第十一幕 ギルド
夏です。労働が暑いです
何よりも黒き黒。どこまでも純粋な闇。
かろうじて自我を保ちながらレギはこの闇を美しいと感じていた。なにものにも染まらない黒。これが本物の闇魔法。
しかも先程の魔法を行使した前を歩くアシュレイという男はギルドの副マスターなのだという。これから会う自らをこの学院に推してくれたディアボロスのギルドマスターたる人物は一体どれ程の魔導士なのか。レギは溢れんばかりの期待と少しばかりの恐怖を感じていた。
--時は少し遡り食堂
現れたアシュレイの放つプレッシャーなのか理解のできない力で動けないレギとその他の生徒たち。
「なにを腑抜けた顔をしている。来いと言ったのが聴こえなかったのか?」
何事も無かったようにアシュレイが問いかけるが
身体が動かない。そこでようやくアシュレイが
「ああ すまないな。【解放】これで動けるだろう。」
そう言いながらアシュレイ何かの魔法を解除したらしい。
そこでようやくレギたちは身体の自由を取り戻した。
「今のは...闇魔法ですか?」
少し間を置きレギがなんとか息を落ち着かせて問いかける。
「今の魔法は闇魔法【テリトリー】の応用に過ぎない、ほんの児戯だ。くだらん問答はいい、さっさと行くぞ。」
そう言いながらレギにアルカディアを渡す。
「どうしてこれを?」
「貴様には必要だと同室の者がな。」
どうやらシンが渡してくれたらしい。後で礼を言わないとな。
「では、ついてこい。」「はい。あ、すみません、一言だけ。」
「テレジア、リンドール、皆をよろしく。」
自分より早く動けるようになっていたテレジアとすぐ後になんとか動けるようになっていたリンドールにそう声をかける。
「てめえ、何を勝手に!」
「はいはーい、いってらっしゃいお兄ちゃん〜。」
リンドールはふらつきながらも飛びかかって来そうな勢いだったがテレジアに押さえつけられててギョッとしていた。押さえつけるテレジアの目は笑っていなかったから少しだけリンドールの事が心配になった。
他の生徒の介抱を2人に任せレギはアシュレイに連れられギルドへと向かう。
前を歩くアシュレイの姿は一部の隙もなく、先程の魔法も含めて凄まじい実力者であるのが見て取れる。
「アシュレイさん?先輩?どうして俺をスカウトしてくれたか聴いてもいいですか?」
気づけばレギは質問していた。
「...貴様、先程の魔法の中で自我を保っていただろう?あと先輩でいい、まだ私もこの学院の生徒だ。」
少しの沈黙の後アシュレイは答えた。
「分かりました アシュレイ先輩。確かに自我は保っていました...かろうじてですけど...。」
「それでいい。あの魔法には空間遮断、認識阻害、五感剥奪、撹乱を付与していた。あの中で自我を保っていたのは貴様の他数名しかいない。闇魔法に適性のある者だ。多くの者は未だに魔法を受けたことすら認識出来ていないだろう。
だが貴様は闇魔法を受けたことまで把握していた。貴様の闇魔法への適性は高い、高過ぎる程に。まあ魔法力がゴミ過ぎて今のままでは無駄だがな。
マスターが選んだ理由は他にもあるようだが...」
最後の一言はあまり聴き取れなかったが自分が思ってる以上に闇魔法への適性があるらしいこと、だがそれを魔法力の低さが相殺しているということをレギは理解した。
割り切っていたつもりではあったがレギは少しだけ自分の魔法力の低さを呪った。
「悔しいか?なら"貴様も"這い上がってこい。」
どこか引っかかるもの言いにレギが聞き返そうとさるがそんなレギの目の前に荘厳な建物が現れる。
「着いたぞ。ここが我らがギルド ディアボロス の拠点だ。ギルドにはそのギルドの紋章を刻む者かこれを身につけた者しか入ることは叶わない。」
そう言いアシュレイはレギに腕輪を渡す。
赤を基調とした剣を中心に六枚の黒い羽根が周りを囲っているレリーフが彫られている。
