第百二幕 やるか やらないか
今回は早めに...少し短いですが。
自分で口にすることは沢山あった。
けどほんとのほんとに言われたのは初めてだった。
ヨルハちゃんのことを少しだけ認めてあげてもいいかなって思ったね正直。
あと改めてお兄ちゃんを叱ろうと思いますはい。
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「へ?好き?誰が?誰を?」
その言葉の威力はただただ絶大だった。
当代最高に至ろうという彼女をこんなにも狼狽させるのだから。
「ん?聞こえなかったかな。僕が君を好きになってしまったんだ。愛してると言ってもいい。
胸の高鳴りが止まらないんだよ、君を一目見てからずっとね。」
覚悟を決めた男は強かった。
隣で聴いてしまったリラも顔を真っ赤にして口をパクパクさせることしか出来ていない。
「え、ええっと.......ええ〜〜〜〜〜っと?」
脳内容量を遥かに超えたテレジアは壊れた。
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「よし、エラ。ちょっと来い。話を詳しく聞かせてもらうぞ。」
「ええ、ほんとに!く!わ!し!く!ね!」
だがそこで突如始まった恋愛劇は中断されることになる。爆弾発言からようやく正気に戻ったレギとリラが二人の間に割って入ったからだ。
「ははっ!...そうだね。リラはまあともかくレギ、君にはちゃんと説明しないといけないな。だけどそれにはこの場が必要だ。君にも、テレジアにも聞いて欲しいからね。」
けれどそんな慌てふためく周囲とはうってかわりエラは落ち着いた様子でそう告げ、ほんの少しだけ沈黙の時間を作り出す。
「皆落ち着いたかな?まあ正直に言おうか...僕はね、レギ。まず君が欲しかったんだ。君と出会った日から今日までずっとアトランティアの食客として囲う準備をしていたんだよ。理由は言うまでもないけど...君に末席という烙印を押した国に帰す気なんて無かった。例え国家機密を使ってもね。」
エラは苦笑しながら母であり王座を分け合うアナスタシアに目線をやる。
「ほんとのことよ?なにせ生まれて初めての我儘だったもの。親としては叶えてあげたかったのだけれど...どうやら考えが変わったみたい。」
アナスタシアはやれやれとため息をつく。だがその表情はどこか穏やかなものだった。
そんな母を他所に、エラは言葉を続ける。
「けどそうだね...君に出会ってしまったんだよテレジア。"兄"を想う。ただそれだけでそこまで上り詰めた君に一目惚れしてしまった。
そして同時に理解ってしまったんだ。君たちは二人で一人...レギがいるから今の君が在るように、レギには君が必要だとね。
迷ったんだ。この想いは伝えるべきなのか、否か。それ程までに...君たち二人を尊いと思ってしまったからね。
けどそこでまたしてもレギ、君だよ。」
エラが告げる言葉の意味を理解出来ないレギでは無かった。
『お前らしくもない。』
意図した訳では無い。些細なことだったかもしれない。けれど...それに気が付けるほど、レギはエラを視ていた。
そして鋼の意思をもってリラを見守ってきた。そんな彼が些細な弱みを見せるほどに、エラはレギに心を許していた。
故に...エラは胸を張り、レギとその後ろに座り込むテレジアへ向き直る。
「君に意図せず背を押されてしまったからね。あれこれ考えていたのが吹き飛んだんだ。
理由なんてないよ。理屈じゃないんだ。
想いは時に理性を凌駕する。
だから全部...改めて言葉にしよう。
テレジア、君の邪魔はしない。望むままに、あるがままの君に恋をしたのだから。
けれどどうか...この手をとってはくれないだろうか。君の一番近くで君を...君の旅路を、見届けたい。
これで満足かい?レギ、リラ。」
その言葉に、嘘偽りは無い。
死線を共にしたのだ、それが分からない二人では無かった。
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なるほどねぇ...これはやばいね、ほんと。
揺らぐか揺らがないか、そう聞かれたら揺らぐに決まってる。
まあまず?テレジア式鑑定眼で視ていこうとね?思いますはい。
顔はまあかっこいいじゃん?
