#34:由衣
34話目です。フードコートから出た3人が出会ったのは!?
「大変な目に遭った」
「まったく、あなたは自分のカッコよさにいい加減気づきなさい」
委員長に怒られた。もっと自覚して行動しなさいだのと、でもしょうがないじゃん。まさかちょっと離れただけで周りの女性たちが獣のように襲ってくれるなんて思いもしなかったからな。
「というかちょっと待って委員長」
「どうかしたのかしら?」
「俺のことカッコいいって言ってくれた?」
俺は先ほどの委員長の言葉を思い出し、にやにやとしながら彼女に聞いた。委員長は顔を真っ赤にして背けた。
「言ってないわよ、そんなこと」
「照れた?」
「照れてますね、完全に」
照れたと俺が聞くと委員長は反応しなかったが、代わりに五月が返した。まぁ、委員長自身は否定しているかもしれないけど、そこまで分かりやすく動揺してたら誰だって分かる。
「あら?こんなにカッコいい子が護衛も付けずに歩いているの?危険だから気を付けたほうがいいわよ」
しばらく歩いていると、目の前に現れた女性がそんなことを言ってきた。一応近くに護衛らしきメイド隊が潜んでいるんだけど。今にも目の前の女性に跳びかかろうとしているんだけど、やめてね?
「私たちがお守りしているので大丈夫です」
五月が丁寧にそう答えた。その女性はそう言うと、少しがっかりとした表情を浮かべた。
「おかーさん、まだ男の人を見たらしつこく話しかける癖治ってないのー?」
向こう側からやってきた、彼女の娘さんらしき人物が彼女に声をかけた。
「って由衣?」
「ん?あー五月に渉じゃん。やっほー」
「由衣!?」
「うん、由衣だよ~」
何とその少女は由衣だった。いつもと服装が違ったから一瞬じゃわからなかったけど、確かに由衣だ。今日は親子でここに買い物に来ていたらしい。「私に荷物持ちだけさせて先に行っちゃうんだよー」と若干拗ねてはいたが。
「由衣、この男の子は貴方の友達?」
「うーん、私の親友のお兄ちゃん?」
由衣のお母さんの質問に対して彼女は首をかしげながらそう言った。この世界に来てすぐだったら、俺もそう思っていた。けど、今は少し違うだろうな。
「それもそうだけど、今は俺の友達です」
「あら、そうなの由衣!?良かったじゃない。こんなに格好良くていい子がいるなら探さなくてもいいわね。その代わりちゃんとアプローチするのよ」
「いや、だからそういうのじゃ……っ」
由衣は否定をしかけて俺の方を向くと、急に黙ってしまった。そんなことよりも、探さなくてもいいってどういう意味だろうか?俺は気になったので聞いてみることにした。
「あの、先程の探さなくていいってどういう意味ですか?」
「ん?許嫁の話よ。勿論決まってないんだけどねぇ、将来のこともあるし、男の人の所に嫁げば楽にとまでは行かないかもしれないけど、安定した生活は送れるからね。男の人次第でもあるし、あんまりにも扱いの酷いところは親としても嫌だから、早めから私は探してたの」
「お母さん」
由衣が彼女のお母さんのことを見て驚いたようにそう言った。というか俺も驚いたけどね。見た目だけで判断してはいけないと言うけど、正直無頓着そうなイメージあったのに。でも冷静に考えると、さっきの行動も俺を心配していってくれたのかもしれないな。
「そうね……よかったら、今から家に来ない?」
「今からですか?」
「お母さん!?」
由衣のお母さんが突然そんな提案をしてきた。すると彼女は少し焦ったようにそう言った。
「なんでよー?いいじゃない由衣。彼のお家には何回も行ってるのでしょう?」
「そうだけど、私の部屋散らかってるし」
「俺は別に気にしないよ」
「うーん、でも折角なら……来てー?」
なんでそこで疑問形なんだろうか。語尾を伸ばすのはまぁいつもの通りだから気にはしないけど。
「じゃあお邪魔させてもらおうかな?」
「五月たちも来るー?」
「渉君が行くなら行きます」
「私は、用事があるから帰るわね」
「りょーかい」
委員長はこの後用事があると言って帰っていった。残された俺と五月は由衣の家に行くことにした。というかこの世界に来てから他の子の家に行くのって初めて?五月の家にも愛結先輩の家にも言ったことないもんなぁそういえば。
――やべぇドキドキしてきた。
次回由衣の家です。
私の記憶の中では、渉は誰の家にも行ってなかったはず……