第二十九幕 魔法学α
休みが終わってしまう。
平和そのものと言える魔法学βとうってかわり魔法学αの教室は切迫した空気に満ちていた。
その中で天才少女たる私、テレジアちゃんは...
全てを諦めてニコニコしていた。
どうしてかって?
そんな質問天才少女の私からしたらちょちょいのちょい!
ベティ先生やお兄ちゃんたちが言ってることがなーんにも分かんないから!(ドヤっ)
お兄ちゃんが得意な複合魔法について話してるってのだけ辛うじて分かるけど他は呪文のような単語が飛び交っててよく分かんない。
だから私は諦めてマナとお話ししてみることにしたの。
--時は少々遡り魔法学α 教室
俺は事前に打ち合わせていた内容をシンと再確認し教室の前で別れる。
「じゃあ、君のが大変かもしれないけどよろしく頼むよレギ。」
「学ぶことは好きだし教えることでさらに身につくものさ、任せてくれ。」
シンが拳をそっと突き出し俺もそれに拳を合わせる。
だが教室に入り席を確認したとこで俺は驚くことになる。そして恐らく当事者であろう黒髪の少女に思わず声をかけていた。
「まさかあいつがいないとはな。一体どういう風の吹き回しか聞いてもいいかい?カレン。」
「おや、君はリオナと一緒が良かったのか?」
カレンはからかうようにくすくす笑いながらそう答える。
「からかわないでくれ。短い付き合いだがあいつがこっちにいないのがおかしい事ぐらい分かる。」
「まあ誰が見てもそう思うだろうね。
あいつにも最近思うところがあったらしくてな。少しは変わろうとしているんだ。けど君がシンと別れたように考えてる事は同じだろう。」
カレンはやれやれと言った感じに頭を振る。
「お見通しとはね。まあ使えるものは何でも使うべきだろ?そこはあいつも同じだと思うが。」
それにちらりと周りを見てもグランもケイと別れているようだし他にも同じことを考えてる生徒もいることだろう。
「ふっ、当然だ。それに...恐らくそれを意図して作られた規則だろうしな。」
「そうだろうな。まあいい、よろしくカレン。」
「ああ、面白いものを見せてくれることを期待しているよ。」
カレンとのやり取りを終え席に座る。
リオナがいないため先頭の席なのだがどこか落ち着かない。
それに背中に刺さる視線が痛々しい。だがそんなものは関係ない。魔法で劣る俺が座学ですら負ける訳にはいかないからだ。
持ち込んだ魔導書を読んでいると一人の生徒に声を掛けられた。
「あ...!おはよう...レギ君。」
大人しい印象の少女、エイルだ。
「おはよう、エイル。今日は眼鏡をしてるんだな。」
「う...うん。昨日...本読みすぎちゃって...目の疲労を軽減する眼鏡なの...。」
「それは便利だな。それによく似合ってるよ、より賢く見える。」
「あ...ありがとう...!」
エイルはボンっと幻聴が聴こえるぐらいに顔が赤くなる。
そしてその瞬間にドアが開け放たれ
「あー!!!お兄ちゃんはま〜たそうやって自然に!!! ダメダメ!エイルちゃんは多分純粋なんだから!」
騒がしいやつが乱入してきた。さては扉の前で待機してたんじゃないか?と疑うぐらいにはタイミングが完璧だった。
「いや、俺は普通に感想を言っただけだぞ?」
めんどくさいのでありのままを伝える。似合うものに似合うと言って何が悪いのだろうか。
「分かってない。分かってないんだよお兄ちゃん...!はぁ...何言っても無駄かぁ...。いや、よく考えたら女の子を褒めるようにって言い聞かせたのは私だったような...うーん。」
勝手に乱入してきて勝手に頭を唸らせる目の前の妹に頭痛がしてくる。
テレジアは自然にエイルの後ろに回り込み頭を撫で回しながらそんなことを呟く。
実はテレジアの実情を知っているエイルは内心真っ青だったのだが誰もそれを知る由は無いのだった...。
「無自覚とは君も罪な男だな。」
カレンもそんなことを言ってくる。
「けどエイルが可愛らしい事は私も認めよう。」
そういいカレンは隣に座るエイルの頬に手をやる。
「も...もうやめてください...あうぅ。」
悪ノリするカレンにエイルはさらに顔を赤らめ縮こまる。
こいつこんな性格だったか?と俺は心の中で首を傾げた。
「カレン様がお手を...なんて羨ましい...」
後ろの方からそんな声も聞こえてくる。
「エイルが困っているだろ。悪ノリはよせ。
ほらテレジア、お前もだ。そろそろ席に着け。」
レギは小言のようにこぼす。
時を同じくして再び教室の入口が開く。
「全くアナタたちは朝から騒がしいわね。うるさい子はお仕置するわよ?」
現れたのはエリザベート・メルクリウス。
俺たちが選択した魔法学αの担当教員である。
「ベティ先生おはようございます!これからよろしくお願いします!」
私は自然と口を開いていた。
なぜならベティ先生の周りのマナは前回と違い完璧に制御されていたから。私は心の底からワクワクした。目の前にいるのは紛れもない偉大なる魔導士であると、私の目が、マナがそう告げているのだ。
「ハイハイおはよう。けどうるさそうだしアナタは私が許可しないと喋っちゃダメね。【律】 一項追加。」
ベティが魔法を放つ。一定空間に制限を課す空間魔法だ。本来ならば魔法陣を描かなければならない工程をあっさり無視する事からもベティの高い技量が伺わせる。
魔法の発動と同時にテレジアの口が具現化した拘束具で塞がれる。
「むーっ!むーっ!!!」
ことある事に口を塞がれてるなあいつは...
