#106:乱入者
夕ご飯を食べた後、俺は楓と真里菜によってお風呂に連れ込まれていた。楓は別に裸でいいとか言い出したんだけど、真里菜は恥ずかしいらしく必死になって水着を着るように言っていた。俺は一人で入ろうとしていたんだけど、どうやらそれは許されないらしく、仕方なく真里菜の案に乗ることにした。
「渉、渉。早く早くー」
「ちょ、ちょっと待ってくれ」
「楓さん。その……走ると危ないから、ゆっくり歩きなさい」
きゃっきゃと騒ぐ楓に、落ち着くように注意している真里菜。こうしてみると、まるで姉妹のようだ。前世の楓は、クラスの中心的存在で、何事も一人でこなす完璧な印象があった。桜が生きていた幼少期のように、はしゃいでいる姿はどこか懐かしく感じられる。
「渉君?今、勝手に人のこと殺さなかった?」
「?さ、桜?」
「やっほー!私も混ざりに来たよ」
「桜!?今日は私たち三人で入ろうと思ってたのに」
「あー、うん。私も入りたくなってきちゃったから、混じりに来たよ?一人増えても問題ないくらいにお風呂広いし、問題ないでしょ」
桜は笑顔でそう言った。男性というだけで、国から支援金が下りそのおかげで大きい家に住めて、今の俺があるんだから、それについては感謝しかない。前世だったら、こんな家に住むことは夢のまた夢だっただろう。
「ほーら、ぼうっとしてないで、体洗ったげるから」
「え。ちょっ、ちょっと桜さん?」
「ふふふ、逃し儂ないよ。ね、楓ちゃん」
「うん。学校に来ないで、五月さんと何やら楽しんでいるらしいからね。好き勝手させてもらうよ」
楓と桜はそう言うと、俺をシャワーの前に座らせた。そして、俺の体を洗ってくれた。好きな人に、体を洗ってもらえるのは嬉しい。ただ、やはりそれ以上に恥ずかしい。
「そ、その……私も手伝っていいかしら?」
「え?い、いいけど」
今現在、楓と桜に体を洗ってもらっているし、一人増えたところで何か変わるわけでもないだろう。何より、ここで彼女だけ仲間外れに仕様とは思わないからな。
「そ、それじゃあ失礼するわね」
「う、うん」
真里菜は、俺の前に座るとやけに緊張した声でそう言った。楓と桜は、たまに一緒にお風呂に入ったりするから、それほど緊張した様子はないけど、彼女はどうやらそうではないらしい。
真里菜も加わってしばらく経った後、桜がシャワーを使って俺の体を洗った。
「うん、こんなところでいいかな。それじゃあ、次は渉君の番ね」
「え?」
「渉。お願い」
楓が目に涙を潤わせて、懇願するようにそう言ってきた。そういわれたら断れないじゃん。
「わ、分かったよ」
「やったよ、桜」
「うん。ナイスだね、楓ちゃん」
「わ、私もお願いするわ」
「ああ」
結局、俺は三人分の体を洗うことになった。後ろだけ洗って、前は個人個人で洗ってもらおうと思ったんだけど、それは許してもらえないらしく、結局俺が前も洗うことになった。
「ふぅ、さっぱりしたぁ」
「そうだなー」
俺たちはそのまま、寝室へと向かった。
「明日は休日よね。楓ちゃん、久しぶりにショッピングにでも行かない?」
「あ。確かに良いかも。渉は、どうかな?」
「明日?あー悪い。明日は愛結先輩と光沙先輩とデートする約束しちゃってるから」
「そ、そっか。あの二人も、渉を助けるときに頑張ってたからね」
「うん。だから……その」
俺が申し訳なさそうに言うと、楓は笑顔で唇を塞いだ。
「もう。それは言わないって約束でしょ?この世界にいる以上渉を独占するつもりもないし、元の世界だってそう思ってたんだからね?」
「あーそういえば小さいときに、短冊に三人でずっと一緒にいられますようにって書いてあったね」
「そーそー……なのに桜は私に譲ろうとしてたんでしょ?」
「あーあはは。ごめんね」
桜はそう言うと困ったように笑った。
「二人とも本当に仲がいいのね」
「そうだな。桜はともかく、楓はもう彼女に会えないと思ってたからな。死んだあとに俺と一緒に、桜と会えたんだから今幸せなんだろう」
「ふふふ。そうね」
真里菜はそう言うと、じゃれ合う楓と桜のことを微笑みながら見守っていた。