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後に伝説となる英雄たち  作者: 航柊
第2章 学院生活編
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第四十二幕 死精騒動 part4

ギリギリになり申し訳ありません。




結界の中で決着が着こうとしている一方


「アルフェニス!これはどういう事だ。」


「どうも何もレギは結界の中だからね。どうしようも無いというわけさ。」


「貴様とアイリス様がいて破れない結界などある訳が...いや、これは...。」


そこまで言いかけてシリウスは冷静になった。目の前に広がるこの結界は普通のものでは無いからだ。


「これは...断絶結界か?」


「正解よぉ。対象の二人を異世界へと隔離する特殊固有結界。これは厄介だわぁ。」


じっと結界を眺めていたアイリスが口を開く。


「アイリス様でも破れないと...?」


「結界を壊すことは出来るわぁ。まあそれも大変だけれど。問題は私が壊してもあの子は異世界に隔離されたままってコトねぇ。」


やれやれと言った感じに説明するアイリス。


「そういう事だよシリウス。残念ながら我々に出来ることは少ない。こうして彼らを監視することぐらいさ。」


「あの馬鹿はまだ生きておるのじゃな?アルフェニス・ジェラキール。」


「来てくれてありがとうリオナ君。もちろんまだレギは生きているよ。レギに何かあれば私はこんなに優しくないさ。」


「それにしても少し解せないわぁ。断絶結界の使用者はただ一人、マクスウェルの娘。副団長とはいえまだまだ力不足。本来なら部隊長クラスを送り込むはず...。ねぇグレイス?」


そう言いアイリスは騎士達の奥、魔導樹を切り倒しそこに腰掛ける男を見据える。

その男は身の丈程の大剣を片手で持ち上げ立ち上がる。


「こっちにも事情ってのがあるんすよアイリス様。」


「ねぇ、グレイス。遊んであげるからどういう事情か教えてくれないかしらぁ?」


腕に魔力を少し集中させるアイリス。


「おっと...夜のお誘い以外は御遠慮願いたいっすね。まあどうしてもっていうならやりますけど。」


「私は若い子しか興味ないわぁ。アナタみたいな筋肉ダルマはお断り。」


くだらない軽口を言い合いながらアイリスは突如ノーモーションで基本六属性で構成された魔導球をグレイスに投げつける。


カレンとリオナが思わず目を見開く。

それもそうだ。目の前で軽く発動されたのは"世界"系統の魔法、ついこの間授業で学んだばかりの超高難度の複合魔法なのだから。

とてもこんな所で使用していい魔法では無い。神域たるアイリスの実力が垣間見えた。


だがその魔法を見た瞬間の騎士達の動きは洗練されていた。飛んでくる魔導球を囲うように一瞬で陣形を固める。


そしてその中心に立つグレイスはその大剣を振りかぶり、なんと魔導球を斬り裂いたのだ。


「なっ!?」「バカな!?」


リオナとカレンは揃って驚愕の声を上げる。

高密度の魔導球を斬るなど目の前で目撃しなければ到底信じられないだろう。


切り裂かれた魔導球を中心に凄まじいマナの濁流が巻き起こる。


そして二人は当然襲い来るはずの衝撃に備えようとした。


だがそれをアルフェニスが制する。


「何をするのじゃアルフェニス!あれ程の魔導球が炸裂すれば何が起きるか知らぬ貴様ではあるまい!」


「リオナ君。君は一度視ておくといい。この国を守護する王国魔導騎士団の力を。」


「なんじゃと...?」


リオナの視線の先。

騎士たちはそれぞれ属性の魔力を纏う。

そして詠唱を重ね、一つの魔法を作り上げていく。


「これは...。」


「間違いないのじゃ。これは詠唱を繋げる大結合魔法(フュージョンスペル)。」


カレンとリオナは組み上げられる魔法を固唾を飲んで見守る。


"火 水 風 雷 始源の四 祖国を護りし守護霊よ

全てを鎮めよ

光 闇 根源の二 我らを護りし双璧 ここに顕現せよ"


"六の輝き 一つに集いて円環となせ

総てを護り 力巡りて 総てを貫け"


六花(ユニウス)剣盾(シュバリエ)



魔導球を覆うように六属性を彷彿とさせる六つの盾が出現しそれぞれが対応する属性の魔力を吸収する。

訪れるはずの衝撃は全て騎士たちの召喚した六色の盾に吸収される。



あまりに美しい連携に思わず見蕩れてしまうリオナ。自ら呪いと称する程に愛した魔法。その一つの完成系を目にして思わず立ち尽くす。


だがまだ終わりではない。


「まだ終わりじゃないっすよリオナ様。この魔法は盾にして剣だからな!」


"集結(フルコレクト)"


