能が無いと思う?」


ルクスが豹変する。口が裂ける程の笑みを浮かびながらルクスは叫ぶ。


「それはボクの力を使いこなす為に全ての才能を犠牲にしたんだよきっと!そして死を恐れず死線を容易く踏み越えるヒトとして歪んだ才能を持って生まれたんだ。そうだよ、そうに違いない、ははは。ははははははははは!!!」


ルクスは壊れたように黒い羽根をはためかせて笑いながら飛び回る。

間違いなくそこにいたのは悪精(イヴィル)であった。


「あの時から何も変わらない、度し難い存在だよお前は。だがそれ故に利用価値がある。お前の力を貸せ。」


女魔導士は顔を歪ませながらもそう言い切る。


「はははっ。思わず取り乱しちゃったじゃないか。ボクの意思はあまり関係ないよ。ボクはあくまでレギに従う。彼の行く道がボクの望む道だと信じて疑わないからね。

安心するといい、エヴァがレギの剣に興味を持ったように彼もエヴァの剣技に興味があるはずさ。それに自分の強さの為に利用できるものは何でも使う、それがレギだからね。」


「ふん。血は争えんというやつだろう。儂はその死精が我が国に危害を加えなければ何をしようと構わぬ。ここの設備も自由に使うがよい。」


そう言いアルフレッドはソファーから立ち上がり部屋を出ていく。


「今日付けでレギは騎士団の一員だ。そう伝えるといいだろう。そろそろ目覚めるはずだ、主の元へ行くといい。」


「おや、てっきりキミは彼と話をしたがるとボクは思っていたのだけど?」


「私たちはまだやることがあるのでな。不肖の馬鹿弟子がこっちに乗り込んでくるらしい。面倒だが無視は出来ん。

そちらにはエヴァを向かわせる。色々聞くといい。」


ため息をつきながらエレノアと呼ばれた魔導士も立ち上がる。


「そういうことならボクはもう行くよ。またどこかで話そうじゃないか。」


ルクスはスッと消える。

そして帰るのだ、未だ何も知らず眠る主の元へと。



「ルクス!大丈夫だった?何もされてない!?それと...レギもこのままで大丈夫?」


そしてもう一人、自らの価値をまだ分かってない純粋無垢な精霊。

自らと主を心配する彼女に思わず笑みが零れる。


「ふふっ。大丈夫だよニア、ボクもレギもね。一先ずは安心していい、頑張ったね。」


ペタリと力が抜けたように座り込むニア。


「うわぁぁぁん。怖かったよぉぉ。けどレギかっこよかった...好き〜〜〜〜。」


そして呑気に寝息をたてるレギに抱きつく。


その光景にルクスは笑う。その笑みは底に秘めた願いへ向けたものか、あるいは愛すべき二人に向けたものか。


その真意は誰も分からない。



行き当たりばったり感はえぐいけど頑張って書いて行こうと思います。

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