#33:フードコート
前回の続きからです。
「はぁ、疲れた」
「もう疲れたの、だらしないわね」
「あはは、渉君お疲れ様」
五月の優しさがありがたい。けど、彼女も俺が今疲れている原因の1人なんだけどね。委員長の言葉は辛辣に聞こえるかもしれないけど、彼女の顔はにやけている。それを指摘したら顔を真っ赤にすると直ぐに背けてしまった。
「委員長照れてるの?」
「照れてないわよっ……大体私なんか弄んで何が楽しいのよ?」
「弄んでなんかないよ。こうやって普通に友達として接してくれて嬉しいんだよ」
そう言うと、俺は無意識の内に委員長の腕をコチラに寄せた。彼女はバランスを崩し、俺の胸にもたれかかるような態勢になった。俺は慌ててそれを止めたのだが。
「貴方何処から計算してたのかしら?」
「計算何かしてないけど?委員長は俺の大事な人ってことだよ」
「っ……そういうところよ。将来絶対貴方変な虫がたかってくるわよ」
大事な友達って意味で言ったんだけど、委員長の顔が再び真っ赤になってしまった。やばい怒らせちゃったか!?
「なーんか2人だけいい雰囲気じゃない?」
五月がいつもより低い声でそう言った。
「というか委員長、滅茶苦茶嬉しそうですね。……最初のは言い任された気恥ずかしさ、最後のは純粋な照れと言ったところでしょうか。予想はしていましたけど彼女もライバルになりそうですね」
「五月、どうかしたか?」
「いえ、なんでもありません」
委員長が嬉しそうにしている?うーん、どうなんだろう。怒っているように見えるんだけど。桜が言ってた通り女心って難しいんだなぁ。付き合っていない女の子との距離感が難しい。五月はともかく、委員長は特にそうだ。
「そろそろ、フードコートでファーストフードでも食べませんか?」
「いや、男性はそういうものをあまり好まないと……いえ、渉なら好きそうね」
「いや、俺ならってどういうことだよ!?」
「庶民派な男性ってことですよ」
うーん……確かにファーストフードも好きだけど、俺だからって理由で決めつけられるのは納得いかない。乗せられている気がするしね。だから今回は行かないと言ってやるつもりだった。
「渉君、あーん」
「あーん」
俺は今、五月にポテトを食べさせてもらっていた。結論を言うと、匂いに負けて行くと頷いてしまった。あの時の委員長のしてやったりという顔、ぐぬぬ。何気にコッチの世界に来てからそういう類のものを一度も口にしていなかったからなぁ。久しぶりに食べた、フライドぽ手度は滅茶苦茶美味しかった。
「渉、早く口をあけなさい」
「むぐっ」
「委員長駄目ですよ、渉君をもっと優しく扱ってください」
「渉は大食いだから一度にたくさん食べられるのよ」
「ええ、本当ですか?」
なるほどじゃない。じゃなくて、委員長。俺の口に何本纏めて入れた。俺を殺す気なの!?それに五月さんも俺のことをじっと見てないで助けてくれ。久しぶりに食べて美味しかったんだけど、どうしてこんなにも疲れているのだろうか。二度と委員長とはファーストフードを食べない。そう心に誓った。
「男の人だよ」
「凄い、モデルさんみたい」
「男の人がファーストフードを……私と同じものを食べているなんて幸せ」
「私たちは運命共同体なのねっ。今から彼を攫いに行ってくるわ」
さっきから周りで、ひそひそと声が聞こえる。というか、周りの視線が痛い。色んな所から見られている気がする。というか何で今まで気づかなかったんだろうか。あまり長居するのもよくないな。そう思って彼女たちと一緒に席を立った。トレーは2つだったので、五月と委員長が片付けに行った。俺もそれについていったのだが、少しだけ彼女たちと離れてしまった。それが何を意味するのか。守るものがなくなり、多数の虎の中に放り込まれた一匹の兎。まさにそんな気分だ。
「そこのお方、いただきまーす」
「ふふふ、チャーンス」
「ええーい」
周りに居た人たちが一斉にとびかかってきた。目をギラリと輝かせて、中には舌なめずりをする人もいた。
「てやっ」
「お断りでーす」
突然現れたメイドさんたちによって、守られた。さっき見かけた2人組とはまた別の人たちっぽい。この隙を見計らったかのように、五月と委員長に連れられて俺はフードコートを後にした。