第四十幕 死精騒動 part2
valorantの世界大会が熱くて更新遅れてすみません。
ヒトは些細なきっかけで変わったり成長することが出来る。
そのきっかけはいつでもそこら中に転がっている。
だが我々は愚か故にそれに気づくことが出来ない。
そのきっかけを見つけられる者こそが天才と呼ばれるのではないかと。
私は娘にそう教えられた。
ナルヴァ・X・マクスウェル
凄い一撃だった。いや、二撃か...。
それになんて言った?話をしよう?
思考が追いつかない。
それより何より師匠に言われた初撃を防げという決まりを守れなかった自分への落胆を感じる。
一撃目を防いだ時正直俺は喜んだ。
間違いなくこの学院に来る前では到底防げない、師匠との対人、対剣戦闘訓練の成果が確実に出たから。
けれど油断、そして驕り。
叩きつけられた二撃目が剣ではなく身体を狙われていたら...
今頃俺はここにはいないだろう。
そんなさなか世界の全てが歪む。
見える景色は変わらない、目に入ってくる情報に違和感は感じない。だが何かおかしいのだ。だが目の前の女騎士が本物なのは間違いない。周囲の感覚がなくなる。まるで世界から俺と女騎士だけが取り残されたように。
これは魔法だ、それも結界魔法。ディアボロスに所属してから毎日のように使われる魔法故に魔法の種類を理解する。
そして女騎士は俺の手を離れたロングソード、そして未だ鞘に納まったままのアルカディアのアルカディアに手を伸ばそうとする。
そう知覚した瞬間に魔法力の減少を感じた。
未だ立ち上がれない俺を背に護るように二つの影。白と黒の髪を持つ互いが対となるような少年と少女の姿があった。
「レギは私が守るんだから!!!手は出させないわ。それとこれはダメ!そ、そっちはまああげてもいいわ。」
「キミの狙いはボクだろ?それにキミもレギの剣に興味があるならもしかしたらボクらは仲良くなれるかもよ?」
ニアはアルカディアを抱えルクスは伸ばされていた女騎士の腕を掴む。
断絶結界は無事発動した。
これでこの子と私の二人きり.....なはずだった。
私はうきうきで剣を見ようとした。私は戦う相手の剣を見るのが何より好きだった。
最初は気が付かなかったがこの子は二つの剣を持っていた。私の剣を防いだ剣ともう一本。
よくよく見るともう一本の剣からはえも言われぬオーラを感じる。
気がつけばそれに手が伸びていた。
だがそれを手にすることは叶わなかった。
伸ばした手は捕まれ見たかった剣は渡さないと言わんばかりに抱えられる。
二人きりだったはずの世界への侵入者
いや、侵入者ではない、そういえば最初から居たのだ。人ならざる者、マナの化身、精霊だ。それも2匹
死精に腕を掴まれた。反射的に斬ろうとしたがその言葉、そして剣を抱えた精霊をみて私はその動きを止める。
その精霊の纏う雰囲気は私が興味をもった剣と同一のものだった。即ち導き出される答えは一つ。
「あなたまさか...剣霊?」
「そうよ!何か悪い!?」
ニアはよりギュッとアルカディアを抱きしめる。
「そう、ならいい。大切にされてるのね。」
凄い。私は剣霊がどういう存在か誰より知ってる。誰より聞かされてきたから。
この少年はこの剣を振るい続け、この剣を大切に扱い、この剣と共に生きてきた。それを私は理解した。
だから手を伸ばす。
「させない!!!」
「いや...ニア、大丈夫。」
"我らを包み 我らを癒せ"
【傷断結界】
温かい。俺を斬りに来たと言っていたのに俺を癒す。いや、まあもう斬られたんだけど...ほんとによく分からない。
けど身体から痛みが引いていく。ガンガンなってた頭痛が引いていって冷静になる。
「...ありがとうございます。」
何故か自然に言葉が出ていた。
その言葉に女騎士はまさか礼を言われるとはみたいな感じに目を見開く。
「敵に礼をするなんて不思議な子。」
「敵でも味方でも関係ない、施しには礼をする。我が家のルールだ。」
「そう。なら礼は口ではなくあなたの振るう剣を見せて。まあその後斬るんだけど。」
そう言い女騎士は距離を取る。
俺も立ち上がりロングソードに手を伸ばそうとしたが...。
「ねえレギ...。」
不安そうに、けれども強い決意をたずさえたニアが服の裾を掴み此方を見上げる。
彼女が抱くアルカディアにほのかに魔力が宿り始めた。
「私がレギの力になる。だから目に物見せてやって!」
抱いていた剣を俺に渡しニアは光となってアルカディアに吸い込まれていく。
そしてニアは己が信じるままに言葉を紡ぐ。
誰よりも長く、己よりも長く主と共にあった自在に抜くことの出来ない不便な剣に向けて。
「応えなさい、アルカディア!打倒すべき敵は今、我らが前。なれば我らは一心同体。一振の剣たらん。」
ニアの声が響く。俺の奥底、魂の隅々まで。
「ありがとう、ニア。」
全てを信じてアルカディアの柄を握り抜き放つ。
普段はピクリとも動かないアルカディアは驚くぐらい軽かった。
その白銀の刀身は魔力を帯びて淡く輝く。
今なら踏み入れることが出来ると、俺は確信を得た。
ヒイラギ流剣術、その真髄へと。
本来なら魔力を纏う型、今までの自分には出来なかった型。
「私の見込んだとおり、いい剣気。しかもその剣.....私のと似てる。」
そう言い女騎士は双剣を抜き放ち左手で正眼に構え右手は逆手で握る。一部の隙もない構えだ。
「「凄い....。」」
俺とニアの声が重なる。
白と黒に輝く美しい双剣。さぞ名のある名剣だろう。だがそこではない、そんな名剣が霞んで見える程に使い手たる女騎士の構えは洗練されていた。俺はそれを美しいとすら思った。師匠たるアシュレイとはまた違う、まるでその身が一振の剣であるかのような...。
「レギ。見蕩れるのは構わないけど心が乱れてる。これじゃニアが嫉妬してしまうよ。」
「べ、別に?凄いものは凄いし?嫉妬なんかしてないもん!」
「いや...ニアも凄いって言ってたろ...。まあでもそうだな、俺達も負けてないさ。だから俺を選んだんだろ?ニア。」
「...!そうよ!私たちは最強なんだから!ルクス!あんたも手を貸しなさい!」
「やれやれ、センパイに言われちゃ仕方ないね。」
肩を竦めながらルクスも光となって消える。
「レギ、ボクがキミの眼になる。信じて剣を振れるかい?」
「そんなの聞くまでもないだろ、当然だ。」
両手でアルカディアを握り正眼に構える。
一息深く深呼吸をし宣言する。
「ギルド ディアボロス戦闘員。ヒイラギ流、レギ。」
「王国魔導騎士団副団長、エヴァ。来なさい、あなたの剣、全て受け止めてあげる。」
相対するは二人の剣士。
いや、三人で一人対一人だ。
短め続きます...