魔力はまぁぼちぼち...ってそんなこと言ったらお兄ちゃんはどうなるのって話だし...
纏うマナは黄金。凄く綺麗。
その心もね。私やお兄ちゃんと違って暗いものを一切抱えてなんかいない。いや、吹っ切れたのかな?
けどねぇ...一番大事なことが一つ。
"弱い"んだよね。
あはっ!なーんだ、簡単なことだったんだ。
そう思ってしまえば、答えは一つだった。狼狽も、迷いも無い。
なら、いらないんだよねぇ...今は"まだ"ね。
意を決した少女は立ち上がる。
答えを示すために。
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とびっきりの嗤顔を添えて。
「あはっ!テレジアちゃんも認める大胆不敵なすんごい告白に免じて答えてあげる。
簡単なこと、"弱い"子はいらない。
私が欲しいなら、私と〜ついでにお兄ちゃんも倒さないとね〜!」
明快かつ、単純な答え。
けれどそれはテレジアらしい答えだと言えるだろう。
思わず...兄が笑ってしまうほどには。
「確かにその通りだエラ。俺のたった一人の家族だ。簡単に渡す訳にはいかないな。」
妹の答えに眼を丸くしながらも...それは微笑みと共に告げられる。
識る者にとってそれは絶望に等しい一言だった。故に訪れるは沈黙。
だがそれでも、いや...だからこそ、金獅子に一つの陰りも無し。
「ハハッ!なんだ"そんなこと"でいいのかい?」
次の瞬間に、美しい銀は猛々しい金へと代わり強き"信"を宿した獅子へと姿を変える。
「フハハハハッ!!! いつぞや言っておったなレギよ。"出来る""出来ない"のではなく、"やるか"、"やらないか"だとな!正にその通りである。
確かにテレジアは揺らがぬ。折れること無く頂点へと至るのであろう。だがそれはつまり...テレジアは誰のものにもならぬということだ。
そう、この我に負けるまではな!!!
ならばよい。芽がなければ花は咲かぬ。だが育む芽があるならば、我は大輪を咲かせるのみよ!
まあレギは兎も角(笑)長い旅路となるであろう...がそれもよい。たった一度の生涯。なればこそ、苦難に挑むも一興よ。」
獅子は我が子を谷に落とすと言われている。
だが金獅子はその身を棘の乱立する谷に落とすのだから面白い。
「ふっ、ふははははっ!かの"黄金卿"がかのような者だとはな!面白くなってきたではないか!!!
よい!このリオナ・ノア・エルフィニアが証人となってやろう。
貴様が言ったのだテレジア。よもや今更怖気付くまいな?」
そう、リオナが高笑いと共にそう告げるぐらいには。
「あはっ!なるほどそうくるのかぁ〜...へぇやるじゃんやるじゃん。いいよぉ〜来なよ何度だってさ。お兄ちゃん(笑)は倒せても私は負けないからね〜!!!」
「お前ら俺の事馬鹿にしてないか?まあいいけどさ。油断は寝首を掻かれることを覚えておくんだな。」
「君たちを見てると色々考え込んでる僕が虚しく思えてくるよ。けどそれが正しいのだと、そうとも思わせてくれる。」
『つまりさぁ...多分だけど?多分レギを手に入れたかったら"アレ"倒さなきゃってことじゃん?うん無理。ごめんね少し前の私...。』
瞬く間に繰り広げられた恋愛劇に各々抱く感情は様々だった。
だが相も変わらずそれを見守る大人たちはというと...
「青春ねぇ〜。」
「ですねぇ〜。」
まるで流れる時間が違うかのように、穏やかであったという。
「はいはい...全部聞かせて貰ったよ。ただすまないね。この甘酸っぱい空間を維持する為に血と汗と魔力を流してる者たちが居るからね...一先ずは帰ろうか。温かい食事と布団も用意してあるからね。」
だがその時間も長くは続かない。長くはもたないと言った方が正しいかもしれない。水門が開き、どこかぐったりした様子の王(笑)が姿を現したのだ。
「あら、お疲れ様イル。仕方ないわね、帰るとしましょ。」
風が荒び、瞬きよりも早く"戦姫"が駆ける。
そして一瞬にして皆を縛り上げ、水門へと放り投げたのだった。
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それは静かな夜だった。
「ふぅ...何処でも寝れるようになったとはいえ流石に柔らかなベッドは沁みるな。」
全員ヘトヘトの宴らしからぬ宴を終えて俺は一人与えられた部屋に横たわっていた。
今になって新しい魔法の影響なのか迷宮から解放された安堵感からかは分からないが身体がとにかく重い。
そのまま夜の闇に落ちる如く瞼を閉じ.....
