#9:家でも大変⁉
今回は千佳と碧がメインの回です。
2019/12/01追記 誤字報告ありがとうございました!
「「ただいまー」」
「おかえりなさい」
俺と楓が家に入ると、碧が玄関まで出迎えにきてくれた。彼女は俺の姿を見ると抱き付いてきた。その様子は実に可愛く、前の世界で妹萌えという言葉があったのも頷ける。彼女のさらさらとした髪を撫でてあげると、頬を赤くして少し俯いていた。
俺たちが帰ってきてから30分ぐらい経った後に千佳姉が帰ってきた。彼女も俺のことを見ると抱き付いてきた。メイドさんと楓が慌てて俺を引き離した。千佳姉はもっと俺に触れていたいと言っていたが、泣く泣く離れた。
「渉、ただいまー」
「お帰り母さん」
仕事から帰ってきた母さんにお帰りと言ってあげた。前世では余りこういうことを言わなかった俺だけど、自然と言葉に出ていた。千佳姉と碧は父親にあったことはないらしく、女手1つとメイドさんたちだけで育てられたそうだ。
「渉~疲れたよ。母さんを抱きしめて」
お母さんを抱きしめて、これが前世だったのであれば俺は絶対にやらなかっただろう。そもそもそんなことを要求してくるなんて想像も着かないけれど。コッチの世界の母さんは俺に優しくしてくれて、そもそも向こうは知らないけれど、俺たちは化けの皮を被った別人である。そのことに気づいているのか気づいていないのかはさておいてそれでも今こうして面倒を見てくれているという。抱きしめるだけで喜んでくれるならと思い抱きしめてあげた。
「お兄ちゃん!今日は皆でここで寝ようよ!」
「碧!いくら何でもそれは駄目でしょ」
「そ、そうね。お母さんも賛同できないわ」
碧が俺に意外な要求をしてきた。千佳姉と母さんは駄目だと碧に怒っていた。ここで寝るとなると布団を敷いて寝ることになるのだろう。この世界の男性はベッドに寝る人が多い――というかほとんどがそうなので千佳姉も母さんも慌てて止めているのだろう。
「いいよ、じゃあ一緒に寝ようか」
「私もここで寝るわ」
「いいの!?ありがとうお兄ちゃん!」
俺が一緒に寝てもいいと言うと思っていたらしく、楓はすっかり俺の隣で寝る気満々だった。一方、碧は本当にいいと言ってもらえるとは思わなかったらしく、凄く喜んでいた。千佳姉も母さんもメイドさんたちも驚いたような表情を浮かべていたが、すぐに千佳姉は期待するような眼で俺の方を見てきた。
「千佳姉も一緒に寝る?」
「お姉ちゃんもいいの?」
「もちろん!」
結局俺と楓と碧と千佳姉の4人で寝ることになった。母さんも一緒に寝ようとしていたのだが、明日は大事な会議があるとかで風邪を引かないようにということで自室に連れていかれていた。その間、母さんは俺の名前を叫びながらメイドさんの手を振りほどこうとしていた。結局その抵抗もむなしく連れていかれてしまった。メイドさんの力が意外とあってびっくりした。
「お兄ちゃーん」
ここは天国だろうか。俺は今仰向けになって寝ているのだけど、上には碧が乗っかっている。上に乗ると聞いたときは流石に抵抗したのだけれど、楓も千佳姉もそれでいいと言い出し、結局押し切られてしまった。そして今俺の左隣には楓が、右隣には千佳姉が俺と同じように仰向けになっている。その2人も腕を絡めてくるものだから身動きが取れない。加えて左右と上からいい匂いがしてくる。さらには左右は何かが俺の腕に当たっていた。
俺たちはそれからしりとりをしたり、千佳姉の昔話を聞いたりした。千佳姉の話の時に碧は眠くなったのか、最後まで聞くことなくいつの間にか眠っていた。姉さんの受験の話とか俺たち――正確には俺たちの前の人格がどんな性格だったとかを話してくれた。ちなみに話を聞いていると結構屑だった。とはいえ、この世界の男性の中ではいい方であったらしい。今の俺は千佳姉に言わせてみれば、優しさの塊――天使らしい。俺はその言葉に一瞬ぽかんとしたが、すぐ意味を理解して微笑した。
「夜更かしはよくないぞ!お姉ちゃんもそろそろ寝るかぁ。お休み渉、楓」
「おやすみ」
「おやすみなさい、千佳姉さん」
千佳姉が寝ると楓もすぐに寝たようだ。それにしてもこんなふうに誰かと寝たのは中学校の宿泊行事以来だな。今日はわいわいという程までは行かなくても楽しかった。この世界で最初は家族に対する不安もあったけど、今ではその不安は全くない。こんなに優しく、大事に接してくれて、まるで本当の家族のように俺の中ではそう感じるようになっていった。
皆が寝ていると分かっているけど……俺は小さな声で「おやすみ」と言って寝た。
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