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後に伝説となる英雄たち  作者: 航柊
第3章 魔導士編
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第百六幕 beginning water





突拍子もなく...水に飛び込む。


衣服は纏ったまま、魔法は何も纏わずに

ただありのまま...飛び込んでみたんだ。




水に沈み、青と一つになる。


心も解けて、泡と一つになる。


そして思い出す...親友の言葉を。


______________


ある日の夜だった。


僕は問い掛け、君は答えた。


「どうして...君はそこまでやれる。

どうして...君は痛みに耐えられる。」


「そうか...お前は俺を"写した"んだったな。

なら分かるかもしれない。


簡単(シンプル)な話だ。


痛みによって...いや、この言い方じゃ伝わらないかもな。


痛みをもってして...自分を研ぎ澄ませる。

自分という剣を、痛みという砥石で磨く。


どんな名刀も磨かれなければいつかは錆びて朽ちる。必要なことなんだよ。だから耐えるなんて言い方は間違ってる。必要な事だと、当たり前なのだと...受け入れるんだ。」


______________


その意味をようやく理解した。


【名鏡雫水】は戒めなんかじゃないと。

過去に怯える日々に終わりを告げよう。


戻ろう。己を天才だと信じていた愚かな自分へと。


だってそうじゃないか。【名鏡雫水】は僕の力だ。僕は今日...僕を信じることにする。


僕は【名鏡雫水(じぶんのちから)】で僕を"天才"にする。


「はははっ!凄いやレギ。心の持ちよう一つで...世界はこんなにも変わるんだね。」


______________


突然飛び込んだと思えばゆらりと立ち上がり

纏う服も厭わずに濡れながら笑う(シン)

その姿を見詰めながら彼女もまた笑った。



ようやくだ。


荒々しく燃え上がるのではなく


一寸の狂いもなく 清らかに立ち上る蒼き瞋恚の炎。


かつて私が見つけた宝物。


おかえり...私の(シン)


______________


「失礼します。ラグナ様がお見えです。それともう一方会いたいという方が見えていらっしゃるのですが...その...お姿があまりにも...。」


「通していい、格好もそのままで構わないよ。

ただ君たちは下がるといい。何が起こるかは分からないからね。」


______________


「お目通り感謝します陛下。このような格好で申し訳ございません。」


「やあ シン君。思っていたより来るのが早かったね。けどよもやずぶ濡れで登場とは流石の私も予想外だよ。

君が付いていながらなんてザマだい?ラグナ。」


シンとラグナが立つのは王の間。

シンが会いたいと願ったのは他ならぬ王。


イルドラード・リヴァイアだった。


だが王に相対するシンの姿は目も当てられないものだった。


「...。」


だがラグナは何も言葉を発することは無い。

"シンをこの場に連れてくること"その時点で彼女は己の役割を終えていたのだから。


「この姿は僕の意思ですよ。姉上は関係ない。


そしてそんな問答に意味はありません。

簡単(シンプル)な話をしましょう。


僕を貴方の弟子にして頂きたい。」


場面が違えば水の滴るいい男と称されるかもしれない。だがここは王の間であり相対するのはこの国を総べる王。


だがそれでもシンは二本の足で立ち、言い放つ。


『面白いね。随分な変わりようじゃないか。けど何より面白いのはラグナがこの現状を静観していることだ。なら心置きなく...試させてもらおうか。』


イルドラードはラグナを理解している。だからこそ...その身に魔力を奔らせた。


「思い上がるな。私を欲するならば..."魅せてみろ"。」


王として...無礼を働く輩を許す訳にはいかない。


だが次なるシンの行動は今度こそイルドラードの予想を上回るものだった。


「言ったな。口にしたな。しかとこの耳が聞き遂げた。


ならしかとその眼で焼き付けるといい。祖なる蒼が示す輝きを。」


______________


"想いを()める"


その点に置いて僕は他の追随を許さない。


記憶を想起しろ。そして選び抜け。

割れた鏡の欠片を拾い上げて...想いの欠片を集めて新たな自分に投影してみせろ。


出会いの数だけ...僕は強くなれる。この身が許す限り。水はなんにでもなれるのだから。


さあ唄おう。


"我が心に色は無く なにものにも染まりうる空の器 スペクロムの歌 舞い落ちる(ティア)"


それはかつての記憶。詠唱とは心有り様を写す鏡。過去と今を繋げ...新たな形を紡いでいく。


"全ての願い 全ての傷 全ての力よ 我を満たせ

この身は万象写す無垢なる鏡像


顕現せよ 星の杯が零す 其は原初の一雫"


