第二十八幕 魔法学β
あけましておめでとうございます。
年明け1本目ですが短めです。
--魔法学β 教室
おかしいな。何故こうなったのだろう。
シンは混乱の極みにいた。
それもそうだろう。いや、シンだけではない魔法学βを選択した生徒のほとんどが混乱、そして驚愕の中にいる。
居るはずの無い人物がいるから。
教室の端、選択した生徒の中で一番序列が高い者。
そしてシンの右隣。そこにいたのは
見るものを魅了する純白の髪を持つ絶世の美女。
だがその口から飛び出すのは傲岸不遜極まりない言葉。
我らが祖国、エルフィニアの第2王女にして
「鋼鉄の氷姫」リオナ・ノア・エルフィニアだったのである。
「...はぁ...えっと、リオナ。何故君がここにいるんだい?一応聞くけど部屋を間違えているとかは...」
少しの沈黙の後シンは仕方なく口を開く。
周りの生徒からの質問してくれという視線に耐えれなかったからである。
「ない、あるわけなかろうがたわけ。」
「じゃあ君は本当にこっちの授業を選んだと?」
「だからそうじゃと言っておるだろうに。それになぜ貴様もここにおるのじゃ、妾の奴隷の分際で。」
リオナの放つその一言に教室がざわつく。
「なっ!!! それは人前で言うなってあんなに......あ...しまった...」
自分の言葉でさらに大きく教室がざわつく。
言葉選びを誤り後悔に打ちひしがれるシン。
普段と余りに違うそのシンの様子がリオナの言葉に更なる真実味を帯びさせる。
「ふっ 貴様のそんな顔久々にみたのう。
これはこやつが妾に負けた故に便利として使っておるだけのこと。気にするでない。」
リオナは少しだけ笑い皆に聴こえるようにそう言葉を発する。
その様子に皆は安堵のため息を吐くがシンだけは違和感を感じる。
再び声を掛けようとしたがその時教室のドアが開く。
「おはようございます。みなさんお揃いですかな?」
入ってきたのはアドミラル・ネフティス
魔法学βの担当教員である。
先程まで騒がしくしていた生徒たちが大人しくなる。
「さて、皆さんも驚いているかもしれませんがこの教室に居るのは皆が皆、自らの意思で選んでここにいます。」
アドミラルはリオナ、そしてシンを一瞥する。
そして生徒を見渡し再び口を開く。
「そしてαを選んだ生徒たちに負い目を感じる必要もありません。困難な近道を行くもよし、自分のペースで平坦な道を進むこともまたよし。人には得意不得意があるのですから。
何より調和を是とする私、アドミラル・ネフティスは誰一人とて見捨てることはありません。
魔導の子らよ、よく学びなさい。君たちの道は始まったばかりなのだから。」
ネフティスの言葉にどこからともなく拍手が教室に響く。少しばかり不安に感じていた生徒たちだろうか、どこか安堵の表情を浮かべる生徒たちも見受けられる。
「まあこちらの授業のが楽かと言われたらそれは分かりませんけどね。私は丁寧に教える事で評判ですが課題の量もまた多いとどこかで噂になってるらしいですよ。」
ほっほっほと笑いながらアドミラル先生はそう告げる。その顔は意地の悪い笑みを浮かべていた。その言葉にまた少々教室騒がしくなった。
「書類を忘れたので少々自由時間とします。教室からは出ないように。」
そう告げアドミラルは教室を出る。
生徒たちは緊張が多少解れたのか雑談に興じる者たちが多い。
そんな喧騒の中異質な2人、リオナとシン周りは静寂に包まれていた。他の生徒は声をかけたくてもかけれないといった雰囲気だ。
そんな沈黙を破ったのはシン。
「聞いてもいいかい?」
「...なんじゃ。」
「どうして君はこっちを選んだんだい?君なら迷わず、必ずあっちを選ぶと思っていたのに。あまり言いたくは無いけど君らしくないよ。」
「腹ただしいがそういえば妾を一番理解しておるのは貴様じゃったな。」
リオナはため息を吐く。
しばしの沈黙の後リオナは語り出す。
「そうじゃな...妾も少しは変わろうと思ったのじゃ。ほんの少しだけあの日貴様が言った意味が理解出来た。妾は魔法に溺れて逝きたくは無くなった。妾は改めて生きて、魔法を極めたい。そう思ったのじゃ。」
シンはリオナの目を見つめながら真っ直ぐその言葉を受け止めた。
シンはあの時写したリオナの心を記憶としてはまだ覚えている。本来ならば唾棄されるはずの心を忘れられないでいる。それ程までに鮮烈だったのだ。
だからシンは改めてリオナの心を写す。
シンの磨き続けた【名鏡雫水】は今や心を写すだけならば詠唱を必要としない。(これはまだ姉にも使えることを説明していないシンの秘匿技能である。)
そしてシンはその言葉に嘘偽りが無いことを理解した。
