#120:桜と碧のおねだり
「それじゃあ美柚ちゃんまたね。柚穂さんもまた」
「お兄様ともっと一緒に遊びたかった―!」
「美柚。今からお母さんと一緒に、渉様をメロメロにする方法を考えましょ?」
「はい。お兄様、次こそ私のこと好きって言わせて見せますからね」
美柚ちゃんは目をキラキラさせて、柚穂さんは妖艶な視線をそれぞれ俺に向けてきた。そんな二人に柚香は少しだけ呆れた視線を送ってはいたが、「気持ちは分からなくないですね」と小さな声で俺に言ってきたことから、理解は示しているらしい。
俺たちは車で自宅まで送ってもらった。由衣はそこから歩いて自分の家まで帰るそうだ。玄関の扉を開けると、奥から碧が走ってきた。
「お帰りなさい、お兄ちゃん」
「ああ、ただいま」
碧は俺めがけて飛び込んできた。俺はそんな彼女を抱きとめて、優しく頭を撫でる。
「あ、やっと帰ってきたね。渉君、楓ちゃん」
「ああ、ただいま」
「桜、ただいま」
「うん、おかえり」
桜は少しだけ安心したような様子でそう言った。確かにこの世界において、いくら王家の車に乗っていたとしても不安なものは不安なんだろう。そしてさらに彼女は、ムッとした表情を浮かべた。
「仕事もあったけど、この二日間二人いなくて暇だったんだからね!?五月ちゃんも文句は言ってたよ?」
五月が言いそうなセリフに、俺は苦笑いを浮かべた。桜はジッと俺のことを見つめた。
「さてと。それじゃあ、今日は私が渉君と一緒にいる番だからね?」
「えー?私も」
「そうだね。じゃあ私と碧ちゃんで、渉君とイチャイチャしよっか。渉君行くよ」
俺は桜と碧に引き連れられて、俺の部屋へと向かった。
「お兄ちゃん。ぎゅー」
部屋に入って床に座ると、早速碧が可愛らしい声としぐさで俺に抱きついてきた。俺はそんな彼女をやさしく抱きしめた。
「お〜。あつあつだね」
そんな俺たちの様子を、桜は微笑ましいものを見るような表情を浮かべてそう言った。そしてニヤリと何かを企んでいるような表情を見せた。
「それじゃあ、私も抱きついちゃおうかな」
「……え?」
俺が驚いて彼女の方を向いた瞬間、彼女に抱き着かれた。そして俺の目の前まで彼女の顔が近づくと、そのままキスをしてきた。突然のキスに俺は顔が真っ赤になっている自信がある。凄く恥ずかしい。
碧に抱きついている上から、桜に抱きつかれているため、身動きを取ることさえも難しかったりする。桜はそれを狙っていたかは分からないけど、ニヤニヤしながらまた俺の唇にキスをしてきた。
「むー。私もお兄ちゃんとキスしたいです」
「あ、ごめんごめん」
碧がそう言うと、桜はあっさりと俺から離れた。もう少し桜とキスしていたかったんだけどな。少しだけ寂しさを覚えていると、碧の顔が徐々に俺に近づいてくる。そして俺は今度は碧とキスをした。
「次はここのお掃除を……って、あー!何してるんですか!?」
掃除をしようと部屋に入ってきた五月が大声を上げた。そのまま掃除道具を部屋の隅に置くと、駆け寄るようにして俺の目の前へと移動した。
「渉君。私にもキスをしてください。私だって、ここ数日我慢していたんです。限界なんです」
しばらく俺は桜、碧、五月の三人とイチャイチャすることになったのだった。