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後に伝説となる英雄たち  作者: 航柊
第3章 魔導士編
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第九十八幕 王の往く道

お待たせいたしました。



「んでさ〜何で私たちはまた迷宮(ここ)にいるわけ〜?ねーなんで〜?」


そこは迷宮最下層。けれど暗き深層にあってその声は太陽が如く明るく響く。


「妾に聞くでないわ。あと勝手に抱き着くな氷漬けにするぞ?」


そんな太陽とはうってかわり吹雪の如き冷徹な声で一蹴するのは美しき氷華。


「え〜いいじゃ〜ん!リオナちゃんの魔法の訓練に散々付き合った訳だし?私もうお兄ちゃん不足で死にそうだから!代わりにリオナちゃんを吸うの〜〜〜!」


「ええい!鬱陶しいのう!いい加減離れるのじゃっ!【ルナ・オルガリア】!」


しつこく抱き着くテレジアにリオナは堪らず無詠唱にて氷鎖を放つ...が


「あはっ!効かないよ〜ん!甘いねリオナちゃんっ!」


氷鎖は見事にテレジアに巻き付いた...に見えたが以前と違い氷漬けになることは無かった。


「ほう...やるではないか。ならばこっちはどうじゃ?」


己が氷鎖を防いでみせたテレジアにリオナは笑みを浮かべ次なる一手を撃つべく掌に魔力を集中させていく。


「リオナちゃんやる気じゃ〜ん!いいね〜火照った身体リオナちゃんで冷まさせてよ!」


対するテレジアも瞬時に臨戦態勢に入る。

当初の目的も忘れて...。



そんな二人を遠巻きに眺めていた者はやれやれとため息を吐きながらただ一言、呟く。


「【光喜(アレグリア)】」


生まれた光は全てを等しく奪いさる。テレジアの纏うマナを、リオナの掌の魔力を。


「相も変わらず仲がいいわね、二人とも。少しはしゃぎすぎだけれど。」


だがアナスタシアはため息をついた外面とは裏腹に内心では感心していた。たった数瞬のやり取りではあったが垣間見える二人の成長ぶりに。


「どこをどう見たら仲良く見えるのじゃ叔母上...。」


「あ、アーニャ様!おはようございます!!!今の魔法なになに!?教えて教えて〜〜〜!」


だがジト目を向けてくるリオナとさっきまでのが嘘のように目を輝かせるテレジアに思わず苦笑してしまう。


「まあ貴女なら使えそうだしおいおい教えてあげる。それよりも...ねぇハイドラ、いるんでしょ?。アナタの目から見て、どう?」


「ヒヒッ...ご慧眼恐れ入りますわアーニャ様。

(ワタクシ)の眼から視てもお嬢たちは大丈夫かと。リオナ様の無詠唱もお嬢の纏も問題無いレベルまで仕上がってると言えるでしょう。」


当たり前のようにアナタスタシアが虚空に話し掛け、当たり前のように現れたハイドラがそれに応える...までは良かった。だがアナスタシアが気になったのはそこでは無かった。


「.....いや待ちなさいハイドラ。アナタいつの間にテレジアの事をお嬢(そう)呼ぶようになったのかしら?」


「ヒヒッ...嗚呼、申し遅れておりました。(ワタクシ)はテレジア様にお仕えする事に致しました故。様付けでお呼びしたところ嫌がられてしまったのでお嬢、と。」


つらつらととんでもない爆弾発言を告げるハイドラ。ここにもしイルドラードが居たのならその言葉の意味を察し卒倒していただろう。いや、或いはもうこの状況を視て気絶してるかもしれない。


それも無理はないだろう。

かの【十二宮(ゾディアック)】筆頭たる"聖蛇(ウロボロス)"が"戦姫"に仕えているのは広く知られている。そんなハイドラが主を変える。即ち心内はどうであれ離反と言っても過言では無い。


公に叫ばれることはほとんど無いが国に属する魔導士とは=(イコール)国の戦力である。それも一介の魔導士ではなく魔導世界に轟く"聖蛇"となれば国力の低下は免れない。


とまあ書き出せばキリがない....がこれらは全て建前だ。


なぜなら当の本人たちは.....


