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ゆきの電車

作者:

 不思議な電車なの


 それがやってくるのは、零時十分


 木黒駅からの夏野方面行き電車


 その途中の駅、隅白駅で降りるの


 すると、摩訶不思議な電車がやってくる


 気がついたら、電車がそこにいるの


 ホント不思議ね


 その電車は一体なんなのか


 なんのための電車なのか


 知りたければ、自分の目で見てくること


 気持ち悪いな。

 そんなことが書かれた紙を見つめ、ゆきは顔をしかめた。

 こんな紙、拾わなければよかった。

 何も見てない、見てないから、と自分に暗示をかけて捨てる。

 深い深い夜の住宅街は、きっと電灯がなければ美しい天の川でも見れそう、そう思えるほどに静かだ。耳をすませば、虫のさざめきだけしか聞こえない、閑静な住宅密集地。

 せっかく夏の暑さが静まる夜なのに、風が吹いてこないのは非常に勿体無いと思う。生温い暑さがトンと漂う夜で、私の機嫌は悪くなる。

 今は夜の0時ちょうど。右手のスマホが教えてくれた。煌々と光るスマホの画面が、目をビシビシと刺す。

 うわっ、まぶしい、痛い。

さっさと画面を消す。そっとポケットにスマホを滑り込ませた。ズシリと重みのあるスマホは、ズボンをグッと下げる。慌て着す。ついでにゴムをきつくする。

 パジャマ姿で外に出るのは流石にどうかと思い、適当に上着を羽織ってきた。けどやっぱり下パジャマで外を徘徊するのは恥ずかしい。道ゆく人がいないとはいえ、どこからか見られているような気がするのだ。

 これからどうしようか。

 勢い余って家から飛び出してきたものの、行くあてもなくただただ歩いているだけという惨めな結果になってしまった。

 でも今は意地でも帰ってやりたくなかった。これは勝負なのだ。私が一方的に不利だけど。が、その分あちらにもリスクがある。

 さっきからずっと歩き続けていて、汗が頬をテカテカと濡らす。

 ああ、せっかくお風呂に入ったのに、とげんなりする。

息もだんだん荒くなってきた。体の気持ち悪さにイライラしていると、すっと涼しさを感じた。濡れた頬が冷える。

 風だ。

 くるりんと、風の吹いてきた方向を向く。また、すぅぅっと、今度はもっと長く風に全身が煽られて、長い髪が流れるように後ろになびいた。真正面から風を浴びて、気持ち悪さが少しだけど吹き飛んだ。

気持ちいい夏の夜を、微かに感じられた。

 夜空をぐっと仰ぎ見ると、数は少ないけれど、でもいつもよりずっと多く見える気がする星々が、小さく瞬いていた。


 二十分前、両親と大げんかした。模試の結果がひどくってこっぴどく叱られた。あまりにも激化してきて、ついに私は我慢できなくって家から飛び出した。だからパジャマ姿なわけで、上着は着てるけども。

 そして今、ここにいる。

 昂ぶって暑くなった体は、もうすっかり平常運転。疲れもちょっと休んだら取れたので、また歩くことにした。

 そういえば……

 再びスマホを取り出して時間を確認する。

 0時2分。

――それがやってくるのは零時十分……

 さぁぁと脳裏を横切った、あの文字。

 そうだ、もうこの際。

――すると、摩訶不思議な電車が……

 行ってみても、いいかもしれない。

 そう思うや否や、足早に木黒駅に向かった。ここからなら徒歩で五分。手帳型のスマホケースに挟んである定期があるから、それでホームへ入ろう。

 今はとにかく、どこかへ行きたかった。家以外のどこかへ。もしあの話がデマでも(デマだと思うけど)、とりあえず。家界隈をいつまでもウロウロしているなんて恥ずかしいし。

