#109:楓の変化
多分楓の語尾とか雰囲気が変わった理由を本編では書いていなかったので、少し書いておきました。
「ふわぁ」
「あれー渉。今起きたところなのー?」
「そうだね。元々渉は早起きってわけでも無かったから……それに最近色々あったから疲れているんだと思うよ?」
目が覚めると、楓と由衣が俺のことを優しい目で見つめていた。俺が起きようとすると、楓が近づいて起こすのを手伝ってくれた。そして、彼女はそっと俺のことを抱きしめると、頭をやさしくなでた。
「お、おはよう。楓、由衣」
「おはよう、渉」
「おはよー」
「……それにしても、わざわざ起こしてもらわなくても良かったのに」
「いーじゃん。私がしてあげたいと思ったことだし。実際渉はあっ沙そんなに強くはないでしょ?」
「まーね」
前世、幼い頃は楓や桜が起こしに来てくれていた。桜がいなくなって二人きりになった後も、祖先になるまでの間は毎日のように同じことをしてくれていた。今思えば、あれも彼女の好意によるものだったんだろう。
「楓って随分俺に対して過保護だよな……」
「嫌?」
「全然。嬉しいけど、前世みたいな感じに接してくれても良いんだよ?つまり……その、変に気を遣わなくても大丈夫だよ?」
楓が無理をしているんじゃないかと思って、彼女に聞いた。しかし、彼女は首を横に振った。
「元々、私の性格はこっちだからね。前世だと、高校生にもなって異性といるのが少し恥ずかしいって風潮が私の周りにはあったからね。でもこっちだったら、昔のように気にすることなく接することができるからね」
「むしろ、積極的に攻める。これがこの世界の常識―」
拳を握って真顔で答える由衣が可愛らしかったので、つい笑ってしまった。
「む?何を笑ってるのー?これは常識ー。私も渉と付き合えたー……V!」
そう言ってブイサインを見せる由衣。この世界では仕方ないこととはいえ、複数の彼女がいることもあって彼女たちが満足できていないかと時々心配になることがあるんだけど、彼女の様子を見てもその心配は杞憂だろう。
「じゃ、そろそろ行くよ。ご飯が出来てるっぽいから」
「ああ、分かった」
俺は楓に連れられて、リビングへと向かった。
「それでこれから何処へ行くんだ?」
「今日は柚香ちゃんの所に行こうかなって思ってるんだ」
そんなことを話していると、由衣が何かを思い出したかのように言った。
「そういえば楓ちゃんって話し方大分変わったよねー」
「あー。まぁ前世で渉と離れている間に色々あったからね。元の世界のクラスメイトに私の容姿ならこう喋ったほうがいいって言われたから、それをしてただけで……別にあれが素ってわけでもないからね」
「『~だわ』とかよく言ってたあれ?」
俺がそう言うと楓は少し恥ずかしそうな表情を浮かべた。
「こっちの世界に来てからも少しはそのままで喋ってたんだけどね、桜ちゃんにどうしたのって聞かれちゃったのもあるし、元の世界と違って素の方が渉も良いって言ってくれると思ったから……だけど、どうかな?」
「うん、良いと思うよ」
楓には素でいてほしいって言うのが一番かな。楓が今の方が話しやすいって言うなら、今の話し方でいいと思う。昔の話し方は少しお嬢様っぽくて話しかけづらかったりしていたけど、今の楓は可愛らしさをたくさん感じる。
そのことを楓に言うと、彼女は妙に納得した表情を浮かべた。
「あー確かに、異性は話しかけづらいか。他の男子はどうでも良かったけど、渉が私に話しかけづらくなるのは、確かにデメリットしかないね」
「うん。楓ちゃんは今のままの方がいいと思うよー」
「ふふっ、ありがと。あっ、そろそろ着くみたいだから降りる準備してね」
楓と由衣とそんな雑談をしている間に、柚香の家――お城に到着した。