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後に伝説となる英雄たち  作者: 航柊
第2章 学院生活編
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第三十三幕 精霊召喚part1

1日遅れました。



吹き荒ぶのは割れんばかりの怒りが込められた吹雪。

スローモーションのように凍りつく執務室を俺はただ眺めるだけしか出来なかった。


「全くノックのひとつも出来ない子が多いわねぇ。もう少しでご馳走を頂けたのに惜しかったわぁ。」


その言葉を最後に俺の意識は完全に闇に落ちる。



「な、何をやっておるか貴様!!!」



全てが凍りついた執務室の中でリオナの激昂が響き渡る。

その言葉の矢先はこの凍てつく中で半裸でありながら何食わぬ顔で哀れな末席を膝に寝かせる神を冠する魔導士に向けられていた。


「ナニって何の事かしらぁ?王女様は変な想像でもしちゃった?」


「何じゃと!?」


ニヤニヤとそう返すアイリスに思わず顔を赤らめてしまうリオナ。


「何をしてるかーはリオナも同じ、氷漬けよくない。」


「そうだよリオナ君。仮にもここは私の部屋なのだけれど...。それにアイリス様を諭そうなんて100年掛かろうと無理な話だ、諦めた方がいいよ。」


そう言いながらせっせと氷を溶かし始めるティナーシャとやれやれと頭を振るアルフェニス。


「それとアイリス様。さすがに生徒を美味しく頂こうは見過ごせませんよ...。それにその子は私のものです。」


続けて少しばかり語尾を強調しそう言い放つ。


「あらあらぁ。アナタのそんな顔久々に見たわぁ。興味は尽きないけれどアナタから奪うつもりは無いから安心しなさいな。ほんのお遊び。」


「神聖な学び舎を汚しおって。貴様の様な者が神域とはがっかりじゃ。」


不満そうに口を挟むリオナ。

だがそんなリオナをアイリスは凝視する。


「ふむふむ、アナタ処女ねぇ。恋も知らない可愛い少女なんて可愛いじゃない。」


「なっ!そんなもの今は関係無いじゃろうし妾にはそんなもの必要ないわ!」


「一つ大事な事を教えてあげる。恋をして、愛を知りなさい。愛無き者が頂に至る事は無いわぁ。当代最高の魔導士として保証してあげる。」


声を荒らげるリオナを見てくすくすと笑いながらそう答えるアイリス。


「...。」


リオナは先日の姉の言葉を思い出していた。

そしてアイリスの言葉もまたリオナの心を揺らすのは事実。


「それで一体何が変わると言うのじゃ。」


「それは分からないわぁ。」


「それでは答えになっておらん。」


「そうねえ。答えはひとつではないの。人の数だけ愛の形は存在する。アナタもいつかそれを知ることになるわぁ。」


それ以上の問答は不毛に感じたリオナはその白い髪を手で払いながらくるりと振り返る。


「アルフェニス・ジェラキール、貴様はどうなのじゃ。」


「どうとは?」


「はぐらかすでない!貴様のそれは嫌いじゃ。貴様も色恋沙汰が魔法に必要だと、そう思うのか?」


「それは分からない。」


「では!」「少し、続きをいいかな。」


「私は恋をすることが魔法の上達に繋がるとは思ったはいないよ。けれども私が今ここにいるのはかつての師に恋をしたからだ。彼女に認められたくて、隣に立ちたくて研鑽を積み私は超越へと至った。まあその恋が叶うことは無かったけどね。

師曰く、恋とはヒトの本質なのだと言われたよ。ヒトは何かに恋焦がれなければ生きては行けないのだとね。リオナ君、君にとっての魔法のように。」


「そうねぇ。アナタは魔法に呪われてるのではないわぁ。魔法に恋をしているの。狂おしい程にね。」


その言葉はリオナに衝撃を与える。


「それでも妾には理解など出来ぬ...そんなもの...分からないのじゃ。」


「そんなことは無いよ。シリウスも言っていただろう?君にはこれからゆっくり自分を見つめ直して変わっていく、そんな時間の中で知っていけばいい。」


「ん。氷溶かし終わった。」


3人の会話の中せっせと氷を溶かしていたティナーシャがそう告げる。


「ついでにこの子も起こす。」


"歓喜の朝 祝福の光"