「そう。それがアナタの選択なのねハイドラ。」


「ハイ。処罰等ございましたら甘んじて受け入れる所存にございます。」


微笑みと共に柔らかく投げかけられるアナスタシアの言葉に礼と共に応えるハイドラ。


「はぁ...全く清々しい顔しちゃって。処罰なんてする訳ないでしょ。アナタは私の妹であり娘であり親友なんだもの。初めての我儘ぐらい許してあげるわ。ただ...理由を聞かせて頂戴?」


相も変わらず淡々と投げ掛けられる問いにハイドラは静かに記憶の刹那に耽っていた。


______________


本当に...それは突然だった。


「ねぇハイドラ!!! 私と来る気はない!?」


それは迷宮を脱し自室で惰眠を貪っていた時だった。かの恐れ知らずの"太陽"は扉を開け放つなりそう言い放ったのだ。


「ヒヒッ...何を言い出すかと思えば...。(ワタクシ)はアーニャ様にお仕えする身。世迷言を


だがそんな正論に耳もを貸すはずもなくテレジアは割り込んできた。


「だってハイドラの魔法に憧れちゃったんだもん!なんかこう...魂がビビっときたっていうか?と!に!か!く!私にはアナタが必要なの!だから一緒に来てハイドラ!魔法の頂き見せて上げるから!」


日輪の如き笑顔と共に手を差し伸べとんでもない事を口走るテレジア。そう、理屈では無いのだ。彼女は己の思うがままに生きる。だからこそ彼女は最強なのだから。


それは突然にして必然。


あるがままが英雄。故にヒトはテレジアに夢を視る。惹かれていく。


例え死海を越えようとも贋作(レギ)になど目を向けるまでもない。


かのハイドラ・ペインでさえ、それは変わらない。


「...こうも絆されていることに気が付けないとは。案外 (ワタクシ)もまだまだですねぇ。」


重ねた忠義も、捧げた年月も、世界を照らす中天の前に霞む。


「なるようになる...ですか。ヒヒッ...いいでしょう。(ワタクシ)の牙、アナタ様に捧げましょう。そして我が持ちうる全てを授けましょう。」



アナスタシアの元でハイドラは"魔導士"を識った。その歴史を、重ねた罪を、成さねばならない贖罪を。産み落とされた..."希望"を。


だがまあ...それを抜きにしても彼女(ハイドラ)はもう心の髄まで魔導士なのだ。


(テレジア)に誘われて揺らがぬ魔導士などいない。

付け加えるならば...影として生きてきたハイドラにとってそれは至上の喜びに他ならない。


『そう全ては...魔導を極めんが為に。』


差し伸べられた手を掴み、従者たるべく王の前に跪く。


その姿を見て満面の笑みを浮かべるテレジア少しだけ屈み、ハイドラの耳元にて呟く。



________その瞳から日輪の如き煌めきが褪せ、妖しく嗤いながら。


「やは〜"ハイドラ"ならそう言ってくれると思ったよ? あはっ!"お願い"したいことが沢山あるんだからこれからよろしくハイドラ。


あ、あとただの様付けはちょっと違うからぁ〜なんか呼び方考えといてね〜!」


瞬間余りに甘美で脳髄を犯すような声がハイドラを貫く。


"悪魔の囁き"


そう称するにこれ程相応しい言葉は無いだろう。


「ヒヒッ...なるほど。

それが主の望みとあらば...仰せのままに、テレジアお嬢様。」


全てを察し、ハイドラは更に深く王を拝する。


「アハハッ!!! いいじゃ〜ん!誰にも言ったこと無いけどぉ〜私好きなんだよねぇ...。あの物語に出てくるやつ...好き勝手に振舞って?全てを奪い去る!"悪役令嬢"ってやつがさぁ!」


ハイドラもまた嗤う。


忠誠を捧げたのが王は王でも"魔"の王であると気付いたから。


王の往く道こそ臣なる道。


覇道を往くならばその道に殉ずるのみ。


______________



「ヒヒッ...簡単ですよアーニャ様。あの時と同じ、手を差し伸べられたからです。」


ハイドラは思い出し(主に記憶の前半を)、笑いながら告げる。

そしてアナスタシア相手にはそれだけで良かった。それだけで伝わる程の時間を彼女らは共に過ごして来たのだから。



「.....あ〜も〜無理〜!!!!! なんかシリアスだったけどもう黙ってるの無理〜〜〜!


