#113:柚香は頑張り屋さん
来週と再来週(16,23)は私情により、おそらく更新ができないと思います。
「美柚、何で寝ちゃったんですか?」
「お母様にお兄様の誘惑の方法を教えてもらって、一緒に寝てたら眠くなっちゃって」
「つまりお母様が原因と」
柚香は柚穂さんの方を見ながら言った。柚香に問い詰められるような視線を向けられた柚穂さんはバツが悪そうにしている。
「もう、渉様は私が案内します」
「ふふっ、渉様。いつでも私の部屋に来ていいですからね?」
俺は柚香に手を引かれて部屋を出た。部屋を出る直前、柚穂さんが俺のことを見ながらそう言った。
「どこか行きたいところはありますか、渉様?」
「そ、そうだね。美柚ちゃんに連れられたときに色んな所は見たから……柚香の部屋に行ってみたいな」
「私の部屋ですか?構いませんよ」
「ななな、渉?まさか」
楓はそう言うと、俺のことをジト目で見てきた。先程あんなことになっていたというのに、また部屋に行くのかと言われた。
「いや、まぁ。楓と由衣もいるから大丈夫だろ。それに柚穂さんも本気ではなかっただろうし」
「そんなことなさそうだったけど」
楓がそう言うと、柚香は微妙な表情を浮かべた。
「恐らくですけど、部屋に連れ込んだ時はそこまで本気ではなかったと思いますよ。ただ、さっきは明らかに本気で狙っていたので、恐らく何か心情の変化があったんだとは思います」
「渉のスケベ。女たらし」
柚香の話を聞いて、楓は頬を膨らませてムッとした表情でそう言った。いや、俺は悪くなくないか!?悪くないよな?多分。そんなことを思っていると由衣がよしよしと言いながら俺の頭を撫でてきた。
「うん。渉は悪くないから大丈夫だよー。ただ楓が嫉妬してるだけだから―」
そう言われた楓の方を見ると、彼女はまだご機嫌斜めなようだ。
「渉の初めては私のものだもん」
「何の話をしているのかな!?」
そんなことを堂々と言うんじゃない。まぁそりゃあ俺も初めては……ってこの話はどうでもいいだろう。
「ふふふ、本当に仲がいいんですね。お二人は。羨ましいです」
柚香は俺と楓のことを微笑ましいものを見るようにそう言った。由衣も首を上下に振って、彼女に同意していた。
「ここが私の部屋です」
柚香に手を引かれて話に夢中になっていると、いつの間にか柚香の部屋に着いていた。彼女に続くようにして、俺たちは柚香の部屋へと入った。
「うわぁー凄い色々な本がある―」
「凄いな」
「私は第一王女ですから。様々なことを勉強してはいけないんです」
柚香は困ったようにそう言った。美柚ちゃんも王族としての勉強が大変だと言っていたけど、柚香はその比にならないほどの勉強をこなしているのだろう。
「とは言っても、ここにあるのが全て勉強本って訳でもありませんよ?流石に息抜きとかは出来ますから」
柚香はそう言うと、ライトノベルや漫画を持って俺に見せてきた。
「それにしても柚香の部屋結構可愛いねー」
「ああ、そうだね」
全体が水色に包まれていて、所々にお人形さんが飾られている。柚香が普段勉強しているときに使っているであろう机にも小さなぬいぐるみと、写真立てが置かれていた。
「この写真って」
「はい、私と渉様のツーショットです。この写真があると、勉強が強くても乗り越えられるんです」
柚香は写真を手に取ると取ると、大事そうに胸元で抱きかかえた。俺なんかの写真が、柚香の精神的な支えになっているのであれば、嬉しいことだろう。俺は彼女を抱きしめると、優しく頭を撫でた。
「勉強大変なんだな。辛くなったら、いつでも相談に乗るから。教えてくれって言われても困るけど……癒したりするぐらいなら出来ると思うから。恋人としてね」
俺がそう言うと、柚香は目に涙をうっすらと浮かべながら、「ありがとうございます」と言った。