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後に伝説となる英雄たち  作者: 航柊
第3章 魔導士編
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第百一幕 其れは「」の物語part2

大変お待たせしました。




他から見れば歪んでいるのかもしれない。

傍から見れば狂っているのかもしれない。


けど私は理解(わか)ってあげられる。

痛いほどに理解ってしまう。


真っ直ぐ...ただ純粋に想う。


それだけなのだと。


その"想い"は 誰かが受け皿になってあげなきゃいけない...


ならそれは私の役目だから。


レギを守れなかった、私の。


気が付けば言の葉を零し、身体は動いていた。


______________


一目見れば分かること。


この眼に映るマナが一つの事実を示していた。


このヒトは"嘘"をついている。


ほんとのほんとに自分が悪いと思ってる。

そんな悲しい嘘を。


あはっ...優しいんだね。それに...強い。


なら...今だけは悪い子になってもいいかな。


少し、甘えさせてね。


______________


「あはっ!!!これなら...どうかなぁ!


"(かさね)(はし)れ 虹の連弾"


魔虹弾(アルコ・バレット)】」


六の光を束ね、テレジアの指から放たれるは虹の魔弾。言わば唯の魔弾。されど全属性を束ねた上でテレジアが抱く渾身のマナを込められて放たれるそれは熟練の戦闘魔導士が放つものを遥かに凌駕する。


______________


「凄い。マナを見分けるが故の完璧な配色ね。

けど私なら調律(あわ)せられる。


"(くう)へと譜を描かん 六鍵は六弦へと至り 戦律は重なりゆく


運命(さだめ)の時は来たれり 彼方へ響け 永久なる幻奏"


【グランド・オルガノン】」


輪廻(リィンカーネーション)】は打ち震える。主が奏でる"魂の旋律"に。


テレジアが攻撃魔法の天才ならば、リラは紛れもなく防御魔法の天才である。


六魔六元素。あらゆる属性が交わらずとも織り成す虹の魔弾。されどその尽くを撃ち堕とす。


全ての魔力(おと)はかの手の中にある。全てを調律し、同調し、相殺する。彼女だけに許された絶対防御。


______________


激情のままに魔法は放たれ、その想いごと全てを受け止める。それは幾百もの魔法の応酬。


その末に...


息一つ乱すことなく二人は再び向かい合い、言葉を交わす。


「相も変わらず兄妹(アナタ)たちは噂通りで噂以上ね。それで?少しは落ち着いた?」


「あはっ!そうだねぇ...ありふれた高等魔法以下(まほう)じゃリラちゃんは殺せないみたい。なら次は...分かるよね?」


それ以上の問答は必要無い。二人にとって会話は確認の作業でしかないからだ。


幾百の魔法を交わした。それだけで彼女たちには互いを識ったのだから.....。



「一つしか違わないけどそれでも先輩だからね。来なさいテレジア。全部受け止めてあげる。」


「あはっ!いいじゃんいいじゃん!


