#67:大和 春香
新章です。……というか前章が短くなりすぎました。
最終章的なのは思いついてはいるんですけど、この作品をまだ完結させる気はないので後回し中です()
真里菜を助けた週の土曜日、俺は柚香と待ち合わせをしていた。
「お待たせしました渉様」
そう言ってリムジンカーから降りる、彼女はとても可愛らしかった。いや、別に楓とか桜とかも勿論十分可愛い。しかし、普段一緒に住んでいない彼女がわざわざ俺に会いに来て、少し恥じらいの表情を浮かべている。その様子が可愛らしい。
「……可愛い」
「ふえっ……ありがとうございます」
つい声に出てしまっていたらしい。彼女は一瞬で頬を真っ赤に染めた。
「って、違います。今日の主役は私ではないです!」
「ええ、柚香可愛いんだけど」
「うぅ……それはもういいです。それより彼女が待ってるので、早く行きますよ」
俺は柚香に手を取られて、リムジンに乗るように促された。中に入ると、そこには可愛らしいスカートを履き、先ほどの柚香よりもさらに恥ずかしそうな表情を浮かべている春香がいた。
「うぅ……柚香殿に勧められて着てみたのだが、やはり恥ずかしいでござる。それに拙者にはこういった物似合わないでござる」
「そんなことないと思いますよ。ですよね、渉様」
「ああ、滅茶苦茶かわいいと思うぞ」
「か、可愛っ!?」
俺が彼女にそう言うと、彼女はとても驚いていた。そして、急に恥ずかしくなったのか俯いて顔を隠してしまった。
「諦めてはいけません、春香さん。これくらいのことで恥ずかしがってたら、この先はやっていきません!」
柚香がはっきりとした口調でそう言った。あれ、でも柚香さんさっき滅茶苦茶恥ずかしがっていたような気がするけど。それと、どっちの世界の価値観でも異性の友人に対して、可愛いを連呼はしないと思う――多分だけどね。
ということで行き先は毎度おなじみのショッピングモール。楓と桜の買い物に突き合わされたり、真里菜の告白を受けた場所だ。
「それでは行きましょうか。春香さんは反対側の渉様の手をつないでください」
「え、拙者は別に……」
「これは友達として当たり前です」
「ほ、本当でござるか渉殿?」
春香が俺の方をゆっくりと向いてそう答えた。
「いや、そんなことはないと思うけど」
「柚香殿、どういうことでござるか?」
春香が少し声を低くして、柚香に詰め寄った。しかし、柚香はすました表情を変えることはなかった。
「これも訓練です。いつまでも恥ずかしがっていたら、渉様の友達にはなれませんよ?」
「と、友達になれないでござるか?」
「それに、渉様の手を放している隙に他の女に奪われたらどうするというのですか!?」
「そ、それは困るでござる!」
「だから、友達である春香さんも手を繋ぐべきなのです」
「なるほどでござる。そういうことなら、渉殿、失礼するでござる」
彼女はそう言うと、柚香とつないでいる手と反対側の手を握った。そしてそれを見た柚香が体を密着させた後指と指を絡めてきた。
「こうすると、いいですよ」
「やってみるのでござる」
そう言うと、春香も先ほどの柚香と同じことをしてきた。いや、これは流石に友達ではやらないだろう。そう思ったのだが俺の左右から来る、甘い香りと腕に当たる柔らかい感触に流されて、俺は恥ずかしさから指摘することはできなかった。
「……穴があったら入りたいでござる」
春香がそう言った。あの後、理性を取り戻した俺は春香にこれは恋人同士でやることだと告げた。流石に柚香もごまかしきれなかったのか顔をそらした。そして、春香は今まで自分が俺にやってきた行為を思い出し、一気に恥ずかしさが募ってきたみたいだ。
「柚香、どういうつもりだ?」
「どういうつもりもありませんよ。彼女は幼いころから家柄に縛られてきました。だから渉様を通して、少しでも幸せになってほしいんです」
「それって、友人としてって意味だよな?」
「そうですね……今はまだ」
柚香が最後に何か小さな声で言った気がするけど、気のせいだろうか?