 駅もさっきの住宅街よろしく深閑としていた。時折聞こえるアナウンスの声とまばらな人の足が静寂を破るだけで、ひっそりとしていた。

 ふうっと息を吐き、覚悟を決めて改札をくぐる。駅員さんにこんな時間にうろついていて見咎められるか心配だったが、大丈夫だった。

 まぁ高校生だし、いいのかな。

 夏野方面のホームへと進む。時計を見るとまもなく0時十分だった。

アナウンスが入る。どうやら間に合ったようだ。ほんの少し、、胸を撫で下ろす。

 さっとホームへ入ってきた電車は乗り込むとさっとドアが閉まってさっと発車した。目を見張るほどのせっかちさだ。

 隅白駅まで、そんなに遠くはない。車内はガラガラで、人一人いないから席は空いているのだけれどが、座ると眠気に襲われてそのまま夏野駅まで行ってしまいそうだったので立って待つことにした。

 寝ちゃダメ。降りる場所は、場所は、

――その途中の、隅白駅で……

 車窓からの夜景を眺めながら、思う。私は一体何をしたいのだろうか、と。勉強もろくにせず、親にも迷惑をかけて、ダラダラダラダラ。でも、したい何かがわからないから、何にもできない。とりあえず勉強なんて、私には無理だ。これか卒業して、どうしようか。働こうかな。それとも、何か他に選択肢があるのか……


 『隅白駅〜隅白駅?〜』

 電車はせっかちで、私が降りるとすぐに走って行った。

 隅白駅は無人駅だ。改札もない。あるのは券売機とちょっとした屋根のついた休憩所だけ。

 とりあえず休憩所のベンチに腰掛ける。そこから見える景色は、だだっ広い田園風景と山のみ。月明かりに照らされて、銀色の景色がとても神秘的だ。私はそれをぼけっと見ていた。多分、傍から見ればすごい顔で座ってたと思う。首は傾いているし口は半開きだし。

 うあ、ひどい。

 でも仕方ない。睡魔が襲ってきたのだ。眠さに苛まれた私はもはや自分の姿を気にするほど頭に余裕がなかった。うとうとまどろんでいるうちに、いつしか眠りこけてしまった。


 何かの気配を感じて、目がぱっちり開いた。背筋を伸ばし、両手を上げて大きく伸びをする。変な体勢で寝ていたからなのか、体の節々がギシギシと音を立てている。

 線路に視線を送ると、そこには一台の電車が厳かに佇んでいた。ひっそりとした、厳粛な空気がそこここに浮かんでいて、異様な気迫が感じられる。

 喉が渇いて、ゴクリと唾を飲む。

 本当に来た……

 私がしばらく圧倒され、気後れしていると、いきなりガシャンと音がしたかと思うと、ゆっくり中へ通じる扉が開いた。車内はいたってシンプル。普通の電車のようだ。この電車は、一体どこへ行くのか。

――知りたければ、自分の目で見てくること……

 急に足が竦んで動けなくなった。せっかくここまで来たのに……

大丈夫だ、ゆき。きっと死にはしない。行ってみよう。

 臍を固めて、大きく一歩を踏み出す。一歩、また一歩、進む。そして、ついに乗った。私の体は、もう隅白駅にはない。ドアが、さっきゆっくりと開いたのとは反対に、今度はせっかちに閉まる。がたんと動き出し、進行方向は夏野方面だ。

 中はロングシートの席配置だった。とりあえず近くの席へ座る。

 普段ならここに座れば、肩の力を抜いて一息つけるのに、今はどうしても体に力が入ってしまう。

 車内を見渡すと、いたって普通の電車だ。つり革だってあるし、広告だって吊り下がっている。唯一おかしなところがあるとすれば、車内の明かりが外に漏れていないってことだけ。

