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後に伝説となる英雄たち  作者: 航柊
第3章 魔導士編
106/120

第百話 其れは「」の物語 part1

お待たせしました。長くなってしまいそうなのでpartが別れます。





身に余る願望 或いは憧れがヒトを殺すなら


俺は後どれだけの死を重ねればいいのだろう


______________



「はぁ...はぁ....。は〜〜〜全くどうなってんの!?

私が修行してた時なんか目じゃないくらい難しくなってるんだけど!!!」


「ふははははっ!いやぁ全くだ!我らが地獄と称していたものは入口に過ぎなかったとはな!」


「"死海"も大概だったけど"屍海"がいないだけでこっちの方がよっぽど厄介だね...けど。」


息を切らし愚痴を零す三人の視線を受けて、四人目は言葉を綴る。


「そうだな。けど...苦境(これ)こそ、俺たちに必要なもので、俺たちが望んだものだ。」


血を流し、血反吐を吐き、けれど...悦に浸る。


それは最悪の時間(とき)だった。

本当にこれでもかとばかりに一息ついた"嫌なタイミング"での接敵に"考えうる"最悪の罠。

そのどれもが彼らの体力を蝕み、気力を削る。

命を掠める瞬間をまぶたの裏に貼り付けながら、眠りにつく日々。


けれどそれは最高の時間(とき)だった。


互いを知らせ、互いを識った。

高まる連携に深まる絆。

対策を講じ、それを通す喜び。

予測が外れても、それを乗り切った感動。


年齢も立場も違う。されど彼らは互いに名を叫び背中を預けあった。四人は友になり親友となり戦友となったのだ。


そんなどれもが"平穏"とは程遠い非日常。

そこに、彼らは在ったのだ。


______________


「凄まじい"練魔"だね。まさかここまでの効果があるとは...うちの部隊にもやらせた方がいいかな?」


「やめときなさい。ヒトがいなくなるわよ...いやマジで...ね。」


冗談めかしく笑うイルドラードとは対局に若干顔を引き攣らせるのはアナスタシア。


「いやホントにアーニャ様の言う通りですよ!こんな迷宮に私たちが入ったら普通に死にますやめてくださいイル様も冗談でも言わないでください!!!」


アナスタシアの本音に続くように監視室に同席していた近衛兵の一人がアナスタシアに同意し声を荒らげる。

そして激しく同意するように他の近衛兵もこくこくと頷いていく。


それほどまでに...水晶に映し出される光景は凄惨、惨劇の一言だったのだ。当の本人(レギ)たち以外にとっては...。


______________


"練魔"


それは戦闘魔導士が必ず通る道。


実戦を経て、実践へと至る。

戦場で得た経験(もの)を叩き上げる為に。


それを彼らはあろう事かかの迷宮にて行っている。それも"机上の天才"によって奈落へと変貌した迷宮にて...。


______________


そして彼らは最悪で最高の非日常を越え、辿り着く。


迷宮最下層...その最後の扉。


休息を終え、挑戦者は嵐の前の静けさと言わんばかりの談笑に花を咲かせていた。


「さて、そろそろ進もうか。皆、準備はいいか?」


「そりゃ三日も休んだんだから元気も魔力も満タンよ。何が待っていようと負ける気はしないわ。」


「その通りだともレギよ。有り余ったリラの暴走を抑えるのに苦労したというものだ。」


「まあご覧の通り僕たちの準備は完璧さ。


...それよりも君はどうなんだいレギ。夜な夜な何かしてたみたいだけど?」


『マジか...結構しっかりと隠形してたはずなんだけどな。』


「なんだ、気が付いていたのか。」


「なんだ...じゃないわよあれだけ騒がしい魔力(おと)響かせておいてよく言うわ。」


「君がわざわざ三日も休みを取ろうと提案してきたからね。どうせ何か裏があると思っただけだよ。」


「なんだレギ、何か企んでおったのか!まあ俺はぐっすりと寝ておったがな!ふはははっ!」


「...新しい魔法を考えていたんだ。まあまだ発動すら出来てないからそう呼んでいいか怪しいけどな。使う魔力的にぶっつけ本番になるんだよ、まあ調整は済んだ。なんとかしてみせるさ。」