グレイスが大剣を掲げ高らかに宣言する。

魔力を分散、吸収し、そして再び集束させる。

それこそ【六花ノ剣盾】の真髄。


「ほーらお返しだ!」


グレイスは六属性の輝きを纏った大剣を上段に振り上げ思いっきり地面に叩きつける。


魔導球の持っていたエネルギーがそのまま込められた斬撃が地を這いリオナたちに向かってくる。一つの世界と同じ力がリオナ達を襲う。



その美しい魔法にリオナは一歩も動けないでいた。何故だろうか、不思議と動く気は起きなかったのだ。己の命を刈り取る一撃が迫ってきているのに。額を一つ汗が伝う。



その予感はすぐ現実となりリオナは思い知る。実際に体験するのと知識との差を、高位魔導士達が魔法をぶつけ合う、本当の戦いというものを。


「ほら、ジェラ。防ぎなさいな。」


アイリスは当然とばかりにジェラに命令する。そして隣に立つシリウスもそれを当然のものとして受け入れている。それが普通だと言わんばかりに。


「昔から相変わらずですねアイリス様...。まあさすがにあれはまずいので防ぎますけど。」


「リオナ、カレン、貴重な機会だ、よく見ておけ。闇魔法の極致を。」


シリウスは告げる。自らを超える存在だと信じる妹とそれに寄り添うと決めた者に。

初めからこうするつもりだった。二人が足でまといになることは分かっていた。それでも連れてきたのは二人に景色を見せるため。

まあカレンは敵に塩を送る感じになるのだが...。



アルフェニスが瞬時にマナを集め魔力を練り上げる。

認めるのは癪だが魔法のコントロールにおいてアルフェニスの右に出る者を私は知らない。それこそアイリス様、そしてティア様よりも間違いないなく上なのだ。

そんな男が放つ最高峰の魔法。いい経験になるだろう。



"闇より黒く全てを奪いし無の烈光

目覚めの時は今 我はその鍵を開く者

空を覆いし漆黒よ 祈りにて生ずる黒雷よ

我が前に渦を巻き 我が敵を討ち滅ぼせ

其れは星々の光を呑む 救済たる死

終焉(おわり)へと我を導きたまえ


この身は闇へと捧げしもの 我が名の元に希う


さあ開け そして世界を壊せ 崩壊の星よ"


星焉(ブラックホール)・小】



アルフェニスが両の掌の間に小さな崩壊の星を出現させる。

それはアルフェニスが手を開けば魔導樹の森一帯を消し飛ばしかねない程の力を秘めた魔法。

だがそれをアルフェニス・ジェラキールは完璧に制御する。隣に立つアイリス、シリウスの髪ひとつ揺らすことの無い完璧なコントロール。


そして襲い来る斬撃は音も衝撃も全てその掌に吸い込まれて消える。その魔力痕すら残さずに。


「へっ。流石だなアルフェニス・ジェラキール。」


「ふーやれやれ。君がアイリス様を煽るからだよグレイス。」



パタンっとカレンが座り込む。腰が抜けてしまったのだ。目の前で繰り広げられた魔法の押収、その凄さに。


リオナもまた汗が止まらないでいた。

アルフェニスは相手が七人かけて防いだ魔法を一人で何とかして見せたのだ。ひとつ間違えれば敵味方を無に帰す魔法を使いながら。それを平然と、そして当たり前のように行使するアルフェニスの実力に。それを信じるアイリスとシリウスに、リオナは戦慄する。




「んで?まだやります?俺たちとしてはシリウス様はともかくリオナ様に怪我させる訳にはいかないんで引いてもらえると助かるっすけど。」


「うちの生徒が囚われてるのに引ける訳が無いだろう。それに気遣いは不要だ。うちの生徒に怪我はさせない、アルフェニスが護るからな。」


「え?私?」


「ふん!自分の身ぐらい自分で守れるわ!おいカレン!いつまで座っておるのじゃ!」


「う、うるさい!お前もふらふらでは無いか!」


「動けるなら下がっていろ。そして目に焼き付けておけ。今後のお前たちのためにな。」



そう言いシリウスは光剣を作り出す。

アルフェニスもどこからともなく剣を抜く。


「やれやれ。あんたたちを相手にしないといけないうちが一番のハズレっすね。」


グレイスの一言に合わせて周りの騎士たちも抜剣する。



一触即発の空気が流れ始める。



だが開戦の狼煙は上がることなく事態は急に動き出す。


「これは...。また面倒ねぇ。どうやら終わったみたいよぉ。」


魔法を撃って以降結界を注視していたアイリスが口を開く。


その瞬間断絶結界が消失する。


だがその消えた後に人影はいなかった。

いるはずの勝者も敗者も。


「アルフェニス!!!どうなってる!」


シリウスの叫びより早くアルフェニスは自身の魔力感知を全開にし、恐るべき速度で空間支配魔法【レギオン】を起動し残された魔力痕から状況を把握しようと努める。

だがそれは空振りに終わった。



「ギルドの紋章はまだ生きてる。だが少なくともこの学院内には居ない。やられたね、これは転移魔法では無く特定人物の強制召喚だ。この魔法が使える人物などこの国には一人しかいない...。」



「恐ろしい人っすね、うちの大参謀は。んじゃ、仕事は終わったんで俺達も帰るぞ。」


手を振り現れた光の柱に消えていくグレイスたち。


学院中で光が立ち上がり各所で学院の魔導士たちを足止めしていた騎士たちが帰還する。




「テメェ...勝ち逃げは許さねぇぞ!!!」


「強かったぜ、アルザ。いつかはちゃんと決着をつけてやるさ。目的は達した、これ以上は互いの身が持たねえよ。」


ぼろぼろになり壁に背を着くアルザ。

そして左腕を焼かれながらも立ちながら去っていくのはデュナミス。


「レギを...殺したの?」


「ティナーシャ殿、彼は生きていますよ。それこそが参謀から下された本当の指令ですから。」


「む?、なら...いい?けどルーカス、次帰ってきたらお仕置。」


「おっと、それは恐ろしいことですね。けれど近いうちにまたお会いすることになると思います。」


それだけ言い残しデュナミスに続きルーカスも光の中へ消える。



次回 死精騒動決着編


次回騒動編終わらせたい...とは思っています。

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