 どこへ向かっているのかと訝しく思って車窓を眺める。首を後ろに向け、背中側の窓から外を見る。相変わらず、薄ぼんやりとした月明かりに照らされた田畑とあぜ道が広がっている。奥には山が見える。もしやと思い、向かいの窓からの景色を確認する。そこからの光景も広々とした田畑とそれを囲む山。この電車が走っているここは、あたりが山で囲まれている。田園と山々。それと月明かり。それ以外、何もない。

 こんな場所あっただろうか。あまり電車には乗らないからよくわからないのだけれど。

 線路は、山と山の間に向かって伸びている。あの先は、一体……

 幾ばくかの時が経った。張り詰めた心の緊張が弛緩し、ぼんやりと幻想的な風景に魅入っていた。だから、突然の異変に気づくのがワンテンポ遅れてしまった。

 ほうぇ?

 突如、景色が流れ出した。月下の銀色の田畑が光の彼方へ溶けるように、進行方向に向かって流れていっている。思わず驚いて窓にへばりつくようにして外の異変を見つめる。あまりに勢いよく飛びついたので窓がぐなぐなと揺れた。

 何だろう。何が起こっているのだろう。

 ドクドクと心臓の弾む音がはっきりと聞こえる。それが鼓膜をドンドンと揺らしもしている。

 かぁぁぁぁ。

 前方、電車の進行方向の先で眩しい光が生まれた。走って一番前の車両に移動した。誰もいない運転席の窓から光の渦のようなものが見えた。煌々と輝いている、光の渦だ。さっきまであったあの銀色の世界が全て光の渦に飲まれ、あの田んぼが、山が、月が、全て飲まれて金色色(こんじきいろ)

