第二十三幕 魔法とは part2
無職転生のターニングポイント3のMADが良すぎて毎日観てます。
〜シンの場合
夢を見る
「そうやって僕(私)たちを笑ってたのね。」
何度も見る夢。
戒めの夢。
--寮の一室
隣で課題にうなるレギをよそ目に自らも思考の海に身を投げるシン。
僕にとって魔法は鏡。
けどその鏡が写すのは僕じゃなかった。
その鏡は僕自身だったのだから。
僕はこの魔法が好きではない...と思う。
便利だとは思っているけど好きではないのだろう、この魔法は僕を孤独にさせたから。
【名鏡雫水】ティア・シュピーゲル
記録上初代エルフィウス家当主レインとシンのみに発現した超希少魔法
自らの心を無にし、互いに名を知る者の心や思考を自らに投影する魔法。
心や考えを読む魔法は多々あるがこの魔法は
発動者が直前に相手の魔法や技能を目視し、詠唱を加えることで器さえあればコピー出来る。
要約すると発動者が物理的、能力的に可能であればどんな魔法や技術も使用出来るようになるということである。
もちろん制約もある。
写しとった魔法や技能は保持しておくのに自身の魔法力を占有する。レインはこれを魔法記憶領域と称している。
簡単な魔法や技能は問題ないレベルだが複雑な魔法や技能は多量の魔法力を占有するため
保持してる間他の魔法を使うことが難しくなる。
メモリーを超える程魔法などを保持しようとした場合や、魔力切れでメモリーを維持出来なくなった場合は古いものからコピーしたという記憶を残しロストする。
もう一つは自身の能力を上回る魔法や技能をコピーした場合。一時的にはコピー、保持する事が出来るものの数分後には自身の魔力が0になり身体にも激痛が走る。レインは鏡が割れると表現したらしい。
そしてこの魔法の真価は保持した魔法や技能をロストせずに1ヶ月経過した場合それらは自らの経験の一部になり自分自身の過去となる。
故に最強の魔法の一つとされる。もっとも所有者の実力に左右される部分が大きいのだが...。
シンは魔導国エルフィニアが誇る評議院を纏める四大貴族が1つ、エルフィウス家の産まれである。
エルフィウス家は初代エルフィニア王による建国の際多大な貢献をした魔導士 "賢帝"レインに、王自ら国から名を取り家名を授けた名家であり代々水魔法の才に溢れた魔導士を排出していることで有名だ。
その歴史の中でもラグナ・メラ・エルフィウスそしてシン・アルバ・エルフィウスの姉弟は特別だった。
膨大な魔法力を持ち水魔法を極め"大海"の魔女の2つ名を拝命する姉、ラグナ
そしてそんな姉をも凌ぐ可能性を持つのが弟シン。
初代当主、レインと同じ魔法【名鏡雫水】を歴代のエルフィウス家の中でシンだけが使えたからである。
これはそんなシンという少年の過去の物語。
思考の海の中でシンは昔のことを思い出していた。
父は厳しい人だった。けど誰より僕のことを考えてくれていたのだと最近分かった。【名鏡雫水】が使えるからといって特別扱いはしなかったし、姉と同じように様々な英才教育を課してくれた。
それに僕は昔からなんでも出来た。王宮剣術に魔法の勉強、政治の駆け引きに帝王学までも大体はやる気を出せばすぐに理解出来た。
新しい事を知るのは心地よかったし褒められるのも好きだったから小さい頃は毎日頑張った。頑張っていい成績を残せば父と母から本が貰えたから。
初等学校に入る7歳の誕生日に父がこう言ったのを覚えている。
「シン、【名鏡雫水】は卒業まで使ってはならない、それに使えると教えるのもだめだ。あれは子供には早すぎる代物だ。」
後半の方は当時はよく分からなかったけど当時の僕は頷いた。
初等学校入学当初は周りから天才だとちやほやされていた。剣術も勉強もトップだった。僕自身はあまり言葉を発しない子だったが僕の周りには友人が沢山いた。
けど二年、三年もするとある分野でシンを越える友人たちも増えてくる。当然のことだと、今ならそう思う。どんな天才でも全てをこなせるわけないのだから..... ましてや子供だ、得意不得意もあるし手が回らないものがあって当然のことだった。
