#111:美柚ちゃんの部屋
「お兄様。でーと何処に行きますか?」
「うーん。外でデートもいいんだけど、今日はお家デートしない?あんまりお城の中じっくり見たことないから」
俺は美柚ちゃんにそう言うと、チラッと秋穂さんの方を見た。
「構わないわよ。立ち入り禁止の所もあるけど、基本的にはそこには兵士もいるから、彼らの指示に従ってくれれば大丈夫だから」
柚穂さんは微笑みながらそう言った。しかし、何かを思い出したような表情を浮かべると、俺に抱き着いてきて耳に手を当てた。
「私の部屋は特別に開けておくので、いつでも来てほしいわぁ。最大限のおもてなしをするわよぉ」
息を吹きかけながら、囁くようにそう言われて、柚穂さんの大人の女性の魅力が伝わってくる。前世、楓と付き合う前に柚穂さんほどの美人にこんなことをされていたら、一瞬で惚れてしまった自信がある。
「お母様は離れてください!」
柚香がそう言いながら、柚穂さんと俺を離した。
「楓たちはどうする?」
「うーん、迷惑じゃなければ私も渉と一緒に行きたいけど」
美柚ちゃんは困ったような表情を浮かべた。
「楓、困らせちゃ駄目。美柚ちゃんは中々会える機会もないから。私たちは私たちでお城巡りをしよー。柚香ちゃんお願いできるかなー?」
「分かりました。それではそうしましょうか。美柚、渉様を困らせてはだめですからね?」
「はーい!」
柚香が美柚ちゃんにそうくぎを刺すと、彼女は分かっているのか分かっていないのかは定かではないが、とりあえず元気な声で返事をしていた。
俺は美柚ちゃんに手を引かれて、先程の部屋を出た。道中でたくさんの兵士やメイド、執事さんたちとすれ違ったけど、皆微笑ましい表情を浮かべて俺たちのことを見守ってくれた。柚穂さんいわく、王城に務めている人たちは特殊な訓練を積んでいるらしく、基本的には街の外のように襲われる心配はないそうだ。
……基本的にはという部分には少し引っ掛かりを覚えたけどね。
そんなことを考えながら、美柚ちゃんに連れられて後をついていくと、彼女はとある部屋の前で止まった。
「着いた。ここが私の部屋だよ、お兄様?」
「え?ああ」
最初に案内するのは自身の部屋だと分かって、どこかあの柚穂さんに似た部分を見つけてしまったような気がする。そんなことを思っていると、部屋の中に先に入った美柚ちゃんに腕を引っ張られた。急だったので思わずバランスを崩してしまった。
そしてその隙を見計らったかのように、美柚ちゃんは部屋の鍵を閉めた。
「み、美柚ちゃん?」
「ふふふ、お兄様。ようやく二人きりになれましたね。外のデートでもよかったんですけど、家のデートを選択したということはこういうことですね?」
「え?」
美柚ちゃんはそう言うと、俺の体を押した。押し返そうと思えばいくらでもできるんだけど、相手はまだ幼い少女だからな。そんなことを思っているといつの間にか足がベッドに当たって、思わず後ろに倒れてしまった。
「お兄様。覚悟はよろしいですか?」
「え、えっと」
美柚ちゃんはそう言うと、俺の横に一緒に倒れてきた。
「お兄様と一緒に、のんびり過ごせるの幸せです」
そう言うと、美柚ちゃんは俺の頬にそっとキスをした。び、びっくりした。ベッドの方に押されたので何をされるかと思ったけど、勘違いでよかった。
ちなみに後で聞いた話なんだけど、柚穂さんにこうするといいと、事前に教えられていたらしい。




