閑話 sideテレジア
それはいつだっただろう。
私が見ている世界がお兄ちゃんと違うって気づいたのは。
お兄ちゃんは見える世界を怖がってた私に手を繋いで大丈夫って声を掛けてくれていた。
それはいつだっただろう。
お兄ちゃんが倒れてくる木から私を庇って怪我した時、私は必死に治ってと願った。そしたら今まで怖がってた世界がお兄ちゃんを治してくれた。
それ以来私は見える世界が好きになった。
それはいつだっただろう。
それがマナと呼ばれる魔法を形作るモノだと気がついたのは。
それはいつだっただろう。
魔導士を初めて見た時、その周りにたくさんのマナが舞っていたこと。
そしてお兄ちゃんの周りにはマナがひとつも舞っていなかったことに気がついたのは。
私はマナに愛されている。
お兄ちゃんはマナに嫌われている。
世界は 残酷だ
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-- 始業式3日前 学生寮 とある一室
「ほらよ、起きなテレジア。お前宛ての手紙みたいだぜ。」
「ねむーい...。ありがと、ヨルハちゃん。どれどれ...
えー49期生テレジア殿 本日正午学院長室まで来るように... !? え!私何か悪いことしたかなぁ...」
「まあ心当たりが無いなら違うんじゃねえか?お前次席だしその辺の用事かもしれないぜ?。」
「うーん心当たりは...ないこともないけど...(笑)」
「は〜。ったく問題事は勘弁だぜ?まあ何にせよ行くしかないってことだ。」
「怒られるの嫌〜〜〜。けど私凄いから大丈夫だよね!きっと!」
ため息をつくヨルハと何故か逆に自信満々のテレジアだった。
「仕方ねえ...迷子にならないよううちも学院長室まで付いてってやるよ。」
「わ〜い。ヨルハちゃん好き!!!」
「ほら、さっさと髪とか整えるんだぜ。髪とかしてやるからこっちきな。」
「うふふ。ヨルハちゃんお母さんみたいだね。はいはーい!」
ヨルハにされるがままのテレジアはどこか嬉しそうだった。
--正午 学院長室前
「おや、ヨルハ殿。貴女達も学院長室に?」
「カレンか。アンタも姫サンの子守りかよ。」
「学院長への手土産として氷像が出来そうじゃな...。一息に楽にしてやろう。」
「ダメだよリオナちゃんそんなことしたら!」
途中で出会ったリオナ達と軽口を叩き合いながら正午を待つ。
「ほら、時間だぜ。行ってきな。」
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「「失礼します。」」
ドアをノックしリオナとテレジアの声が重なる。
「入りなさい。」
「よく来たわね、2人とも。こちらに座りなさい。」
言われるがままに座る2人。そしてそこでリオナが口を挟む。
「それで?学院長ともあろう者が妾たちに何の用じゃ?」
「そういう所はほんとそっくりね。
テレジア、リオナ、貴女達2人にギルドからスカウトが届いています。それに関してギルドマスターが来ています。しっかりと話を聴くように。来なさい、シリウス。」
ティアの言葉と共に入口とは別の扉から長い白髪を下げ髪にしたとても美しい女性が現れた。
テレジアにひと目でリオナの姉であると認識させる程雰囲気がそっくりであった。
「久しいな、リオナ。入学早々騒動を起こしてくれて私は頭痛がしたぞ。」
「うっ...それに関しては何も言えぬのじゃ。じゃが妾は思うがままに行動した。そこに後悔は無いぞ姉上。」
「すぐお兄ちゃんと喧嘩するんだから〜リオナちゃんは。」
「はあ...相変わらず頭が固いなお前は。まあいい。今日は姉としてでは無くギルドマスターとして来たからな。」
「49期生リオナ・ノア・エルフィニア、それとテレジア。お前たち2人をギルド アルカナに迎えたい。来てくれるか?」
シリウスはそう言いギルドへの紹介状を差し出す。
「ふむ、当然じゃ。妾を理解してくれるのは姉上しかおらぬ。テレジア、貴様も自らを高めるなら姉上の元につくがよい。」
リオナは迷わずそれを受け取った。
テレジアもそれを受け取ろうとした時...
