#115:庭園
三人からキスをされて、俺は滅茶苦茶恥ずかしくなっていた。よく見ると彼女たちも相当恥ずかしくなってしまっていたようで、特に柚香と楓は顔を真っ赤に染めていた。
「わ、渉様。そろそろ他の場所に行きましょうか。……えっと、そうだ。庭園はもうご覧になりましたか?」
「まだ見ていないけど」
「それならご案内しますね」
「庭園なら落ち着けるしいいかも」
柚香の提案に、楓と由衣は否定することなく俺たちの後をついてきた。ちなみに庭園に行く道中、楓がさりげなく俺に手を差し出してきたので彼女の手を取った。先行して案内している柚香はそれに気づいていなかったが、それを見ていた由衣が反対側の空いている俺の手を取った。
「着きました。ここが……ってなんでお二人は渉様と手をつないでいるのですか?」
柚香がムッとした表情を浮かべてそう言った。
「ふふん、気づかないほうが悪いのだー」
「そうそう」
「ぐぬぬ。ま、まぁいいでしょう。後でたっぷり渉様には甘えさせていただきますからね」
楓と由衣にそう言われた柚香は、プイっと視線を背けた後、俺の方をチラチラと見ながら期待するような目線を向けてきた。
「わ、分かったから。後でね」
「はい。ありがとうございます渉様。とても楽しみにしていますね。それでは案内いたします」
柚香はそう言うと、庭園の中を歩き始めた。俺たち三人は手をつないだ状態で、彼女の後を追った。
庭園には大きな噴水は勿論のこと、たくさんのお花などが飾られており、とても綺麗な景色が広がっていた。あまり花とかには興味がない俺でも、美しいと思えるほどであった。楓と由衣も横で少しうっとりしながら「綺麗」と言っていた。
ここで君の方が綺麗だよとか、気障なセリフを聞いたことはあるけど恥ずかしいので言わない。それを言ったら楓はニヤニヤしながら、「何て言ったの?もう一回言ってよ」とか言って、恥ずかしいセリフを何回か言わさせられるのが目に見えている。
「ありがとうございます。こちらの庭園は、私の祖母が超一流の庭師とデザイナーに作らせたそうです。ですので、幼い頃からあってここで私たちは育ったといっても過言ではありませんね」
「そっか。大事な場所なんだね」
「はい。最近は美柚が勉強が嫌になった時に、逃げ出す場所として使われていますけど」
柚香は少し困ったような表情を浮かべてそう言った。あー、美柚ちゅんあんまり勉強好きじゃないって言ってたからな。この庭園は広い上に、結構木々が生えているから見つかりにくいんだろう。
「美柚ちゃんを説得する兵士の人は大変そうだな」
「はい。いつも何処に隠れているんだと探しています。兵士の方にとってはこれも訓練になっているらしいので、それがまた何とも言えないんですよね」
「まぁ、この国だと戦争って感じじゃないもんね。平和そのものって感じ。私たちの前世すんでいた国のようにね」
楓はクスッと微笑みながらそう言った。
「そこにベンチがあるので少し休憩しましょう」
「そうだな、少し歩き疲れた」
庭園をしばらくの間歩いた後、俺たちは休憩を取ることになった。ベンチに腰掛けた後、由衣は辺りをキョロキョロと見回した。
「庭園もかなり広いんだねー」
「そうですね。かなり広いと思いますよ」
「うん。折角だから鬼ごっこやらないー?さっきの話聞いてたらやりたくなっちゃったー」
由衣は目を輝かせながら、俺たちにそう言うのだった。