#90:幸せな日々
次回からいよいよ最終章に突入します。
ビーチボールで遊び終わった後、俺たちはプールで軽く涼みつつ、一部のメンバーは泳いでいたりもした。月夜さんも、しばらくしてもう大丈夫になったのか普通に泳いでいた。ポれが近づいても、恥ずかしそうにはするものの、何とか会話はできていた。
「あー楽しかった」
「そうだな、桜も楽しかった?」
「え、私?うん、勿論だよ。渉君の水着姿も見られたし、いつも以上に積極的な楓ちゃんも見れたからね」
桜はそう言うと、嬉しそうにそう言った。
「私も楽しかったです。渉君が私たちの水着でいつも以上にドキドキしてくれるのも嬉しかったですし」
「うん、渉の水着も見れて良かったー」
五月と楓も嬉しそうに言ってくれた。他のメンバーも似たような感じだった。
「それでは、この後はどうしましょうか?そろそろお昼の時間かと思うので、よければ皆さん一緒に食べませんか?お母様も待っていると思うので」
「おや、女王様がかい?」
「そうですね。渉様は、以前こちらに来ていらっしゃるのでその時の面識があります」
「なるほど。渉君も中々隅に置けないじゃないか」
「むぅ~」
少し揶揄うように言う愛結先輩。その隣では頬を膨らませて不機嫌そうな光沙先輩がいた。そんな彼女を横目に愛結先輩は、苦笑いを浮かべた。
そして俺らは、王族が使う食堂まで案内された。美柚ちゃんが俺の手を引いて嬉しそうに案内してくれた。柚香はそんな状況に少しだけ申し訳なさそうにしながらも、他のメンバーの案内もかねて俺たちの後ろから着いてきてくれた。
そして食堂の扉の目の前に立っていた兵士さんによって扉が開かれた。扉を開けるとそこには秋穂さんが既にテーブルに座っていた。そして、彼女は俺と視線が合うと嬉しそうに手招きをした。
「わわわ、本当に女王様なのです」
「こ、こら恵理。きちんと礼儀はわきまえなさい」
初めて女王様を実際に見た日向さんが少し興奮したようにそう言った。それを注意していた月夜さんだったが、その声にも何処か緊張が感じ取れるように思える。
女王様――秋穂さんはこの国にいる人たちから、絶大の人気を誇っている。特に月夜さんと日向さんは強い憧れを抱いているみたいだ。秋穂さんは恐らく元の世界における、大統領とか首相という立場ではあるものの、実際は女優とかアイドルのような立場であこがれているのだろう。勿論、そんな活動はしていないんだけど、テレビとかで国民に向けた話とかはよく行っているみたいだ。
「ふふふ、皆さん気にしないでください。本日は、客人としてもてなしているのですから。無礼講で構いませんよ」
「お母様もこう言ってますし、気にしないでください」
「そ、そうですか。それならば……」
月夜さんはしぶしぶと言った感じだが、受け入れていた。月夜さんや日向さん、それから秋穂さんに会っていない面々は最初は少し緊張をしていたものの、次第に慣れてきたのか最後には学校生活での柚香の恥ずかしい話なんかも由衣が話していた。
「ふふふ、良かったわね柚香。いいお友達に恵まれて」
「はい!あ、お母様そのことなんですけど、私を今の学校に正式に転校させていただけませんか?」
柚香は今、学校間の交流を深めるという名目で、こちらに来ている。
「貴方ならそう言うと思ったは。渉君と同じ学校に通いたいのでしょう?構わないわよ、未来の夫と一緒にいたい気持ちは分かるもの」
「ありがとうございますお母様」
「その代わり家での勉強は今まで以上に頑張るのよ?」
「勿論です」
そう言う柚香の顔に曇りは一切なかった。純粋にこれからも俺たちと一緒の学校に通うことができるのがうれしかったのだろう。
「柚香」
「は、はい。何でしょうか渉さ……」
俺は彼女をそっと抱きしめると唇にキスをした。秋穂さんはそんな俺を見て微笑んでいた。この後、俺は他の彼女たちにもキスをせがまれ皆にもしていった。
こうやって笑いあえる日がいつまでも続くといいな。
――しかし、最初にして最大の俺を狙う悪魔の手がすぐそばまで迫っていることは、この時の俺が知る由もなかった。