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後に伝説となる英雄たち  作者: 航柊
第2章 学院生活編
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第四十一幕 死精騒動 part3

更新空いてすみません。


「好きに撃ち込んで来ていいよ。」



先程とは違う、相手は完全に受けの構え。


アルカディアを握る手に力を込めた瞬間に頭の中で声が響く。


『レギ、ボクがキミに力を授けてあげよう。』


『おいおいまた唐突だな。』


『キミへの贈り物の為に魔力を練っていたんだよ。これをキミに渡したらボクがコツコツ貯めてた魔力もスッカラカンだ。ちょっとギャンブルだけどね。』


『ほんとに大丈夫なんだろうなそれ...。まあ貰うんだけど。』


『当然だろう?まあ本当はゆっくり見極めてから渡すつもりだったんだけどね。ちょっと痛いけどまあ我慢してね。』


時間にして刹那の一瞬。


右眼に己のものではない魔力が集まる。


『これはボクたち死精(バン・シー)だけが扱える力。けれどボクはレギに使いこなせる資質を視た。だから授けよう、この世でただ一つの【死告眼(アイズ・サナトス)】を。』


ドクンッと心臓が鳴った気がした。

瞬間右眼に激痛が走る。

契約の時に感じた痛みとは比べものにならない鈍痛が押し寄せる。




少年に禍々しい魔力が集まっていく。

何度か見たことがあるから分かる。これは新たな魔法の誕生。少年は私と戦うために新たな一歩を踏み出したという事実に気持ちが昂る。


そして痛みに苦しむ少年を私は見守ることにした。鬼が出るか蛇が出るか...。

そっと私は剣を握る手に力を込めた。




灼けるような、眼を手で直接触れられているような痛みが襲い来る。思わず右眼を抑えてしまう。

だが徐々に魔力が収縮し共に痛みも落ち着いていく。




レギ...キミは死に触れる才能がある。

容易く死線を踏み越え死地に足を踏み入れる。ヒトとして致命的な欠陥であり唯一無二の特性。そしてそれは本来キミたちヒト種の持ち得ない才能だ。

果たしてそれが祝福(ギフト)となるか災厄となるかボクにだって分からない。だからこそボクはこの力をキミに送ろう。まだ見ぬ未知を感じさせてくれ。


秘めた思いを胸にルクスは笑う。


『さあ、開眼の時だ。死精の名の元に開け【死告眼】』



抑えてた手を退かし閉じていた右眼を開く。


視界がぶれる。照準が定まらない。

世界から色が消える。情報が流れ込んでくる。見える世界がこんなにも違うのかと。


一度、落ち着くために瞬きをした。




色の無い世界。そんな世界を飛び回るモノが見える。直感で分かった、これがマナなのだと。色のない世界にあってマナだけがまるで異物のように様々な色に輝き飛び回る。

視界の情報量が多すぎて目眩がしてくる。


その中でも黒く濁ったマナたちが線をなぞるのが視界に入る。



『無事に見えてるようでなによりだ。力の譲渡は成功だね。その線が死線だよ。死に伏し堕天したマナたちが形作る最期の楔。それを断ち斬ることで万物に死を通告する、それがボクたち死精さ。』


『これがお前の見えている世界か...。そしてあいつは...』


ありとあらゆるモノにマナは宿っているのが分かる。初めて世界の一端に触れた気がした。それと同時に妹の凄まじさを垣間見た。

色の無い世界で見えるマナですらとてつもない情報量である。だが妹であるテレジアは色のある世界でマナを認知して生きているのだ。その凄まじさを自ら体験することで思い知る。


『マナはその身に宿した魔力を失うと死に伏し堕天する。それ以外でマナが死ぬことは無い。だがこの眼を持つ者だけはマナを殺すことが出来る。そして殺したマナを"喰らう"ことで力を得るのがボクたち死精さ。』


『それが【(エクリプス)】の正体か。』


『流石だねレギ、理解が早くて助かるよ。そしてキミがその眼を手にしたことで条件は整った。ボクがレギを通じてアルカディアに【蝕】を纏わせる。そしてマナが起こす奇跡、魔法を喰らうことで魔力を無理やり取り込むことが可能になる。これがキミに残された道だ。』


魔力が無いのならば喰らえばいい。

奇跡を喰らい、足掻くのだ。


『なるほどな...。だがそんなに都合のいい能力では無いだろ。代償はなんだ。』


『ははっ。こんなに凄い力なのに自惚れないのがキミらしいよ。まあだからボクはキミを選んだんだけどね。そうだね、リスクはまあざっくり言うと二つだ。』


一つ、マナから完全に拒絶され魔法力が自然に回復しなくなる。魔法力を回復させるためには魔法を喰らわなければならない。


二つ、魔法を喰らう際に喰らう魔法に応じた"痛み"を伴うこと。(例として炎の魔法を喰らう時は灼けるような痛み。) この痛みは幻痛ではあるが魂に刻まれる為防ぐことは不可能。