「それがディアボロスの紋章だ。貴様も後でその身に刻む事になる。その紋章に恥じぬよう努めるがいい。行くぞ、奥でマスターがお待ちだ。」
その一言に気を引き締めるレギだった。
ギルドの中は不思議な空間だった。明らかに建物以上の広さがあるのである。魔導学院の門をくぐった時と同じような感覚だった。
「あらアシュレイ、その子が噂のレギ君?」
「戻っていたのか。そうだが...。」
「あらあら そう。よろしくね、レギ君。私はノーチェ、ノーチェ・アンドロメダ。そこのアシュレイとマスターの秘書よ。ちゃんと魔導士だけどね。そいつになにかされなかった?もしいじめられたらお姉ちゃんに言いなさい、私がやり返してあげるから。」
美しい紫の髪をなびかせながらノーチェと名乗る女性はレギにウィンクをキメてきた。
「49期生 No.101レギです。よろしくお願いします。ノーチェ先輩。」
「邪魔をするなノーチェ。貴様に用はない。」
「私は団長に用があるのよ。貴方に用は無くても目的地は同じなの。面白そうだし私もついていくわ。」
「...。勝手にしろ。」
仲が良いのか悪いのか、分かりにくい二人のやり取りをなんとも言えない気持ちで俺は聴いていた。
--執務室前
「失礼します。新入団員を連れて来ました。」
アシュレイが扉をノックする。
「ご苦労、アシュレイ。入っていいよ。」
どこかで聞いた声が中から聴こえてくる。
部屋にいた人物にレギは驚愕する。
「ようこそ レギ君。ギルド "ディアボロス"へ
私がギルドマスター "アル"フェニス・ジェラキール・ディアボロス 君には期待しているよ。」
転移門で出会ったアル先輩その人がそこにいたのである。
「転移門の時の...」
レギは思わず声に出してしまう。
すると
「転移門...? 団長昨日は学院長に用があったはずでは?
もしかしてまた学院無断で抜け出したんですか?」
レギの後ろからとてつもなく冷たい声が聴こえてくる。
先程のノーチェの優しい声と違い過ぎてレギは身を強ばらせる。
「い、いや待つんだノーチェ。シリウスに言われて仕方なく...。」
「もう言い訳は聞き飽きました。レギ君、その時団長が何か言ってなかった?」
冷たい声のままレギは問い掛けられ自然と口が開いていた。
「薬草を取りに来たと言ってました。たしか深緑草...」
「未申請での学外における薬草採取は規則違反ですね。特に深緑草はAランク指定物...学院長に報告しておきます。」
「待ってくれぇ もうこれ以上処罰を受けると貯金が...。」
「自業自得です。働いてください 団長。」
「そこまでにしておけ、ノーチェ。マスター、擁護はしません。処罰はちゃんと受けてください。
それは置いといてレギにギルドの説明と入団の儀を。マスターの仕事です。」
アシュレイのフォローとはいいきれない一言でなんとかアルフェニスが立ち直る。
「そうだね...。仕事をするとしようか。」
そう言うとアルフェニスの雰囲気が変わる。その雰囲気にレギも少し姿勢を正す。
アシュレイとノーチェを左右に立たせどこか神々しい雰囲気を纏うアルフェニスが口を開く。
「49期生 No.101 レギ 。君を正式にギルドディアボロスにスカウトする。
私たちと共に 力を磨き "魔法を極めよう"
他の誰でもない 己自身のために
ディアボロスは君を歓迎する。末席だろうが異例だろうが関係ない。異端の才を我々は求めている。
君は強くなれる。だから私は君をこの学園に招いた。我々がその一助となろう。そしてその力で我々を助けて欲しい。
どうかな、君の力を貸してくれるかい?」
俺の心に風が吹いた気がした。
こんな自分を評価してくれている、何故魔法の才能のない自分をスカウトしたのか、誘う裏には何か理由があるかもしれない、そんなことも考えていた。
けれどもうそんなのはどうでもよかった。