けれど子供の僕はそれをよしとはしなかった。だから10歳になった日に使ってしまった。自分だけの魔法を、自分より優れた分野を持つ友人に対して。
知らないものを知る時に最初に躓くのは初期知識であることが多いだろう。一件複雑そうに見える問題も簡単な知識さえあれば解けてしまう場合も多いだろう。
だから僕はすぐその分野で友人を抜かしてしまった。
一度理解してしまえば能力自体はある僕にとって発展させることは苦では無かった。
「やっぱシンはすげえや。」
その一言を言われた時、僕の心をたまらない愉悦感が満たした。
それからは周りの友人たちの技能をコピーし、発展させることでシンは自らの力を高めていった。理想の使い方だった。当時の僕自身もそう思ってたし今でもそうは思う。
こっそり【名鏡雫水】使って相手の心理を写し読んだこともある。僕のことを自慢げに思ってる心を覗き見して悪い気はしなかった。
だがある日王宮魔導士が気紛れで披露した中等魔法を僕が父の言いつけを破りコピーして発動した時に全てが変わった。
「エルフィウス家の長男は【名鏡雫水】が使える。」
その事が世間に露呈したのだ。
噂は広がるのが早い。貴族たちはありとあらゆる耳を持っているから。
そして悲しいことに下位貴族たちは将来有望なシンへと子を使ってコネを作ろうとしたのだ。
当然シンの魔法についても子に教えられたのだがそれが元凶だった。
シンは特別な魔法でなんでもできるようになると。
当然そんな簡単な魔法の訳が無いのに。
そして子は素直だ、素直が故に事実は間違って伝わったのだ。シンは魔法でずるしていると。そして僕に嫉妬する子達の仕業だろうかそれは学校中に瞬く間に拡がった。
そして僕は孤立した。
「あいつ魔法でずるしてたらしいぜ。」
「お母様が言ってたわ!特別な魔法を持っているからって。」
友人たちからそんなことを言われるようになった。いや、元々友人ではなかったのだろう。彼らにとって僕はステータスの一部でしかなかったのだ。かつて魔法で心を覗いた時を思い出して泣きそうにもなった。
人並みぐらいには悲しかったし理不尽さも感じた。
賑やかさも騒がしさも無くなったけれど...
独りは嫌いじゃなかった。
好きな読書を邪魔されることももう無い。
...はずだった。
どれだけ優れていても僕も子供だった。寂しかったのだ。
なんとか歩み寄ろうとしてまた【名鏡雫水】を使って相手を知ろうとした。
.....僕は絶望した。
改めて言おう子供は良くも悪くも素直だ。
だからその言葉、思いは時として何よりも鋭い刃となるのだ。
純粋無垢な刃はそれ故に純粋無垢なシンを切り裂いた。
悪意も含みもないその刃はシンを臆病にした。
心を写したのは一人だけ、けど他の人の心を写す勇気は無かった。とてもじゃないけど無理だ。
そして毎日苦悩に塗れて後悔に打ちひしがれてるうちに気がつけば1ヶ月が過ぎていた。
シンが見た嘲笑や悪意はそのままシンの心に刻み込まれた。永遠に。
いつしか学校にも行かなくなった。シンは初等学校卒業までの残り2年を家で過ごした。
父は一言
「使っていたのか?学校でも。」
僕は頷く事しか出来なかった。正しい使い方だったとしても父の言いつけを破り使ったのは事実だった。父はこうなることを危惧していたのだ。
「そうか...。お前が悪い。そして私もな。」
それだけ言い、それ以降父と話すことは無くなった。
--エルフィウス家別室
「お前はどう思う。レイナ。」
「そうね...あの子は私たちが思ってる以上に凄かった。そしてあの子を孤立させてしまったのは私たちの責任ね...。」
「そう...であろうな。あいつは正しく魔法を使った。あいつが孤立したのはあの魔法を恐れすぎた私たちのせいだ。
すまない...ラグナの事もある。お前には苦労をかけるだろう。」
「母ですもの。そのくらいやってみせるわ。貴方は心配しないで。」
「すまない。」
母は忙しい中でも僕に初等教育の全てを施してくれた。叱ってはくれなかった。ただ諭すように人の心の在り方や【名鏡雫水】の良くない点や良い所を教えてくれたりした。
時間だけはあったから勉強もしたし剣も怠らなかった。けどただそれだけだ。誰のためにもならない、友を守るためでもない。そんな剣に意味は無いからだ。