【ソル・レヴェンテ】


ティナーシャはてくてくとアイリスの膝で眠るレギに近づ魔法を唱える。

暖かい光がレギを包む。




微睡みの中で俺は薄く目を開ける。

目に入ったのは美しい白銀の髪。


「綺麗だ。」


思わずそう零してしまう。

だがその返答に帰ってきたのはキンキンに冷えた氷水だった。

意識が一気に覚醒する。


目覚めて周りを見渡して状況を察してからの行動は早かった。


そう 土下座である。


「すみませんでした!!!」


土下座しながらいや、俺は悪くなくね?と思ったがチャームの発動効果を思い出して頭痛がしてきた。


「よい心がけじゃのう末席。ほれ、何をしておったか説明してみるがよい。」


明らかに声に怒気を含ませてリオナが問いただしてくる。ほんの少しだけ顔が赤いのは気の所為だろうか。


だが俺の頭は回っていなかった。そもそもなんでこいつがいるんだ?ここはディアボロスの執務室だよな?状況を理解はできたが整理は出来ていない。


「えっと...なんでお前がここにいるんだ?」


「そうじゃのう...哀れな末席に手を貸して欲しいと友たちから頼まれたのじゃが...。どうやら神域様に取り入ったようであるしな。妾は帰るとしようか。」


「リオナ、いじめだめ。多分悪いのアイリス様。」


「あらあらぁ。酷い言われようだこと。」


「貴女が魅了(チャーム)を使ったのは分かってますよ...。」


「それはそうだけどぉ、先に私の着替えを覗いたのはその子だわぁ。」


アイリス様がウィンクを決めながらそう告げる。


「ほほう。神域様の着替えを覗き見るとは偉くなったものよのう末席。」


アイリス様の追い打ちによりさらにリオナの言葉が強くなる。


「いや...あれは事故みたいな...いや、俺が悪いです。」


言い訳を思いつかない訳ではなかったがどう考えても最初の原因は俺なので諦めて頭を下げる。


「まあいいわぁ。私も少しばかり退屈していたから興がのっただけ。許してあげなさいな。それよりもレギ、アナタの話を聞かせて欲しいわぁ。」


「そうだね。まあなんとなく察してはいるけど君の口から話を聞きたい。」


「ふん。妾はまだ許してはおらんがな。聞くだけ聞いてやる。それと貴様、さっさと服を着るのじゃ。」


「よしよししてあげるから落ち着いて?」


優しいティナーシャがその容姿も相まって天使のように見えてくる。

てかこの人こんな感じの人だったんだな...

それにアイリス様は指パッチンしただけで服を着ていた。どうやら俺は完全にこの人の手のひらで転がされたらしい。

だが今はそんなことは後回しだ。やらなければならない事があるから。


俺は立ち上がりマスターを、アルフェニスを正面に見据えて頭を下げる。


「妹が俺に光を、可能性をくれました。俺はそれを掴み取りたいです。師、アシュレイと同じように精霊魔法の道へ進もうと思います。」


「仮に精霊を呼び出せたとしよう。けれど君は魔法力が少ない。それが精霊と正式に契約する上でどういう意味を持つか理解しているかい?」


知っている。何度もギルドの図書館で読み返したから。


「分かっています。魔力の代わりに差し出すもの、それは自らの身体。」


命を魔力に変換しそれを捧げ自らの身体に精霊を宿す

代償召喚(サクリファイス)


それが唯一の道。そしてもし契約を違えればその部位は代償として破壊される禁忌に分類される精霊召喚である。


「それでもやるかい?」


アルフェニスはリスクを知りながら微笑む。

まるでこちらの心を見透かすように。


そして俺もまた笑うのだ。

元よりありもしない道、先も見えない暗闇を歩くより他はないと俺も、アルフェニスも理解しているのだ。


「そんなこと俺より貴方の方が理解しているでしょうに。もちろんやります。」


「よく言い切ったわぁ。私が立ち会ってあげる。もし悪精(イヴィル)が出たら私がなんとかしてあげる。」


「それでリオナ君たちは精霊召喚に関して力を貸してくれるみたいだよ。」


「私の国に伝わる特別な精霊魔法。けど精霊と仲良くなれるかは君次第。」


「元来精霊は召喚の際に名を持って生まれてくるのじゃ。それを精霊との合意の元新たに名付けを行うことでさらに深く精霊と繋がることが可能となる。他言したら許さぬぞ、妾の楯、【幻氷(アイシリア)神楯アイギス】は精霊に制御させておる。妾のアイシスにな。」