______________


迷宮にてレギは【(エクリプス)】をその手中に収めつつあった。【蝕】を細かく紐解き、その"奇跡"を理論に還すことで理解を深めていったのだ。

その成果は闇魔法と【蝕】の複合魔法である【断蝕(サラザール)】に始まり【蝕珠(アリマ)】の効率化など様々な進化をレギにもたらしたと言えるだろう。


だが進化を果たして尚、レギは歩みを止めない。更にその先へと、歩を刻むために。


其れは新たな魔法の創作。魔法と魔法を組み合わせる複合魔法や既存の魔法からの派生とはまた異なる0からの創作。


それは先の見えない暗闇を感覚のみで進む事に等しい。


だが彼にとって、それは苦痛にはなりえない。


なぜならばかの"大海の魔女"が認めたように、レギの本領は紙とペンが広がる机の上にある。


常識に囚われない応用と発想。持たざるが故の渇望、或いは妄執。何はともあれ、彼は空論を描き続ける事が出来る"机上の天才"なのだ。



そこから理を構築し、式を組み上げ、この世ならざる奇跡、"机上の空論"を形にする。


ヒトはそれを..."魔法"と呼ぶ。


______________


だがまあそんなレギも本物の才ある者に比べればまだ有象無象の一人に過ぎないのだから現実は残酷なのだ。


「へぇ〜やるじゃないの。まあ私もレギがコソコソしてる間に暇だったから何曲か創りあげたわ!機会があったら披露してあげてもいいわよ。」


さも当然のように、特大の爆弾をリラは投下する。そう、彼女にとって作曲とは先の【夜想曲(ノクターン)】にあるように新たな魔法の創出に他ならない。加えて彼女はしれっと"何曲"かと告げてきたのだからレギとしてはたまったものではない。隣でシンが頭を押えて笑っているのも仕方がないのだろう。


「相変わらずというか...流石だなリラは。」


打ちひしがれることにはずっと慣れない。

けどこの先も...決して慣れることはないのだろう。


だがそんな少しばかり陰りをみせるレギに向けて、リラは笑い飛ばすように言葉を綴る。


「何言ってんのよレギ。貴方のおかげに決まってるじゃない!


貴方の魔力(おと)が、私を新しい世界へと連れてってくれる。貴方が指揮するから、私は自由に奏でられるの。ってずっと言ってるじゃないの!いい加減自信を持ちなさい。誰に何と言われても私が保証してあげるんだから。」


「うむ。こればかりはリラの言う通りだレギよ。

お前の献身や謙遜は美徳の類いではあるが過ぎた謙遜は卑下と変わらぬ。それはお前を慕う者にも、そして何よりお前自身の為にならん。」


歩み寄り、レギの頭に手を置きながらエラは優しく語りかける。


「まぁ色々言ったが要はリラの言う通り自信を持つのだ!お前がどういう目で見られてきたのかぐらい俺は分かる。だが俺を見るがいい。虚勢でも突き通せば本物になりうるのだ。ふはははっ!」


優しく手を置かれてたのも束の間、背中をバシバシと叩かれるレギだったが不思議と叩かれたところは温かかった。


『兄や姉がいたらこんな感じなのか。』と


そんな幻想を思い浮かべるぐらいにはリラとエラはレギの心を打っていた。


「ああ、そうだな。本当に...その通りだ。

ありがとう二人とも。お前らの言葉なら信じられる。だから俺も少しばかり...自惚れてみるとしよう。」


そして心を打たれていたのはもう一人。


「...君たちの言葉が必要だった。今のレギを、ありのまま見てくれる君たちが。」


49期生(ぼくら)の言葉では真にレギには響かない。僕らは0から進むレギを知っている。知っているからこそ...同情や憐憫を抱かずにはいられないからだ。』


だからこそ、シンは心からの感謝を二人に向けていた。


「僕からも感謝を。君たちがレギと共に居てくれることに。」


だが若干シリアスな空気が流れ始めたところでパンッとリラが手を叩き割り込んでくる。


「あ〜はいはい堅苦しい話はここまで!さっさと行くわよ!」


"そういう話"を始めたのは実はリラなのだが最早誰もツッコミを入れることは無い

だがその代わりに、四人は笑顔を浮かべていた。


そして四人は示した訳でもなく扉の前に並び立つ。


ここまでの"迷宮進行(ダンジョンアタック)"にて激戦を終えてきたのだろう。


その装衣、身体には幾重にも重なった傷が浮かぶ。なれど...最後の扉を前にしてその有り様とは裏腹にその気力、その姿、その立ち振る舞いに些かの衰えも無し。


「"最悪で最高の迷宮"を超えてきた。最下層(さいご)を征して陽の光を拝むとしよう。行くぞ、皆。」


「応っ!美味い飯が俺を待っているのでな!」

「さっさと出て風呂に入るわよ!!!」

「アトランティアの自然に癒されたい...。」


欲望を叫び(笑)、彼らは決意を新たにする。


______________


そしてまるで示し合わせたかのように重々しい扉がゆっくりと開かれていき.....


