#105:楓と真里菜
「ただいまー渉」
「お、おかえりなさい。楓。学校どうだった?」
「渉がいなくて退屈だったよ」
楓は学校から帰って来ると、俺に抱きつきながらそう言った。
「楓ちゃんって渉君とクラス違うから、登下校の時間以外変わってないと思うんだけどなぁ」
「それは重大事だよ、桜」
楓が桜に詰め寄るようにして言った。元の世界では転生するまでずっと一緒のクラスだったし、若干疎遠にはなりつつも一緒にいることが多かったからな。
「渉成分を補充しないと」
楓はそう言うと、再び優しく俺のことを抱きしめた。俺が件の組織に誘拐された後から、楓の俺に対する過保護っぷりが少し過ぎるような気もする。元の世界だったら、これほどまでではないけど俺が心配する側だったからなぁ。
「そろそろ離れてください!渉君にくっつきすぎです!」
「いいじゃん。五月さんはどうせ、家で二人でイチャイチャしていたんでしょう?」
「え、そ……そんなことしてませんよ!」
五月が虚を突かれたという表情を浮かべた後、ワンテンポ遅れて反論した。しかし周囲の目はごまかせなかったようで、何があったのかを皆で問い詰めていた。まぁ、主に姉さんと碧が主体となっていたけど。
「確かに渉がいなかったのは少し寂しかったわね」
真里菜が頬を指で搔きながら少し気恥しそうに言った。俺はそんな彼女に対して「ごめんね」と言って優しく抱きしめた。
「な、なな……何するのよ!?」
「え、嫌だったのか?」
「そ、そんな訳ないじゃない!?でも、心の準備とかさせてほしいのだけれど」
真里菜は顔を真っ赤に染めながら、動揺したようにそう言った。俺と一緒にいることはなれたとしても、異性に急に抱きつかれたりするのは、みんな余り慣れていないらしい。楓はともかく、桜ですら急に抱きつかれると恥ずかしさを覚えるらしいから、この世界の少女たちにとっては、過酷なのかもしれない。
「そういえば、柚香ちゃんって卒業まで結局残るんだって?」
「ああ、そうらしいな」
柚香は元々、学校同士の交流を深めるという名目のもと俺の調査に来ていたわけなんだけど、卒業するまでに家に残るらしい。残るとはいっても、転校するわけではなく、元の学校にも籍は置いておいて、二つの学校を行き来することにするらしい。
向こうの学校の先生には、素敵な未来の伴侶ができたと説明したらしく、今度是非合わせてほしいと頼まれたらしい。素敵って言われると……その、何だか恥ずかしくなるけどね。
「渉。ご飯一緒に食べよう?」
「あ、ああ」
「最近渉が学校にいけないから、お昼ご飯一緒に食べれなくて寂しいんだからね?」
「わ、悪い。……そういえば真里菜と楓って一緒にご飯食べてるのか?」
俺はふと疑問に思ったことを聞いた。
「ええ、二人ともわざわざ私の教室に来てくれて助かっているわ。私、あまり友達多くないから、五月さんもいないとなると桜さんぐらいかしら?」
「あ、あははーそうかもね。まぁとにかく私たちは一緒に食べてるよ?主に渉君の話で盛り上がってるから、渉君は心配しなくても大丈夫だよ」
桜はさらっとそんなことを言った。しかし、ちょっと待ってほしい。
「俺の話って何をしてるんだ?」
「うん?それは乙女の秘密だよ、渉君?」
桜はいたずらが成功したと言わんばかりの、笑みを浮かべてそう言った。これは教えてくれないなぁと思って、一応楓と真里菜にも聞いてんだけど、案の定二人も秘密と言って教えてくれなかった。
「さてと、真里菜ちゃん。一緒に渉にご飯食べさせてあげよ?」
「ええ、そうね。乙女を辱めた恨みを晴らしてあげるわ」
二人はそう言うと、それぞれ腕を絡ませてきて、席に着くように言った。そして、俺は二人に食べさせられた。ちなみにその間、碧と姉さんと五月は羨ましがっていたそうだ。