「シリウス、ごめんなさいね。その事で1つ報告があるわ。」
そう言うとティアは4枚の招待状を取り出す。
「テレジア、貴女にはシリウスのアルカナ、そしてディアボロスを除く他4つのギルドからスカウトが来ています。」
「なっ...あいつらめ。約束を違えたな。ティア様も人が悪い。」
「このタイミングで言うように念を押されていたの。ごめんなさいね。けどシリウス、貴女が一番理解しているはずよ。テレジアの力を。」
「だからこそ私が育てると宣言しておいたのだがな...。まあ所詮口約束だ、魔法で縛っておかなかった私の落ち度だ。」
「さてテレジア。貴女には選ぶ権利があります。プロメテウス、サルドメリク、カノープス、ケラウノス、アルカナ。この5つのギルドからどれを選ぶかは貴女の自由よ。勿論今決めなくてもいいけどどうする?」
ティアがそう言い5つの招待状を机に並べる。
テレジアはそれを見て
「うーんお兄ちゃんと同じとこは来てないのか〜ひど〜い。どうしよかな〜。」
「アルフェニスはもの好きだからな...気にするな。」
「姉上、こいつも大概ヤバいやつじゃぞ...まあ才能は紛れもないがな。」
しばらくテレジアは考え込み
「うーん、ねえ、ティア様。」
「何か質問か?」
「ギルドマスターで一番強い人は誰?」
先程までとは打って変わって真剣な表情でテレジアが質問する。
「そうね。難しいしこう言ったら皆怒るんだけど多分戦ったら強いのはディアボロスのアルフェニスかケラウノスのラキウスかしら。」
「じゃあギルドマスターの中で最高の魔導士は誰?」
「それは簡単ね。そこのシリウスよ。
"閃光"の他に"至高"の二つ名を持つ、人格、力、技術全てを兼ね備えた私自慢の魔導士よ。」
「ティア様、大袈裟です。」
謙遜するシリウスの顔はどこか嬉しそうだと感じたのはリオナだった。
「じゃあ、アルカナにします!ティア様とシリウス様の周りのマナも喜んでるし。」
「やはりマナが見えているか...。
アルカナを選んでくれて感謝する。私はお前達を歓迎する。一つだけ質問がある。テレジア、お前はどこまで見えている?」
「色とマナの感情ぐらいかな。」
なんでもないようにテレジアが答える。
「「っ!!!」」
「テレジア...。お前本当はどこまで使える?」
「へえ...。本当に凄いんですねシリウス様は。ティア様、近くに魔法を使っていい場所ってありますか?」
「問題ない。それならば私が用意しよう。」
「もしやティア様...?」
「どうせ後々知ることになるわ。それにこの子達の為にもね。」
"其は開闢の星 無限にして幽玄
天地を別ち 星を抱く者
神の座に至り 全てを裁く者
万象を示せ 極獬の星よ"
【祝福されし蒼天の星】(ディア・ユニバース)
ティアの詠唱と共に辺りの空間が捻じ曲がる。
そして気がつけば地平線まで広がる岩しかない荒野にテレジア達はいた。
「これがティア様の己が身1つで組み上げる異世界創世魔法。アルフェニスのものとは比べものにならないな...。」
「学院長ティア...そなたは一体何者じゃ?」
「リオナ、ティア...ティア・オスカロス様は私より上"神域"だ。」
「!? ただ者では無いと思っておったがよもやそれ程とはな...。」
「凄い...ここはマナが満ちている。ここなら何でも出来そう。」
「当然よ。私が魔法の練習の為に組み上げた魔法だもの。この中ではマナは無限に循環し尽きることは無いわ。外からの衝撃に弱いのがこの魔法の弱点だけれど...」
ティアが話終える前にその視線をテレジアに向けられる。
テレジアが踊る様に魔力を練っていく。周りのマナが、世界がテレジアと共に舞い踊る。
「これがマナ...あやつに見えている世界か...。」
普段は見えないリオナの眼にも見える程のマナがテレジアに集まっていく。
そしてテレジアは歌うように詠唱を始めた