『まあ当然のリスクだな...。けど痛みなんかじゃ俺は止まらない。本当の痛みは弱いままでいる自分だからな。ニア、喰らった魔力の管理は任せる、いけるな?』


『任せて!溢れないようにコントロールしてみせるわ!』


『それとルクス、魔法をただ斬る事も可能か?』


『もちろん。ただ魔法の死線...核となるマナを斬るのは難しいけどね。』


『可能ならなんとでもなる。斬れるようにすればいいからな。』


斬れるまで剣を振り続ければいい。それだけだ。これまでも、これからも俺に出来ることは剣を振ることだけだから。


『なら行くか、新しい俺たち三人の初陣だ。』


『さっき負けたけどね(笑)』『つ、次は負けないわ!』


冷静なルクスと焦るニアに思わず苦笑しながらエヴァへとアルカディアを構える。


魔力も既に尽きかけているが不思議と心は万能感に包まれていた。それに細かいことを考えるのはやめだ。


その昂る心にそっと蓋をする。

脱力と共に深く息を一つ。

死線など一本足りとも見えない。エヴァは強い。なれば俺も己が身を一つの剣と化せ。憧憬を見据えろ。感覚を研ぎ澄ませ。




「凄い。」


あれは魔眼だ。少なくとも私の知識には無い魔眼。もしかしたらオリジナルかも...。

表に出さず感心していると少年、レギの纏う空気が変わった。これ程真っ直ぐな剣気を受けたのは初めて。


少しだけ遊び気分だった心を落ち着かせる。


この子は一人の剣士だ。


レーヴァとテイン、そして身体に薄く魔力を流す。


そして少年、レギが動き出した。




自分の力を試したくて仕方がない。

風域を発動し、己を信じて一歩踏み出す。


「ルクス!お前を信じる!」


「ははっ。キミは最高だよ!」



ルクスを信じて振るう。

ヒイラギ流 一の型 月蝕を。



歓喜、喜び、高揚。

全てを感じながらボクは振るおう。

世界に仇なす死精たる力を。


その黒い衝動を思うがままに、心の赴くままにレギの振るうアルカディアに乗せる。


もう一人、レギを慕い、序列一位の座を譲った愛すべき妹のようなセンパイを信じて。




内心汗びっしょり。けど私がやらなきゃダメ。

二人が信じてくれたんだもの!



精霊には生まれ持ったマナの色がある。

火は赤、水は青等の属性に応じた色が。

精霊はその持つ色の属性に絶大な魔法適正を誇る。逆に得意属性以外の魔法ではあまり力を発揮しないのだ。


稀に2色以上が合わさった精霊も存在する。

例えば死精たるルクスの色は白と黒が混ざった灰色である。



そしてニア、精霊の中でも希少な物魂霊(アニマテリア)の持つ色は無色透明。何ものにも染まりうる無。

つまり魂の色を変えることが出来るのだ。主や宿す魔法によって。

だが悪く言えば器用貧乏、得意属性が無い為に主たちの技量に左右される。

だが良く言えば無限の可能性を持っている。

主と共に成長し互いに高め合う事でどこまでも強くなれる。英雄成りうる可能性を秘めているのだ。



流れ込んでくる魔力をニアは必死に制御する。主たるレギの器から溢れないように。

丁寧に、慎重に。刹那の一瞬がまるで数時間にも感じる程に。


そして少しずつアルカディアを新たな魔力が覆う。

白銀の刀身をなぞるようにその縁を黒く染め上げていく。



三人の力が合わさりレギの技は一つ上の段階へと昇華される。


本来魔力を纏うヒイラギ流、そしてレギたちが辿り着いた新たな領域。


相手のマナを喰らい、自らの糧とする斬撃。


新しい一の型の誕生である。


(ルナ)(エクリプス)




その禍々しくも美しい斬撃を私はしっかりとその眼で捉えていた。

そして完璧に受け入れる、その確信と共に剣を振るおうとした。

だが剣と剣が触れ合う瞬間にそれは剣士としての本能がそうさせたのか...

瞬時に私はレギの斬撃を受けるのではなく受け流したのだ。



カウンターでアルカディアの腹をレーヴァで叩きそのまま滑らすことで無理やり斬撃を逸らす。

火花が散り再び互いに距離を取る。



そんな中でエヴァは驚嘆の感情に支配されていた。


何が起きたの...?レーヴァに纏わせた魔力が丸ごと削られた。アレは一体何?