「そうか。君を見る度に実は心配していたのだけれどもうそれも必要なさそうだ。」
シンは心の底から安堵する。シンもまたあの日リオナを止めなかったことを心の片隅気に留めていたのだ。
それを聞いてリオナは続ける。
何時からか教室は静まり返りリオナとシンのやり取りに耳を傾けていた。
「それに妾は今まで誰にも負けないと勝手に思っていた。誰よりも魔法を愛しておる自負があったからのう。周りなど気にしてもいなかった。貴様すらもな。じゃが妾にも...負けたくない相手が出来た。今までの妾では到底勝てぬであろう相手がな。ならば変わるしかあるまい。そう思わせるほどにあやつは、テレジアは眩いのじゃ。貴様とてそうであろうが。」
シンはほんの少しだけテレジアに嫉妬を覚える。だが自分がリオナに一度も勝てた覚えがないことを思い出しすぐにその思考を捨て去った。
それにシンもまたテレジアの、そしてその兄たるレギの異質な才能に魅せられているのは事実であるからだ。
「そうだね。僕はどちらかと言うとその兄の方に興味があるけどね。君は彼のことはどう思ってるんだい?」
「ふん、力無き者に興味が無いのは前と変わらぬ。取るに足らぬ存在じゃ。」
「その辺は相変わらずか...。けど魔法を極めるのは変わらないのならこちらよりはあっちを選ぶのが良かったんじゃないか?」
シンはどこか含みを持たせた質問をする。
「今一度基礎を見つめ直そうと思ったのじゃ。それにじゃ、妾はここで学んだ上で向こうの授業の内容も学ぶつもりじゃ。友を使ってな。」
リオナはニヤリと笑う。
「貴様も考えてる事は同じじゃろうに。違うか?シンよ。」
シンは嘆息する。
「はぁ...正解だよ。けどそれをわざわざ口にする必要は無かったんじゃないかな?」
そういいシンは虚空を見つめる。
シンもまたレギと共に規則を読み込み魔法を用いてこちらの授業内容をレギに教える気でいたのだ。
「問題無かろう。この学院では規則を守れば何をしても許されると明言したのは学院側じゃからのう。この魔法学の規則では授業中の魔法は自由であると明記されておる故、後は妾たち次第と言うことじゃ。そうじゃろ?そこで聞き耳を立てておる者よ。」
リオナもまた皆に聞こえるようにシンが見つめる虚空に問いをぶつける。
「いやはや、私の隠形を見抜くとは素晴らしい限りですな。」
虚空が揺らぐ。現れたのは教室を出たはずのアドミラル・ネフティスその人だった。
「今しがたわざと妾たちに見つかるようにしたくせに白々しいのじゃ。」
「そうだね、僕も気がついたのはついさっきさ。アドミラル先生、実は演説終わりの拍手の時から魔法を使ったのではないですか?」
「ほう、見破られることは幾らかありますがそこまで言及してきたのは君ぐらいのものですよシン君。いい感性をお持ちのようだ。」
周りの生徒は一部を除きただ驚嘆の声を上げるばかり。
その一部の1人、ヨルハは最後列でそれを観ていた。ヨルハは驚かなかった。何故か、それよりも気になることがあったからだ。
ヨルハの左、そこに気がつけば見たことも無い生徒が座っているのだ。制服を着ているため間違いなく学院の生徒ではあるのだろうが...。
そして何より他の誰もその生徒に気が付かない。まるでそこにいないみたいに。
ヨルハがじっと見つめていたらその生徒はこちらを見て
「あら、アナタ私が見えるのね。凄いじゃない、けど喋っちゃダメよ。」
そういい見知らぬ彼女はヨルハの口にしーっと指を当てる。
ヨルハが驚き瞬きを挟むその瞬間に彼女の姿は消えていた。
一体誰なのだろうか、ヨルハは疑問に思いながらもそれを口に出すことはできなかったそれどころか自然とアドミラル先生へと視線を移していた。まるで誰かに誘導されるように。
「リオナ君が言った通りこの魔法学の授業中において魔法は一切禁じられていません。無論、授業を妨害しない範囲内に限りますが...。逆にその範囲内なら何をするかは君たちの自由ですよ。では着席してください。」
アドミラル先生は再びニッコリと笑う。
まあわざと彼らに見つかるようにしてもう1人聞き耳を立ててる人を隠したのは内緒にしておきましょうかね。
心の中でそう呟くアドミラル。時を同じくして廊下では肩の荷が降りたリオナと同じ髪の色を持つ女性がそっと去っていった。
決して認めようとはしませんがシリウス殿はリオナ君を溺愛しておられますからな。これで貸ひとつというところでしょう。
「では、改めて魔法学βの授業を始めるとしましょう。まずは基本六属性の基礎からしっかりと詰めていきますよ。」
アドミラルはそう高々に宣言する。
そうして魔法学βの授業が正式にスタートしたのであった。
1.2.3月はソシャゲの周年ラッシュなので頑張ります。