第二幕 旅立ち
厨二病全開の魔法と剣のファンタジー(予定)です。
適当解説
魔法には初等、中等、上等、高等、超越、神域
の六段階の位があります。
--夢を見る
剣戟の音 魔物か人かわからない悲鳴 飛び交う魔法
舞い散る血飛沫 竜の咆哮 振り下ろされる大きな爪
夢なのにはっきり分かる。自分の筋肉が、内蔵が切り裂かれる感触。血が滴り、命が零れ落ちる感覚。
「ああ、これが死か...」
夢はいつもそこで終わり。少年は目を覚ました。ぼやける目を凝らしながら家を出て外の井戸で顔を洗いながら一人呟く。
「また、この夢か。」
顔を洗った少年はいつも通り壁に立てかけてある木刀を手にした。
時刻はまだ夜が明けたばかり。僅かに顔を出した陽の光を頼りに少年は剣を振る。
ただ、ただ、剣を振る。
幾らか時間がたったらしい。無心で剣を振っていたら後ろから声を掛けられた。
「おはよう お兄ちゃん。これ使って。」
少年はそこで初めて太陽が完全に顔を出していることに気がつく。
「ごめんな、汗を拭いたら朝ごはん作るよ。」
妹から布を受け取り再び井戸へ向かう。
少年と妹、名はレギとテレジア。
夜の黒をそのまま貼り付けたような黒髪の兄と燃えるようで明るい性格を表したような赤髪の妹。
15歳の双子の兄妹は村の外れで2人で暮らしている。両親は顔すら見たことがない、ある日隣の老人夫婦の元に一通の手紙とともに捨てられていたそうだ。
「火を付けてくれ」と俺はテレジアに声をかける。
テレジアは慣れた手つきで【フレア】と詠唱し鍋に火をつける。
「お兄ちゃんもそろそろ火の魔法覚えてよね〜。」というテレジアにレギは
「俺はお前と違って才能無いからな、初等魔法も覚えるの大変なんだよ。」と返す。
「まあ私は天才だからね〜。その天才様がお腹空かせてるからはやく〜。」
「はいはい、静かに座って待ってな。」
今テレジアが使ったのは
初等火属性魔法のひとつ 【フレア】
効果は小さな種火を生み出すもの。
そう、この世界には【魔法】が溢れている。
数百年前に魔法が正しくヒトの手によって行使出来るようになって以来、魔法によりヒトの生活は支えられており、魔法の才能はこの世界に置いて最も重要視されるものになった。
だがその点俺は魔法の才能が乏しい。基礎魔法力が低く基本六属性のうち風と闇の初等魔法しか習得出来なかった。
今日から通うことになる魔導院の入学試験にギリギリで合格出来た程度だ...。
そして一方のテレジア。その実力は基本六属性の初等魔法を全て習得し、水と光は既に中等魔法の域に達する。
魔導院でも首席に次ぐ次席入学、無名の身ながら多くの注目を集める天才少女である。
「お前の兄と知られたら荷が重いよ...」そう愚痴を零すと
「何言ってるの、お兄ちゃんはおとぎ話の英雄になるんだから頑張らないとダメでしょ?」
と返すのはテレジア。
「俺の夢を笑わないのはお前だけだよテレジア。」
「えへへ、だって私も好きだもん 英雄たちのお話。」
「ほら、出来たぞ さっさと食って着替えな。」「はーい!」
「「いただきます。」」
テレジアに言われた通り、俺は物語の英雄に憧れていた。
歳を重ねてなおその幼子の如き夢を抱いている。むしろ歳を重ねる度にその憧れは大きくなっていった。
_______
先に食事を済ませた俺は一人部屋に戻り1冊の本を手に取る。
タイトルは「剣の女神」
曰く白き髪を靡かせ その碧の瞳は全てを射抜く
曰く光雷を纏うその剣は全てを切り裂く
人の悪意も魔物も 災厄の化身たる竜までも
そんな彼女を人々は畏敬の念を込めて 剣の女神と呼んだ etc...
ボロボロになるまで読み込んだこの本が俺、レギの原点。隣の老人夫婦が小さい頃に読み聞かせてくれた英雄たちの物語の一つ。それ以来毎日読んではその女神に思いを馳せている。剣の女神が毎日剣を振るから俺も毎日剣を振った。憧れ、情景、目標。今日もまた思いを馳せていると...
「遅刻するよー お兄ちゃん〜 」
自分を呼ぶテレジアの声が聞こえてきた。本を閉じ、大事に布に包んで鞄にしまい、現在唯一の親の手がかりである剣と剣術指南書を手にし部屋を出る。
そして部屋を出る前に振り返り部屋を見回す。恐らくしばらく戻らないであろう部屋の光景を目に焼き付ける為に。
「行ってきます。」
お辞儀と共に小さく呟きドアを閉める。
「さ!おじーちゃんとおばーちゃんに挨拶しなきゃ!」
「そうだな。今日でここもしばらくお別れだ。」
テレジアは隣の家の扉を勢いよく開けて
「ドンおじーちゃん!メイおばーちゃん!今日まで本当にありがとう。私たち 行ってくるね!」
「もうそんな時期か 寂しくなるのぉ」
「あんたや、そんな事言っちゃいかん ここはドーンと見送ってやんな。」
「全くお前らには世話を焼いたわい。 行っといで、馬鹿餓鬼共。」
「育てて貰った恩は忘れません。必ず恩返しにきます。それまで元気にしといてくれよ、 親父。」
「「15年 ありがとうございました!!」」
手を振る老夫婦が見えなくなるまで二人で手を振り続けた。
「やばいな、あまり時間無いぞ」
「転移門閉まっちゃうよ!走ってお兄ちゃん!」
「俺は、語り継がれる英雄に」
兄は剣を握り締め告げる。
「私は、最も偉大な魔導士に」
妹は杖を掲げ高らかに宣言する。
兄妹の旅が今始まる。
後に伝説となる…(予定)の物語、その序章は綴られていく。