「会いたかったよぉぉぉぉぉお!!!!!

お兄ちゃぁぁぉぉぁぁぁぁぁん!!!!!」


飛んでくるものを視て


俺はそっと扉を閉じた。


「へぶっっっ 痛ったぁぁぁぁぁあい!」


向こうで何か聴こえたが気の所為ということにしよう。

壮大な前置きも、俺たちの覚悟も、全てを無に帰す愛すべき天才(いもうと)の来襲である。


「.....なるほどね。ま、まぁ確かに今の僕らの力を試すのにこれ程素晴らしい人選は無い...ってレギ、何処に行こうとしてるんだい?今更逃げられる訳ないだろう。それに...リラが凄い表情でこっち見てるから。」


急に訪れた現実から逃避しようとした俺を唯一状況を理解したシンが阻む。


何が来ても目を逸らさない覚悟で居たのに急に逃げ出したくなるのだから不思議なものだ。


「ぇ、ええっと..."お兄ちゃん"って呼ばれてたし...え!?もしかして"アレ"があのテレジア!?魔導界を騒がせに騒がせまくってる当代最高の"魔導姫"がアレ?」


ヒトの妹をアレ呼ばわりしないで欲しい。けどまぁ...アレが俺の妹なのだから仕方がない。

あれだけ騒がしいはずのエラも無言で見詰めないで欲しい。いやほんとに。


どう説明すべきか悩んでいたがその必要はすぐに無くなる。襲い来る嵐は待ってはくれないのだから。


「はいは〜い!私がテレジアちゃんで〜〜す!そこに居るお兄ちゃんの世界で一番可愛くて強い妹で〜〜〜〜〜す!」


あろう事か扉をぶっ壊しながら、満を持して久々の(テレジア)の登場である。


「あ〜〜〜〜本当のお兄ちゃんだぁぁぁあ!!!

