#74:光沙先輩
「さてと、このままもう少し二人きりで居たかったけど、このままだと光沙が暴走しかねないし戻るとしようか」
「分かりました」
先輩はそう言うと、俺の手を取り光沙先輩の方へと歩き出した。
「すまない、光沙」
「あれ、もうしばらく二人っきりでいるんじゃなかったの?」
光沙先輩は俺たちのことを不思議そうに見てきた。すると愛結先輩は光沙先輩に近づき彼女の抱きしめた。
「全く。無理しちゃって。二人きりの間辛かったんだろう?」
「愛結……うん、ちょっとモヤモヤした」
「じゃあ、三人で行こうか」
「愛結……うん!」
そう言うと愛結先輩は彼女の体を放した。すると、光沙先輩は素早く俺の隣に移動して腕を組んできた。愛結先輩はそんな彼女を見て微笑むと、俺の反対側に立ち腕を組ませた。
ボウリング場の駐車場へと戻り俺たちは車の中に入った。
「それじゃあ、今日は渉の家に行って終わり?」
「ああ、そうだね。今日の予定は特にないかな。渉もそれでいいかい?」
「はい」
俺がそう言うと、光沙先輩がモジモジと指を絡ませて俺の様子を窺うように見てきた。
「どうかしましたか?」
「い、いや。今日は私が迷惑かけて、愛結に気を遣わせちゃって。それに、渉も愛結との二人きりの時間を邪魔されて、深いとか面倒とか思われてないかなって」
光沙先輩はしょんぼりしながら、俺にそう言ってきた。そんなことはないと俺がそう言おうとすると、突然俺と彼女の間に愛結先輩が入った。そして、彼女に近づくとそっと優しく頭をなでていた。
「私のことは気にしなくて大丈夫だよ?今更そんなことで面倒何て思ったりするわけないじゃないか」
「……愛結」
「私は渉のことも大事だし好きだけど、それと同じくらい光沙……君のことも大好きなんだからな」
「愛結~」
そう言うと、光沙先輩は愛結先輩に抱き着いた。そして愛結先輩にまるで子供のようにあやされていた。すると、彼女は俺の方をじっと見てきた。すると愛結先輩は彼女の視線に気づいたのか、再び彼女の頭を優しくなでた。
「大丈夫。渉も気にしてはいないと思うよ。そうだろう?」
「勿論です。愛結先輩も光沙先輩も俺の大事な人です。可能な限りしてほしいことはするつもりだし、これから先も一生そばにいてほしいと思っています」
「わ、渉―」
そう言うと、光沙先輩は今度は俺の胸に飛び込んできた。俺は可愛らしい年上の彼女をそっと抱きしめた。車の中に運転手さんが入ってきたが、俺は彼女を抱きしめてまましばらくじっとしていた。
「すみません。遅れました、ってあれ?」
「すまない、もう少しだけ待ってあげてくれ」
「ですね。とりあえず、発車する準備だけしておきますね」
運転手さんはそう言うと、運転席に乗り込んだ。
「ただいまー」
「お、お邪魔します」
「お邪魔しまします」
「おかえりなさい、お兄ちゃん!」
家に帰ると、碧が俺の胸に飛び込んできた。後ろから千佳姉が歩いてきた。
「あら、貴方たちは……いらっしゃい」
「お邪魔します、千佳さん」
「ゆっくりしていってね。たまにはお姉ちゃんも、渉とイチャイチャしたいんだけど駄目?」
「いいですね。それじゃあ、お姉さんの部屋にお邪魔してもいいですか?」
「えっ。いやぁ、お姉ちゃんの部屋は厳しいから、碧の部屋でいいかい?」
千佳姉は焦ったようにそう言った。
「千佳お姉ちゃんまだ片づけてなかったんだね。私もお兄ちゃんとイチャイチャしたいし、私の部屋でも大丈夫です」
突然千佳姉に話を振られた碧は呆れたようにそう言った。