アーニャ様、ハイドラ、"アレ"使うよ。」



______________


それはレギたちが最下層の扉を開ける前日のこと。


「ヒヒッ...ここまでとは。更なる忠誠を、お嬢。」


ハイドラは感動に打ち震える。最早数えることを忘れた衝撃の中でも今回はまた特別だった。


「信じてたわ、テレジア。貴女も辿り着くことを。その先は貴女自身が描きなさい。」


時代は加速し続ける。彼女の手によって。


そう...これは(テレジア)の「始まり」の物語。


______________


「貴女だけの魔法(きりふだ)が必要ね。」


始まった修行のさなか、それは告げられた。


「え〜〜〜!【天凛剣神(ザ・ソード)】じゃダメ〜?結構お気に入りなんだけどー!」


即決で答えるくらいには、私は私自身の投影にも等しいこの【天凛剣神(まほう)】が好きだった。


「【天凛剣神】も【ディア・アズライル】も素晴らしい魔法よ。ただどちらもどちらかと言えば万能の魔法なのよね。なんでも出来るアナタらしいけど。」


「えっへん!凄いでしょ!ってならよくない!?何がダメなのアーニャ様!?」


「まあそうね。例を挙げるなら...テレジアはメルの【闇より暗き双頭蛇(ザ・ハーク)】を視た事はある?」


だがその魔法名()を告げられた瞬間に、抱いていた疑問は瓦解し、全てを理解する。


忘れるはずが無い。今も脳裏に焼き付き、瞼を閉じればあの憧憬はいつだって浮かんでくる。


簡単なことだったんだ。あの"漆黒の輝き"こそ私が目指す先なんだもん。


なるほどね。アーニャ様の言わんとしてることが分かっちゃった。


「あははっ!なるほどねアーニャ様。よ〜く分かったよ。確かに今のままじゃダメだね。」


「物分りが良くて助かるわ。イメージなさい。今は手が届かずとも...いつの日か【ザ・ハーク】を超えうる魔法を。


アナタだけの必殺魔法(アルカナム)を。」


______________


はいは〜い!それではここからは!天才テレジアちゃんの不断の努力を!回想ダイジェストでお送りいたしま〜す!



いや〜そこからは大変だったよ!?ほんとに!!!


だって考えたんだよ!? この天才(テレジア)ちゃんが。


悩んで笑って。時には頭捻って唸って考えてみた。思うがままにを地で行く私が...ね。笑っちゃうよねホント。


イメージを詠唱(ことば)にするだけじゃ足りない。呪文(もじ)に起こすだけでも意味が無い。全部を足して、掛け合わせて。創り上げていく。


いや、普通に無理。頭ん中掻き混ぜられたみたいにぐちゃぐちゃになってもうヤバかった。


いや、ヤバいのは私の語彙力なんだけど...(笑)


正直嫌()になったよね。全然上手くいかないし?言語化?論理化?ナニソレ。


初めてだった。思うだけで魔法が使えないのは。なんとなくのイメージは付くのにどうしても形が定まってない感じ。...ってもう自分で言ってて意味わかんない。


んでさ!もう全部どうでもよくなってとりあえず布団に入ったんだよね!


全部忘れて瞼を閉じて寝ようとした。

私は単純だから、起きたらまたやる気出てるはずだって。



けどぜんっぜん寝れなくてさ。


窓から見える月を眺めてたら...ふと思ったの。


...お兄ちゃんはずっとこうだったのかなって。


天啓だった。そう考えたら飛び起きたよね、普通に。


だってさ、そう思えたら少しだけ、ほんの少しだけ楽しくなったから...やってみてもいいかなって。


だって...お兄ちゃんに追いつけた気がしたから。


ねえお兄ちゃん。【ディア・アズライル】はお兄ちゃんが小さい頃に考えた"すごいまほう"が元なんだよ。それにお兄ちゃんは優しいから何も言わないけど【天凛剣神】だってそう。


いつだってお兄ちゃんが話してくれた"すごいまほう"が私に"魔法"を教えてくれてた。無限のイメージをくれてた。


まあお兄ちゃんが考えた無茶苦茶なイメージを体現出来ちゃう私も凄いんだけどね!!!


けどそんなズルがいつまでも出来る訳じゃないから...そろそろほんの少しね、ほんの少しだけ"お兄ちゃん離れ"しなきゃ。



って言ったんだけど! まあそんなこと出来るわけないじゃん?


だって私がイメージするのは私の「始まり」、お兄ちゃんがくれた"黒"なんだもん。


だから決めたの。決めたっていうか確信?