「ってなんでお前が横にいるんだ?」
「あは〜バレちゃった? テレジアちゃん渾身の隠形だったんだけどなぁ。」
「俺がお前を見付けられない訳がないだろ。ほら、部屋へ戻れ。リオナ呼び付けるぞ。」
「やだ.....今日は一緒に寝るの。」
侵入者たる妹は俺の袖を掴み、告げる。
その内に秘めたる想いは____
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「ねぇリオナちゃん...なんかさ、あの四人仲良過ぎじゃない?」
「貴様も観たであろう。本当の"死線"をくぐり抜けたのじゃ、そういうことなのじゃろう。」
「ふ〜ん。」
「まあ貴様には余り理解は出来ぬかもしれぬ。
良くも悪くも...な。」
そう...彼らは過ごしてきたのだ。否、戦い抜いたのだ。
幾百と積み重ねたありふれた日々をまたたきの間にぬぐい去るほどの日々を。
それ程の濃密な時間を...命を掠める程の非日常を。
『まぁ分かるよ?なんとなく分かってるけどさぁ
なんだろう...モヤッとする
違うんだよねぽっと出に取られるのはさぁ
私とお兄ちゃんの絆が揺らいだ訳じゃない。
けど.....』
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「...全く分かりやすいやつだな。大丈夫、お前が一番だ。エラにも言っただろ、たった一人の家族なんだから。」
それはもう見透かしてるんじゃないかってぐらい...私の言って欲しい言葉全部言ってくれた。いや見透かされてるんだけどね!?
『ああ...好き。ほんとに好き、大好き。』
「えへへへ...なんかそんな風に言われるとムズムズする。ねぇならさ...いいでしょ?一緒に寝ても。」
「...いいよ。まあ新魔法も視せて貰ったしな。」
って急にそんなこと言うもんだから思わず飛び起きちゃった。
「あはっ!やっぱり視れたんだ。ね!ね!どう視えた!? あれさ!私ががんばっっっっって考えたんだよ!ねぇ褒めて褒めて〜〜〜〜〜〜〜!」
一気に覚醒だよね積もり積もった豪雪ぐらい話があるんだから!
あはっ!!! 今夜は寝かせないよ!!!お兄ちゃ〜〜〜ん!
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夜闇が耽る中、完全に覚醒した太陽によって魔法談義に花を咲かせる兄妹がいたとかなんとか。
翌朝二人仲良く寝落ちしている所を某水の剣士に発見されるのは想像に難くないだろう。
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場所は戻って再び迷宮最下層。
「ふむ...妾の呼び出しに遅刻するとはよい度胸じゃな末席。風の噂によれば兄妹仲睦まじく過ごしておったそうじゃな。」
「正論での殴りは効きすぎるからやめてくれ...いやほんとに...すみませんでした。」
何故か丁寧に用意されていた戦衣装に身を通しながらも綺麗な土下座を決めるレギ。
「まあよい。これから話す内容に比べたら些事に過ぎんからのう。」
だがただならぬ雰囲気を発するリオナを見てレギは姿勢を正し口を開く。
「聞かせてくれ。」
「まどろっこしい前置きは省くぞ。
レギ、本国から勅命じゃ。
貴様を妾の"近衛騎士"に任ずるよう命が来ておる。」
その一言一句が、心に染み渡り、溶けていく。
その言葉を。
俺は誰より渇望していたから。
お待たせいたしました。
ギリ年内ということでセーフ。
今年は更新少なくもし読んでくださってる方がいたら本当に申し訳ないなと思っております。
駄文でお目汚しかとも思いますが頑張って書いていくつもりですので温かく見守って頂ければ幸いです。
2024年お疲れ様でした。