もう離さないからね!お兄ちゃん成分不足してて死にそうなんだからって.....」


だがテレジアが抱き着いて来たところでその嵐、そして時間さえもピタリと止まることになる。


不意に纏う空気をピンクからドス黒い赤へと変貌させながら。


「待って。なに.....それ。」


そう、テレジアは気が付いてしまったのだ。


俺はこうなることを分かっていたのに、不意の再会で失念していた。


確かに俺は勝利を収めてここにいる。

.....例えその代償に、左腕を失ったとしても選択に後悔は無い。


だがその代償を、治ると知ったとしても。

テレジアは決して受け入れないということを。


______________


「........ねぇ、言ってたよねシン君。この戦いはお兄ちゃんが要になるって。だから皆がお兄ちゃんを守るって。」


ギギギっと鈍い音が聴こえてくるように首を傾げながら裁定者(テレジア)による審問が始まろうとしていた...。


「ねぇ...どういうこと? なんで.....! なんっっっっっっでっ! お兄ちゃんの左腕が無いの!?」


レギを更に抱き寄せ、背に庇う形になりながら(テレジア)は涙を零し、叫ぶ。その首はかくりと折れ身体は不規則に揺れながら。その姿はまるで幽鬼が如く...。


次の瞬間...怒りが全てを凌駕し。溢れる殺気に呼応するようにマナが、世界が...弾ける。


あまりの奔流にレギの眼が軋む。現実に姿を描くことが無いはずのマナが可視化されるほどの激流。


その凄まじい圧に意図せずともエラ、そしてリラは理解させられることになった。

目の前にいる少女の力を。流れてくる噂は本当だったのだと。魂に刻み込まれる...彼女こそ、正しく"王"であると。


______________


そうだ、こうなることは分かっていた。

分かっていたのに...胸が"痛む"。


久々の兄妹の再会を穢してしまったことに。

テレジアの痛々しいまでの...心の叫びに。

妹に涙を流させる俺の弱さに。


とうに受け入れたはずの"痛み"がこの胸を抉る。


俺の命は俺だけのものじゃない。分かっていたはずなのにな...。


俺が腕を失ったのは誰のせいでもない。けれどテレジアからしてみればそんなことは関係ない。俺がテレジアに涙を流させた。


だが後悔すべきは今じゃない。流させた涙を拭うのが今の俺がすべきことだ。


「テレジア...すまな

「私のせいよ。レギが腕を失ったのは私のせい。私が...守りきれなかった。」


言葉が...遮られる。

確かな意志、確かな決意を宿し、彼女は王の前に立つ。

"(テレジア)"に相対するはこちらもまた"王の器(リラ)"。


「アナタ...誰。いや、誰なんて関係ないか。へぇ...アナタが。ねぇお姉さん、私と戦おうよ。

お兄ちゃんが受けた痛み、教えてあげるからさぁ。」


「いいわよ。アンタがレギを想う(きもち)は痛いほど伝わってきたから。それでアンタの気が済むならね。

ただ...私も黙ってやられるつもりは無いけど。」


「はっ!言ってくれるじゃ〜ん。いいね、怒りって突き抜けると冷静になるんだよね。ボッコボコにしてあげる。」


一触即発...所では無い。俺が介入する間もなく二人のマナは都合二つの嵐となり互いの領域を削り合い、反発し合っていた。

そして今か今かと王たちの号令を待ち侘びているのだ。


だがそこに、懐かしい声が一つ。


「...そこまでじゃ。双方マナを抑えよ。そこはまだ回廊じゃ...貴様らが戦っては空間が持たぬ。


さっさと部屋へ入るが良い、そこに居る者全員な。」


白銀の髪を靡かせ扉の向こうからこちらを見下ろす影が一人。


その声は嵐の中にあって褪せることなく凛として響き、俺の耳に届いていた。


そしてそれは渦中の二人にも。


「ちっ...邪魔しないでよリオナちゃん。けどまぁ仕方ないか.....。ほらお兄ちゃん、私の手を握って着いてきて。」


有無を言わさず俺の手を引くテレジアに俺は黙って着いていく他なかった。


そんな俺の後ろにリラ、そして沈黙を守り続けるエラとシンが続く。



そこは何も無い真っ白な部屋だった。


だが軋むこの右眼がそれを否定する...。その漂白された白に至るまで、どれほどのことが起きたのか...その残滓を、【死告眼(アイズ・サナトス)】は余すことなく写していたから。


そしてその中心にて...


「ふふっ気付くのね。良い眼を持ってるじゃないレギ。ようこそ迷宮最下層へ。アナタたちの相手は私が育てた二人...って言おうとしてたのだけど。どうやらもうおっぱじめる気満々みたいだしまぁいいわ。互いに募る想いも積もる話もあるでしょうし...好きに戦りなさい。」


どうぞと言わんばかりに手をヒラヒラと振るのはアナスタシア。


だが俺からしてみればそうは言うもののはいそうですかと頷く訳にはいかない。


「二人とも、少し話を

「お兄ちゃん。」「レギ。」


「「黙ってて!!!」」


ハイ...ダマリマス。だが凄まじい二人の圧に俺は思わず気圧されてしまう。そんな俺を他所に二人は距離を取り、見合う。


張り詰めた空気の中、先に手ではなく口を開いたのはリラだった。


______________


「私はリラ・アマルフィ・ヴァネッサ。

私はレギを守れなかった。けどそれでも...私はレギの隣に立ちたいと願ったわ!だから、アナタとは戦わなくちゃいけない。」


「はっ!なるほどね、リラちゃんって言うんだ。っていやいやリラちゃんさぁ〜自分が何言ってるか分かってる? お兄ちゃんを傷付けておいてそんなのさぁ...私が許すわけないでしょ?」