私が何かを"創る"なら。それは"黒"だって。


持てる全てを掛け合わせて、何より深く、清く、美しい黒を創るの。


______________


そこからは無限回の試行錯誤(トライアンドエラー)


火を灯し、水を流し、風を吹かせ、雷を落とす。光が全てを包み、根源へ繋がる黒へと至る。


幾百、幾千と積み重ねたその果てに。


彼女は鍵を手にした。


そして更にその先へ、否。更にその奥深く、理の外の門へと手を掛ける。


「幾度でも、何度でも...辿り着く。それでこそ我らが王。」


そして精霊は祝福を告げる。純粋なマナの化身たる彼らでは決して辿り着くとの無い果てへと導いた、王たる主を拝しながら。


______________


テレジアの纏う空気が変わる。


それに真っ先に気が付いたのは対面するリラと誰よりテレジアを識るレギ。

そして誰より早く行動に移したのはその"結末"を知るリオナだった。


「レギ、シン、来るのじゃ!」


氷天翼(イヒカ)】を即時展開したリオナは二人の首根っこを掴みアナスタシアの元へ馳せる。


「ありがとリオナ。いい?二人とも、私とハイドラから離れないで。守れなくなるから。」


遅れてシンも状況を理解する。


「この魔力。テレジア、君は一体どこまで...。」


「ルクス。」「嗚呼、いけるよ。」


すかさずレギはルクスを右眼に堕とす。

いつもと同じ。これから起きる全てを見届ける為に。


『そうか、ははっ!なんて素晴らしい。キミ"も"辿り着いたんだねテレジア。』


その瞳の深淵にて、ルクスはまた独り嗤う。


______________


「私以外でここまでの魔力調和が観れるなんて。...もう魔導値まで視えてるのね。」


テレジアが全てを視抜くならばリラは全てを聴き分ける。


『とは言っても私はスキルに神器の補助があってこれなんだけど...ほんとに末恐ろしい子。レギがこうなるのもまあ正直仕方ないかって思えるくらいにはね。』


「けど今の私を測るのには丁度良い。私だってここから"始める"んだから。全てを込めて、奏でてあげる。」


主の意を受けて何度でも【輪廻】は歓喜の旋律を響かせてゆく。


そう、もたらされる全てを音に換えるのだ。主の赴くままに。この世に舞い落ちる、奇跡を奏でるために。


「今の私なら。きっと詠える。さあ【輪廻】、(わたし)と踊ろう。


"我が原景 天の(さえず)り 其は始まりのうた


一章 想奏(デザイア) 二章 魂奏(ゼーレ) 三章 心奏(クオレ)"」


想いを込め、魂焚べて、心を写す。

それは【輪廻】を初めて手にした時、魂に刻まれたリラだけの魔法。


けれどそれは心象を写す魔法が故に、リラはこの魔法が嫌いだった。


だがそれももう過去の話。リラは乗り越えたのだから。前へと進む為に、新たな"始まり"を響かせる為に、彼女は再びその旋律を手に取るのだ。


「"旋律が前に壁は無く 時を超え 界を越えん

史を詞と綴り 歴を詩へと紡がん


嗚呼 魂に喝采を 命に喚叫を

万象は奏で 天地は旋律す


始まりを告げる 其は十二の福韻"」


相対する天才(テレジア)が、天才(リラ)の天賦を加速させる。何故か。リラはレギに安らぎを聴き、テレジアはレギに安らぎを視た。


幸か不幸か、二人の感性は似ているのだ。


なお後に二人の感性が爆発しレギの心臓が締め付けられるのはまた別のお話...。


けれど今はただ、詠唱(うた)と共に響き渡る祝福の音色に想いを乗せるのみ。


「"竜吟虎嘯 斉唱の時は来たれり


今 奇跡を超えて 輝きを示せ ヒトの道よ"


【ディア・オルフェウス】」


十二の階律をもってヒトの軌跡を紡ぎ、ヒトは己が手で奇跡(うた)を織り成す。


担い手はここに一人。己が心象を冠する音の神を宿し、天の奏者はここに顕現す。


其に与えられし権能が一つ、"心奏"にて心より映すは祖国の象徴にして不落の水宮。


"守護楽章(アイアス)三章(トラリス)"


絶対音界(リア・エウテル)絶拒宮(アルドデナイア)


それは不可侵にして、全てを拒む絶対の守護領域。


それは正しく、今のリラが奏でる到達点。


今も目に焼き付いて離れない友を守れなかったあの景色。それを乗り越えんとする虹の輝き。


そして目前にて燦然と輝く日輪の如き"想い"を受け止める為に。


______________


目で見て、眼で視て、打ち震えていた。


その美しい輝きが示す調和の旋律に。


「あはっ!良い。最高だよリラちゃん。これなら遠慮は要らないね。全部を...全力をぶつけられる。」


されどその言葉とは裏腹に...


