#116:着替え
「ふふふ、楽しそうですね」
意外にも柚香は乗り気だった。お姫様は運動とかあまりしないと思っていたんだけど。そんな俺の思考を知ってか知らずか、柚香は俺の疑問に答えた。
「運動が得意というわけではありませんけど、苦手ではないですよ?それに渉様たちと一緒に遊びたいですから」
柚香はニッコリとした笑みを浮かべて、少しうれしそうに言った。そしてスマホを取り出した。
「折角なので、美柚も誘いましょう。人数は多い方が楽しいですから」
そう言うと、早速美柚ちゃんに連絡を入れていた。するとすぐに遊びたいという反応があったらしい。柚香は中庭の小屋に王族専用の着替える場所があるらしく、そこで運動服に着替えてくるらしい。俺たち用の動きやすい服も用意してくれているということなので、そこを使わせてもらえることになった。
柚香に手を引かれて。俺たちは着替えの場所にやってきた。
「いやいや、ちょっと待って柚香さん!?」
「はい、どうかしましたか渉様?」
焦ったように言う俺に対して、柚香はニコニコとした表情を浮かべて俺のことを見てきた。
「いやいや、部屋は同じなの?」
「はい、そうですね」
「一応使用人の着替えるほうもあったよね。俺たちはそっちでもいいんだけど」
「まさか。そんなことしたら、渉様が襲われてしまうかもしれないじゃないですか。……っとまぁ、冗談はともかく渉様は私の婚約者で未来の王族なので構いませんよ。勿論楓さんたちもです」
柚香がそう言うと、楓と由衣は少しだけ嬉しそうな表情を浮かべていた。すると突然、部屋がノックされた。そして勢いよく扉が開くと、美柚ちゃんが走ってきた。その後ろには春香の姿もあった。
「春香も呼んでおきました。ってあれ、もう春香は着替えたんですか?」
「はい。私は先程まで訓練をしておりましたから。訓練後に柚香殿から連絡を頂き美柚殿を連れてまいりました故」
春香は先程まで訓練をしていたらしい。動きやすい服装であるためとくに着替えの心配はないらしい。
「それでは拙者は外で待機していますので」
春香はそう言うと部屋から出て行こうとした。すると柚香が彼女の腕をつかんだ。
「ふふふ、春香。渉様の着替えを見たくないですか?」
「……っ。そ、それは……駄目でござる。ここは王族の関係者のみが使用できる場所でござるよ、柚香殿」
ニコニコとしながらそう言う柚香に対して、春香は顔を真っ赤に染めながら言った。
「貴方は私の姉妹みたいなものですから大丈夫ですよ。それに貴方も興味があるんですよね」
「うぅ」
春香はとても恥ずかしそうにしていたが、やがて意を決したように俺のことを見た。
「わ、渉殿。そ、そのぉ私もここにいていいでござるか?」
「まぁ裸になるわけでもないから、構わないけど」
「……あ、ありがとうでござる」
春香は今にも消えてしまいそうなほど小さな声で言った。よく見ると小さくガッツポーズをしていた。
「お兄様―。ぎゅー」
「あはは、美柚ちゃん。くすぐったいって。でもくっついていると着替えられないから少し離れててね」
「はーい」
俺がそう言うと、美柚ちゃんは俺に抱きつくのをやめた。別に着替えだけならそんなに時間はかからないんだけど、皆に見られていたので滅茶苦茶恥ずかしかった。