#5:幼馴染VS幼馴染
幼馴染と幼馴染の気持ちを書いてみました。
次回当たりから学校に通う話になります。
「五月さん起きてください」
「う、うーん」
うひゃぁ、渉君に起こされてました。いつもなら、あたしがどんなことをしても気にも止めてくれず冷たい態度をとるだけだったのに。そんな渉君もカッコよかったけど、今の優しい彼はさらにカッコいい。もう少し気絶した振りをしたかったけど、これ以上は不審がられるかもしれない。
「急に倒れるからびっくりしたよ。それよりも護衛の件よろしくね」
そういって彼は私に手を差し出してきた。こんなことになるなら手をもっと入念に洗うべきだった。――私はそんなことを考えながら、今もなお震えている手を差し出した。
「そこまで、貴方は学校での護衛なんだから渉に近づかないでよね」
彼の手を握り幸せをかみしめていると、とげのある言葉があたしに向かって投げかけられた。渉以外には正直興味はないけど……一応渉君の姉妹だもんね。だけど、ただの姉妹。私は幼馴染。姉妹との結婚はあるけれど、1番として扱われることは少ない。けれど……あたしは油断はしない。ここで相手よりも渉君との距離が近いというところを見せなくっちゃ。
「貴方には関係ないよね、渉君のお姉さま」
「五月ちゃん、お姉ちゃんは……」
碧ちゃんが恐れるような顔でコチラを見てきた。――彼女の口から衝撃的なことが告げられた。
「楓お姉ちゃんはお兄ちゃんと付き合ってるよ」
え?涙が出てきた。渉君の方を見ると少しだけ頷いたように見えた。そんな、私が悲しそうな顔をすると彼は私を慰めてくれた。
「ごめんね、楓には色々助けてもらったから」
「ううん、コチラこそごめんね……でも諦めないから」
あたしの初恋、大切な幼馴染。そんな彼のそばにずっと居たいから。今の彼にそれを言ったら許可してくれるとは思う。でもそれはあくまで友人としてってだけ。それでも、彼と一緒にいたい。そして、愛してもらえるように。――そしていつの日か
「これからもよろしくねっ、渉君」
「ああ」
涙をこらえて、平静を装い彼に抱きついた。
「一番も奪って見せるから」
「貴方とだけは分かり合えない気がするわね……渉の一番は譲らないわよ」
私は楓ちゃんに宣戦布告をした。彼女の瞳は絶対に負けない、そう物語っているように思えた。
「お、お姉ちゃんだって負けないんだからね」
「碧だって!」
2人も渉君に恋をしているんだろうな。家族としてではなく、1人の女性として。お義母さまも先程から少し震えている。彼女もきっと彼のことが好きなのだろう。そして、母親としてどうするべきかと必死に考えているように見えた。
「それじゃあ、俺はそろそろ部屋に戻るよ」
そう言って彼は部屋に戻って行ってしまった。
私はこの幼馴染に頭を抱えていた。というのも、彼女――大江 五月 は私から見てもとても可愛かった。さらに性格も明るくて、おそらく表裏のない人間。私のように表の裏、教室で猫を被っているわけではない。
予想はしていたけれども、彼女は渉にベタぼれしている。私なんかよりも明るくて可愛い幼馴染にとられる、そう思うだけで私の胸は苦しくなった。けれど、私だって負けてなんかいられない。幼馴染で一番大事な彼女というポジションは誰にも渡さない。だから、彼女にはあえて冷たく当たった。彼女とは分かり合えないとも言った。けれども私が一番よく分かっている。彼女ならば渉を大事に出来る、そして私とも簡単に分かりあえてしまう。そんな未来しか見えなかった。
彼女には私に対する敵対心はないらしい。嫉妬はしているみたいだけれど、私にとってみれば貴方の性格の方が……
「楓、何か悩んでいるのか?悩んでいるなら、何でもお姉ちゃんに相談してね。貴方だって大事な家族なんだから」
碧ちゃんのほうを向くと彼女も心配そうに私のことを見てくれた。――家族か……私はどうでもいいことで悩んでたみたいね。仲良くなれるなら、別にいいじゃない。そりゃあ嫉妬はするかもしれないけど、渉は絶対に私を離さない、そう約束してくれたから。
「ありがとう……お姉ちゃん、碧」
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