『これなら...本気で撃ったって死なないもんね。』


目前に顕現せし音の神が写し身を前に、王は確かな嗤顔(えがお)を浮かべる。


そして真意を...否。すべてを超えんが為に、神意を込めて、言の葉を紡ぎ始めるのだ。


「"誓練の丘 悲哀の檻 其に刻まれしは星の轍"」


されどそれは、酷く静かな"始まり"だった。

相対する祝福の音色とは真逆と言ってもいい。


音の嵐の中に在って彼女(テレジア)だけが...独り静寂を纏っていた。


想いを込めて、ただ魂を叫ぶ為に。


「"終蹟の時来たれり 果ての審美 其は終わりより目覚める者 虹絆し 極致へと至る者"」


都合六の輝きはただ静かに、そして何より深くその手が導くままに集い、墜ちてゆく。


総てを内包せし、窮極の一へと辿り着くために。


「"星海のさなか 背真と背信 神理を揺らし (しるべ)外海(そと)


星骸(ほしがら)(みち)()き 其を抱くは銀の鍵


漆黒の海を越え いざ窮極の門へと至らん"」


深淵にて、王が束ねし虹は鍵となり...果ての門を拓く。


それはヒトが望んだ"英雄"...その姿とは遠くかけ離れたものかもしれない。


それでも...例え世界が望まないとしても。


彼女はきっと手を伸ばすのだろう。


「"愛しき黒 編み込み累ね 束ねて織りゆき


渾沌を分つ 黄昏の王が告げる


叛逆の時は今 虚無より来たれ 開闢の洛星"


【⬛︎⬛︎⬛︎・⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎】


その魔法はヒトの世界に非ず、扉の向こうのものが故に。


到達者のみが解読を、解聴を、解視を許される。


されど立ち会った者は皆一同に理解する。


どんな姿かたちであれど関係は無いのだ。


其は正しく..."英雄"の魔法であると。


______________


心を、想いを、魂が...染められる。


全てを音に換える...はずだったのに。


聴こえなかった、魔力(おと)だけでは無く...その魔法名()すらも。


(リラ)は、今日をという日を忘れることは無いのだろう。この絶望の蔑称たる黒の輝きを。


抱く絶望のさなか、私はかつて告げられた言葉を思い出していた。


「心に留めておけ。勝利とは、ただ上回ることに在らず。反抗を許すことの無い絶望を与えることだと。立ち上がることを許すのは勝利の真似事、児戯に過ぎない。


心を折れ、二度と歯向かわぬように。

地に叩き伏せ、反逆の火を消し去れ。


そこまでして、初めて"勝利"と呼ぶのだ。


貴様の音は良い。"福音"と称されるそれがどれだけの敗北者を生み出すのか楽しみだ。」


理解出来なかったしする気も無かった。"そう"なるなんで微塵も抱いてなかった。

けれど今、私はその意を全身で理解している。

そう、説かれた"勝者"としてでは無く、地に伏せる"敗者"として。


これこそが...完全な"敗北"なのだと。


認める気も無いし認めたくも無い。けど...魂に、マナに刻み込まれてしまう。


私はもう、生涯テレジアに勝つことはない。


______________


其れは小さな、手のひらに収まるような黒い球体。一縷のマナも発さず、大魔法の如き圧すら微塵も無い。


けれどそんなことはどうでもいい。視る、或いは聴く、或いは感じることが出来る者にとって其れは.....確かにそこに"顕現"しているのだから。


「"視て"解して、織り交ぜた。他ならぬ【雨照】を。

凄い...なんてものじゃない。我々は彼女を量る物差しを有していないのだから。


だから紡ぎなさいテレジア。英雄を超え、今を超えて。貴女だけの【魔創記(マギア・ジェネシス)】を。」


______________


其れはテレジアの全てが込められた虚無を纏いし真球。六の属性が互いの境界を瓦解させるほどに、高密度に圧縮された魔力球。


曰く其れは世界の理に(そむ)く魔法。


虹を束ね、累ね合わせたが故の黒き虚無。


兄を想うが故に、辿り着いた未踏。


______________


凄絶という言葉に相応しい魔法の応酬。


されどその結末は酷く静かで迅速なものだった。紡いだ祝詞も、鳴り響いていた福音も。

全てが虚無に沈み...黒と一つになった。


立っていたのは独り.....



