#118:鬼ごっこ(後編)
今度は楓が鬼になった。そのタイミングで美柚ちゃんが来て、俺を迷路の外にこっそりと連れて行ってくれた。あのタイミングで俺たちのところまで来れたと言うことは、直ぐ近くに隠れていたというわけになるんだけど、元々彼女を狙っていたから少し悔しくはある。
私――白川 楓は、お城の中庭で鬼ごっこをしている。お城の中庭に大きい草木が生えた迷路があるんだけど、そこにいればバレないだろうと思って隠れていた。そしたら、渉がやってきて捕まってしまった。
そして今に至るんだけど、迷路が中々脱出できない。
「ううー。どうなっているのよ、この迷路は」
私は一人迷路の中でそう叫んでいた。この迷路の中で美柚ちゃんの声がしたんだけど、彼女も近くに隠れていたっぽいんだよね。うーん、彼女なら迷路の中は分かっているから、簡単に出られるのかな。
「ふぅー。やっと出れた」
私は疲れたように独り言を漏らした。いや、あの迷路は広すぎるでしょ。しかも結構探したけど、渉たちの気配もなかったからね。上手く隠れているのかもしれないけど、迷路の外に脱出しているかもしれない。
さて、私の狙いは桜ちゃんだ。一応鬼返しなし的なことを言っていたので、渉のことは狙えない。一番渉が何処に隠れているのか探しやすいと思ったんだけどね。次に狙いやすいのは桜ちゃんだろう。空白の時間があったとはいえ、仮にももう一人の大事な幼馴染だし、こっちの世界に来てからは、一番仲がいい。あ、勿論由衣とも仲は良いよ?
私は中庭にある大通りを歩きながら、辺りを見渡した。ここからならば見通しがいいので、大雑把に探すには最適だね。とは言っても、向こうからも見つけられやすいから逃げられるって可能性はあるんだけど。
そんな訳で周りを見渡した。うーん、特に隠れてそうな所はないかな。遊具の中とか、隠れられそうな所はあるけど、見つかったら一発で終わるからそこには隠れていなさそう。だとしたら、あの大きな木の付近が怪しいかな。一見隠れるのが難しそうに見えるけど、周辺は草木が生い茂っていたりと意外と隠れる場所は多そうかな。
そう思って私は近づいた。……木の後ろにはいないか。私の見当違いだったかな。そう思って帰ろうとすると、視界の端に、隠れている桜の姿が目に入った。
「うーん、いないなー」
私はそう言いながら、ゆっくりと桜ちゃんに近づいた。そして、彼女に近づいてタッチした。
「捕まえた!」
「あっ。捕まっちゃったかー」
「ふふん。幼馴染を甘く見ないでよね」
私は胸を張ってそう答えた。彼女の隠れそうな場所くらいお見通しなのです。ふふん。
「うわー。滅茶苦茶嬉しそうだね、楓ちゃん」
「うん!」
「そっかそっか。さーて、私も鬼探し頑張らないとだなー」
桜ちゃんはそう言うと、カウントダウンを始めた。
結局日が暮れるまで、飽きずに私たちは鬼ごっこを続けた。最終的には全員が鬼になったみたいで、渉は美柚ちゃんに三十分以上追われ続けて、最終的に逃げ切ったらしい。最後には汗を滅茶苦茶書いた状態で、疲れた様子だった。
その後私たちは、シャワー室を借りた。結局この日は、夕食をご馳走になって泊ることになった。部屋は一緒になったんだけど、途中で柚穂さんが乱入してきて少し大変だった。