この人の元で学びたい。この人が見出した人達と会ってみたい。この人の助けになりたい。
ならばもう、答えは決まっていた。
「第49期生 No.101 レギ ただの末席のレギ。
ギルド ディアボロス の紋章に恥じぬ魔導士になります。なってみせます!」
そう宣言した。
「ここに契約はなった。我々と君は友、兄弟、仲間、家族だ。放課後はここの施設を自由に使ってもらって構わない。偉大な先輩たちが君を待ち受けているだろう。共に切磋琢磨し魔法の、人の素晴らしさを僕に見せてくれ。」
そういいながらアルフェニスがレギに手をかざす。
レギの右手の甲にディアボロスの紋章が刻まれる。
「その紋章に魔力を込めてこの学院のドアを開けるといつでもこの拠点に繋がることが出来る。僕の魔法でね。私のことは団長、マスター、好きに呼んでくれて構わない。名で呼ぶならジェラで頼むよ。」
「では、マスターと。」
「ふふふ いい響きだ。では我がギルドの役割を説明しながらギルドでの君の仕事場を案内しよう。ついておいで。」
「ではマスター、後ほど。」
「団長〜報告はしますからね!改めてよろしくね
レギ君。」
「よろしくお願いします。」
そう言って2人に頭を下げアルフェニスと共に部屋を出る。
--廊下
「さてレギ君、ギルドの説明は聞いているよね?」
「はい。入学式の際に。学内での役割と学外の仕事を請け負う機関だと。」
「そうだね。ただ我々ディアボロスは少し違う。ディアボロスは学外ではなく主に学内の仕事がほとんどなんだ。それはディアボロスが担う役割が関係していてね。
ディアボロスの役割、それは結界の維持。君も知っているだろう?この学院は異空間に門を起点とした結界を展開し存在している。それにより王都の中にありながら王都と同等程度の面積を有している。これは私が作り上げた空間結界魔法
【小さな世界】アナザーコスモス
によるものなんだ。ギルドの団員にはその補助をしていてね。結界石の修復や結界の補強、結界への新たな効果付与などが主な仕事だよ。
それ故に空間に作用する闇魔法の適性者は適任でね。君の高い適性を役立ててもらう日も遠くないだろう。あとは団員個人にも役職があるんだけどそれはまた後で教えてあげるよ。」
そう説明をされながらレギが連れてこられたのは図書室だった。
「ここは...。」
「ここは私が主に闇魔法を中心に記述が書かれた魔導書を世界中から集めた図書館だ。
君にはまずここで司書の補助をしてもらう。そして補助をしながら闇魔法への造詣を深めてほしい。入学して一年以上経過しないと正式な依頼や仕事は来ないからね。それに君は本を読むのが好きなのだろう?」
何もかも見透かしたかのようなアルフェニスの言葉。事実レギはまだ見ぬ蔵書の数々に心を躍らせていた。そして思い浮かんだ疑問点を口にする。
「これが役職ですか?それに司書の補助ということは司書がいらっしゃるんですか?」
「いや、これは役職とはまた別、君個人の仕事だね。そうだね。多分奥で寝てると思うよ。」
そう言いながらアルフェニスが指を指す方向を見ると奥のソファーでピンクの髪の少女が寝ているのが見える。
アルフェニスはゆっくり近づいていきすやすや眠る少女を声をかける。
「ほら、起きなさい メルヴィ 君の後輩を連れてきたよ。」
「んん〜っ こぉはぃ?こーはいか〜 後輩!?」
最初は寝ぼけていたが徐々に覚醒していったようだ。
メルヴィと呼ばれた少女は飛び起きて
「後輩!?ついに我に後輩!?くるしゅーないぞ 後輩! 我が名はメルヴィ・キティ・ラミア 新愛を込めてキティと呼ぶがいい!」
「授業が始まるまで一週間あるからそれまでにメルヴィから色々教えてもらいなさい。色々ね。」
意味深な発言をするアルフェニスとドヤ顔のメルヴィ。
静かな図書館とは裏腹に騒がしい司書との日々が始まろうとしていた。
ロリ先輩登場です。