「はぁ...これだからアナタたち兄妹は。ホントのホントに全部注ぎ込む馬鹿がどこにいるのよ...ってここに居るんだけど。」


最後まで立っていた彼女はため息を零しながら告げる。全てを使い果たし、寝転がるもう一人を膝に乗せながら。


「仕方ないじゃ〜ん今の私じゃそうしないと使えないんだも〜ん!

あは〜それにしてもリラちゃんのお膝すべすべもちもちで気持ち良い〜もう今日はここで寝る〜〜〜!」


互いを識ったことで、テレジアは完全にリラに心を許していた。そして先の魔法で己の全てを賭した結果こうしてリラの膝に顔を埋める少女が誕生した訳だ。


「はいはい、冗談はそこまでにして回復してあげるから立ちなさい。その続きはレギが存分にしてくれるはずだから。」


そんな言葉とは裏腹に優しく頭を撫でながらリラはテレジアに治癒魔法を掛けていく。

それはどこか姉妹愛のような美しさすら感じられる光景であった.....周りの惨状を除けばの話だが。


「はいはい、そこまでよ二人とも。アナタたちが派手にやったせいでこの部屋はもう限界なの。

リオナも魔力を昂らせてるとこ悪いけど今日は終わりよ。」


どうしたものかと歩み寄りながらアナスタシアは言葉を綴る。

ほんわかとした空気に包まれていたのは二人が居る空間のみ...ひとたび周りを見渡せばアナスタシアが貼った結界を除く全てがものの見事に崩壊していた。



ここだけの話この迷宮に携えられた擬似空間が崩壊せずに保っていられるのは偏にイルドラード以下アトランティアの英傑たちによって現在進行形で維持、修復が行われているからである。