 キュォォンという奇妙な音を立てて、不思議な電車は、私だけを乗せて、走り続ける。


 居心地の悪さに目を開ける。目蓋が重いということは、寝ていたということ。つまり私はこんな異常な時に、悠長に寝ていたのだ。

 目がしょぼしょぼする。多分、明かりの下、寝ていたからだろう。何ともひどい寝起きである。

 そういえば、電車が止まっているような気がする。何にも音がしないのだ。空調の音もしない。

 むくりと起き上がって、目をこすりながら外を確認する。

 きっと私は、こんな不思議な電車が止まる場所なんだから、ここはすごく素敵なファンタジー世界だと、心の奥底で期待していたのかもしれない。

 だから、外の景色を視認した時、もう一度目をこする羽目になってしまった。

 ゴシゴシ。あ、これでゴシゴシ三回目だ。

 外は荒涼な土地だった。茶色い砂と石ころが転がっている、殺伐とした土地。地平線が見える。明らかに日本ではない。

 奇妙奇天烈なファンタジー世界との落差が大きすぎて、がっくりと項垂れている自分がいた。

 はぁ。思わずため息をついてしまう。この吐息が場違いなことは重々承知しているのだが、どうしても吐かずにはいられなかった。

 もう一度、せーの、はぁぁ。

 私が起きるのを待っていたかのように立って伸びをしていると、ドアがうぃぃんと開いて体が跳ねた。

 私は電車に導かれるように、開いたドアから外へ出た。

 そして驚いた、この気候に。思わず、わっと声を出してしまった。

 涼しい、と思った。私はこの荒涼とした景色を見て、絶対に暑いなと思い覚悟して外へ出た。しかし、予想よりはるかに涼しい、いや暑くなかった。これはびっくりだ。

 しかし……

 電車に出ろと言われたような気がして出てみたけれども、次の一歩をどうすればいいのかわからない。このまままっすぐ進めばいいのだろうか。

 すがるようにして振り返って電車の方を向く。でも当然答えてくれるはずもなく、電車はただただおとなしく鎮座している。何だかそのすました感が憎たらしい。

 結局、微かに期待していた精霊からの啓示も何もなくて、手持ち無沙汰状態になってしまい、まっすぐ歩くことにした。テクテク、テクテク。無心に歩き続ける。


 奥に人影が見えた。その人影がこちらに向かって手を振っているようだ。こちらも手を振り返し、小走りになって人影の方へ向かう。

 影の正体は、若干腰を曲げたおばあちゃんだった。皺の数から推測するに、七十代ぐらいだろうか。

「やあやあ、どうしたんやな」

 おばあちゃんは柔らかい表情でこちらを見ている。何となくこちらも顔をほころばせてしまう。

「電車に乗ってやってきたら、こんなところに来てしまって」

「電車でかい」

 目を丸くして聞き返してきた。

「はい」

「そうかいそうかい」

 おばあちゃんはなんどもなんども頭を縦に振った。

 おばあちゃん、そんなに頭を上下させると首が可哀想です。

 急におばちゃんの顔が明るくなった。何か思いついた、そんな顔だ。

「ちょうどよかった。今、働き手が足りんくてね、ちょっと手を貸してくれんか」

 そう言ってそばにあった軽トラックの方へ歩いていった。

 お手伝い、かな。こんなところまで来てするのも嫌だけど、他にすることがないしな。手伝うか。

 はい、という返事をするタイミングがなかったので、念でおばあちゃんにそれを伝える。思いに返事を乗せて、おばあちゃんの心に届けっ。

「何をするんですか」

 軽トラックの方に近づくと、何やらガサゴソしていた。おばあちゃんは荷台につけていた幌を取り外すと、そこには驚くものが乗せてあった。

 ダンボールがいくつもあった。大量に積んであった。ダンボールを一つ下ろす。その中には筆記用具がパンパンに入っていた。またダンボールを下ろす。お次は毛布が入っていた。これもパンパンに。その次のダンボールには衣服、食器、本……いろいろ入っていた。

 これは何だろう。

「あっちに持ってくのさ」

 おばあちゃんがそう言って指差した方には、小さな村があった。プレハブの家々が見える。小さな何かが動いていると思ってよく見たら人だった。忙しなく動いている。

 これを全部あの村に、ということは、物資の支援の類だろうか。見るからに貧しそうだもんな。

 するとおばあちゃんが

「あんた」

 少し鋭い語調で、すっと背筋を伸ばした。おばあちゃんの顔を見る。

 おばあちゃんは、今度は一転して相好を崩した。

「村の人たちとは、仲良く接してね」

 そんな言葉をゆっくり噛みしめる間も無く、おばあちゃんに指示された通りに動く。

まずこのダンボールを運んで、それで、ああ、まず村のみんなに挨拶しなきゃね。そして、それからね……


 太陽が沈んですっかり暗くなった。仕事がひと段落してぼうっと地平線を眺めていたら、いつのまにか周りが暗くなっていた。真っ暗闇だ。

 あれ?

 さっきまで見えていたものが、何一つ見えない。どれだけ目を凝らしても、目蓋の裏のような景色しか見えない。急に空恐ろしくなり、パニックに陥っていたら、おばあちゃんの声が聞こえた。縋りたくなる、頼りたくなる、温かい声だ。一瞬にして、空っぽになっていた心が温かみで満たされた。