レギの剣とレーヴァがぶつかる瞬間に纏わせた魔力がまるで奪われたようだった。


それにあの剣技......。



俺の右眼は確かに視た。

レーヴァを覆っていた緑色のマナをアルカディアに纏った【蝕】が喰らったのだ。


それは俺の身体に流れ込んでくる。


そして【蝕】の代償が発動する。


「ぐぁぁ...ァァァ...!」


身体に無数の細かい刃で切り裂かれたような痛みが迸る。


「はぁ...はぁ...思っていたより...キツイな。」


なんとか倒れるのを防ぐ。


『大丈夫...?レギ...。』


『やっぱりちょっと無理があったかな。キミの器がもうギリギリだ。さすがに急すぎたね。』


『だけど手応えはあった。エヴァは俺の剣を避けたしな。なら、やるしかないだろ。』


痛みに襲われながら俺は笑う。俺たちの剣は高みに届きうる可能性を見たから。

痛がってる場合じゃない。この痛みも喰らって俺の糧とするしかない。




「ねえ...その剣技、誰に習ったの?」


じっと手に持つ剣を見つめていたエヴァが口を開く。


「この技には師はいない。幼い俺と共に置かれていた書物から学んだだけだ。」


「...!そう。ありがと。話は終わり、本気で斬るね。」



瞬間魔力が弾ける。


殺すなら全霊を持って。それが私の矜恃。

憐れむように、紡ぐように詠唱を始める。

あれこれ悩んでも無駄。私はデュナミスみたいに賢くないしね。

得体の知れない斬撃も、理解を超えた死精も関係ない。圧倒的な速さで斬ればいい。それが私の剣なのだから。



"右に雷刃 左に風刃 天津神の前に平伏せ

翔けろ 疾く奔れ 全てを超えて"


疾風刃雷(イシュクル)





色の無いはずの世界を覆い尽くす程のマナの奔流に耐えきれずに俺は右眼を閉じてしまう。


エヴァを髪が少し逆立つ程の魔力が覆う。

荒ぶる魔力の中心は二つ。

その手に握るレーヴァとテインである。


雷と風が混ざり合い異様な音を立てている。


やばいと、右眼で見なくても分かる。

今俺は死地に立っているのだ。




『おいルクス、どうすればいい。』


『ねえ!あれはまずいわ!あんなの受けたらレギ真っ二つよ!?せっかくレギと一緒になれたのに...!』


『んー、まあやることは一つさ。斬るしか無いよ、剣の死線をね。ただそれを成功させてもキミが助かる保証は無い、無茶をするからね。』


不安がるニアを他所に冷静なルクスに俺は頼もしさすら覚える。そう、こいつは俺が死ぬなんて微塵も思っていないのだ。ならそれを信じよう。なんたって俺が契約したのは死を司る死精なのだから。


流れてくるルクスの思念を読み取りその方法を知る。さすがに死ぬかもなぁとさっき信じたばかりなのにそんな思考が頭をよぎる。


だがそれでも覚悟を決めた。



『やるぞ。俺を信じろ。』


『うん。私の魔力も全部乗せるわ!やっちゃえレギ!』


『やれるさ。ボクはキミを選んだボクを信頼しているからね。』



ふーっと。一つ息をして俺は左眼も閉じる。

視界を0にすることで心を落ち着かせる。

やるべき事の単純化、ただ、それだけに意識を向ける為の集中。昔から剣を振るう為に心掛けてきた心の有り様。


そして俺は眼を開けた。

ルクスから与えられた【死告眼】を宿した右眼のみを。


眩いマナの奔流が視界を埋め尽くす。凄まじい情報量に脳が悲鳴を上げる。

だがその悲鳴を無視してただ眼を凝らす。

そして見据える。目的のものだけを。




「行くよ。さよなら。」


その一言と共にエヴァの姿が掻き消える。いや、消えたのではない。跳躍したのだ。後方に、凄まじい速度で。


そして深く腰を落とし地を蹴った。


音を置き去りにしてエヴァは翔ける。

速さ=力を体現するべく。


レーヴァとテインを交差するように振るう。

将来有望であろう少年の命を刈り取る為に。



あらんばかりに見開かれた右眼でエヴァの姿を追う。血管が千切れ眼が充血し血の涙を流す。だがそんなものを意にも介さない。


今を視るだけでは防げない。なら未来(さき)を視るしかないだろ!


『よく言った。』


ルクスの声が響く。瞬間スローモーションのようにエヴァの剣閃の通る先が視えたのだ。


極限の集中にある俺は色の無い世界で見逃さなかった。エヴァの持つレーヴァとテイン、それに走る極小の赤い線を。


真っ直ぐ、全ての景色を置き去りにして俺はただそれを目掛けて剣を振るう。


魔力を喰らい、己の糧とするのでは無く、魔法の破壊に特化し付与を剥がす二の型。


(ソル)(エクリプス)】を。

毎週頑張って更新します。

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