#63:矢部 真里菜
渉と恋人になった真里菜。しかし、彼女の表情に時々影があるようで……
真里菜の表情が暗い理由とは?
私が渉の恋人になってから数日が経った。恋人になってからも、彼は変わらず、ずっと私にやさしく接してくれた。やっぱり私は彼とずっと一緒にいたいと心の底から思えてくる。けど、その前に私にはやらなければならないことがある。ずっと目を背けてきたけど、今日こそは。
私は手に力を込めた後、深呼吸をした。彼に迷惑はかけられない。これは私自身の問題。
「真里菜、入りなさい」
「失礼します、お母さま」
少女――真里菜は恐る恐るといった感じで、部屋に入る。そしてテーブルに隣接された長椅子に座る母親を見た。
「それで、婚約者である聡さんが貴方に会いたいとおっしゃられているのだけど、いいわよね?」
気に入りはしないけど、聡は私の婚約者ということにされている。年も20以上はうえで、太っているし顔は最悪、オマケに性格も最悪だ。私も会うたびに、彼に体のあちこちを触られて寒気がする。
「お母さま、もう彼とは――あいつとは会いません」
「なっ!?何を言うの、真里菜」
私がそう言うと、 お母様は驚き、そしてその声には怒りの感情も交えながら私そう言ってきた。今までは、空っぽだったから。彼に対しても、嫌だとは思いつつも何とか対応してきた。けど、渉の彼女となった今あいつとは会いたくもない。
「私は恋人ができました。ずっと前から好きだった人です。同じ学校に通っていて、イケメンで性格もよくて気遣いもできる。そして、私のことを気遣ってくれて、こんな私を好きだと行ってくれた人がいるんです」
「真里菜、夢の見すぎで頭がおかしくなったのかしら?」
お母様は、私を可愛そうなものを見るような目で見てきた。そして、さらに声をこわばらせた。
「いい?先ほどの発言は聞かなかったことにしてあげます。そんないるわけもない少年。仮にいたとしても、貴方なんてすぐに捨てられるわよ」
「そんなことない。渉は私に愛してくれると言った。一生大事にするとも言ってくれた。そんな彼が絶対に私を捨てるなんてことない」
まぁ、楓とか桜とかがそんなこと絶対させないと思うけどね。そんなことを頭の中では考えつつも、事前に考えていたそれとは別の言葉をぶつけた。しかし、お母さまは聞く耳を持たずといった感じだ。
「そう、けれど駄目よ。幸い貴方は聡さんからとても気に入られているのよ。まぁときどき私も彼と夜を共にしたりもするのだけど、彼からは貴方が18になったら渡してくれと頼まれているのよね。多大のお金とともに」
「まさか、お母様」
「出来損ないのあなたを出すことを条件に、私は毎月援助をもらえることになっているのだからこれくらい役に立ちなさい」
私はその一言を聞き、頭が真っ白になってしまった。それと同時に私には怒りが込み上げてきた。完璧な人間にするためにと私はお母様に育てられてきた。けど、いつからか私を利用するためだけに。母親という人物がそうであったこと、そしてそんな母親を気づくことができずに言いなりになっていた私が許せなかった。
するとお母様――母のスマホが鳴った。彼女はスマホを見ると急に嬉しそうに電話に出た。
「あ、聡さん。どうかされましたか?」
しかも、相手はあいつだった。まずい、このままだとさっきまでのことが言われてしまう。そう思った時には、母はすべて話してしまっていた。私はしばらく呆然としていた。やがて母が電話を切ると怒りに満ちた表情で私のことを見てきた。
「貴方のせいで、私が聡さんに少し怒られてしまったじゃない。まぁいいわ。それと、貴方のことは話しました。明後日にも引き取りに来たいとのことだったので、貴方は準備しておきなさい。これで援助ももらえるし、出来損ないも消えてせーせーするわ」
狂っている。ここから逃げなきゃ。でもどこに?――私は席から立ち、急いで自分の部屋に戻ろうとする。
「真里菜を捕えなさい」
母が突然そう言った。すると、おつきの人が私を拘束した。彼女たちの表情は困惑したものだったが辞めてくれる様子はなかった。
「なっ!?放して!」
「聡様と過ごすときも偶に使うのだけど、今回は特別。地下室につれていきなさい」
私は母親に命令によって、付き人に腹を殴られて気絶した。
今章のメインのはずでしたが、多分3話くらいで解決しちゃう気がします。