結局学校には行けずに課題を出し、テストを家で受けることで初等学校を卒業した。
首席卒業だったらしいがそんなものはどうでもよかった。
中等学校にも行く気は無かった。みんなに会うのが怖かったから...。
______________
だがそんなある日。
一人のお客さんが家に来た。
しかもシンに会いに来たのだと母は言った。
恐る恐る客室に顔を出すとそこに居たのは予想とは違った小さなお客さんだった。
護衛を二人付けている事からも身分の高さが伺える。
部屋には父もいて少しだけ足が竦んだ。
けどそんな僕に
「君が噂のシンか。私はカレン、カレン・アストリウスだ。」
少女はそう言い手を出してきた。
僕はその手をじっと見つめることしか出来なかった。
「おや、君は握手が嫌いかな?これは失礼をした。」
「ご、ごめんなさい。そういう訳では...」
「はははっ それなら良かった、それに私は同い年だ。敬語はいらないよ。よろしく、シン。」
再び手を出すカレン。
ほらっという感じで手を差し伸べるカレン。
とても同じ12歳とは思えない立ち振る舞いに驚いたのもつかの間。
僕は自然にその手を握っていた。
「...シン、シン・アルバ・エルフィウス。その、よろしく。」
「それで、"王の懐刀" アストリウス家のご令嬢が一体何の要件ですかな。」
父のその言葉で思い出した。アストリウス家とは"王の懐刀"と呼ばれる名家の名だ。評議会とは相互監視の関係にある決して親しいという家柄では無い。
引きこもり生活の甲斐あって知識だけはあった僕はそんなことを考えていた。
「深い意味はありませんよエルフィウス卿。政治的な含みはありません。ただ超希少魔法の使い手たるご子息を見たがっている御方がいらっしゃいまして。」
僕はその言葉に身体を震わせる。そして少しだけ父の顔が険しくなった...気がした。
「御方...ということは王族ですな。名を聞いても?それに魔法...ではなくシンをですかな?」
「構いません。 我が主、第二王女リオナ様です。 ええ、魔法は"誰が扱うか"が大事であると。我が主も、そして私もそう思っております。」
「第二王女、鋼鉄の氷姫...。噂は真であったということか。かの御方ならもしや.....。」
そう言いこちらを見る父。
その視線に僕は再び身体が震えた。
「聞いていたな。王女殿下がお前の魔法をみたいそうだ。お前が決めろ、シン。行くも行かないもお前の自由だ。行きたくないと言うのなら私が何とかしよう。それで宜しいな?アストリウス殿。」
「当然ですとも。そちらの状況も把握しております。無理強いをしない為に私が来ましたから。」
僕は混乱していた。二年ぶりの父の言葉に。
二年ぶりの外からきた同い年の子に。それに王女殿下?一体何を言ってるんだと。頭の中が悲鳴を上げている。
けどそんな頭の中とは裏腹に心に去来していたのは嬉しさだった。魔法ではなく自分自身を見てくれる。それがたまらなく嬉しかった。かつて僕が自ら手放した魔法ではなく僕自身の価値。それをまた見てくれる人がいる。それだけで嬉しかった。
「父様。僕は行きます。」
二年ぶりに父に返す言葉だった。
「...そうか。くれぐれも失礼の無いようにしろ。」
母が頭をそっと撫でてくれる。
泣きそうだった。
「ふふっ、私だけが蚊帳の外だな。だが決まったようだ。では早速。」
そう言い指を鳴らすカレン。
「失礼します。」
突如現れた護衛の人らしき人々に僕は驚くまもなく抱えられて連れ去られた。そう、あれは連れていくじゃない、連れ去られただ。
「ではエルフィウス卿、ご子息をお借りします。」
「事後報告とはアストリウス家の教育の程が知れる。
......息子をよろしくお願いする。」
「ええ。では、また。」
魔法の絨毯に座らされていた僕はもう何が何だか理解していなかった。
だから恐る恐る隣に座ったカレンに聞いてみた。
「ええっと...これから僕はどこへ?」
「決まってるだろう。王宮の王女殿下の所だ。」
さも当然のように言われたその一言にシンの頭は思考を止める。王族なのだから当然ではあるのだが。
「!?!?!?無理無理!いきなり王女殿下なんて心の準備が...!」
