#83:桜の本音
渉と楓をメインに書こうとしてたら、いつの間にか桜がメインの話になってた。
「おはよう、お兄ちゃん」
朝、俺が目を覚ますと可愛い妹である碧が俺の上に乗っかっていた。
「おはよう碧」
「待ちきれなくてお兄ちゃんの寝顔を見に来ちゃった」
どうやら碧は今日のデートが待ちきれなかったらしい。まだデートに行く時間までは時間があるが、つい俺の顔が見たくなったらしい。可愛いやつめ。俺はそんな彼女が愛おしくなり、彼女の腰に手を当てて俺のもとに引き寄せてそっと唇にキスをした。
「おおお、お兄ちゃん!?」
「さてと、そろそろ起きるね」
「う、うん」
碧は。突然の不意打ちのキスに頬を真っ赤にしながら俯いていた。
「渉、そろそろ準備できた?」
「私たちは準備完了だよ」
「碧も準備終わった」
「それでどこに行くの?」
楓が俺に聞いてきた。どこに行くかという話になったのだが、折角だから俺が決めたいと言ったら了承された。
買い物で重いものを持たされるのは勘弁だからな。俺は運転手さんに行先を事前に伝えてあったので場所は彼女たちには秘密にしておいた。
「謎解きの部屋?」
「そう、期間限定でやってるらしい。謎を解いて部屋から脱出するっていう人気の所だ。事前に予約は取っといたから、並ばなくても大丈夫」
「ナイスだね渉君。確かに、あの人混みを並びたいとは思わないからね」
「お兄ちゃん流石!」
そう言うと碧は俺に抱き着いてきた。それを見た楓はむっとした表情を浮かべた後俺の左手を握ってきた。
アトラクションの中に入るとそこは少し暗めの空間だった。
「お兄ちゃん、怖いよ」
「大丈夫か?ほら」
俺はそう言うと、空いていた右手を碧に差し出す。碧はその手を握ると安心したような表情を見せてくれた。
「何か私だけ仲間外れじゃない?」
「悪い、桜。とは言っても、俺の手二本しかないから」
「分かってるよ。それじゃあ、私は碧ちゃんと手で繋ごっかな」
「いいんですか!?」
「勿論。普通なら特定のファンを贔屓しちゃいけないんだけど、碧ちゃんは家族だからね」
そう言うと碧は桜と手をつないだ。問題が置いてあるで謎解きをクリアすると次に進めるんだけど、一本道になっていて幅もそこまで広くないので、碧は渋々俺の手うを離した。流石に、横一列に三人並ぶ幅はなかった。
――
「渉、次の問題が出てるよ」
「本当だ、えっとこれは」
「あの二人って本当に仲がいいんですね」
仲睦まじく問題を解いている渉君と楓ちゃんを見て碧ちゃんが私に言った。
「そうだね。私は小さい頃に向こうで死んじゃったから、そこまで記憶があるわけでもないけど、その当時から仲は良かったよ」
さらに私は言葉を続けた。
「渉君は小さい頃はともかく、お互いずっと意識し続けてこの世界にくる直前に恋人になれたからみたいだから、やっぱお互いを信頼しあっているんじゃないかな?」
「むむむ、ちょっと羨ましいです」
「あはは、まぁそうだね。幼い頃は渉君は私の方が好きだったみたいだしね」
もし私たちが元の世界で生きている、そんな未来があったとしたら私たち三人はどうなっていたんだろう。ふと、そう思った瞬間もあった。
私が渉君と結婚する未来、楓ちゃんが渉君と結婚する未来、三人でずっと一緒に暮らす未来、私たちが一緒にいられなかった未来。可能性としてはたくさんあるのかもしれないけど、今の私から言わせてもらえば今この瞬間が幸せかな。
偶然とは言え、もう二度と会えないと思ってた愛しい幼馴染と、親友の幼馴染。こんなにかわいげのある碧ちゃんや普段はだらしないけど、いざという時は頼りになる千佳さんと一緒に住めて私は満足だ。
だから私はこんな環境を作ってくれた渉君と、この世界に感謝しかない。だから、渉君の恋人として、絶対に幸せにして見せるからね。そして、私も好きな人と幸せになって見せるね。お父さんお母さん、早く死んじゃってごめんなさい。でも、私は異世界で幸せにやっていくね。