【名鏡雫水(ティア・シュピーゲル】


解き放つ。写し、積み重ねた意味を。


其れはかつてしまい込んだもの。だが弱き過去(じぶん)はもう要らない。


かつて自ら捨て去った"天才"を


今この手ずから拾い上げよう。


「祖を継いだ その意味を。」


告げる言葉と共に...蒼は美しく煌めく。


______________


油断は無かった。少なくとも私はそう思っていた。


だがどうだ。蓋を開けた結果がこれだ。


______________


瞬間...イルドラードの首元に添えられるは蒼き刀身。


「...見間違えるはずもない。今のは【水繋(ルリア)】だ。なるほど...作り直したんだね、私の魔法を写し取るべく、その器を。」


王はありのままを呟く。

そしてその胸の内にて確信を得る。


『可能か不可能かなんて議論は必要ない。私は誰より知っている...【名鏡雫水(ティア・シュピーゲル)】ならそれが出来ると。』


「勘違いしないで下さい。イルドラード様。

貴方が僕を選ぶんじゃない。貴方が選ばれる側だ。」


シンはそう告げ、躊躇うことなく首筋に添えたその刀身を引き切った。

瞬間...首は落ちることなく水に溶ける。その身体ごと。


そして入口からはその場にそぐわぬ拍手が鳴り響いた。


「素晴らしい。【水繋(ルリア)】を操るだけではなく【水代身(みつは)】すら見破るなんてね。」


イルドラード・リヴァイアは改めてその姿を二人の前に晒す。


「...まだ踊り足りなければ続けますよ陛下。」


アロンダイトを更に握り締め、シンは告げる。


「神を無理やり写し、ひび割れかけたその身でかい?」


王は朗らかに微笑み、"真実"を告げる。


「はっ!確かに身を引き裂くような痛みが身体中を襲ってる。けどそんなものもう僕にとっては"痛み"じゃない。


だから望むままにこの(からだ)が砕けるまで...踊ってみせますよ。」


息は既に荒く、その身は表に出さずとも満身創痍。されどその瞳に一縷の迷いも無し。


______________


イルドラードの仮説は当たっている。


時と場所以外は。


代償は既にその身を侵している。だが其れは今の話では無い。

その身を水に浸した時から彼はその代償に身を浸していた。


簡単な話だ。その時から想いを()めていただけのこと。


"天才"を作り上げる為に。


彼はまずレギを想い、次にリオナを。

そして最後に...己が知りうる頂点、テレジアを。


さらにそこから己と、三者三様に抱く欠点だけを削ぎ落としていく。


そうして彼は辿り着く。今の理想...レギの技術と耐性、リオナの心、そしてそのバランスを唯一保てるテレジアの身体。


己が器から逆算した"最高"に。


______________


「ひと欠片と言えど神を写す。...本来ならばとうに割れているはずの器。だが溢れるそばから...不要と断じたものから切り捨てるか。そうだ、お前はその"魔法"が故に初めから己が器を理解していた。必要なのはきっかけだった...全く手のかかる弟だ。」


彼女が神の座についたのも、異端児を巻き込んだのも...全ては今日この瞬間のために。


______________


「...祖の力をもって、君は私に何を望むんだい?」


拍手を止め、その視線を受け止め、王は問う。

何が為に我が力を欲するのかと。


「レギの隣に立つ為に。そしてテレジアとリオナなんかじゃない...僕とレギの二人が頂へ至る。


その為ならどんなものでも写してみせる。だから僕を..."第三冠位(あなた)の届かなかった頂へと導いてみせろ。それが僕の答えだ、イルドラード・リヴァイア。」


非日常を経て、ありふれた日々に終わりを告げる時。彼は吠えてみせた...蒼の華はようやく蕾を付けるに至ったのだ。いつの日か世にも珍しい蒼き大輪を咲かせる為に。


「ふふっ。心は制御出来ずに未熟、その身は溢れかけてのガラスのコップに等しい。


だがその覚悟は本物のようだ。...その美しい蒼の輝きはかの【雨照】にも勝るとも劣らない。


見事だ、シン・アルバ・エルフィウス。君に私の全て以上のものを捧げよう。まずはそうだね...手始めに"海越"といこうじゃないか。」


王は嗤う。次を見据えたが故に。


「ははっ!望むところじゃないか。」


そして"次代(シン)"もまた、嗤った。


______________



「次代は成った。"獲りにいくか"魔導大祭を。」


そして最後に彼女も嗤う。


神として座し、新たな後継を手にした"大海の魔女"も。

モンハンはしっかり楽しみまして今回は割と早めに更新。

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