「はっはっは!うちの姫はそんなこと気にしないさ。そろそろ覚悟を決めろ、シン。お前も男だろ。出してくれ。」
「はっ。」
みるみるうちに小さくなる我が家を見て僕は考えるのをやめた。
あれだけ出るのか怖かった外にあっさり連れ出されてもう僕はもうどうにでもなれと心の中で思っていたのであった。
そんなシンを連れてあっという間に王宮へと辿り着く一行。
あれよあれよという間に風呂にぶち込まれ、服を着替えさせられてカレンに連れられ王女の部屋の前に立っていた。
カレンがノックする
「失礼します。」
返事はない。だがカレンは当たり前のようにドアを開けて中に入る。
僕もそれに続いて部屋に入る。そこで目にした光景に僕は驚愕で目を見開いた。
部屋にあったのは一面に積み重なった魔導書。そして一部だけ開けた空間に寝転がりながら魔導書を読み込む少女だった。
「なんじゃ、カレンか。妾は読書中じゃ、要件は後にせい。」
「殿下...いやリオナ。お前の客だよ。【名鏡雫水】の使い手、シンだ。」
「ほう!貴様か!超希少魔法を生まれ持ち、そして自在に操る者は。」
そう言い勢いよく立つ目の前の少女。
とても美しい白い髪は今でも覚えている。
だがその時背後で積まれた本が揺らぎ少女に向かって倒れてきたのだ。
「危ない!」
と咄嗟に手を伸ばしたが間に合わない。
慌てて近寄るが僕は直前で足を止めてしまう。
少女は無傷だったから。
少女の背後に出現した氷の盾に目を奪われてしまったから。
「鋼鉄の氷姫...。」
「実際に見るのは初めてか?綺麗だろう。」
カレンは慌てる様子もなく本を拾い始める。
魔導国エルフィニア第二王女
リオナ・ノア・エルフィニア
と僕の初めての出会いだった。
「何を惚けておる!今のうちじゃ!ついてこい。」
リオナに腕を捕まれ窓から落とされた。
「え」
何が起きたか一瞬分からなかったが僕が落ちることは無かった。
リオナの作った氷のスライダーによって瞬く間に中庭に着地していた。
ポカーンとしていると後から滑ってきたリオナに蹴飛ばされた。
「リオナ!またお前は無茶をして!また怪我したらどうする!」
「ふん!この程度無茶の内には入らぬわ。お前も降りてくるがいいぞカレン。ただし階段でな。」
叫ぶカレンに軽口を返し氷のスライダーを消すリオナ。
「さて貴様の魔法。妾に見せてみよ。」
雰囲気が変わったリオナにシンも現実に戻される。
"鋼鉄の氷姫" その名はシンも知っていた。
魔法に呪われた王女。複合魔法、氷を操る天才。
先程までは嬉しさで忘れていたが今自分はとんでもない少女の前にいることを自覚した。
だがそんなことは関係ないと今は切り捨てる。自分を見てくれる存在が目の前にいるのだ。期待に応えたい。シンの心にあるのはそれだけだった。あの魔法を使う恐怖はいつしかレギの心から消えていた。
"我が心に色は無く なにものにも染まりうる空の器 スペクロムの歌 舞い落ちる雫
全ての願い 全ての傷 全ての力よ 我を満たせ
森羅万象を写す無垢なる鏡像 顕現せよ"
【名鏡雫水】
魔力の奔流と共に魔法が発動する。対象はリオナ そして氷魔法。
「ほお。」
リオナは感嘆する。凄まじい魔力が目の前の少年に集まっていくのが分かるからだ。
そしてリオナは幻視する。
目の前の少年と自分の姿が重ねる。
リオナは目を擦った。
すると先程までの少年が目の前にいた。
ただし、その背にはいつも自分を守っている見慣れた盾が出現していた。
リオナは少しばかり複雑な視線を送るが
「これが【名鏡雫水】か。素晴らしい魔法じゃな。」
「ありがとう...でいいのかな?なんとか成功したみたいでよかった。」
「ふむ。謙遜は要らぬ。素直な賞賛じゃ、受け取るがよい。」
だがシンは思い知る。
己が写したのが一体誰なのかを。
不意にシンの動きが止まる
「!? これは.....。リオナ...君は...。」
【名鏡雫水】は魔法を写し取る際に対象者がその魔法を習得するまでの過程をも写しとる。それ故に知ってしまった。
リオナがどれ程の努力を重ねているか。
どれ程の思いで魔法と向き合っているのかを。
魔法に呪われてる。シンはその意味を知った。