まあそんなことは露知らずのテレジアとリラは二人だけの世界に没頭していたという訳だ。



「.....はぁ、まあ仕方ないのう。末席、明日の予定を空けておけ。そなたに伝えねばならない話がある。」


だがリオナが言葉を投げかけるがレギの応答は無い。


「...おい、聞いておるのか?」


「...っああ、すまない。」


何処か気の抜けた返事だったがレギを視たリオナは抱きかけた不満を飲み込むことになる。


聞いていなかったのでは無い。彼はもう、耳に入っていなかったのだ。


「まあよい...。どうやら昂っておるのは妾だけでは無いようじゃな。話ついでに妾が相手をしてやろう。その糸、途切らすでないぞ。」


それだけ告げるとリオナもテレジアたちの元へと歩を進めていく。

シンも黙してその後に続く。彼もまた、写したものに囚われながら。



「そうだな...そうさせてもらうよ。」


そして一人、皆の円から離れた場所でレギは呟きを零す。


心此処に非ず。


その心は既に"其れ"に囚われているが故に。



そんな主の心内にて独り、其れを深く識る者はただ嗤っていた。


『キミのその眼は何を捉える?キミのその耳は何を掴む?キミは一体、何を感じた?』


「答えを...獲た。」


彼は誰にも聴こえない声で、小さく呟いた。

まるで言い聞かせるかのように。


「負荷逆なんだ。概念を、理を壊し、叛く。

嗚呼...俺は今、確かな答えを得た。」


鍵は既に持っていた。扉は既に放たれていた。

されど手を伸ばすだけだった。

そう、ほんの数刻前までは。

理論を重ね、答えに辿り着きかけていたはずだった。だがそれは全て根底から覆されることになる。他ならぬ妹の手によって。


だが彼は答えを得たのだ。それを紐解くことなど彼にとっては造作もない。奇跡を紐解き、詠唱(ことば)に換える。彼はその点において彼の嫌いな"天才"なのだから。


そして今、レギは"手"を伸ばし、掴む。


『はははっ!!! やっぱりそうか、ボクの見立ては間違っちゃいない。キミは既に...踏み入れていたんだよ。』


「導はここに、輝きは道を照らす。いつだってそうだ。お前がくれた答え、【XiA(イア)Void(ヴォイド)】は俺を照らす太陽だ。」


『過程...歩んだ道は違えど辿り着いた結末は同じ。やはりキミたちは同じ星の元に生まれた双子だよ。』


レギは確かに"手"を伸ばした。

されど其れは、今は亡き左手。

眼には映らない。けれど其れは在る。



テレジアは全てを束ね、重ね合わせたが故の虚無を創りだした。


だがレギはその全てを持ち合わせていない。

それでも...だからこそ、レギは辿り着く。


其れは全てを喰らい、削ぎ落としたが故の虚無。


「"片割(ビレイグ)は此処に 空の器は此処に

飢えを銀鍵に 其は全てを喰らうもの

偽りの剣掲げ いざ窮極の門へと至らん"


XiA(イア)Raptor(ラプター)】」


誰にも悟られること無く、略奪者は虚無をもってその"手"を形創る。


瞬間、今尚残る虚無の残滓を...空間に弾けるマナを、喰らい尽くし撫でるように、全ての痕跡を抹消する。それは己が魔法の形跡さえも。


『消化では無く昇華へと至る...か。ふははっ!良い、実に良いよレギ。テレジアの【XiA(イア)Void(ヴォイド)】とは似て非なるキミらしい魔法だ。何より素晴らしい隠密性、ボクの隣で眠るニアですら発動に気付けてすらいない。』


「自惚れる...か。こればっかりは我ながら良い魔法だな。」


だが一人独白に浸っていたレギに呼び掛けられる声が一つ。


「ね〜〜〜お兄ちゃ〜〜〜〜ん!そんなとこで見てないで甘やかして!こっちきていっぱい甘やかして〜〜〜〜〜!!!」


少し離れているレギにすら届くそれはそれは可愛い絶叫。


変わらない、どこまでいっても。

愛すべき妹と不器用な兄。だからこその今がある。


...そんなことを思いながらレギは皆の元へ歩き出していた。


だが落ち着いて皆の顔を視て、そこまでしてようやく気が付いた。


いつもと様子が違う友の姿に。


「どうかしたのかエラ。何を迷ってるんだ?お前らしくもない。」


______________


この胸に抱く想いの名を、我は知っている。

知っているからこそ、躊躇いが生まれた。


だがそれを、友は微笑みと共に一蹴したのだ。


「お前らしくもない。」


実にその通りではないか。何を迷う必要があったのかこの期に及んでまだ臆することがあるのか。


ない。ある訳がないだろう。


______________


「ふはははっ!そうとも、その通りだレギ。」


悩んでたかと思えば急にいつも通り笑い出すエラを視て俺も釣られて笑ってしまう。


「貴様が背中を押したのだ!どうなっても知らぬぞ!」


ん? 何を言ってるんだこいつは?

そんな俺が抱いた疑問は一瞬にして解消されることになる。他ならぬエラの言葉によって。


「燃ゆる日輪の.....いや、違うな。我ではなく、ありのままの...僕が伝えなくては。」


何かを叫びかけたエラは己が常に纏う(まほう)を躊躇いもなく取り払い、あるがままのエルドラード・リヴァイアとしての姿を晒し...言葉を続けた。


「テレジア。僕...エルドラード・リヴァイアは君に"恋"をした。一目惚れだ。王子としてでは無く、一人の男として君が好きだ。」



曰く愛とは祖なる魔法


曰くそれは全てを吹き飛ばすピンクの嵐


それは新たな"恋"の物語。

更新遅くなり申し訳ございません。


とある恐竜ゲームにハマったりダンまちの新刊に歓喜したりと色々と...

年内にもう一回更新出来るよう頑張るつもりです。

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