"舞うは剣 閃くは天の華
その者操りしは 三対六の羽
唄は紡ぐ 咲き乱れる緋色の残花 永久なる幻想
悠久を生きる戦乙女よ 終わりへと我を導きたまえ
この身は神へと至るもの
我が名の元に全てを斬り伏せん"
【究極技法 天凛剣神】
詠唱と共にマナ達がテレジアを包む。
そしてその中から現れたのは羽を象った6本の光剣を周りに漂わせたテレジアだった。
その神々しい姿にリオナは気づかれない程度の身震いをする。
「とんでもないわね...。やはり血は争えないか...」
ティアは誰にも聞こえない呟きを零す。
「どう?シリウス様。」
「素晴らしい魔法だ。リオナ、盾を出してみろ。」
「ふむ...ほれ。」
リオナが手をかざすと氷の盾が出現する。入学式当日、レギが全力を持ってこの盾を割るのが精一杯だったあの盾だ。
「テレジア、その剣でこれを切ってみろ。」
テレジアは頷き
「それ!」
と神々しい見た目とは裏腹に間の抜けた声で剣を操る。そしてリオナの盾をバターの様に斬り裂いて見せた。
流石のリオナもそれには目を見開いた。
だがシリウスとティアは当然とばかりにそれを見て...
「やはり"超越"に限りなく近い。溢れるマナを制御し洗練すれば既に超越魔法と言って差し支えないだろう。」
シリウスの言葉に絶句していたリオナが声を上げる。
「やつは!あやつは15歳にして"超越"の域にいると、そう仰られるのですか姉上。」
「リオナ、お前も理解しているだろう。お前の氷魔法は上等魔法の中でも限りなく高等に近い。その魔法を容易く斬り裂くその意味を。」
「くっ...」
リオナは歯を食いしばる。当然リオナはシリウスの言ったことが理解できるからだ。
リオナの盾を斬り裂いたテレジアはそのまま剣を纏い疾駆する。
荒野に立つ岩たちを斬り裂きながらその剣を手足の如く操る。その姿はまるで...レギの情景のようであった。
走り回り満足したのか再び3人の前に戻ってきて魔法を解くテレジア。だがそれと同時に地面に倒れ込んでしまう。
それを予期してたかのようにシリウスがテレジアを受け止める。
「あれ?身体に力が入らないや...」
「魔力の消費が多過ぎる。膨大な魔法力とマナから魔力を借りれるお前でも厳しい程にな。だがそれもお前が力を付ければ改善出来るだろう。私が鍛えてやる。」
「うん...。よろしくお願いします、シリウス様...zzzz」
「力尽きたか...。リオナ、お前の前で言いたくは無いが凄まじい才能だな。」
「何となく感じてはおった、こやつの持つ力は。驚きはしたが不思議ではない。」
「素晴らしい力、けれど使い方を間違えたら恐ろしい力になるわ。頼むわよ、シリウス。それにリオナ、貴女にもこの子と並ぶ力があると私は思っています。互いを認め合い、そして強くなりなさい。」
そう言いティアが指を鳴らす。
また気がつけば学院長室へ戻っていた。
「追ってまた連絡する。今日は部屋へ戻れリオナ。久々に会えて良かった。出来れば皆と仲良くな。」
「ふん。そいつは出来ぬ相談じゃな。」
そう言いテレジアを抱え部屋を出るリオナ。
「ほれ、荷物じゃ。責任持って連れ帰るがよい。」
「おいおい、中で一体何があったんだぜ?おい起きろよテレジア。」
「うーん部屋まで連れてって〜ヨルハちゃん〜。」
「な!てめえ!おい寝るな!...ったく。」
「ありがとね〜ヨルハちゃん〜zzz。」
「1人じゃ辛いだろう。私が手を貸そう。」
「ありがとな、カレン。」
「全く...世話の焼けるやつじゃな...じゃが誰よりも魔法に愛される者か...。負けられぬな。」
緩みきった表情のテレジアと1人決意を新たにするリオナ。
後にアルカナ、学院を代表する2人の魔導姫として名を轟かすのはまだ先のこと...
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