「最後は、これだよ」

 そう言って目の前に急に小さな明かりが灯った。おばあちゃんは小さな豆電球を持っていた。狭いけれど、辺りがオレンジに染まる。石ころと砂の地面しか見えない。

「これを村中に設置するんだよ」

 なるほど。

 そうして今度は豆電球をいくつか設置した。豆電球のおかげで、村はぼんやりとだが、明るくなった。村のみんなの笑顔がうっすらとだが、朱色の光に照らされて見える。

 ありがとう、ありがとう、と私もおばあちゃんもお礼の言葉を浴びせてもらって、何だか胸が温かくなってきた。

 そのあと村の人たちと私たちは、か細い光の下、楽しく過ごした。

 村の皆さんは私たちにとても感謝していた。何だか気恥ずかしくて私は頭を下げて恐縮する。別に私がすごいわけじゃない。おばあちゃんに誘われて仕事をしたまでなのだ。

 おばあちゃんにはいつもありがとう、と村長が低頭していた。私は横目で感謝されているおばあちゃんを見た。尊敬の眼差しで、見つめた。


 夜が明けた。東から朝の太陽が覗きでて、この村を黄色く染めた。さぁ、はじまりの朝だ。

 私とおばあちゃんは二人揃って村を後にした。後ろから、またね、という可愛らし声やたくましい声、透き通るような声、いろんな声が混ざり合って聞こえた。

 帰り道、私はおばあちゃんに訊いた。

「なんでここで、こんなことしてるの」

 おばあちゃんは歩きながらゆっくりと答えてくれた。

「この仕事はね、とっても楽しいんだよ。村のみんなの笑顔が、とっても素敵で、好きでねぇ。正真正銘の笑顔でね。私が前にいたところは、つまらなかったの。毎日毎日、自分のことばかりで、味気ない日々だった。人間としての、いや、生物としての大切な何かを失いそうで、怖かった。そうなる前に、私はここに来て、ここで村のみんなといることを決めた。ここはいいよ。どんなに不便でも、あの笑顔には、なんにも変えられないよ」

 私は黙って聞いて、話の続きを待った。真剣な面持ちで、おばあちゃんの顔を、歩きながら横から見て。

「やっぱり、自分のために生きるより、人のために生きた方が、生まれてきた意味があるって、私はそう思うよ」

 あの笑顔が、思い浮かぶ。村の人たちの、他意ない満面の笑み。そんな笑顔に囲まれたあのひと時は、案外悪くなかった。自然と自分も笑顔になれて、煩わしいことを全部忘れられて……

 人のために生きる。

 ふふ。何だか口元が緩んできた。なぜだかクスクスと笑けてきた。

 いいな、その言葉。これからの私のモットーにさせてもらおう。

「いいですね。人のために生きるって」

 私はぽつりと独り言ちた。言葉にするって結構大事だと思う。忘れないような気がするんだ。

「おやおや、もう帰らなくちゃあいけないんじゃない」

 私は目をまあるくした。帰る? 今? どこへ?

「ほらほら、もう家に帰りなさいな」

 ふっと背中を押されて前へよろめく。おばあちゃんの腕は思いの外強かった。そのたくましい腕から、長年培ってきた生命の強さのようなものが感じられた。

「まっすぐ行きなさい。早く帰らなくちゃ、ご両親が心配するでしょう」

 しばらく何のことかわからなくて、何とはなしにおばあちゃんの顔を見ていた。けど、ハッとして現実を思い出す。

 そうだ、私、家出してきたんだった。

「はい、急いで帰ります。さようなら、お元気でいてくださいね」

 私は走りながら、後ろへ手を振った。おばあちゃんに対して、村のみんなに対して。

 さすがに帰らないとやばいなと思った。電車の中で一夜明かして、そして村でも一日過ごしたから、随分と時間が経っているはずだ。お母さん、お父さん、心配になって探してるんじゃないかな。そんな不安が募る。

 早く帰らないと。

 しばらく走ると電車が見えてきた。中の電気は点いていて、ドアに近づくとうぃぃんと開いた。この電車、気が利くような気がするけど、聞かないような気もする。

 早く帰ろう。そして、あのおばあちゃんとの出来事、忘れないでおこう。どこかに書いておいた方がいいかな。意外と忘れるかもしれないしね。でも手元にノートなんてないし、どうしよっか。

 うんうん唸っていると、電車が動き出した。行きとは逆方向に向かって、走り始めた。

 そうだ、こうしよう。こうすれば、いっときの気休めになるかもしれない。

 すぅっと息を吸い込む。そして

「人のために、生きる」

 言葉にすると案外覚えるのよね。特にこんな恥ずかしい言葉。

 ふふ。また笑みがこぼれた。

 人生の指針が決まったような、そんな気がした。

                  〜おわり〜


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