「ほう。妾の心を覗いたか。記述は本当のようじゃな。」
その心は、思いは理解出来ない。いや、理解したくないのだ。
だがそれでも、いや、だからこそ僕は問わずにはいられなかった。
「何故...そこまでして?」
「答えも知ってろうに...。まあよい、魔法を見せてもらった礼じゃ。簡単なことよ、妾は魔法が好きだから。己の全てを投げ打ってでも愛せるほど、魔法の虜というわけじゃ。」
「それだけで...?」
「それだけで、じゃ。常人には理解出来んじゃろ。ましてや貴様には特に、な。」
その言葉に僕は口を噤む事しか出来なかった。
リオナが凄まじい覚悟をもって会得した魔法を自分はコピーするだけ。
心を覗き見して勝手に感情輸入しているだけだ。
それに気がついた時また過去の自分を思い出して吐き気がした。
だがそんな様子をみて目の前の少女は責めるような口調で言い放つ。
「そう気を落とすでないわ!貴様がそうして友を失ったことも妾達は知っておる。お前はそれを後悔しているらしいが妾に言わせてみればそんなものは間違いでしかない。
妾が会得した氷魔法を貴様が使える。それは貴様がその器足り得るからであり、妾と同じレベルの努力をした証である。どれだけ後悔しようと決して自らを蔑むな。それは妾を、そして貴様自身を侮辱する事と同じじゃ!」
その言葉に僕は衝撃を受けた。
分かってはいた。リオナが言ったことはこの魔法を使う自分自身が一番分かっていたことだ。
けど、けれど決して自分からそんなことは言えない...言うことの出来ない言葉だった。
ずっと......誰かに言って欲しい言葉だった。
「君は...強いな。僕は君を尊敬するよ。」
「ふん、当然じゃ。妾はこの国の王女、リオナ・ノア・エルフィニアじゃぞ。ほれ、続きじゃ。貴様、剣もいける口と聞いておるぞ?」
「ああ、時間だけはあったからね。剣も魔法も人並み以上には出来ると思うよ。」
「はっ、この引きこもりめが。口だけは達者じゃのう。妾がその根性叩き直してやるわ!」
そう言い互いに氷の刃を作り出し剣をぶつけ合うリオナとシン。
「やれやれ。その才能故に周りを傷つける天才様達の世話は大変だよ全く。」
降りてきたカレンはそう呟く。
日が暮れるまで剣を、魔法をぶつけ合った2人だったが立っていたのはリオナだった。
僕が魔法と剣で負けたのは生まれて初めてだった。
「君のことをもっと知りたくなったよ。けど流石に疲れたな...。家にも帰りたいしそろそろ終わらないか?」
そう言うとリオナはキョトンと目を丸くした。
「何を言っておる。さっさと風呂に入って次は部屋で魔法談義じゃ。...ん?もしや貴様何も聞いていないのか?」
僕とリオナの目線がカレンに向かう。
「ふっ(笑)言うと断れられると思ってな...引きこもりだし...(笑)」
カレンは苦笑しながらそう言った。
「君はこれから1ヶ月、中等学校に入るまでの間王宮で過ごすことになってる。そういうことだ。」
「そういう訳じゃ。それから貴様の事はどのように扱ってもよいと貴様の父より承っておるからの。どうしてくれようか」
底冷えするような笑みを浮かべてるリオナ。
「お、お手柔らかに...。」
なんとかそう返すのが精一杯だった。
______________
それからの僕の生活は一変した。
日々王女、リオナ姫とアストリウス家のカレンと鍛錬の日々。
王宮近衛騎士団団長から直接剣を指導して貰う機会すらあった。
とてつもなく充実した日々であった。
まあ半奴隷みたいな生活だったが...。
リオナには召使いのように顎で扱われ苦労した。だが望む魔導書や様々な専門書等希望する物は全部手に入って世界に名高い魔導国エルフィニアの王族たる力を見せつけられた。
そして僕はリオナとカレンによる性格矯正
もとい、改造を施された。
「貴様は家柄に、その魔法に恥じぬ実力を持っておるのだ、もっと堂々せい!」
「君はもっと自分に自信を持っていい。それだけの努力をしてきているはずだ。後はもう、君自身の実力で証明するしかない。
【名鏡雫水】ではなく、シン・アルバ・エルフィウスという人間を。」
少しでも弱気な発言をすれば叩かれたし姿勢や立ち振る舞いまで全て矯正された。