全部ハイドラが言っちゃったけどそゆことでよろしく!アーニャ様!!!」


空気を読んで(笑)途中から口を噤んでいたテレジアだったがついにその我慢は限界に達したらしい。


「待て...。待つのじゃテレジア!お主貴様何をほざいたのか分かっておるのか!?」


そしてこちらは余りの衝撃に口を開けないでいたリオナだったがようやく状況を整理しテレジアを問い詰める構えに入る。


「あはっ!そんなこと分かってるよ〜ん!けど私は誘っただけだよ?決めたのはハイドラだも〜ん!」


「ヒヒッ...お嬢の言う通りですよリオナ様。(ワタクシ)は己が意志をもって杖を捧げましたゆえ。」


「ほらほら〜!ハイドラもそう言って...ってリオナちゃん!?何唱え始めてんの!?それって【冰崩】じゃんっ!?」


ドヤ顔を決めるテレジアに対しこれから起こるであろう外交問題やら責任問題やらとって浮かぶあらゆる事案についぞ堪忍袋の緒が切れたリオナは詠唱を始めていた。


衝動のままに、秘めた才を存分に発揮する。


禁忌に属す魔法を友と呼んだ少女に放つ為に。


「好き勝手やりおって妾はもう知らんっ!!! 貴様を氷漬けにして陛下の前に突き出し手打ちとするのじゃ!!!」


「はっ!言ってくれるじゃ〜ん!もう簡単に氷漬けになるテレジアちゃんはいませ〜ん!いいよ、遊んであげる!」



そんな一人ブチ切れ怒りを露わにするリオナと笑顔で煽り、受けて立つテレジアに対し苦笑いを浮かべるのはアナスタシアだった。

だが再びため息とともに制止すべく魔法を放とうとしたその腕は止められる事になる。


「ヒヒッ...まるでアーニャ様と妹君を見てるようです。アナタ様たちがそうであったようにここは決着が着くまで大人しくするのが正解ですよ。それに二人の成長度合いを測るのに丁度良いかと。」


そう告げるハイドラにアナスタシアは目を丸くし思わず笑ってしまう。他ならぬ彼女自身もそう思ってしまったからだった。


「ふふっ...そうね。そういえばよく私が好き勝手やってシルフィに怒られてたわ。確かに...気が付きたくはなかったけど私たちに似てるわあの二人。ならまぁ仕方ないわね、アナタの言う通り気の済むまでやらせましょう。」


「ヒヒッ...こうなると思いまして茶の用意を済ませておりますゆえ。(ワタクシ)共はゆるりと和平条約(こんごのはなし)について語り合うとしましょう。」


「ふ〜ん。全部アナタの思惑通りってことね〜。やるようになったじゃないハイドラ。アナタに免じてお咎めなしにしてあげる。」


視線の先にいつの間にか置かれていた椅子に腰掛けながらアナスタシアはハイドラに小言を告げる。


「..."全て"アナタに教わったことですよアーニャ様。

ヒヒッ...かの【戦姫】がお優しいことで。(ワタクシ)としては多少の折檻はあるかと予期していたのですが外れましたねぇ。」


小言を受けながらもハイドラは微笑み、茶を注ぎながら想いを零す。


「迷宮でアナタがあの子(テレジア)に手を出しかけた時からこうなるような気はしてたわ。

イルの言葉を借りるならまあ"なるようになった"ってことね。」


才能はヒトを狂わせる。正に言い得て妙だった。


「全てを巻き込んで時代は加速する...。全部アイリスの言う通りに正しく"魔導士(私たち)"は新たな時代の"夜明け"に立っているって訳。」


注がれた茶を飲みながらアナスタシアは誰かの笑い声幻聴する。


「ヒヒッ...そしてその先導たる御旗はこの二人以外有り得ませぬ。(ワタクシ)たちはその一助とならんことを。」


ハイドラは近しい未来に思いを馳せ、呟く。



その全ては魔導を極めんが為に。

全ては人の燈を絶やさんが為に。


今期はアニメが熱い。

ロシデレ、負けイン、推しの子、何よりウィストリア。

来期はいよいよダンまちも来ますし最高と書いて最幸です。

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