示し合わせた訳でもない。だがそれでも、二人の意は重なり、戦いの火蓋は切って落とされることとなる。


______________


どうしてこうなった...。


ぶつかり合う頂上の二人の戦いを...俺は静かに視ることしか叶わないでいた。


ちなみにエラはアナスタシアさんに何か耳打ちしたかと思えば首根っこを掴まれて連れてかれた。生きているといいけど...。



「はっ!なんという顔をしておる。それがかの"屍海"を征した者の顔とはのう...。」


何も変わらない。その棘しかない言葉は相も変わらず俺に刺さる。誰よりも俺の心に響く声だった。


「当たり前だろ...。左腕を失ったのは誰のせいでもない。なのに...。」


「それが貴様の取った選択じゃ。そしてこれはその選択が導いた答えに過ぎぬ。真っ直ぐ受け止めよ、目を逸らすでない。」


全てが正論。俺の気持ちなんてお見通しだと言わんばかりに言われたくないことを的確に突いてくる。


「それに.....好きにやらせてやるのじゃ。あ奴がどれだけ貴様を想っていたか、分からぬ貴様ではあるまい。」


そうだ。結局その言葉が全てなのだ。


「...」


それを言われては俺は何も言い返す事が出来ない。リオナもまた、理解(わか)っていたのだ。俺と離れたテレジアがどうなるかを。


「そして妾とて...嫌、もうよい。本来ならばその失態は氷漬けに値するが代わりにテレジアがブチギレておるしのう。


それに...貴様とシンの様子を見るにその腕、治るのじゃろう?」


本当に全てを見通してくれるなこの王女様は...。


「幸いなことにな。まあすぐ治るかどうかは賭けだけど。」


「ふむ...ならばよい。そしてなればこそ、誇るが良い。片腕を落とされようとも貴様は足掻き、死海を晴らしたのだ。


シン、レギ。エルフィニア第二王女としてそなたらに敬意と賛辞を送ろう。


御苦労じゃったな。妾はそなたらを誇りに思うぞ。」


王の所作を視た。施された言葉は俺の中に溶け、魂と一つになる。

そう、出会った時から何も変わらない。

含みが無いからこそ言われたくない言葉も、言われたい言葉も...全てすんなりと入ってくる。

にしてもこんなに褒めてくれるのは流石に予想外だった。


「ふふっ、まさか君がレギを素直に褒めるなんてね。見ない間に君も成長したみたいだね、リオナ。」


ここまで静観を決め込んでいたシンも思わず口を開く。


「...妾は全てを手にして頂きに至ると誓った。その全ての中に今やレギは"いる"、それだけじゃ。だがさきの慌てふためき様は減点じゃな。」


「ははっ!それには同意だね。まあ仕方ないさ、レギは自分の事には無頓着だけど(テレジア)には甘いからね。」


「はっ!言えておる。まあ妾が言えたことでは無いがな。」


「酷い言われようだな...。そもそも俺が悪いのに俺なんかの為に二人が戦うのは違うだろ。俺間違ってるか?」


俺はシンプルに思った疑問を口に...


「分かってないね。」「分かっておらぬな。」


したのも束の間、すぐさま二人に一刀両断される。


「仮に妾たちがその場に居れば...貴様の腕は健在であったであろう。可能か不可能か、それが出来るか出来ないかはさして重要では無い...何とかしてみせる、"想い"とはそういうものじゃ。」


「戦ってる二人はそれをしっかりと理解しているよ。まあ乙女心を理解するのはレギにはまだ難しいかもね。」


「互いに譲れないものがあるから戦うのじゃ。"想い"は魔法に宿る。我らは魔導士じゃからな。」


乙女心...? そういうものなのか?...まあ二人がそう言うならそうなのだろう。


だけど"想い"は魔法に宿る。それは間違いない。"想い"の強さだけで俺はここに居るからな。


「まあ今は黙って見届けるがよい。その後で直々に妾が貴様の相手をしてやろう。」


______________


男子三日会わざれば刮目して見よ


見れば分かる。どれほど強く、魔導士として高くなったのか。


だからこそ...妾もテレジアの怒りを理解出来よう。この馬鹿は腕を失ってきたのだ。無茶をする奴なのは分かっておったがここまでとは思わなんだ。

治るとほざいておったがそれは本当なのか?国に帰ったら父上と母上にも探して貰わねばな...。


考えが浮かんでは消えてゆく。はぁ...白状するとするかのう。


つまるところ妾もこの馬鹿が心配だったのじゃ。


全てを手にすると誓ってから...妾は目に写るものを失うのを恐れておる。これはある種の"弱さ"とも言えるのだろうが...存外悪いことには思えぬのじゃ。


恐れるからこそ、ヒトは強く在ろうとするからのう。


そしてそれだけ...テレジアは怖かったのじゃろう。いてもたってもいられんほどにな。

レギの馬鹿は分かっておるようで分かっておらぬ。まぁ分かっておらぬからこそああもテレジアが必死になるのだから難しい話じゃ...。


まあ"音姫"ならば正しくテレジアを汲み取ってくれるやもしれぬな。


今はただ...見届けるとしよう。


______________


テレジアとリラ。


テレジアが魔法を放ち、リラはそれに調律(あわ)せて魔法を相殺し続ける。

六元素魔導士(ハイブリッド・ワン)同士が織り成す魔法合戦は美しき虹を戦場に描き上げていた。


神に愛されし二人は互いの想いを魔法に乗せてぶつけ合う。


「青春ね。」


「青春ですねぇ。」


だが激情を語る二人を他所にアナスタシアとハイドラにはのんびりとした空気が流れていた。


「若者は時間も元気もあっていいわね〜


だから.....貴方も好きになさいエル。」


「本当に良いのですか母上?」


「いいのよ。私の若い時なんかもっと酷かったんだから。立場や地位に縛られても後から反動がくるだけよ。だから思うがままに、生きなさい。」


想いを吐露し、母の言葉を受けて、エルドラード・リヴァイアはその瞳に新たな光を宿し、歩を刻む。







カサンドラが可愛い。ウィルがかっこいい。


part2も急ぎ書き上げます。

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