少しは可哀想に思うがうるさいのは事実なので自業自得だろう。
「この空間内は私が規則そのものよ。適宜追加していくからよろしく。あとレギ、エイルに手を出したら許さないわよ?」
「え?」
「ひぇっ!?」
突拍子もない発言に俺とエイルは同時に間の抜けた声を出す。
「そう真に受けられると困るわね。冗談よ、冗談。」
エイルの反応...まさかね...けどまあそんぐらいの反応が年頃の少女らしくて助かるわねぇ。
ベティ心の中でそう思う。
「まあいいわ。全員いるわね、さっさと始めるわよ。」
ベティはざっと教室を見渡す。
妖しく輝く魔眼に生徒たちの気が引き締まる。
「まあ色々聞いてると思うし各々調べてるとは思うけど私は私のやりたい通りにやるから。罵倒も嘲笑も私は厭わない。アナタたちが強くなるならね。何だって言ってあげるわ。けれど...乗り越えなさい。それだけ。
我が名はエリザベート・メルクリウス
"快楽の魔女"にして"魔眼の支配者"
そして今日からアナタたちの師よ。覚悟はいいかしら。」
ベティは超越の圧と共に言葉をかける。
覚悟なんて問われるまでもない。
俺たちは自ら選んでこの場にいるのだ。
「「「はい!」」」
自然と生徒たちの声は重なった。
それを聞いてベティは笑う。
「よろしい。では魔法学αの授業を始めるわ。手始めに基本六属性の復習とそれらを組み合わせた通称複合魔法についてアナタたちに叩き込んであげる。」
基本六属性
第一属性 火
燃え盛る炎を操り六属性の中でも攻撃に優れている。
シンプル且つ強力な属性であり使い手が最も多いとされる。
火の上等魔導士ともなると炎だけでなく熱を操作しさらなる自由性を生み出す。
主な魔法
【フレア】【フレイム】【紅炎】
第二属性 水
恵みたる水を基調とした属性。
汎用性が非常に高く様々な事が可能、その中でも特に防御を得意とする。
だがそれ故に使用者の実力に左右されやすい属性であり水の魔導士は頭脳明晰であることが多い。
主な魔法
【ウォーター】【アクア】【激流】
第三属性 風
止まることなき風を司る属性。
火と同じく攻撃力に優れつつも防御も得意とし1対1の戦いを特に得意とする傾向にある。
大気を操作する迄に至った風の魔導士は重宝される。
主な魔法
【ガスト】【バースト】【旋風】
第四属性 雷
鳴り響く招雷を統べる属性。
速度と攻撃力に優れており広域戦闘を得意とし、制圧能力に長けている。
また、音を用いた魔法も特徴の一つである。
主な魔法
【サンダー】【サンダーボルト】【鳴神】
第五属性 光
世界に満ちる光を司る属性
最優の属性と称される最もバランスの取れた属性。
陽光や星の光を収束し絶大な威力の魔法を放つことすら可能。
主な魔法
【ライト】【グランツ】【天光】
第六属性 闇
夜の闇、そして空間を司る属性。
六属性の中でも特殊な属性であり使い手は最も少ない。使用難度も高く闇の高等、超越に至る者は両の手で数える程しかいない。
主な魔法
【レギオン】【テリトリー】【夜】
「とまあざっとこんな感じね。何か質問はあるかしら。」
「んっ!んっ!!!」
教室の1番後ろ、口を塞がれたやつが必死にアピールしている。
「はぁ...ほら、喋りなさい。」
ベティが指を鳴らすとその生徒の口が自由になる。
「ぷはぁ〜〜 やっぱ喋れないの辛いよ〜。」
「質問が無いならその口、また閉じるわよ?」
ベティの投げやりな言葉にその生徒、テレジアは慌てて答える。
「はいはーい!先生は一体どの属性の魔導士なんですか!!!!! 大体の人ってマナ見れば分かるんだけど先生のは分かんなくって。」
テレジアは爛々と目を輝かせてそう質問する。
「そういえばアナタ 視えるのだったわね。いい質問、そうねぇ、実際に見せてあげるのが早いかしら。」
そう言うとベティは杖を構える。
そして俺たちは師となる魔導士。
エリザベート・メルクリウスの実力を思い知ることになる。
適当解説も交えました。