そう言うとリオナは己の腕輪に魔力を込める。すると腕輪が白く輝く。そしてその光から現れたのは薄氷の如き青白い髪を持つ精霊。リオナを後ろから抱くように出現する。


「なんだ、戦わないのね。久々の現界だったのに期待して損しちゃったじゃない。

あら、その子は前戦ったわね。私のリオナには勝てなかったみたいだけど。」


「久しいのうアイシス。中々呼び出せんですまんとは思っておる。」


「ほんとよ全く。私が一途で良かったわね。」


「ん。アイシス、お久。」


「あら〜ティナじゃない。相変わらず可愛いわね。」


「これがリオナ君の精霊か、君に似て美しいね。」


「んー私は精霊に好かれないからこーいうのはよく分からないわぁ。」


「これはこれは凄い魔導士が揃ってるわね。ありがと優男さん。けど私のリオナに色目を使ったら許さないから。」


「安心せい。そんなことにはならん。」


「精霊に名を付ける...か。」

俺がそう零すと


「名は体を表す。だから君の想いを込めて名付けをするの。」


ティナーシャがすかさずそう答える。


「まあ末席に相手が心を許せばの話ではあるがのう。」


腕を組みながらリオナがそんなことを言ってくる。図星なのが俺の心に確実にダメージを与えてくる。


「じゃあ皆ついておいで。他のギルドはどうかは知らないが我がギルドには精霊召喚部屋が存在する。そこに案内しよう。」


「そもそもマナが溢れるこの時代にわざわざ精霊を召喚する必要はあまり無いわぁ。マイナーなのよマイナー。」


「ん。精霊魔法は難しい、あまりオススメじゃない。」


「ティナ姉が言うならば説得力が違うのじゃ。」


「ティナ様?ティナ先輩?も精霊魔導士なのですか?」


「ん、先輩でいい。そう。私の魔法、【宝石魔法(エーデルシュタイン)】は精霊の力を借りてる。いつか君が強くなったら見せてあげる。」


その瞬間俺にはティナーシャの身に纏う宝石が光った気がした。


「さあここだ。」


辿り着いたのはギルドの最奥、レギも立ち入りが許されていない場所だった。


すると自然に扉が開く。そして1人のメイド服を身に着けた人物が現れた。


「お迎えに上がりました。主が奥でお待ちです。」


「やあバレッタ。元気かい。」


「はい、お変わりなく。アルフェニス様もお元気そうで。」


バレッタと呼ばれた女性はスカートの両端を持ち美しさすら感じる程の整った礼をする。

メイドにもかかわらず所作の端々に気品が見て取れる。

主と呼ばれた人物に対してまだ会ってもいないのに緊張を感じてしまう。


しばらく歩いていると不意にバレッタの足が止まる。


「主様、お客様をお連れしました。」


バレッタは何も無い空間に話しかける。


「ご苦労。」


虚空から声が響く。その瞬間にバレッタが膝から崩れ落ちる。元々薄暗い空間からさらに光が奪われる。


「大丈夫ですか!?」


先頭を歩いていた俺とリオナは飛び出していた。

俺は慌てて駆け寄り、リオナは条件反射的に楯を出す。

だが俺はバレッタの腕に触れ驚愕に染まる。


「ヒトじゃない...。」「何じゃと?」


目の前に横たわるバレッタは確かに先程まで俺たちと会話していた存在なのだ。だがこれはヒトでは無い。


「「これは...人形?」」


2人の声が重なる。

俺はばっと後ろを振り返るがそこにアルフェニス達の姿は無かった。


「リオナ、お前の魔力探知だとどうなってる?」


「今やっておる。じゃが期待はするなとだけ言っておこう。」


2人に更なる緊張が走る。


「ダメじゃ、何も引っかからぬ。とりあえず戻ってみるのじゃ。それでダメならまた考える。」


「そうだな...。置いていく訳にもいかないしバレッタさんは俺が背負おう。」


そう言いバレッタを抱き上げた時だった。


「ゴ迷ワクをオカけしまシタ。」


バレッタの首が180度回転しそう喋ったのだ。


「なっ!」「ひっ」


カタコトな声に思わず声をあげてしまう2人。俺は堪らずバレッタを離してしまう。

するとバレッタは先程と同じようにすっと立ち上がり何事も無かったかのように服を正し始めた。


「改めて、ご迷惑をおかけして申し訳ありません。主からの魔力供給が切れてしまいまして...。」



「あっはっはっ!これは傑作じゃのう。見てみいジェラよあの鋼鉄の氷姫が小娘のような声を上げおったぞ。」


「相変わらず趣味が悪いな君は...。」


世界に光が戻り気がつけば豪華という言葉が似合う部屋に俺たちは立っていた。

視線の先ではアルフェニスたちが優雅にティータイムをしているのが目に入ってくる。


「ん。この紅茶、美味しい。」


「そうねぇ、この茶菓子も気に入ったわぁ。」


ティナーシャとアイリスに至っては呑気にそんな会話をしている。


そしてその奥、アルフェニスの向かいに座る人物が指で輪を作りこちらをじっと見つめてくる。


「ふむ、確かにくっついておるわ。こんなもの我以外には見抜けぬじゃろうな。」


「だから君の所へ連れてきたのさ。まさかこんなに早くここに来ることになるとは思わなかったけどね。」


「はっ。どうせジェラの想定内じゃろうに。おいお前、こっちへこい。」


俺が返事をする前に身体が勝手にそちらへ向かう。またこれかって思ったのだが魅了とはまた違う何かだった。


その人物は俺を目の前に立たせるとさらに身体を隅々まで見つめられる。


「ほほう。これは面白いことになりそうじゃ。よいぞ、我が手を貸してやろう。

この"人形女王(ドールレイナ)"サテラ様がな。」


ピンクに紫が混じった髪を持つ少女が高らかに宣言した。



まだ召喚しません!!!

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