#110:柚穂と美柚と再会
101話からアフターストーリー何ですけど、章に追加するのを忘れていました。
「渉様、お待ちしておりましたわ」
車から降りると、そこには柚香が待っていてくれていた。
「お母様と美柚も、渉様に会えるのを楽しみにしていましたよ?」
「そっかそっか。柚穂さんも美柚ちゃんに会うのも久しぶりだからなぁ」
「二人も渉様が攫われてしまった時は、凄く焦っていましたから。まぁ、お母様は兵士たちと接するときは一切、そんなそぶりを見せてはいませんでしたけど」
女王として国を引っ張っていく以上、不安な様子はたとえ兵士であったとしても、なるべく見せるべきではないと考えているらしい。トップが不安そうにしていたら、下の方までそれが伝わってしまいかねないからな。
「渉君、無事だったのねぇ」
柚穂さんはそう言うと、俺のことを抱きしめてきた。彼女の持つ、大きくて柔らかい部分に体が潰されそうになる。
「お母様!渉様が苦しそうにしておりますわ。少し離れてくださいまし」
「ん、もう。折角可愛らしい、渉君と会えたから彼の成分を補給していたっていうのに」
柚香は俺が少し苦しそうにしていたのを察してくれたのか、そう言って柚穂さんを俺から離した。苦しかったものから解放されて安心していると、突然部屋の扉が開いた。
「お兄様―」
「うおっと!?」
扉の向こう側から、美柚ちゃんが走ってきて俺に飛びついてきた。俺は慌てつつも、彼女をしっかりとキャッチした。
「お兄様、私心配しました」
美柚ちゃんは、目に涙を浮かべながら、腕を俺の腰に回してきた。
「美柚は特に心配していましたからね。私が勉強をしていい子にしていれば、必ず戻ってくるって言ったら、普段は嫌そうにする勉強も、涙を浮かべながら黙々としていましたから」
柚穂さんはそう言うと、微笑みながら美柚ちゃんの頭を撫でていた。
「そうです。お兄様は私のお婿さんになるんです!だから、あんまり心配かけないでください」
「なっ!?ちょっと待ってください。何故いつの間に美柚と渉様が、結婚することになっているんですか?」
美柚ちゃんの言葉を聞いた柚香が、焦ったようにそう言った。
「え?前に絶対、私とも結婚してもらうって言ったからです」
「それは貴方が勝手に言ったことですわ」
「ふふん。だとしても、お兄様は一年以内には、私の魅力に落ちて、私とも結婚の約束をしてくれるって信じてるから、何も変わらないよ」
美柚ちゃんはそう言うと、俺のことを抱きしめていた力を、より一層強くした。彼女はまだ幼い子供とあって、それほど力は強くないので苦しくはないけど、可愛らしい女の子に好きと言われて抱きつかれて、全くドキドキしないほうがおかしいってものだ。
「……そうですね。渉様」
「どうかしましたか、秋穂さん」
秋穂さんは何かを考える仕草を見せた後、俺を呼んだ。
「美柚とデートしてやってあげてくれませんか?」
「美柚ちゃんとですか?」
「はい。柚香もそうですけど、この娘には王族として必要なことを教えてきたので、あまり楽しいことをさせてあげられていないんです。勉強も嫌々とは言え、しっかりとこなしていますし、偶にはご褒美があってもいいんじゃないかと思いまして」
「お、お母様!良いんですか」
柚穂さんの話を聞いていた美柚ちゃんは、驚きながらも嬉しそうにそう言った。
「それは渉様次第ですけど」
「お兄様。その……駄目ですか?」
美柚ちゃんは振り返って、目に涙を浮かべながら、少し不安げに俺のことを見上げるようにしてそう言った。上目づかいで見上げられた俺は、断ることもできず、首を黙って縦に振った。
「……むぅ」
「ちょっと落ち着いて―。デートならまた誘ってくれると思うよー」
後で聞いていた話だが、影で拗ねていた楓を由衣が宥めてくれていたらしい。