おかえりの花束(2)
シュトラントの父は雇われの庭師。母は元軍人。
シュトラントが軍人を目指すきっかけとなったのは、母の影響が大きいかもしれない。魔界の平和を守る為、自分も力になりたいと思ったのだ。
自身の力量を過信している訳ではないが、教官からは期待されているとはシュトラントも知っている。
勿論、親のコネではない。
体格にも恵まれ、身近に稽古をつけてくれる人がいたのは大きかった。それからも日々努力を続け、今のシュトラントがいるのだ。
『心身共に強くあれ』
母から言われた言葉。
どのような敵にも臆さず、どのような事態にも慌てず、どのような物事にも的確に迅速に対応する。
誰かに信頼される魔物になる事が、もう一つの目標でもある。
しかし日々訓練を積んでいるシュトラントでも、動揺する事はあるし失敗する事もある。
正に、この時だ。
「あぁ、シュウ。おかえ──」
「父さんこの花永久に保存したいんだがどうすればいい!?!?」
家の扉を開け、リビングの椅子に腰掛けていた父の言葉を遮って、シュトラントは滑り込むようにしてリビングに駆け込んだ。
「挨拶をしろ馬鹿息子」
そしてすぐさま、ガツンッ! と母の拳が後頭部に降ってくる。
「おかえりただいま父さん」
「うん。ただいまおかえり」
母と違い、慌ただしく帰宅した息子ににこやかに笑みを向けながら頷く父・フェストラント。
深緑の髪に黒縁の眼鏡を掛けている。
そしてシュトラントに鉄拳を食らわせた強き母・エーデ。青緑の髪を一つに束ねた、眠そうな三白眼が特徴だ。
「さて。で、その花はどうしたのかな?」
「ヤヌアールから貰った! 父さんによろしくだとよ」
「相変わらずなようで何よりだよ」
フェストラントとエーデも、自身の息子が幼馴染のヤヌアールに好意を寄せている事は知っている。十年前から何ら変わらないシュトラントの様子に安心したらしい父は、朗らかに目を細めながら言う。
「永久には基本的に無理だけど、ドライフラワーにするとかレジンで固めるとか……方法はあるよ」
「マジか!!」
「マジだよ。今日から半年位はここにいるつもりだから、明日やっといてあげるよ」
「流石父さん天才ありがとう!!」
「半年いる方に反応したらどうなんだい……」
母の溜息混じりの声にハッとしてシュトラントはハッと気付く。
各地を転々としている父が半年も家にいるという事はそうそう無い。近い内にでもヤヌアール一家も交えた食事会が催されるだろう。
家族ぐるみで仲が良く、フェストラントが帰省した際にのみ催されるイベントでもある。家族団欒の時間が増える事も嬉しいが、何よりヤヌアールと食事出来る事が何より嬉しかった。
「イベント盛り沢山で嬉し過ぎる」
「良かったね」「良かったな」
喜びに浸るシュトラントを生暖かい眼差しで見つめながら、フェストラントとエーデは頷いたのだった。