僕は変わった...。変われたのだと思う。
まあ変えさせられたが1番正しいかもしないが...。
けれどその中で僕は迷いを抱えていた。
あの日、写し取ったリオナの心、そして魔法をまだ胸の内に秘めていたから。そしてそれをロストさせるのかしないのかを。
何故か。
それはその心と1ヶ月付き合ってみて結局理解出来なかったから。
魔法を使う度にリオナの心を思い出す。
そしてそれは僕にとってとても耐えきれるものではなかった。
だから心に刻まれる1日前にリオナに改めて質問してみた。
「君は...これからもそういう風に魔法に向き合っていくのかい?...その、僕が言うことでは無いと思うけど...君がいつか折れてしまうんじゃないかって、心配なんだ。君の氷魔法のように砕けて消えてしまうんじゃないかって...。」
「ほう。主人を案ずるとは良い奴隷ではないか。」
「リオナ。」
「妾が止まることはもうない。あの日、魔法に魅入られたあの日から妾は進むしかない。
止まれないのなら歩き続けてしまえばいいのじゃ。
歩き続けた先に待つのが例え死だとしても、魔法に溺れて死ぬのであればそれは妾にとって幸せな事かもしれん。そしてそれは死んだ時にしか答えは分からぬ。死ぬ前に後悔するくらいなら死んでから後悔する。それが妾の決めた道じゃ。」
「そうか...。」
結局理解は出来ないし納得も出来ない。
だがそれでいいのだ。
なぜならそれでも彼女の魔法はそれでも美しいから、魔法と踊るリオナは誰より輝いて見えるのだから。だからきっとそれがリオナにとっては正しいのだろう。
自分には過ぎた力だ。そう思ったから僕はメモリーからリオナの心を、魔法をロストした。
そして中等学校に入学する前に僕はリオナとカレンに頼み事をした。
「三年間、【名鏡雫水】を封印したい。ありのままの自分を、シン・アルバ・エルフィウスという人間を皆に見てもらうために。」
そして彼女らの手配により王宮の守護者たる神域の魔導士に魔法を封じてもらった。
それは大々的に国民に公開された。
そして中等学校に入学し、三年間を過ごした。その三年間、シンは努力を隠さず、そしてあらゆる分野で頂点を争い続けた。
まあ剣術以外の分野でリオナに勝てたことは結局無いのだが.....
初めは白い目で見ていた元シンと同じ初等学校の面々や噂が独り歩きしていたのを鵜呑みにしていた生徒たちもいつしかシンの背中に圧倒的な強さ、凄さを見るようになっていった。
シンの周りにも友と呼べる者達も出来た。自分に負けず劣らない剣の実力を持つダリアという少女を筆頭に決してシンを一人にしない才溢れる面々だった。
リオナとはほぼ顔を合わせていない。魔法の件や奴隷関係のこともあって苦手意識を気がつけば持っていたからだ。
カレンとは良き友人関係を結べていると思う。リオナに対する愚痴などもよく聞いてやった。姉様ともその頃にはよく連絡を取り合うようになった。
そしてとある双子の噂も耳にしていた。
そして魔導学院に入学した。
まさか自分がNo.4だとは思いもしなかったが...(3だと思っていた)
案の定リオナが早速トラブルを起こしていて笑ったが、それを利用してカレンという伝手を使って目をつけていた生徒と同室してもらった。まさかリオナがトラブルを起こした相手が目をつけていた生徒だとは思いもよらなかったが...。これも巡り合わせなのだろう。
魔導学院入学と同時に返してもらった【名鏡雫水】をシンは今や惜しみなく使うことが出来る。友のために、姉のために、そして己自身のために。
思考の海から上がる。随分長い時間考えていたらしい。先に課題に取り組んでいた今や友となった目をつけていた生徒の姿はない。
僕は課題にこう綴った。
「僕にとって魔法は鏡であり戒め。魔法は万能であって万能ではない。どんな強力な魔法も全ては使い手次第。どんな魔法かではなくその魔法をどう使うか。それが重要であると思います。」
簡単に纏めて机に立てかけてあった剣を手に取る。
そして恐らく先に素振りをしているであろう友の所へ向かった。
興が乗ってしまいシン1人に対していっぱい書いてしまいました。
訂正九幕 の明鏡止水を名鏡雫水へ




