#91:事件は突然にして
最終章のプロローグみたいな感じです。
「渉様、こちらでございます」
「……え?その貴方がたは?」
「柚香様の使いの者でございます」
学校も終わりいつもと同じで帰ろうとしていたのだが、トイレに行きたくなったので少しだけ離れた。そしてトイレから出ると同じ学園の生徒であろう少女たちから声をかけられた。柚香たちのよく言う、影の人たちだろうか?とは言え、楓たちを待たしてしまっているし、彼女たちと合流してからでもいいだろう。
「いや、俺は楓たちと帰るので……」
「そうでしたか、では……やれ」
「……え?」
そう言うと、突然首筋に電気のような物が走った感覚がした。そして、俺はそのまま意識を失った。
前が見えない。ここはどこだ?体が……動かない?って何だこれ!?
「あら、お目覚めのようだね」
「んんん?んんんん」
「あははっ。口を縛られてる状態じゃ何を言ってるか分かんないやー」
「少年、どれだけもがいても無駄だよ?縛られてる人が自分自身で逃れられないようになってるから」
「まぁ、訓練受けてる人ならともかく、君みたいな美少年じゃ無理かなー。訓練とかしてなさそうだし」
俺の周りにいるのは二人だろうか。それにしても迂闊だったのかもしれない。本来なら、余り一人でいてはいけなかったのだろう。この世界に来て少し時間がたったことで、学園にいる女子たちが少しだけ俺に慣れてきたこともあってか少し油断していた。何よりも学園の中でこんなことが起こるなんて思ってもみなかった。
それにこれはまずいな。先ほどから上下に少し揺れていて、この匂い。それに車が通るような音。間違いない、俺がいるのは車の中だ。となると、学園の中で意識を奪われて、何処かに運ばれていると考えるのが自然なんだけど。もし、そうならばヤバいなぁ。もう既に、トイレから戻ってこない俺のことを心配した楓あたりが何かを察して柚香とかに知らせてくれるとは思うんだけど。俺は今、何もできない。身動きが取れない状態に縛られたうえで、車に乗せられて運ばれているのだから当然と言えば当然なんだけども。
「ふむ、そろそろ目隠しを取ってもいいだろう」
「ふっふっふー了解」
そんな声が聞こえると、目隠しを外された。するとそこは国境のようなゲートが目の前にあった。とはいっても、俺が前世に住んでいた日本のように今いるこの国も島国であるため、厳密には国境ではない。そして、さらに口元に付けられていた何かも外されて、俺は離せるようになった。
「ここは何だ!?」
「この先かい?ここから先はあたしたち組織の国だ。正式には実効支配しているだけなんだがな」
「むっふっふー。最強の力を持った組織なんですよ、私たちは」
「組織?」
「ああ、組織さ。国を本来あるべき姿へと変えるために活動しているんだぜ」
「本来あるべき姿だと!?」
彼女たちが何を言っているのかが分からないが、恐ろしいことを話しているように感じた。
「それに俺は関係ないだろう!?」
「関係はあるさ。君は今の王宮と深いかかわりがあるだろう?」
「ふっふっふー。つまり人質ってことですよ?」
人質か。俺が不用心でかつ弱いせいで、柚香たちに迷惑をかけてしまったのだろうか。
「さてとここから先はボスのところまで連れて行く。万が一があるからまた目隠しだけさせてもらうぜ」
「ふっふっふー。すこーし視界が暗くなりますけど、安心してくださいね」
そう言うと、俺の視界は再び塞がれた。一応離すことはできるみたいなんだけど、下手に彼女たちを刺激しないほうがいいと考えた俺は無言でいることにした。分かっていたことだが、俺の荷物は彼女たちが保持していた。先ほど二人の内の傍らの少女が俺のスマホを持っていたことから助けを呼ぶことは不可能に近い。皆が助けてくれることを願うしかできないのか。俺は自身の力のなさを悔やんだ。